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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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3話



「やだぁ〜! もう歩けない!」


 魔王は地面に座り込んで駄々を捏ねていた。


 30分歩き、30分休む。そんな感じで太陽は中天に近付いている。そろそろお昼ご飯の時間だ。距離は全く稼げていない。


「お腹が空いた。そもそも靴が悪い。サイズが全然合ってないから、ガッポガッポと歩き辛い! 無理だ!」


 肉体は魂の容れ物と言われるが、肉体に合わせて魂の形も変わるのだろう。魔王はいよいよ幼稚な口調になっていた。

 これが少年時代の魔王だ。数多の攻め側の男性から熱烈な求愛を受けていた魔王の真の姿だ。まさに姫と呼ばれるに相応しい愛らしさだ。


「ただでさえ森の中で歩き辛いのに、さらに靴が脱げない様に歩くなんて無理! こんなデカい靴なんていらない!」


 靴に八つ当たりをする。元々自分の靴である。

 オーダーメイドで激しい戦闘にも耐える最高級品だ。

 この一足で普通の靴が幾つも買える逸品なのに、子供の癇癪は理不尽なのだ。


「はぁ〜。如何ともし難い」


 途方に暮れる。良い方法はないかと思案する。

 しばらく考えて、馬鹿だから何も浮かばない。


「あぁ〜あ。こんな時にセレンティアスがいれば良い知恵を出してくれるのに」


 知識の暗記と発想力は別。並のおつむの魔王には、優れた参謀が必要なのだ。

 諦めて土の上に寝転む。現実逃避だ。


「おん? なんだ?」


 地面に頭をつける。すると遠くから近付く振動を感じ取った。


(地震ではない。振動が一定だから生物でもないだろう。人工物? こちらに近付いて来る)


 起き上がって振動の来る方角、東を見る。そして風探索ウィンドサーチを発動した。


(大きいぞ。貴族用馬車よりもずっと大きい。それに質感がとても硬い。速度も一定で速い。間違いなく人工物だ)


 偶然なのか、それとも必然なのか。謎の人工物は魔王のいる場所に向かって来る。


(何かは分からん。とりあえず隠れなければ)


 魔王は近くにある巨木の陰に身を潜めて様子をみる事にした。息を潜めて気配を絶つ。戦士として当たり前のスキル。かくれんぼをしたら、最後まで発見されずに無視されて、友達は先に帰って置き去りにされる自信がある。


 ギャリギャリギャリ。

 聞いた事のない騒音が鼓膜を劈く。近い音を例えろと言われたら、風車や水車だろう。それよりも遥かに力強いが確かに機械音だ。


(魔族はもちろん、人族の使う物とも違う)


 未知の存在である。敵になるか味方になるか予想もつかない。肝要なのは冷静になる事。そして曇りなき眼で見極める事。魔王はその時を待った。


 数分後。謎の存在を視界に収める。

 それは大きな金属の箱の上に、一回り小さな金属の箱が載った、上下二段の金属箱だった。

 しかも小さな箱の先端には長く太い鉄柱が突き出している。何に使うのか皆目見当もつかない。謎だ。

 大きな箱の両側には沢山の車輪。その車輪を幅広の帯が覆っており、大地を削りながら走っているのだ。


(知らない。乗り物なのは分かるが、それ以外見当もつかない)


 箱を載せた箱は魔王の隠れる巨木の前で停車した。


(偶然ではない。間違いなく我の存在を察知している)


 戦闘になるかもしれない。

 未知の相手だが、最大魔力を叩き込めば勝てると考える。油断や慢心ではなく、若返ってから体内の魔力量が飛躍的に上がり、魔法発動がよりスムーズになっているのを実感しているからだ。


 気が付いたのはゴーレム腕を最大魔力で生成した時だ。あの時途中で止めなければお空の星になっていた。魔力が上がった理由は一旦置くとして、きっと勝てる。だから万が一に備えて体内で魔力を練る。悟られぬよう静かに、濃く、渦を巻く様に。


 ◇◇◇◇◇


『目標地点に到着。要救助者はそこの木の陰に隠れています』


 MBT2199の操縦席にサポートAIの声が響いた。


「了解。僕は外に出る。周囲の警戒を頼むぞ」

『了解。マスター、老婆心ながら意見具申致します』

「なんだい」

『要救助者は幼い少女です。何らかの事件に巻き込まれた可能性が高く、怯えています。くれぐれも無理強いはなさいませんよう』


 AIからの心配に、金髪イケメン青年は「ハハ」と乾いた笑いを漏らす。


「分かってる。だけどアドバイスはありがとう。お前は最高の相棒だよ亀吉」

『お褒め頂き恐縮です』


 亀吉とはサポートAIの名である。戦車MBT2199と、搭載されたサポートAI亀吉が青年の頼れる相棒だ。彼がソロでハンターを続けられるのも、この2つがあればこそである。


 操縦席でコンバットヘルメットを脱いで素顔を晒す。サラサラとした短い金髪が揺れる。それから通信用のインカムを耳につけ、武器は車内に置いて、髪型と口臭を確認してから上部ハッチを開けて外へ出た。魔王の隠れる巨木の前に立って、努めて優しい声で語りかける。


「驚かせてごめん。僕は筑波ハンター都市を拠点に活動するハンターのエミリオ。君を保護しに来たんだ。もう大丈夫だから出て来てくれないか」


 返事はない。そこに美少女がいるのは亀吉のサーチで確か。なのに長い沈黙が続く。


「大丈夫。もう怖い事は終わったんだ。僕が絶対に君を守る。出て来ておくれ」


 もう一度声を掛けた。怯えた美少女を無理に引っ張り出す真似はしたくない。エミリオは辛抱強く相手が心を開くのを待つ覚悟である。


 ◇◇◇◇◇


 魔王は悩んだ。

 謎の箱から出て来たのは人であった。それも外見的には人族よりも魔族に近い。

 言葉も分かる。優しい声で保護すると言っている。声の質から嘘ではなさそうだ。


 だが警戒すべき点も幾つかあった。


 まずは完全に気配を絶ったのに居場所を見抜かれた事。

 方法は皆目見当もつかないが、高度な索敵能力を有しているのは間違いない。これは脅威である。


 次は謎の箱。乗り物であると推測されるこれは、高度な工業技術と冶金技術と魔法学の集合体に思える。これだけで魔族の文明を凌駕していると分かる。もちろんこれも脅威だ。


 最後は魔力。これが最も魔王を困惑させた。

 魔族とは、魔力を持って巧みに操る種族という意味だ。だから魔族。

 対して人族は魔力量が少なく扱いも不得手。だから普通の人。人族。

 魔力量と扱いの得手不得手はあるが、どちらも魔力を持っている。それが常識。


(目の前の青年には魔力がない。全く微塵も感じない。こいつは本当に人類なのか? それとも我の知らない第3の人類なのか?)


 魔獣にも魔力はある。だから体内に魔石がある。昨夜仕留めた巨大肉食ウサギの体内にも魔石があった。魔力を持たない生き物など、魔王には考えられなかった。


「お腹は空いてないかな? レーションしかないけど、種類はそれなりに揃えているよ」


 再びの声掛け。レーションが何かは分からないが、お腹はすっごく空いている。食べ物で誘惑など、まるで魚釣りだ。屈辱だ。


「ぐぐぅ〜」


 魔王のお腹が鳴った。屈辱を感じても体は正直である。


「ハハ。腹減りさんだね。心配ない、僕の信じる神様に誓って君を傷付けたりしない。必ず守る。だから出て来てご飯を食べよう」


 青年の信仰など知らないが、神に誓うというのは魔族にとって重い意味を持ち、軽々に口にすればリアル神罰が下るのが神前宣誓なのだ。こちらを騙している可能性はあるが、神の名を出す者を無視は出来ない。


「ぐぐぅ〜〜」


 またお腹が鳴った。恥ずかしい。許し難い屈辱だ。これ以上は辛抱ならん。誇りよりも飯である。

 魔王は食欲に負けてしまった。練っていた魔力を霧散させて、戦闘はひとまず無しの方向に調整する。


 ◇◇◇◇◇


 何度目かの呼びかけの後、お腹の鳴き声が聞こえ、その後カサリと落ち葉を踏む音がした。美少女が初めて体を動かしたのだ。エミリオは目の前の巨木に集中しながら美少女が自主的に姿を現すのを固唾を飲んで見守る。


 まず服の端が見えた。汚れている。破れている。元は白かったと思われる布は、血だと思われる染みが所々に付着していた。


 黒髪がチラリと見えた。とても艷やかで長い髪だ。陽の光を反射して、僅かに青味掛かっている。いわゆる烏髪だろう。エミリオがこれまでの人生で目にした物で最高級の美しさである。


 ズボンと靴が見えた。こちらも破れて汚れている。血の跡も痛々しい。それに大人の男性用だ。靴などは完全にブカブカでガバガバ。これではまともに歩けないだろう。心が痛む。


 いよいよ美少女は巨木から顔を覗かせる。

 肌が白い。透き通る白さだ。

 ほっそりとした輪郭。通った鼻筋。小さめで桜色の唇はプルプル。そして大きく切れ長の目と、天使の様に無垢で輝く瞳。


「……天女」


 思わず声に出たそれが、偽らざる第一印象。

 エミリオはこの日、天から舞い降りた女神(男)に運命的に出会ったのである。


 ◇◇◇◇◇


 魔王は意を決して姿を見せた。

 『猫を去勢しなければ金玉は手に入らない』

 魔族にある諺を実践したわけだ。


 目の前の青年は目を見開いて固まっている。瞳孔が開いているので驚いているのだろう。何に驚いているのかは知らないが、敵意は感じない。


「あの……」

「はっ!」


 魔王の声に青年は体を震わせ、まるで雷に打たれたよう跳ねた。


「我を助けてくれると言う言葉。相違ないか?」


 透き通った、小鳥の囀りのように高く軽やかな魔王の声色。それを聞いた青年の顔にみるみる赤味がさして、両耳まで赤くなる。童貞が一目惚れしたかの如き反応を示すのだ。


「も、もちろんだよ。全力で守る。改めて太陽の化身である女神様に誓う。命を懸けて生涯君を守ってみせる」


 またしても神前宣誓。


 魔王は思う。初めて会った男に対して2度も神の名を出すなど、あまりにも軽率が過ぎる。命を懸けて生涯守るなど、流石に言い過ぎだ。まずはお友達から始めるのが筋であろう、と。


 この青年は見た目が良い。甘い顔と頼り甲斐のある逞しい体と落ち着いた声色。モテるに違いない。男女共にモテるのだろう。神前宣誓も口説き文句として日常的に口にしているのかもしれない。


 神の名を軽々に口にする者は信用ならない。それが魔族の常識だ。だから警戒は解かない。食べ物で懐柔されたりなんてしない。


「お腹が空いた。でも……」

「でも? なんだい」


 青年は魔王の一言一句聞き逃すまいと体を前のめりにする。同時に魔王を怖がらせまいと、元の場所から一歩も動かない。その仕草に悪意は感じられない。この瞬間は純粋な気遣いだけだ。


「施しを受けたとて、我には返せる物がない」


 けれど無償の善意など簡単には信じない。魔族にとって当たり前の助け合いの精神は、人族には完全に通用しなかった。只々獲物として貪り食われるだけだった。

 助けは欲しい。食べ物は欲しい。しかし青年の種族が不明な今、後々のトラブルを回避する為にも言わねばならなかった。


「そんな、返すなんて……」


 青年の目が驚きで開かれる。それから困った表情をして、頭を軽く掻いた。キラキラと陽の光を反射する金髪から、花の様なシャンプーの良い香りが香って来るのだ。


「あのね。お返しなんて要らないんだよ。君は子供で僕は大人。大人の責任として子供を助けるのは義務なんだ。だから何も要らない、何も要求しない」


 柔らかな声と表情で諭される。魔王の心も揺れ動いた。

 子供は種族の宝であり、大人は全ての子供に対して保護の義務を持つ。全魔族に共通する基本的道徳。同じ事を青年が言った。躊躇いなく、当たり前に口にした。


「本当に?」


 魔王は小首を傾げる。

 青年は右手のひらを心臓の位置に当て、左手を腰の位置、剣の鞘を握る様な動作をして、両足の踵を揃えると軽く頭を下げた。その様子は騎士の礼に似ていた。


「本当に絶対に。何も要らない。取らない。君を安全な場所まで送り届ける。家族に会わせてあげる。太陽の女神様に誓う」


 神前宣誓も3度目になると洒落にならない。これ以上は天罰が下るかもしれない。見た目が子供でも中身は30歳超えのおっさん魔王である。好青年が雷に打たれて死ぬ所は見たくない。魔王はここらで青年を信じる事にした。


「分かった。貴殿を信じよう。良しなに頼む」

「うん。任せて」


 魔王はニコリと笑う。青年エミリオも笑顔になる。


「まずは傷の手当てをしないといけない。僕は君に触れないから、相棒に任せるよ」


 エミリオは見た目から魔王が怪我をしていると判断した。早急に治療をしなければならないが、男の自分が触れれば怖がらせてしまう。

 本心では魔王の体を隅々まで触りまくって堪能したい。確認したい。この目に焼き付けたい。傷があるなら舐めて治療したい。

 でも無理なので、亀吉に任せようとした。のだが。


『マスター、よろしいでしょうか』

「なんだ亀吉」


 インカムから亀吉の人工音声が響く。わざわざ魔王にも聞こえるようにスピーカーにしている。


「む? もう1人いるのか? この声は女性か?」


 魔王が警戒する。エミリオは焦る。亀吉は続けた。


『驚かせて申し訳ありません。私は目の前の戦車、MBT2199に搭載されたサポートAIの亀吉と申します。以後お見知りおきを』


 流暢な言葉での自己紹介。魔王はずっと風探索ウィンドサーチで探っていたが、周囲にいる人間は間違いなくエミリオだけ。では声の女性は誰なのか。思い当たる可能性は一つだけ。


「まさか精霊か!」


 そう結論つけた。


『精霊。詩的で素敵な表現ですね。ありがとう御座います。よろしければ貴方のお名前を教えて下さいますか』

「おい、亀吉」


 エミリオが止めようとする。そんな事よりも治療が先だろうと。名前や事情は治療しながら聞けば良いと。


「うむ。助けられて名乗らぬは非礼。我の名はま……」


 魔王と名乗ろうとして考え直した。エミリオと人族の繋がりが完全に否定されていない今、素性を明かすのは危険だ。


「おっほん。我の名はリムリアス。よろしく頼む、精霊の亀吉殿」


 本名を名乗る。これなら魔王だとバレないだろう。


「リムリアス。可愛くて良い名前だね」

『よろしくお願い致しますリムリアス様』

「うむ。リムと呼んで欲しい」

「リムちゃんか。良いね。それじゃあ亀吉、リムちゃんの治療を……」

『その件ですがマスター』

「うん?」


 エミリオは少しイラッとした。美少女の体に傷が残ったら責任取れんのか、と。


『たった今メディカルスキャン致しましたところ。リム様の御身体は疲労と空腹以外は健康体です。衣服はサイズから考察して他人の物でしょう。それと』


 エミリオは健康体と聞いて安堵する。美少女が無事で良かったと心底思う。だから続く言葉への心の準備は皆無であった。


『マスターの夢を壊すようで心苦しいです』

「お? 何の話だ」

『運命の出会いだと思ったんですよね』

「主人の心を読むんじゃねぇ!」

『その歳で童貞のマスターがお可哀想』

「おい! 童貞の話はするな!」

『見た目と性格は良いのに、ロリコンでスケベだから駄目なんですよ』

「リムちゃんの前でなんてことを言うんだ!」

『現実は厳しいですが伝えねばなりません』

「なんだよ! はよ言えよこいつ!」

『ではお気を確かに。自暴自棄になってはいけませんよ』

「だから! なんだ!」


 ここで亀吉は溜めを作る。エミリオの脳が思考力を発揮するまで待つ。エミリオも魔王も、亀吉の次の言葉に意識を集中した。


『リム様は正真正銘、男性です。両性具有でもありません。詳細なメディカルスキャンの診断結果なので、99.99%間違いありません。本当にお疲れ様でした』

「え? 嘘だろ」


 美少女だと思ったら実は男の娘。

 エミリオが混乱して叫んだのは言うまでもない。




 君は美少女で僕はロリコン

 ロリコンの責任として美少女を助けるのは義務なんだ

 それが正しいロリコンなんだ

 イエスロリータノータッチ


 エミリオ心の声


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