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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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17話



 新日本国の首都は東京。

 かつては23区に区切られ、1千万人をゆうに超える人々が暮らし、繁華街は眠らない街不夜城と呼ばれて世界に名を轟かせる大都市であった。


 しかしデファ星人との戦争。

 その後の異世界融合と魔獣の出現。

 大多数の人類が地球を捨て去り、一部の有志のみが残った今では、全盛期の半分程度の規模しかない。

 土地の大半は魔獣の闊歩する大森林に呑み込まれるか、人手が足らずに復興を断念して放置されている。


 それでも現在の新日本国で最大都市なのは間違いない。

 人口も数百万人。人の数=活気である。

 日本を支える四名家、ミカド家、桜家、桐家、藤家の拠点もあるので名実ともに日本の中心地なのだ。


 ◇◇◇◇◇


「お父さん、ただいま戻りました」

「元気そうだなエミリオ」




 かつて皇居と呼ばれた旧江戸城。

 そのそばに建てられた、とある巨大高層ビル。

 ビル全体が四名家の一つ桜家の所有物件であり、最上階は一族のプライベート空間である。


 エミリオは書斎で難しい顔をする中年男性に帰還の挨拶をした。

 中年男性の名は『桜福次さくらふくつぐ

 現桜家の当主でエミリオの父親。


 エミリオの足下には30センチのロボAIメイド亀吉も控えている。彼らは筑波ハンター都市を出発して、昼も夜もなく愛戦車MBT2199を走らせて東京入りをした。


 現在の日本には長距離鉄道はない。

 作っても魔獣に破壊されるので、防衛コストが高すぎて作らない方がマシだからだ。


 長距離舗装道路もない。

 アスファルトが必要量手にはいらないし、鉄道と同じ理由で魔獣被害から防衛できないからだ。なので長距離道路はマダカム舗装の砂利道がせいぜい。


 異世界融合前は安全に短時間で往来できた筑波から東京までの道程は、ハードなデスロードと化している。


「お前の溌剌とした笑顔を見ると不安になる」

「お父さん、僕は品行方正な上に自立した良い息子ですよ?」


 桜福次は最高級のオーク材で作られた机に座りながらパソコンのディスプレイを睨んでいる。

 エミリオの到着に先駆けて、亀吉が送った魔王リムリアスに関する資料だ。


「この少女、いや、少年か? う〜む。まあ、どちらでもいいが、桜家で保護したいと言うんだな」

「はい。僕のお嫁さんにします」


 エミリオの返答に福次はキツく目を閉じ、眉間を指で摘んで揉んだよ。


「高レベルの超能力者でヒーラーか」

「はい。僕と亀吉で確認しました」


 福次は一旦「ふぅ〜」と息を吐く。


「背後関係を徹底的に洗う必要はあるが、高位のヒーラーは貴重だ。桜家に取り込めば大きな力となるだろう。だがな……」

「何か? お父さん」

「男の娘妻とはなんだ? お嫁さんにしたいから戸籍は女の子にしてくれだと? お前は狂っているのか?」


 エミリオは父親にそう申請していた。

 我が子ながら狂人としか思えない。


「運命の人なんです。絶対に僕のモノにしたいんです」


 真剣な眼差しで父親の目を見返すエミリオ。

 福次は頭痛が起こるのを感じた。


「お前はもう黙れ。……亀吉」

『はい。大旦那様』

「お前の意見を聞きたい」

『では僭越ながら』


 亀吉はAIである。

 AIは人間を害さない範囲で法律や道徳を遵守するようプログラムされている。なので原則、人間の政治的駆け引きや陰謀には加担しない事になっている。従ってエミリオよりも信用できる。


『リム様がデファ星人や敵対的外国勢力と無縁であった場合、桜家に迎え入れるのは大変有益であると存じます。マスターのお嫁さんにするかは別として、出来るだけ早く桜家の庇護を与えるべきかと』

「そうだな」

『ただ』

「ん?」

『リム様の身元に関しまして、藤家に問い合わせてからの方がよろしいかと存じます』

「藤家だと?」


 藤家は四名家の一つ。

 約180年前の新日本国建国に大きな貢献をしてミカド家に認められ、『藤』の名を賜った謎の多い一族だ。


 藤家とそれに連なる者達は容姿端麗な者が多く、また超能力者も産まれやすい。リムリアスとの関連する部分が多々あり、後々のトラブル回避の為に一応、話を通すべきだと亀吉は主張する。


『全ての情報を開示する必要はございません。カマを掛け、無関係ならボロが出るでしょう。関係があるなら、そこからは大旦那様のお仕事でございます』


 礼儀正しく頭を下げる亀吉。

 その時、エミリオのインカムにユーリ支部長から連絡が入った。


「お父さん、失礼します」

「あぁ」


「ユーリ支部長。エミリオです。え? はい? えぇ、うん。学校? はい、そうですね。そうですよね。うん、うん。女子中学生、良いじゃないですか。はい、父に伝えます。では、リムちゃんをよろしく」


 通話を終え、福次に向き直る。


「お父さん」

「どうした」

「ユーリ支部長がリムちゃんの学校をどうするか? ですって。女子中学生ですよ、めちゃくちゃ最高ですね!」


 福次の頭痛は本格的になった。


 ◇◇◇◇◇


 夜。福次は亀吉の助言に従って藤家へメールを送る。


 リムリアスの画像のみを送り、性別、氏名、超能力の存在を伏せて。


 【転送装置の事故に巻き込まれて武蔵大森林に投げ出された子供を保護した。身元に繋がる情報を求めている】


 と、だけ伝えた。


 すると翌朝、福次の予想より遥かに早く返信が来る。

 内容は。


【件の少女は藤家でもっとも高貴な姫である。

 姫を保護して頂いた事に最大の謝意を贈る。

 早急に迎えを送るので情報を求む】


 で、あった。

 

 福次の書斎で返信を見せられたエミリオは憤慨した。


「やっぱりこういう手合いが現れたか! お父さん、藤家は無視して今すぐリムちゃんを保護下に置きましょう!」


 興奮して話にならないエミリオを無視して、福次は亀吉に相談した。


『ハンター協会から情報が漏れた可能性は十分あります。ここは強気に証拠の提示を求めては』

「うむ。藤家が異例の早さで反応するほど、あの少女、いや男か、いや面倒だ、少女でいい」


 福次はリムリアスの性別で混乱した。

 仕切り直し。


「あの少女には何かがあるわけだ。こちらで押さえれば藤家への牽制になるかもしれん、そうでなくとも何らかの価値がある可能性は高い」


 福次はすぐさま返信。


【件の子供は男子である。藤家でお探しの姫とは別人だと思われる。どうしてもと申されるなら、証拠を提示されたし】


 するとその日の昼前には返信が送られて来る。

 名家同士のやり取りとしては異例中の異例である。


【当家の秘事に関する事ゆえ、性別問題へのお答えはできかねる。証拠と申されるなら、当家の者が姫と直接面会すればそれが証拠となる。ただちに面会を要求する】


「藤家め、食い下がるな。面白くなって来た」


【少年の安全の為、証拠の提示がない状態では面会を許可できない。証拠を提示されたし】


 藤家はリムリアスを姫だと言う。

 しかし証拠は提示できないと言う。

 亀吉はこの状況に疑問を覚えた。


『大旦那様。もしもハンター協会から情報が漏れたのなら、桜家を介さず直接、筑波ハンター協会へリム様を迎えに行けば良いのでは? 藤家はハンター協会から情報を得ていない可能性があります』

「確かにそうだが、この食いつき様は只事ではないぞ」


 悩む2人。すると藤家から電光石火で返信が送られる。


【姫の安全が最大かつ最優先である。姫を保護して頂いた桜家と対立するつもりは毛頭ない。当家の相談役を送るので、当主桜福次殿と相談役の面会を要請する】


「藤家の相談役だと。あの魔女か」


 福次は猫が主人の足の匂いを嗅いだ時と同じ顔をして、嫌悪感を露わにした。


 ◇◇◇◇◇


 次の日。

 桜家が所有するビルに、多数の護衛に守られた藤家相談役が到着。

 福次は応接間に相談役を通し、エミリオと亀吉を同席させて面会をする。


 桜家のメイドが相談役の入室許可を求める。

 福次は「入れ」と返す。

 メイドが扉を開き、現れた人物に対してエミリオは歓喜の声を上げた。上げてしまった。


「ろ、ロリータメイド来た〜!」


 福次の拳骨が唸る。


「ふぐぁっ! 痛いですお父さん!」

「お前は黙れ!」


 そんな親子のやり取りに眉一つ動かさず、相談役は完璧な所作でカーテシーを行う。


「お久しぶりでございます。桜家当主、桜福次様。

藤家相談役、藤ピーター。罷り越しましてございます」


 それはメイド服を着た幼い美少女。

 少し癖のある長い金髪をした天使。

 完全無欠のちっぱいは、一部界隈から絶大な支持を得る真正ロリータの証。


「お、お父さん。こちらの天使はどなたですか?」


 痛む頬を押さえてエミリオは問う。

 ロリコンとして、金髪ロリータは最優先事項なのだ。


「馬鹿息子め。いいか、この魔女は見た目通りの年齢ではない。少なくとも、私が子供の頃からこの姿だ」


 不老。まことしやかに囁かれる噂。


「それってロリババア。つまり合法ロリ。最高じゃ……」


 エミリオが最後まで言葉を発する前に2発目の拳骨が飛ぶ。

 そしてロリメイドピーターも邪悪なロリコンに対して戦闘態勢を取った。


「お? なんだ小僧。お前は変態か? やんのか、やるなら俺の拳が火を吹くぞ?」


 シュッ、シュッ、とシャドーボクシング。

 小さなピーターの拳は今日も鋭く冴えている。


「不肖の息子が失礼した相談役殿。どうぞ、お座り下さい」

「ん? そう? いや〜、悪いね福次ちゃん!」


 最初の礼儀正しさは何処へやら。

 ピーターは乱暴にソファーに座る。

 その際、スカートがファサッとなるので、エミリオはパンツが見えないかと目を凝らしていた。


 桜家のメイドが紅茶とお菓子をテーブルに置く。

 ピーターはその様子を鋭く観察すると「75点」と呟いてから紅茶をゴクリ、お菓子をモグモグ。


「俺は堅苦しいの嫌いだからさ、単刀直入に言うわ。うちの姫様返してくんない」


 見た目に反して素のピーターは酷い口調だ。


「藤家の姫と言われるが、その子は男の子だ。何度もメディカルスキャンで確認している」

「あ〜。性別は別によくね? あんな見た目だし、姫で良いじゃん」

「良くは無いだろう。そちらが姫と主張し続けるなら、件の少年は藤家とは無関係。桜家で保護をする。そうなるが?」

「いやいや、リムリアスはマジで藤家の姫なんだってば。俺が言うんだから間違いない」

「だから、その証拠をだな」

「直接俺が会えば一発だって」

「なぜ?」

「だって俺、リムリアスの専属メイドだから。あいつの体の隅々まで知ってるんだぜ? ホクロの位置も数もバッチリよ!」

「では相談役殿が直接会えば、少年は自ら藤家の姫だと認めると言うのだな」

「まあ、大筋ではそう。姫ってのは嫌がるかもだけど」

「本人が嫌がるのに姫として扱っているのか? それが原因で本人は素性を明かさないのでは?」

「いやいやいや、そんな我儘は許さんよ。なんせリムリアスは藤家の悲願なんだ、俺達の希望であり、真の当主なんだからよ」


 福次はピーターの話に(そこまで話すのか)と驚いていた。

 

 秘匿された少年は藤家の直系、家督相続権第一位だと相談役のピーターが暴露したのである。


「礼はするぜ。俺に出来る範囲ならな」


 ピーターは腕を組み、脚も組んで、流し目で蠱惑的な仕草をする。色仕掛けのつもりらしい。


「お父さん、僕はピーターさんとじっくり話し合いたいです」

「……お前の口を縫ってやりたい」


 福次は考える。


 藤家の重鎮、相談役のピーターが出張るほどにリムリアスは重要な人物。


 藤家は新日本国への愛国心が高く、ミカド家からの信頼も厚い。従ってデファ星人や敵対的外国勢力との繋がりの線は極めて薄い。


 つまりリムリアス個人が、藤家にとって本当に大切な存在なのだ。リムリアスを確保する事は、藤家に首輪をつける事になるのではないか。


(エミリオの馬鹿め。良い拾い物をしおって、見直したぞ)


「では相談役殿、こうしよう」

「うん?」

「桜家立ち会いの下で藤家が少年と面会する。本人が藤家の身内だと認めれば少年はお渡ししよう。否定した場合は桜家で引き取る。それで如何か?」

「うん、良いぜ」

「ただし、本人が認めた場合でも、桜家は少年との交流を持たせて貰いたい。正確には馬鹿息子のエミリオがな」


 これは息子を想う親心ではない。

 リムリアスが藤家の急所になり得るなら、男の娘妻も有りだという政治的判断である。


「そっちの変態小僧が? 何故?」

「お恥ずかしい話だが、愚息は件の少年に恋をしてしまったらしい。そちらが姫だと主張するならば、愚息の嫁に貰う事も可能ではないかな? 家格は問題なし、両家の友好と新日本国の未来を思えば悪くない話だと思うが如何?」

「お、お父さん、僕の為にそこまで」


 感動するエミリオは無視。

 これは狐と狸の駆け引きなのだ。


「ふ〜ん。俺は構わないけど、リムリアスの結婚相手はリムリアスが決める。俺達臣下が口出しできる問題じゃないから、勝手に頑張れば」


 ピーターは意外にもあっさりと福次の主張を受け入れた。


 それはまるで、本当にリムリアスを良く知っているかのようであり、リムリアスが藤家の姫だと言う話に信憑性を持たせるのに十分な態度であった。


「では、面会の日時を調整しよう。お互い忙しい身だが、できるだけ早急に」

「おう。できるだけ早急にな」


 ピーターはソファーを立ち、再び最高のカーテシーで別れの挨拶をすると、護衛を引き連れて桜家のビルを後にした。


 藤ピーター。

 藤家を影で支配する魔女。

 年齢不詳のロリババア。

 最高レベルのヒーラーであり聖女。

 新日本国最大手の化粧品メーカー『エリュシオン』のCEO。

 そして魔王リムリアスの専属メイド。



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