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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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21話



 数機のヘリコプターが筑波ハンター都市の郊外あるヘリポートに着陸する。

 一機は桜の花を基調とした家紋が描かれた桜家の物。

 一機は藤の花を基調とした家紋が描かれた藤家の物。

 残りのヘリは全て、両家のヘリの護衛として自衛軍から派遣された物だ。


 ヘリポートには警察車両とハンター協会から派遣された装甲車両が多数配備されている。

 桜家当主、桜福次と息子のエミリオ。

 藤家相談役、藤ピーターと現当主の長男。

 彼らを護衛する為に派遣された戦力である。


「ようこそおいで下さいました。私は筑波ハンター協会支部長を務めます。大太羅ユーリと申します」


 ヘリから降りた桜福次と藤ピーターを出迎えるのはユーリ。これから彼らに同行してを筑波ハンター協会事務所『筑波』へ案内する役目を負っている。


「いつも愚息が世話になっているな。桜福次だ、今日は頼む」

「はい」


 福次はデカ巨乳美女の挨拶に破顔した。

 ぴっちりしたスーツ姿。背筋を伸ばし、45度で頭を下げ、また背筋を伸ばす。すると巨乳がブルンと揺れる。


 桜家当主という、新日本国で最高峰の権力者であるこのおっさんは、デカいものが大好きなのだ。

 ロリコン息子と正反対に、おっぱいはデカいほど価値があるとう信念を持っている。


「ユーリさん、リムちゃんは元気にしていますか? 僕と会えなくて泣いていませんか? むしろ僕の身を案じて泣いていませんか? 早く会いたいです。早く行きましょう。早く、早く」


 エミリオは魔王の様子を知りたがり、ユーリに詰め寄る。

 ユーリは変態なエミリオを一瞥すると、すぐに無視。

 藤家相談役ピーターに向き直って礼をとる。


「大太羅家のユーリと申します。藤家相談役様に御意を得ました事、大変光栄です」

「あぁ、俺はそういうのめんどいから、畏まらなくていいぞ〜」


 金髪ロリメイドは手をヒラヒラと振って、ユーリに肩の力を抜けと言う。


「大太羅家の娘なら身内も同然だからな。一族内の上下関係とか、あまり気にするな」

「はっ、恐縮です」

「……しかし、ユートに似ているな」

「相談役様、何か?」

「いや、何でもない」


 ユーリはピーターが囁く様に発した言葉に注目した。

 間違いでなければ「ユート」と聞こえた。

 リムリアスが自分と初対面の時に口にした名前だ。

 ユートに似ている。ピーターはたぶんそう言った。

 リムリアスもまた、ユーリをユートと間違えたと言っていた。

 これは偶然ではない。藤家とリムリアスには確かに何らかの繋がりがある。ユーリは密かに確信を得た。


「隣のこいつはヒカル。生意気な小僧だけど、よろしく頼むわ。ヒカルも挨拶しろよ」


 ピーターは隣に立つ少年をユーリに紹介する。

 藤の花を思わせる長い紫色の髪。

 女性だと言われても疑わない端正な容姿。

 スラリとして健康的な肉体。

 その一方で、男性的な逞しさも漂わせている。

 きっと学校ではモテモテであろう美少年。

 藤家現当主の長男、藤ヒカル(14)である。


 どこか俺様的な雰囲気を纏った美少年は、俺様風に「よろしく」とだけ呟いてユーリから視線を逸らす。あまり社交的ではないらしい。


「よろしくお願いしますヒカルさん。

では皆様、『筑波』へご案内致します。車へどうぞ」


 一行は装甲化されたリムジンに乗り込んで出発した。

 リムジンを囲む様に警察車両とハンターの装甲車両が並走する。

 街には道路規制が引かれ、私的な訪問であるにも関わらず、物々しい異様な雰囲気が漂う。

 桜家の当主と藤家の相談役が揃って地方を訪れるのが、それだけ異例で重大な案件だという事だろう。


「市長がご挨拶したいとしきりに申しておりました。わずかでもお時間を頂ければさいわいだと」


 中央権力者に地方権力者が接触を持てる数少ない好機。

 筑波市長は是非に、福次と相談役に面会したいと言う話。


「いや、今回は私的な訪問だから遠慮しよう。気を遣わせてすまないなユーリ支部長」

「とんでもございません。市長には私の方から当たり障りなく説明しておきます」

「うむ」


 権力者とは面倒なものだ。

 福次はそう思いながら、ピーターの淹れたお茶を手に取る。


 藤家を陰で支配する最高権力者でありながら、どんな場面でもメイドとして振る舞う謎多き魔女、藤ピーター。リムジンに乗り込むやいなや、備え付けのティーセットで全員のお茶を淹れる。


(何を考えているのかサッパリ分からん。やり辛い)


 福次はお茶を一口含む。


(美味い。淹れ方も一流か。油断ならないロリババアだ)


 ヘリポートから『筑波』までは20分程度の道程。

 福次は雑談と情報収集を兼ねてユーリにリムリアスについて問う。


「例の少年は元気にしているかね? 記憶喪失という話だが、少しは思い出す事もあったかな」


 リムリアスが何も思い出さずに藤家を拒否すれば、桜家は高レベルのヒーラーを手に入れる事になる。


 リムリアスがデファ星人や外国のスパイである可能性は限りなくゼロに近いと判断できた今、桜家に取り込む事はメリットだらけである。


 何も思い出すな。せめて今日は記憶喪失のままであってくれ。福次は心からそう願う。高レベルヒーラーとは、それだけ貴重で使い道のある存在なのだ。


「身体、メンタル共に健康です。ですが身元に繋がる記憶は戻っていないと申しておりました」

「そうか。それは可哀想だ。一刻も早く、身分を安定させ、安心させてやらねば」

「はい。年齢的に学校にも通わせなければなりません」

「そうだな。……ところで、年齢は判明しているのか? 本人は自分を何歳だと言っているのかな?」

「本人は自分を32歳だと主張しています。外見的には13〜14歳なので冗談だとはおもいますが、かなりしつこいです」


 ユーリの話を聞いていたピーターが突如「ぷふぅ〜!」と吹き出した。どうやら32歳の部分がツボにハマったらしい。


「相談役殿、何か?」

「いや、悪い。リムリアスは相変わらず冗談が下手だと思ってね。くふふ」


(この口振り。件の少年はやはり藤家の姫なのか? だが、本人が否定すれば桜家が保護権を得る約束だ。ここは強気に行こう)


 福次の思惑、ピーターの余裕。

 短い乗車時間を終え、リムジンは無事にハンター協会事務所『筑波』に到着した。


 ◇◇◇◇◇


 リムリアスと福次達の面会は艦内の会議室で行われる。

 元は士官が集まって重要案件を話し合う場なので、会議室の造りは広く、高級感が醸し出されている。


「リムちゃん、緊張してる?」


 室内には魔王と伊藤美和の2人きり。

 美和は普段より数段おめかしをして魔王の付き添いとして寄り添っている。


「大丈夫、問題ない、美和お姉ちゃんこそ落ち着いて」

「わ、わ、私は大丈夫だっぺ。ちょっとやそっとのおエライさんにビビるごじゃっペじゃねっす」

「流石は我がお姉ちゃんだ。でも、心を落ち着かせるおまじないに手を握ろう」

「う、うん。それが良いっぺ」


 テーブルの下で手を握り、会議室の椅子に並んで座る2人。上級者である福次達を出迎える為に先に会場入りをしているのだ。


「藤家は新日本国四名家の一つだから、リムちゃんがそこのお嬢様なら色々と納得だべ」


 本日の面会に関して、美和はユーリからこう聞かされていた。

 魔王を保護したエミリオから実家の桜家へ話が行き、そこから藤家へ問い合わせが行き、藤家は魔王を行方不明になった藤家の姫だと名乗り出た。そういう話だ。


「どうだろうか。藤家と言うものに思い当たる事はない。身内だと言う話はおそらく嘘だろう」

「そんなの会ってみないと分からないっぺ。リムちゃんは転送事故の後遺症で記憶が曖昧なんだし、案外と家族と会えばコロッと思い出すかもしれないべ」


 美和の話は思い出す以前の問題なのでスルーした。


 やがて美和の耳に着けたインカムが賓客の到着を告げる。

 2人は椅子から立ち上がり、ドアの前に立って姿勢を正した。


 両開きの自動ドアが機械的な音を出して開く。

 先頭はユーリ。

 やや後ろにエミリオと、身なりの良い中年男性。


 魔王は少しだけ目を伏せて、おそらく最高位者であろう中年男性、桜福次を直視しない様にする。

 スッと体を引いて福次が通る道を開ける。

 魔王国において、上位の者を出迎える所作である。


 ユーリが2人に入室を促すと、まずエミリオが飛び出しそうになった。完璧に女装してお姫様になった魔王に目を奪われ、我を忘れて抱き着こうとする。


「リムちゃん! 会いたかっ、……ぐふっ!」


 しかし福次がエミリオの首根っこを掴んで後ろに押し退ける。


「お父さん!」

「お前は黙っていろ」

「んぐっ!」


 父、福次の威圧の強さに口籠るエミリオ。

 福次は魔王の前に立ち、目を伏せる魔王を見下ろす。


(美しい。映像では汚い姿でイマイチ分からなかったが、なんと美しい少女(男)なのだ)


 新日本国で最上位の権力者である福次でさえ、魔王の美貌は産まれて初めて目にするものだった。


 それから福次は魔王の隣に立つ美和を一瞥。


(巨乳以外見るべき所のない普通の女だな。付添人だろうが、もう必要ない)


 福次はユーリに目配せして美和の退出を促す。

 ここから先は藤家の秘事に関する話題も出るだろうし、桜家はそれに介入する心積もりなのだ。部外者はいない方が良い。


 福次の意思を汲み取ったユーリが美和を退出させる。

 美和は悲しい顔をして「失礼します」とその場を去る。

 福次は改めて魔王に対峙した。


「私は桜福次と言う。エミリオの父親だ。君がリムリアスだね」


 できるだけ感情を抑え、努めて優しく語り掛ける。


「はい。お初に御意を得ます。桜福次様。リムリアスでございます」


 魔王は顔を伏せたままカーテシーで応える。

 これは魔王国において、男女共に上位者へ行う礼である。しかし地球では女性のみが行う礼である。なので福次は少々混乱した。


「畏まらずとも良い。顔を良く見せてくれ」

「はい」


 魔王は顔を上げる。福次は息を呑んだ。


「き、君は男の子だと聞いたが、間違いだったのかな」


 福次の問に頭を振る魔王。


「いいえ、そうではありません。身を守る為に女性と偽るのが最善との進言を受け入れて、今はお見苦しい姿をしております。どうかお許し下さい」


 福次は魔王の言葉を瞬時に納得した。

 これ程美しい男などいるはずがない、むしろ男として扱う方がトラブルの元であると。

 そして同時にこう思った。


(この娘を我が桜家に欲しい)


「それは窮屈な想いをさせてすまなかった。こちらの対応が遅れた事を謝罪する。受け入れてもらえるか」

「勿体ないお言葉です。謝罪など必要ございません。十分に良くして頂いておりますので」


 再び頭を下げる魔王に、福次は威厳を持って頷いた。

 2人の初対面が一段落すると、それまで我慢していたエミリオが前に出る。「待て」を堪えきれなくなった犬のように魔王に戯れる。


「リムちゃん凄く綺麗になって、僕の為におめかししてくれたんだね!」

「久しいなエミリオ。その節は世話になった」

「他人行儀な言い方はやめてくれ。僕とリムちゃんの仲じゃないか」

「どんな仲かは知らぬが、今日は亀吉はいないのか?」


 そう、いつもエミリオと共にいる亀吉はいなかった。

 魔王はエミリオよりも亀吉と会えない事が残念である。


「今日はヘリで来たから亀吉はお留守番だよ。亀吉の本体はMBT2199に搭載された量子コンピュータのAIだから、アバターロボは本体から遠く離れられないんだ」


 魔王は言葉の意味を理解出来なかった。でも何となく理解したフリはした。


「そうか。亀吉にも会いたかった」

「すぐに会えるさ。だって僕とリムちゃんは結っ……痛っ!」


 福次の拳骨が唸る。エミリオは懲りないロリコンである。


「息子が失礼をした」

「いえ、もう慣れました」

「そうかね。それはそれで困ったものだが、さて」


 福次は入口に視線を向ける。

 この場にいるべきもう2人の入室が済んでいないからだ。


「君の身内だと主張する藤家の人間を入れても良いかな」


 ここからが本番。魔王はお腹の前で両手を揃え「どうぞ」と了承する。


「相談役殿、ヒカル君、私の挨拶は済んだ。入ってくれ」


 福次は会議室の外へ声を掛けた。

 魔王は扉の向こう側へ意識を向ける。

 そして……


「あ、え? そんな……」


 魔王は我が目を疑った。


 まず会議室には入ったのは、紫色の長い髪をした美少年である。ポケットに両手を入れて、思春期の生意気盛りの仕草で脚を進め、魔王からギリギリ手の届かない位置で止まる。


 魔王の心臓は高鳴った。

 それは魔王のよく知る人物であった。

 魔王の頭脳、魔王の片腕、魔王亡き後の魔族の未来を託した人物。


(セレンティアス!)


 魔王は叫びそうな自分を必死で抑える。

 目の前にいる人物はセレンティアスだと心が告げている。

 だがここは新日本国、魔族大陸とは全く異なる異世界。

 セレンティアスがいるはずがない、セレンティアスは魔族の生き残り1000万人を率いて北の大地へ向かっているはず。


(そうだ、ユーリとユートを間違えた時と同じだ。セレンティアスに似た別人だ!)


 魔王は今すぐ目の前の少年を抱き締めたい衝動を、理性を総動員して耐える。

 その目は潤み、涙が溜まっていた。

 その手は震え、欲しい物を手に入れられないジレンマに悲鳴を上げている。

 その脚は、今にも前へ一歩を踏み出しそうだ。

 後一押し。魔王の背中を押す何かがあれば、魔王の感情を堰き止める障害は崩壊する。


 そしてその一押しは、少年の口から紡がれた。


「どうしたリムリアス。迎えに来たぞ」

「つっ!」


 紫髪の少年はリムリアスとはっきり言った。

 魔王を迎えに来たと言った。

 全ての宇宙の中で、魔王を迎えに来る紫髪の男は一人しかいない。それは魔王を愛し、魔王もまた、恋愛とは違う意味で愛し信頼した男。セレンティアスしかあり得ない。


「セレンティアス!」


 その瞬間、魔王の視界はセレンティアスだけになった。

 他の誰も映らない。

 セレンティアスただ一人だけ。

 魂の命ずるまま、魔王リムリアスはセレンティアスの胸に飛び込んだ。



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