【第11話 そういう事か】
夕方。美容室。
ドライヤーの音が流れている。鏡の中で、慎二は目の前の客の髪を乾かしている。無駄な動きはない。手だけが動く。
入口のベルが鳴る。一瞬だけ視線を向ける。
この前のキャバ嬢や。
「あ、ちょうどよかったわ」
軽く手を振る。慎二は何も言わん。手を止めへん。
乾かし終える。軽く整える。鏡越しに確認する。
「こんなもんでええ?」
客が頷く。会計を済ませる。見送る。ドアが閉まる。店の中が少し静かになる。
「で?」
慎二が振り返る。キャバ嬢はすぐに身を乗り出す。
「なあなあ、見た?ニュース」
慎二はタオルで手を拭く。
「何の?」
とぼける。
「知らんの?」
声が少し上がる。
「この前、あんたが指名したミカさん」
「強盗にあったんやで」
慎二の手が一瞬だけ止まる。
「……えっ」
短く返す。
「ほんまに」
キャバ嬢は頷く。
「うちも店から連絡あって。今日は営業せんと、事情聴取やねんて」
肩をすくめる。
「せっかくセットしてもらお思て来たのに」
慎二は軽く笑う。
「せっかくやし、セットしたるわ」
「……ただで」
キャバ嬢は一瞬止まる。すぐに笑う。
「ほんま?」
椅子に座る。鏡越しに目が合う。
「ラッキーやん」
慎二は後ろに立つ。髪に手を入れる。
「詳しく教えてーな」
「なんかな」
キャバ嬢が話し出す。
「ミカさん、昨日誕生日やったんよ」
「あ、知ってた?」
「いや」
短く返す。
「ほんでな、ご祝儀とか持って帰ったんやけど、三万しか取られへんかってんて」
慎二は手を止めへん。鏡越しに見る。
「前、言うてたやん。ナンバー2で、五千万とか」
「うんうん」
キャバ嬢は頷く。
「ミカさんやから、もっとあったと思うんやけど。犯人もアホやな」
「ほんまやで」
笑う。
「そんな大金、持って帰るんか」
「ちゃうねん」
キャバ嬢が首を振る。
「売上が五千万やねん。ボトルとか、ご祝儀とか。全部そのままちゃうけどな」
「どうやろ……半分ぐらいは、その日にもらうんちゃう?残りは月払いとか。うちまだそこまでちゃうから、よう分からんけど」
少し間。
「昨日、どれぐらい売上あったん?」
「どうやろ」
キャバ嬢は鏡を見る。
「雨やったしな」
「五千万ぐらいって聞いたけど」
「へぇー」
慎二は小さく頷く。少し間。
キャバ嬢が指を折る。
「ほな……半分ぐらいとしたら」
一拍。
「二千万ぐらいちゃう?」
鏡の中。
慎二の手が止まる。ほんの一瞬や。
「……そういう事か」
小さく呟く。




