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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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7話


 日が落ちたので野営をする。

 野営と言えば醍醐味はワイルドなバーベキュー。

 それから焚き火を囲んでのマイムマイムとギター。

 極めつけは若い男女の夜のウフフ。

 まあ、一般論。魔王がやるとは限らない。


「本当はすぐにでもリムちゃんを街へ連れて行かないと駄目なんだけどね。巻き込んでごめん」


 折り畳み式のテーブルにはステーキ定食のレーションとインスタントコーヒーのカップが2つ。


 ステーキは槍牛という魔獣のサーロインだ。

 槍の如き2本の角で獲物をブスリとやる凶悪な魔獣であるが、肉質は最高で人気の高い高級食材であり、レーションの中ではトップスリーに入るお高いメニューである。魔王の気を引こうとエミリオが奮発して秘蔵の品を出したわけだ。


「あふぅ〜。なにこれなにこれ〜。これが本当に戦場糧食なのか〜。やはり我は天上の園に召されたのであろうか〜」


 カトラリーを上品に使いこなしてステーキを頬張る魔王。

 蕩けた至福の笑顔が、ロリのクセしてなまら扇情的。


「お肉がジューシーであま〜い。オニオンガーリックソースもすっごく合ってるし、ソースがお米に染み込んだ部分も美味しい。はぁ〜ん。しあわせ〜」


 レーションは大人の一食分が真空パックされており、食べる時はパックに付いたボタンをポチッとやれば熱々の食べ頃になる。


「魔法。これこそ食の魔法。ハグパクハグパク」


 魔王は大変満足している。


『リム様。お飲み物は本当にコーヒーでよろしいのですか。緑茶も紅茶もココアもありますし、本物のホットチョコレートもお作り出来ますよ』


 身長30センチのロボAIメイド亀吉が甲斐甲斐しく魔王の世話を焼く。本来のマスターであるエミリオを蔑ろにして、魔王魔王。


「うむ。我は案外、コーヒーが好きなのだ。ミルクとお砂糖をたっぷり入れると至高の飲み物になるのだぞ?」


 それは一般的にミルクコーヒーと呼ばれる。基本的に大人の飲み物ではなく、お子様の飲み物だ。甘々ミルクコーヒーをちょっと背伸びした感じで口へ運ぶ魔王に、エミリオも亀吉もほっこりする。


『本来ならば保護した直後に安全な場所へお連れしなければならないのです。この様な不自由を忍んで頂き心苦しいばかりです。本当に申し訳ございません』


 亀吉は綺麗な所作で頭を下げるが魔王は気にした様子もない。


「良い。我が我儘を言ったのだ。メガナウマン象とやらを仕留めれば、多くの民が安寧を得るのであろう。子供等の飢えを癒やせるのであろう。エミリオ殿と亀吉殿と戦車なら、確実に仕留められるのであろう。ならばやるのみ」


 魔王はミルクコーヒーを「ふ〜ふ〜」しながらチョビチョビと飲む。


 魔王も以前は魔獣狩りの先頭に立って多くの凶獣を狩った。キマイラ、ベヒーモス、ドラゴン。それから農家の怨敵、頬袋ハム。

 魔王として、為政者として、魔王国では当たり前の事。狩りの重要性は痛いほどに理解している。

 もし救助した者が弱者なら、街へ取って返すのは正解だろう。当然の判断だ。けれど魔王は魔王である。食事と衣服と情報を貰っただけで十分なのだ。それ以上の気遣いは不要なのである。


 話の内容、言葉遣い。どれを取っても外見と一致しない。むしろギャップがなまら可愛い。


「別に飢えた子供はいないけど正直助かるよ。燃料の魔石代も安くはないからボウズで帰るのもアレだし、メガナウマン象が街に近付く前に仕留めたいから」

「うむ。メガナウマン象はこの辺りに沢山いるのであろうか?」

「いや。メガナウマン象や強めの魔獣は基本的に山脈やグンマーや武蔵大森林の中心部にいる。今追っているのは若いオスだろうね。成獣になって群れを追い出されたんだと思う。生きるのに必死になっているはずだ」

「そうか。放置すれば食料を求めて人里を襲う可能性があるのだな。魔獣はどこのモノでも同じか」


 ミルクコーヒーを飲み干してカップを置き、視線を回す。

 夜の森は闇である。灯りはテーブルの上のランプのみ。

 遠くから夜行性鳥類(魔獣)の鳴き声が聴こえる。

 暗闇からカサカサと、とるに足らない小魔獣の動く音が聴こえる。

 そして空を見上げると、木々の隙間から見える輝く星々の大河。天の河。


「きれい」


 魔王は呟き、エミリオは席を移動して隣に座った。


「リムちゃんは僕が必ず守る。あと少し辛抱して欲しい」

「ふふふ。まるで近衛騎士のようだ。良しなに頼むエミリオ殿」


 魔王は長い黒髪を耳に掛けながらエミリオを見つめる。

 エミリオもまた、肩を触れ合わせて魔王を見つめ返した。


「エミリオ。そう呼んで欲しい」

「ん?」


 出会ってから一日も過ぎていない。それでも他人行儀な呼び方は嫌だとエミリオは思った。天女の如き魔王を、たとえ男の娘であっても、相手の特別な存在になりたいと本心から強く思っていたのだ。


 これは恋。

 そう、エミリオは魔王に一目惚れをした。

 性別を超えた運命の導き。抗えない魂の切望。

 でも相手の事を知らない。

 互いを知るにはあまりにも時間が足りない。

 男同士の愛し方も知らない。

 魔王がそっち系OKかも分からない。

 そもそもエミリオは100%の攻めだ。

 魔王には100%の受けになって貰いたい。

 小さなお尻でエミリオを受け入れる。大丈夫だろうか。

 エミリオは自分のエミリオに自信がある。入るだろうか。

 太すぎて拒絶されるかもしれない。

 攻め受け交替しろと言われるかもしれない。

 愛する魔王のためにお尻を差し出す覚悟はあるのか。

 分からない事だらけ。


 言うまでもないがエミリオは女性が好きだ。

 どれだけの美少年が相手でも、これまで男に興味は湧かなかった。そのせいでオカマバーの梅子さんに超怒られた事もある。店で一番人気の男の娘の好意をふったからだ。


 梅子さんの言葉。


「冷やかしで店に来るな! アタシら心は乙女なんだよ! 生命張ってオカマやってんだよ! 散々チヤホヤしておいて、イザとなったら『僕、男はちょっと』だと! ふざけんじゃないよ! イケメンだからって調子に乗んな! アンタなんて、またおいで。

良いんだよ。男と女(男)の惚れた腫れたなんてそんなものさ。あの子だって簡単には諦めないだろ。若いってのはそう言うモノさね。羨ましい。来週はにゃま崎の12年のボトルを入れておくれ。それで今回の事はチャラ」


 閑話休題。


 一目見た瞬間から魂のつがいだと本能が理解する事もある。その相手が記憶喪失の男の娘である場合もある。それは仕方のない事である。


 絶対に手放したくない。

 独占したい。

 世界で唯一お互いだけ。

 世界が終わるその時も抱き合っていたい。




「リムちゃん。寒くない?」


 エミリオの目が本気まじだ。


「寒い。特にお股がスースーする」

「まだ4月だからね。夜の森はこれからもっと冷えるよ」

「そう。凍えてしまうな」

「大丈夫。僕が温めてあげる」


 エミリオの唇が魔王の唇に近づいた。とても自然な雰囲気で、さも当たり前の様に。


(おん? こんなシュチュエーション、昔もあったな。確か変態イケメン貴族がめっちゃ金を掛けて我を手籠めにしようとして……)


 魔王が千切って投げた男の数は百や二百では済まない。あの手この手で襲われ、その度に貞操を守り抜いてきた歴戦の猛者である。出会ったばかりのエミリオに流されて、ファーストキスを奪われる様なヤワではないのだ。


「ちょおぉぉぉ〜い!」

『マスター! アウト〜!』


 魔王と亀吉の叫び。魔王のビンタと亀吉の飛び蹴りが見事にシンクロした瞬間。


「ぶべらぁぁぁ〜〜〜!!!」


 エミリオは芸術的な吹っ飛び方をした。もし点数を付けるなら5000点。吹っ飛び世界大会で金メダル間違いなし。


『リム様。どうか私の事も亀吉とお呼び下さい。マスターはあの通り変態なので敬称不要です。エミリオと呼び捨てに』

「あい分かった」

『ところでデザートにアップルパイは如何でしょう』

「アップルパイ! たびる!」

『お飲み物は?』

「紅茶! ミルクとお砂糖を沢山入れて!」


 サクサクサクサク。ゴクゴクゴク。

 アップルパイはレーションなのに美味だった。


「亀吉。実はお風呂に入りたいのだ」


 魔王は案外、綺麗好き。勇者との戦いも含めると4日、お風呂に入っていない。体がベタつくし、そろそろ体臭も気になる。


『申し訳ございません。流石にお風呂までは』


 戦車一両の男の狩り。お風呂など用意出来る訳もなし。


「そこは大丈夫。亀吉とエミリオが目を瞑ってくれればな」

『はい。なんでございましょう』


 魔王はイタズラっぽくウインクした。それから地面へ向けて魔力を練る。


土錬成アースクリエイション個室とバスタブ!」


 簡易のお風呂場完成。


『おおおお! 観測観測〜!』


 留まることを知らない魔法の大盤振る舞いに亀吉は大興奮。


「続けて水魔法と火魔法で、出でよお湯〜!」


 バスタブにたっぷりのお湯。湯加減は最適である。


「自重は街に着いてからする。すまぬな亀吉」

『リム様。石鹸でございます。ごゆっくりどうぞ』

「うむ。かたじけない」


 満天の星空の下、最高の露天風呂。魔王は久し振りに美食とお風呂を堪能して幸せを噛み締めた。


 そして湯上がり。


『タオルと着替えでございます。それと、パンツでございます』

「すまぬ。恩に着る」


 亀吉は1時間程の入浴時間の間に、エミリオのシャツを材料にして魔王のパンツを縫っていた。お股が寒かったので本当に助かる。できるメイドだ。


「ん? あれ? このパンツ」

『なにか? サイズはジャストフィットのはずですが?』

「いや、これ、その」


 両手に持って広げたパンツ。何処かおかしい。


「これって女性用じゃね? どう見てもデザインおかしくね? 男性用パンツって、ほら、股間の部分に扉があるよね。これ、ないよね?」


 ヒラヒラの付いた、もの凄く愛らしいパンツ。

 亀吉は両手を揃えて頭を下げる。


『全く問題ございません。えぇ。何一つ。全て順調でございます』

「えぇ〜〜」


 寒いので仕方なく履いた。お尻にピッタリフィットした。流石はできるメイドだと感心する。


 それから気絶して起きないエミリオをテントに押し込め、ほっぺに軽くキスをして回復ヒールをかけて寝かしつける。

 魔王は土錬成アースクリエイションで堅牢な寝室を作り出して亀吉と共に寝袋に入る。


『リム様。私を抱いてお眠り下さい。湯たんぽモードで暖めさせて頂きます』

「ふぁぁ〜。かたじけない亀吉。うむ。温い。幸せだ」

『おやすみなさいませ。良い夢を』

「おやすみ……かめ、きち……」


 お人形を抱いて眠る美少女。ではなく魔王は、数日ぶりの安眠を得た。



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