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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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18話



 魔王がハンター協会事務所『筑波』での生活を始めてから数日が経過した。


 その間、やることもなく暇な魔王は、ユーリに申し出て事務所で簡単な雑用などして日々を過ごしている。


「ただいまリムちゃん! 無事に帰って来たよ!」

「リムちゃん、俺らの狩ったツチノコ見た! デカいだろう!」

「リムちゃん! 俺ら食堂で休憩するけど一緒にどうだい?」


 受付けカウンターに座る魔王に、3人組の若いハンターチームが気さくに声を掛ける。


「ハンターチーム『青大将』の皆様。無事な帰還と狩りの成功を心から称賛する。ツチノコの納品ありがとうございます」


 女性用の制服を着た魔王は大企業の受付嬢もかくやという仕草で頭を下げる。

 洗練された流麗な所作に、命をかけて危険な魔獣を狩った『青大将』の3人組は心身共に癒やされるのだ。


「3時休憩に待ってるから」

「料理長の俵巻芋左衛門がスイーツのラインナップを増やしたって言ってたぞ。新作スイーツを奢らせてくれ」

「リムちゃんは紅茶とコーヒーどっちにする?」


 『青大将』に手を振って笑顔で見送る魔王。

 3時休憩のお誘いは既に数件入っている。

 職員には20分ほどの休息なのに、食堂は連日、リムお姫様混雑を起こす始末。ユーリが休憩時間を超過する職員が目立つとボヤいていた。




 それから更に数組、ハンター達の帰還を出迎える。

 特に重要な業務ではないが、帰還して魔王の笑顔で迎えられると安心すると好評なのだ。


「3時か。ユーリおば様と美和お姉ちゃんも誘って食堂に行くか」


 3人は途中で合流。艦内カートに乗って食堂へ向かう。


「ここでの生活は慣れたかい、リム」


 後部座席に並んで座る、高身長巨乳美女ユーリは魔王を気遣って雑談をふる。

 

 この質問は数日間で数回目。ユーリは魔王を預かってから、朝食、昼食、夕食を共にして、その都度魔王の話を聞きたがる。加えて部下からも魔王の様子を聴取するので、知らない事などないくらいなのにだ。


「些細過不足なく。全てユーリおば様の配慮のお陰だ。かたじけない」

「いや、リムが来てからハンター協会に活気が漲っているんだ。職員の業務は効率が上がったし、ハンター達も怪我や事故が減って、狩りの戦果が増えている。こちらこそ、リムのお陰で助かっているよ」


 ユーリは最近、表情が穏やかになった。

 何故かと言えば、仕事量が適切になり、プライベートの時間や睡眠時間を確保できるようになったからだ。


 何故そうなったかと言えば、ユーリの働き方に魔王が物申したからである。


 ユーリは優秀だが他人に仕事を任せるのが下手だ。

 下手なので何でも自分で抱え込み、結果オーバーワークとなってしまう。

 これは性格の問題なので、自分自身で気が付かない限り、たとえ転職しても同じ事を繰り返すだろう。


 魔王は一国を治めた為政者である。

 王とは下の者に仕事を与えるのも仕事なのだ。

 配下から仕事を奪えば反感を買い、配下が育つ芽を奪い、いずれ悪い形で自分に降りかかる。

 良い王とは、部下の能力を把握して仕事を割り振り、任せ、褒め、最後の責任を取る者だ。


 だからユーリの働き方の問題点が分かると、魔王はすぐに意見した。


「ユーリおば様。良いかな」

「あ? 今、忙しいんだが?」


 不機嫌なユーリに臆することなく対峙する。


「今の案件は〇〇殿なら上手く処理できよう。任せてみてはどうか?


☓☓殿は情報を纏めて文書に起こすのが得手だ。例の書類作成をやってもらおう。


△△殿はフットワークが軽い。ユーリおば様の代わりに現場に行かせて、取り敢えず対処を任せてみよう。指示が必要な時は通信とやらでやり取りすれば良い。


次席の●●殿は信用に足る男だ。もっと仕事を投げたらいい。大丈夫、最終確認だけ怠らなけば問題はそうそう起きまいよ」


 この様な感じだ。


 ユーリは渋々ながら魔王の助言に従ってみた。

 初日は落ち着かずイライラしたが、確かに業務は上手く回った。


 次の日も、その次の日も。ユーリの負担は減り、職員達にやる気が生まれ、業務全体の回りは良くなった。


 しかし問題がない訳でもない。

 ユーリはそもそも、じっとしているのが苦手なのだ。

 なんだかんだと言って、動いている方が安心する。

 職員達はユーリがいつ爆発して仕事に口出しするかと戦々恐々していたが、なんて事はない。浮いた時間は魔王活動に充てられていた。ユーリは仕事に代わる生き甲斐を見つけのだ。




 ハンター協会の職員食堂は朝の8時から夜の20時まで開いている。

 職員は就労時間が規定されているが、ハンター達の利用時間はマチマチなので、どの時間でもまばらに利用者はいる。


「リム嬢ちゃん、新作のサツマイモプリンだ。食ってくれ」


 俵巻芋左衛門は魔王のテーブルにチバラキ県のラキの方の特産サツマイモをふんだんに使ったプリンを勧める。


 製造そのものは機械とAIであるが、味付けは汚いおっさんの芋左衛門がしている。彼的に自慢の一品だ。


 魔王のテーブルにはユーリと美和。

 それから魔王を囲んだ沢山のハンター達や職員。

 ほとんどは男性ハンターだが、女性も少なからずいる。


 魔王がハンター協会で手伝いを始めた初日、男性陣にチヤホヤされる魔王に嫉妬する女性も幾人かはいたのだが、魔王の態度には毒がなく、男女で対応も変えない。


 礼儀正しく落ち着いて、お姫様の様な魔王の笑顔を向けられると、女性陣の嫉妬もすぐに吹き飛んでしまった。

 

 たった数日の間に、男も女もリム、リム、リムだ。

 これが実力で魔王の座に就いた漢の器である。


「むふぅ〜ん。芋左衛門殿、サツマイモプリンは絶品であるぞ〜」


 スプーンでプリンを一口。濃厚でトロけるサツマイモの甘さに魔王の顔はだらしなくほころぶ。

 

 清廉な少女的であり、また官能的でもある表情に、魔王を囲む者達は「はぁ〜」と吐息を漏らすのだ。


「リムちゃんのお陰で食堂のスイーツが充実したのは良いんだっぺが、料理長のリムちゃん贔屓は許せないっペ」


 美和もサツマイモプリンを食べながら、これまで食堂のメニューを更新しなかった芋左衛門の怠慢を責める。


 女性陣が美和に賛同して、芋左衛門の弾劾が始まる。

 芋左衛門は連携した女性陣の圧にタジタジ。

 こうなると男は弱い生き物だ。


「分かった。メニューの見直しにアンケートを取る。女性陣の意見を最優先にするから、それで勘弁してくれ」


 美和は労使交渉に勝利した組合員のように鼻息荒くやり切った顔をして、サツマイモプリンを平らげた。


「芋左衛門殿、良いか」

「俺に妖怪?(用かい?)嬢ちゃん」


 魔王はサツマイモプリンにいたく感心したので、カンナにも食べさせてあげたいと考えたのだ。


「今夜泊まりに来るんだっけか?」

「うむ。鈴木夫妻が夜間待機なので、カンナは我とお泊りだ。夕食もここで頂こう」

「そういう事ならサツマイモプリンは2つ取り置きしておく。安心しな」

「かたじけない」

「カンナの感想も聞きたいからな。がはは」




 夕方。

 中学校の終わったカンナは鈴木夫妻と共にやって来た。

 魔王は駐機場まで出向いてカンナを出迎える。

 カンナは魔王の姿を見ると、満面の笑みで抱き着く。


「リム! 久し振り!」

「カンナ、会いたかった」

「うん! 私も会いたかった。元気してた?」

「もちろん元気だとも。カンナも息災か?」

「ふふ、変な言い方。息災ってなによ?」

「ふむ。息災は『万事平穏ですか』と言う意味だ」

「へ〜、リムって難しい言葉を知ってるね」

「年の功だよ」

「また言ってる。自称32歳」

「ふふふ。まあ、良いじゃないか。さぁ、中に入ろう」

「うん! お泊りって小学生以来! リムと一緒になんて最高!」


 手を繋いで『筑波』に入る美少女2人。


 カンナは小学生の中頃まで、両親が不在の時は父方の祖父母に預けられていた。祖父母にはたいそう可愛がられ、寂しい想いもあまりせず幼少期を過ごす。


 しかし小学生5年生の時に祖父が他界。

 6年生の時には祖母が大病をわずわい、そのまま施設生活になってしまう。


 小学6年生は微妙な年頃だ。

 放置はできないが、お留守番なら問題ない。

 Sランクハンターの鈴木夫妻は経済的に上流という事もあり、自宅の防犯は万全。少女が1人で夜を過ごしても、地震、雷、火事、変態。そう言った心配はしなくても大丈夫。

 他にカンナを預けられる場所もなく、必然的に1人で寂しい時間を過ごす事が増えてしまった。


 けれど先日の脱糞大学生事件である。

 学校をサボったカンナ。これは非行の一歩手前だ。

 心配する両親。

 愛娘を非行から守る手立てはないのか。

 誰か、カンナを善き方向へ導いておくれ。


 そして魔王に白羽の矢が立った訳。


 今夜は最初のお泊り会。

 今後、鈴木夫妻が夜間待機の時は魔王とお泊り会をする事で話が纏まっている。

 そしてお泊り会に至るまでには、涙無しでは語れない、魔王の妥協の歴史があった。


 ◇◇◇◇◇


「と、言う訳で、明日の夜はカンナをリムの部屋に泊まらせてくれ」

「なんとだ!?」


 ユーリは問答無用、魔王に拒否権を与えず一方的に告げた。


「今までカンナに目を向けなかった我々大人が悪かった。今後は働き方改革で、職員やハンターの家族にも気を配る事にしたんだ。これはその一環だよ」

「話は理解したが、部屋は別に用意してもらいたい。どう考えたって、同室は駄目であろう」


 慌てて訴える魔王の言葉に「?」顔のユーリ。


「なぜ?」

「なぜって、我は男の子だもん!」


 そう、年若い男女が同衾する。それは間違いの元である。

 いや、生物としては正しい交流の始まりだろうか。

 とにかく、真面目な魔王はカンナの乙女を気遣って、ユーリの提案を全力で否定した。


「リム、良くお聞き」


 ユーリは大きな手を魔王の肩に置き、高い位置から諭すように語り掛ける。


「リムは女の子じゃないか。鏡を見てごらん、映っているのは男かい? それともお姫様かな?」


 洗面台の大きな姿見。

 そこに映るのは紛うことなき美貌の姫君。


「我は男の子だもん!」


 あくまでも股間に小象が付いていると主張する魔王。


「変な意地を張るんじゃないよリム」

「意地じゃないもん! 男の子だもん!」

「良くお聞き。リムが認めれば、多くの者が幸せになるんだ。リム一人がお姫様だと認めれば、カンナも鈴木夫妻も、その他大勢の者達が幸せになれるんだ。リムは自分の我儘の為に、自分に好意を寄せる者達の幸せを奪うのかい?」


 卑怯な言い方である。

 魔王の良心と為政者としての責任感につけ込んだ悪魔の説得である。

 揺れる魔王の心。

 ユーリはトドメとばかりにたたみ掛けた。


「カンナにエッチな真似をしない。それだけで済む話じゃないか。寂しい女の子の友達になって、女の子同士でキャッキャッウフフとするだけの話じゃないか。

リムが救うべきは自分のちっぽけな小象なのかい? それとも無垢な少女の心かな? さぁ、どっちを取るね?」


 本当なら選択肢は無数にあったはずなのだ。

 しかし洗脳とか詐欺とかは、選択肢の幅を狭めて相手に即座の判断を強要する。

 じっくりと考えたり、誰かに相談する時間を与えず、『そうせねばならない』と追い詰めて、無理矢理承諾を得るのだ。


「リムはカンナと一緒のベッドに入ったら、エッチな事を我慢出来なくなる悪い男の子なのかい?」

「ち、違う。我は断じて不埒な真似などしない」

「なら、沢山の人々の幸せを守るお姫様だね?」

「うぐっ。…………致し方無し、か」


 魔王はカンナとの同衾お泊り会を了承してしまった。


 ◇◇◇◇◇


 カンナと2人きりの室内。

 相手は中学3年生、14歳。

 対して魔王は32歳。

 年齢の壁も、男女の壁もある訳だし、元々の世界が異なるので文化も常識も異なる。

 出会ったばかりでもあるし、楽しい共通の話題などあるわけ無い。


「それでね、〇〇の奴ったら、マジムカつくんだよ」

「うんうん。わかる」

「△△ちゃんてさ、絶対に2組の☓☓が好きだって」

「だね。話を聞く限り、それっぽい態度だな」

「担任がさ、怒るとこ〜んな顔するの」

「ははは! まるで威嚇した頬袋ハムのようだ!」


 この様に、万事聞き役に徹するしかない。

 そして女子とは、かえってそれが良いのだ。

 自分の話を聞いて、共感してくれる相手に好感を待つ。

 それが女子なのだ。


「はぁ〜、リムと話してると楽しい」

「うむ。我も楽しいぞ。時間が経つのが早く感じる」


 2人は時計を見る。時刻は21時を過ぎた所。


「お風呂に入ろっか」

「カンナがお先にどうぞ」

「えっ? 一緒に入らないの?」

「うむ。別々に頼む」

「なんでよ?」

「なんでもだ」

「やだ。せっかくのお泊り会なのに、つまらないじゃん!」

「カンナの気持ちは分かるがこれだけは譲れぬ。我は1人でお風呂に入る。カンナも1人で入って欲しい」


 美少女2人が産まれたままの姿で洗いっこ。

 そんな事になったら、流石の魔王の魔王たる小象も黙ってはいられない。だからカンナがどれだけ駄々を捏ねようと、断固拒否するのだ。


「あぁ〜あ、リムとお風呂に入れると思って楽しみにしてたのにな〜」

「すまぬ。お風呂だけはどうしても駄目なのだ」

「どうしても駄目なの〜、リムのおっぱいを触りたいのにな〜」

「すまぬ。おっぱいはちっぱいから駄目なのだ」


 しばらく愚図ってみたが、カンナも中学3年生だ。

 これ以上の我儘はリムの心証を悪くすると考えたのだろう。渋々と1人でお風呂に向かう。


「わぁ! リム、リム!」

「むっ! どうしたカンナ!」


 カンナが慌てて魔王を呼ぶ。

 魔王も慌ててお風呂へ向かう。


「ぶっ! はだか!」


 カンナは背中を向けているものの全裸であった。

 不可抗力とはいえ、滑らかな背中と小さく弾力に満ちたお尻が見えてしまう。


「み、見てない! 我は断じて見ていない!」


 魔王は咄嗟に目を閉じた。


「シャンプーもトリートメントもボディーソープも化粧水も乳液も、全部『エリュシオン』じゃん! これどうしたの?」


 化粧品メーカー『エリュシオン』のブランドは女子の憧れ。

 高品質は約束されているが、その分お値段も高いので、中学生には手が出せない品。

 それが魔王の風呂場に一式ズラリと並んでいるのだ。

 女子なら興奮して当たり前である。


「それは美和お姉ちゃんに勧められたのだ。我は良く分からぬ」

「分からないって、『エリュシオン』はめっちゃ高いじゃん。もしかして、リムの家って凄いお金持ちなの?」


 魔王は堅く瞼を閉じたまま答える。


「いや、お金はエミリオが出してくれた」

「エミリオって、Aランクハンターで桜家のお坊ちゃまでイケメンでロリコンのエミリオさん?」

「そのエミリオだな」

「『エリュシオン』コスメを買ってくれるって、2人の関係は?」


 カンナもお年頃、恋バナは大好物だ。

 全裸のままで目を輝かせる。


「どうという関係でもない。エミリオが我の騎士になりたいと言うので、好きにさせているだけだ」

「騎士! 騎士ってなによ! その辺詳しく!」

「まて、カンナ! 話の前にお風呂だ! 全裸で彷徨くなど、はしたないぞ!」


 なんやかんやで風呂上がり。


 魔王とカンナは一つのベッドに一緒に入り、有りもしない恋バナに夜遅くまで華を咲かせていたのであった。



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