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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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幕間 カンナとヒカル



「知らない奴がいるんですけど〜!」


 カンナの苦情が響く。


 魔王がハンター達の治療で出発した後。

 カンナは元宇宙巡洋艦『筑波』の避難スペースに行かず、魔王の部屋に直行した。両親が出撃中は魔王の部屋へ。そういう約束だからだ。今はスタンピードの非常事態だが、魔王の部屋にはカンナのお気に入りの小物類や着替えを持ち込んいるので、セカンドハウスと言って差し支えない。ここにいれば『筑波』に避難した事実は変わらないので良し。


 しかし部屋に入ると、ソファーには尊大にふんぞり返るヒカルの姿があり、咄嗟に声を荒げたのは自然な反応である。


「あっ? 誰だお前?」


「こっちのセリフだよ! アンタこそ誰よ!」


 ヒカルを見たカンナの第一印象は綺麗な女の子。

 整った顔立ちに長い紫色の長い髪。

 スラリとした体は一見、華奢に思える。

 しかしよくよく観察すると、肩幅が広く筋肉質であり、女みたいな男だと分かった。

 不法侵入者か? 変質者か? それとも浮気か? 

 カンナの心に怒りが生まれる。


「ここはリムリアスの部屋だ。つまり俺様の部屋だ」


「はぁっ〜?」


 カンナの怒りは85%まで高まった。


「ふざけないで、ここはリムと私の部屋よ!」


「知らねぇよ」


 気怠そうに前髪を弄るヒカル。

 カンナは昂ぶる感情のまま、大股で歩き寄る。

 するとテーブルに上に、とんでもない犯罪行為の証拠を見つけてしまう。


「それ! それ! そのマグカップ! なんで!」


 魔王とカンナがお揃いで購入した河童のマグカップがテーブルの上にちょこん。しかもコーヒーが注がれ、半分ほど減っている。つまり使用後だ。


「あ? 喉が渇いたから適当に使ったけど、なにか?」


 悪びれるヒカル。カンナは素早く食器棚に視線を送る。

 マグカップは2つ。右が魔王で左がカンナ。果してヒカルが無断使用したのはどちらか?


「私のマグカップじゃん! ふざけんな!」


 カンナの怒りは100%を超えてしまった。

 拳を握り、両手を上下に振って怒りを体で表現する。

 これ程の痴漢行為はチ◯チ◯もぎ取り刑もあり得る、赦されざる重罪である。


「うるせぇな。黙れよ阿呆」


「阿呆とはなによ! 犯罪者に言われたくないわ! 警察に通報してやるんだから!」


「警察だと? お前こそ、俺の婚約者の部屋に勝手に入った不法侵入者だろうが。通報するのはこっちだぜ」


「は? 婚約者? 誰が? 私の?」


「いや、お前なんて知らねぇし」


 カンナの思考が止まる。

 婚約者とは、結婚を約束した男女の事だ。

 目の前の少女っぽい子はたぶん男だ。

 ならば婚約相手は女の子のはず。

 カンナは女の子。

 魔王も女の子。(勘違い)

 無礼な少年は「リムリアスの部屋は俺の部屋」と言った。

 つまり婚約者とは、果して?


「えっと、ここは私とリムの部屋なんだけど?」


「俺、婆ちゃんに置いていかれてさ。支部長のユーリってデカおばさんに話したら、ここで待ってろと言われたんだ」


「なんでこの部屋なの?」


「リムリアスが俺の婚約者だから」


「えっと、リムリアスって、リムの事?」


「他にもリムリアスがいんのか?」


「ここにはいないかな? リムリアスはリムだけのはず」


「ならそのリムが婚約者のリムリアスだ」


 この時カンナは、どんな顔をしていたのだろう。

 とにかく、カップ麺が出来上がる時間と同じくらい、思考が停止していたのは確かである。


(リムに美形で俺様系の婚約者がいた? さっきキスしたのに。ファーストキスを捧げたのに。これって浮気なの? 浮気されたのは私? それともこの男の子?)


 カンナの心は大型サイクロンに襲われている。

 グルグルと回って撹拌され、混沌状態である。


「お〜い。大丈夫か?」


「はっ! あ、アンタは誰よ!」


「おい、人の名前を知りたい時はそっちから名乗れよ。礼儀だろう」


 横柄な態度の少年に礼儀を説かれる。屈辱である。


「くっ!」


(くっ! こ◯せ!)


 カンナの魂は女騎士だ。気高いのだ。虜囚の辱めを受けるくらいなら『くっころさん』である。


「変な顔。早く名乗れよ」


「くっ! わ、私は鈴木カンナ。リムの親友で、ハンター養成学校中等部の3年生」


 恥辱を飲み込み、心の手綱を引いて丁寧に名乗る。


「あっそ。俺は藤・セレンティアス・ヒカル。東京の名門私立中学の3年生。リムリアスの婚約者だ」


「はうっ! 婚約者!」


 カンナの胸を締め付ける謎の感情。

 動悸が起こり、呼吸が乱れる。これは嫉妬だ。

 女同士の友情を超えた、百合ワールドの入り口に立っているのだ。


「リムリアスの親友か。丁度いい、こっちに来てリムリアスの事を教えてくれ」


 ヒカルは脚を組んでソファーをぽんぽん、それからカンナを手招きして、隣に座れと促す。


「い、嫌よ。早く部屋から出ていってよ」


「出て行く? なんで?」


「なんでって、それは私が寝るから」


「お前が? ここで寝るの? なんで?」


「なんでって、親友だから。両親が不在の時はリムの部屋でお泊り会をする決まりなの」


「リムリアスとお泊り会って、アイツは……」


 アイツは男。言いかけて止める。


(両性具有とか言ってたな。これは秘密なんだっけ)


 ヒカルは外見と態度が俺様の割に、そこまで愚か者ではない。


「……いや。それなら俺は何処で寝ればいいんだ?」


「知らないわよ。そもそもアンタは何処から来たのよ? 『筑波』にいる理由は?」


「婆ちゃんに言われてリムリアスを迎えに来た。アイツとは今日初めて会った」


 脚を組み直して、コーヒーの残りを飲み干すヒカル。

 仕草は優雅でイケメン的。違う形で出会えばカンナの乙女もときめくこと間違いなし。

 だが今は、マグカップへの怒りしか湧かない。


(私のマグカップを穢しやがって許せん。後で念入りに塩素消毒しなければ)


「婚約者なのに初めて会ったの?」


「おう。数日前にいきなり婚約者だって言われた」


「なにそれ。じゃあ、親が決めた婚約者?」


「そういう事。だからリムリアスの事は何も知らない。お前が親友なら都合が良い。リムリアスの事を教えろよ。どうせ家に帰れなくて暇だし」


 ヒカルはヘリに乗って祖母と『筑波』に来たが、スタンピードの報せを受けた祖母は防衛部隊への医療協力の為に、護衛を連れて1人で東京に帰ってしまったと話す。


 自分は藤家の跡取りなのに、置いてけぼりは酷いと言う。

 護衛まで自分を無視して放置するのは職務放棄だと言う。

 家に帰ったら父親と母親に言い付けると言う。

 リムリアスも婚約者のクセに、将来の夫を放置して医療協力に出かけて許せないと言う。

 メイドもいなので自分でコーヒーを淹れて偉いと言う。

 マグカップがブサイクな河童のイラストな上に、安物でセンスが悪いと言う。

 本当はリムリアスのマグカップを使いたかったのに(間接キス)カンナの方でガッカリだと言う。


(コイツ、ぶっ殺す)


 数十分間、ヒカルは一方的に愚痴を零しまくった。

 魔王の事が知りたいと言ったのに、自分の話だけに終始していた。

 しかも。


「腹が減った。食事の用意をしろよカンナ」


 ヒカルは馴れ馴れしくカンナを呼び捨てにして、使用人代わりにコキ使おうと顎をしゃくる。


「嫌よ。自分で何とかしてよ。て言うか、もう出て行って」


 カンナは表情で不快感を表明し、腕を組んで(察しろよ)と念を送る。負けられない戦いだ。


「だから、迎えが来るまで行く場所がないって言ってんだろ。カンナは本当に阿呆だな」


「阿呆はヒカルじゃん! 藤家のお坊ちゃまか何か知らないけど邪魔なのよ! 

 てっ言うか、跡取り息子が放置されるとかおかしくない? ヒカルは本当に藤家のお坊ちゃまなの? 

あ、考えたら怖くなってきた。美和さんに連絡しようっと」


 藤家は新日本国四名家の一つ。そこのお坊ちゃまが放置されて迎えが来ないなど、少し考えれば不自然だと気が付く。怪しい。思い込みの激しい変質者かもしれない。カンナはスマホを取り出して、ヒカルを警戒しながら美和をコールする。


『もしもし、カンナちゃん、どうしたの?』


「美和さん、忙しい中すいません。今、私とリムの部屋にヒカルとかいう怪しい男の子がいるんですけど、知ってます?」


『あぁ、その子。私は詳しく知らないけど、藤家のお坊ちゃまでリムちゃんの親戚で婚約者みたいだっぺ』


「えぇっ〜! それって本当だったんですか〜!」


『今はスタンピードで忙しいから相手出来ないっぺよ。空き部屋もないし、カンナちゃんが相手してあげて』


「嫌ですよ! 知らない男の子と2人っきりとか、おかしいでしょう?」


『大丈夫、大丈夫。ヒカル君は女の子みたいな見ためだし、悪さしたらリムちゃんに言い付ければ良いっぺ。それじゃ、よろしく』


 プツッ。


「あ! 美和さん、美和さ〜ん! 畜生!」


 切れる通話。キレるカンナ。

 夜の密室に14歳の男女が2人きり。エッチなハプニングが起きるのに、十分な材料が場に投入された。


「んなわけあるか!」


 カンナはキレ過ぎてなんか吹っ切れた。


「私の領地はベッドとここまで! ヒカルはソファーだけ! それ以上は近寄らないで!」


「は? 何言ってんの? 舐めてんの?」


「ご飯はレーションしかないよ! スタンピードで皆んな避難してるんだから、食べられるだけ感謝して!」


「レーションって、人間が食べていい奴?」


「ぶっ殺すわよ!」


 それからイライラしつつも、カンナはヒカルの面倒をみるのだ。


 レーションはハンバーグ定食をチョイス。

 ヒカルは温め方も知らない本物のお坊ちゃまなので、カンナの苛立ちは増々募る。


「レーションって、初めて食べたけど美味いじゃん」


「普段はご馳走を食べてるんでしょ。その割には庶民舌なのね」


「阿呆、真のグルメとは全ての食材に感謝して、出された料理は極力食べる者だ。高級料理しか認めない奴は3流だぜ。それよりもお茶」


「くっ! コイツ」


 図々しくも食後のお茶を所望するので河童マグカップを没収。代わりに紙コップを与える。


「リムリアスのマグカップを使わせろよ」


「駄目に決まってるでしょ、変態」



 カンナがお風呂に入る時はヒカルを部屋から追い出して、内側から鍵を掛ける。


「開けろ! 中に入れろ! 俺は藤家の跡取りだぞ!」


 スケベ的に云々ではなく、プライドの問題で騒ぐ。

 これは無視するに限る。よく吠える犬は無視するのが一番だ。



 カンナの入浴後、ヒカルもお風呂に入ろうとした。

 着替えがないので用意しろと命令する。カンナはブチキレて脛を足刀で蹴っ飛ばした。


「痛ってぇ〜! この女、何しやがる!」


「男は一晩くらいお風呂に入らなくても平気よ! ナヨナヨしやがって、リムの方がよっぽど男らしいわ!」


「なんだと! 女のクセに生意気だ!」


「ヒカルは男のクセに生意気よ!」


 低レベルな口論から始まり、暇なので会話に発展する。

 出会ったばかりで共通の話題もないので、大半を魔王の話で埋める。


「リムってさ、私よりも女の子らしい部分と、抱擁力があって頼れる部分と、二面性があるの」


「だろうな(男で女なんだから)リムリアスは普段は何をしているんだ? 学校は何処だ?」


「知らない。数週間前に突然、ユーリ支部長の所に来たの。それ以前の話はしてくれなくて」


「へぇ〜。あのデカ巨乳は大太羅家だろ? 藤家とは一応、親戚関係なんだ。てっ事は、リムリアスは大太羅家で育てられたのか」


「ふぅ〜ん。大太羅家も名門のお金持ち一族で、チバラキでは有名だし、藤家のお嬢様なら本物のお姫様じゃん。どうして『筑波』に来たんだろう?」


「それはな、誰にも言うなよ」


「うん。なになに?」


「家出らしいぞ。窮屈な生活に嫌気が差したとか、桜家の当主が話してた」


「うっそ! 家出なんだ。……そっか、お姫様はお姫様で色々と悩みがあるのかもね」


「俺も名門一族の跡取りだから分かる。良いことばかりじゃないぜ」


「……そっか」


 魔王をネタにして会話を重ねる2人。

 適応力の高い若者が打ち解けるには十分な時間。

 時刻はいつの間にか23時を周り、艦内にスタンピードの終息を告げる放送が控えめに流れた。


「スタンピード終わったんだ」


「規模が小さかったんだろう。たぶん自然に散ったんだ」


「かもね。なら、リム帰って来るよね」


「怪我人がいないならな。リムリアスはヒーラーらしいから、負傷者がいたら忙しいだろう」


「超能力者なんだ。お姫様で超能力者で希少なヒーラーなんて凄いね」


「俺の婚約者だから、それくらい当然だ」


「それ、その高飛車な態度、ムカつくんだけど」


「あ? 俺様は偉いから良いんだよ。カンナこそ生意気だ」


「またそれ、リムに言い付けるよ」


「う、それは……」


 ヒカルの脳裏にボディーブロー5連発の苦い記憶が蘇り、無意識にお腹を擦る。


「私、寝ないでリムの帰りを待つよ。ヒカルは廊下で寝て」


 カンナはしんみりと真顔で酷い。


「ふざけんな。俺も眠くないから待つ」


 2人は魔王を待つ間、深夜に食べる禁断のお菓子やコーヒーを飲んで、おしゃべりしながら過ごした。

 しかし夜中になっても魔王は帰らない。何故なら東京防衛部隊が勝利するまでエミリオ達のナビゲートを続けていたから。


 やがてカンナはベッドの上で、ヒカルはソファーでウトウトと船を漕ぎ始めてしまう。2人はこの夜、意識しないまま、同じ部屋で一夜を共にしたのであった。



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