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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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14話



 ハンター協会筑波支部に水星の如く現れたお姫様リムリアス。彼女(彼)が納豆を大のお嫌いと言う話は瞬く間に広がり、そして夜が明け……てない。


「リムちゃんが納豆をあんなに嫌うなんて、私は悲しいっぺ」

「……面目次第もない」


 伊藤美和の運転する4WD魔力自動車の助手席に乗った魔王リムリアス。彼は今朝方けさかた、職員食堂で演じた大失態を恥じて項垂れていた。


「リムちゃんは納豆、初めてなの?」

「うむ。納豆は初めて見た。だが類似品は無理矢理食べさせられそうになった事はある。あの、悪辣聖女ピーターの悪戯でな!」


 魔王はロリメイドピーターへの怒りが蘇り、迂闊にも情報を曝け出してしまう。


 魔王曰く、ピーターの見た目はSS級のロリ美少女。


 魔王曰く、聖属性魔法の使い手であり、数え切れない程の癒しの奇跡を起こして『聖女』と呼ばれている。


 魔王曰く、ピーターは大の男嫌い。いつでも男を殴れるように、暇さえあればシャドーボクシングで汗を流している。


 魔王曰く、ピーターは幼い時に母親を亡くした反動で愛情に飢えており、マザコンである。しかも母性の象徴である巨乳が大好きという、幼稚な部分がある。


 魔王曰く、巨乳好きでもピーター自身はちっぱい。

 極一部の界隈からは絶大な需要があるものの、基本的にはしょっぱくてちっぱい。


 魔王曰く、ピーターは性格がとても悪く。世にも恐ろしい独自魔法を開発して、世の中を恐怖のドン底に突き落とした事がある。あまりにも残虐非道な魔法だったので、リムリアスの名において禁止したほどだ。


「ピーターさんが痛い娘なのは分かった。魔法とか全然分からないべ」

「はっ! いや、違う! これは我の妄想だ! そう、ピーターなど実在しない空想メイドだ!」


 今更言い訳しても後の祭り。魔王は案外、迂闊なのだ。


「リムちゃんは案外、口が軽いっぺ。焦らんでも、これからジワジワ話してくれたら良いからね」

「くっ、もう話さん。これ以上は余計な事を話すものか」

「ふ〜ん。リムちゃんはなんで自分の事を隠すのさ? 家に帰りたくないの?」


 美和は魔王が転送事故で見知らぬ場所に放り出された可哀想な女の子だと信じている。

 事故のショックで記憶が混乱していると信じている。

 だから多少、奇妙な発言があっても大人の度量でスルーするが、身元に繋がるかもしれない情報を隠す理由までは理解できない。


「帰りたい。叶うものなら帰りたい。でも」

「でも?」

「遠すぎてきっと帰れない。話してもたぶん信じてもらえない。下手に故郷の話をして、価値観の違いから奇異の目で見られるよりは、何も話さない方がいい」


 美和に表情を悟られぬよう、窓の外を眺める魔王。


「リムちゃん、私は信じるよ」

「……うん」

「家に返してあげられるかは別として、私はリムちゃんの話を信じる。だから怖がらずに話して良いんだっぺ」

「……すまぬ。美和殿」

「美和お姉ちゃんだっぺ。そう呼んで。ね?」

「うむ。美和お姉ちゃん」


 やがて車はショッピングモールに到着する。

 地方民にとって、遊園地にも等しい娯楽の場だ。

 やたら広い駐車場に車を止めて、モール内に入る。


 魔王は度肝を抜かれた。


「なんだここは! これ程の規模のバザールなど、見た事も聞いた事もない! しかも建物全体の豪華な作り、並ぶ商品の豊富さ、質の良さ、ここは貴族専用なのか! 絶対にそうだ、そうであろう美和お姉ちゃん!」


 ショッピングモールは平日の午前でも賑わっている。

 通路脇に並んだ店舗。服、生活雑貨、オシャレ系、コスメ関係、スマホショップ、そして人々のお金を溶かす魔物、ゲームセンターとその頂点に君臨するクレーンキャッチャー。

 

「ショッピングモールも初めてだっぺか? 元いた場所にはなかったの?」

「バザールはあったが、ここは全くの別物だ。日本国は本当に豊かなのだな」


 魔王は感嘆の吐息を吐いた。

 美和はそれを暖かい目で見守る。

 

 デファ星人との戦争。

 続く異世界融合。

 人類の大半は地球を捨て、残ったのは現日本人の様に故郷を捨てられない者達。或いは外国に多い、移民船に乗れなかった極貧層と犯罪者の末裔達。

 美和は外国へ行った経験は皆無だが、聞き齧った話では日本国とは比較にならない酷い場所だと言う。

 日本国は特段豊かではないが、魔王が不慮の事故で外国から飛ばされて来たのなら、ショッピングモールに目を輝かせるのも無理はない。


「リムちゃん、手を繋ぐべ」

「ん。分かった」


 差し出された手を素直に握り返す魔王。


「まずはお洋服を見っぺ。それから日用雑貨と、コスメも必要だべ。お金の心配はないから、遠慮せず全部買おう」

「かたじけない。この借りはいつか必ず返す」

「エミリオさんのお金だから返さなくて大丈夫。あの人はお坊ちゃまでAランクハンターでロリコンだから、百万円や二百万円なんて気にも留めないべよ」

「そうか。エミリオだから大丈夫か。理解した」

「んじゃ、楽しいお買い物の始まりだべ〜」


 美和と魔王はショッピングモールを端から端まで廻る。

 服を見れば、店員が魔王の可愛さに色めき立ってコーディネートしてくれる。可愛い系もスタイリッシュ系もちょいワル系もゴスロリも、勧められるまま全て購入する。


 その際店員が。

「お姉様もこちらを如何ですか? 姉妹お揃いでお似合いですよ」

 などと言うのでエミリオのお金で自分の服も購入。

 役得、役得。


 次はコスメ。


「お化粧は女の子にとって武装も同じ。若くて肌が綺麗とか関係なしに、メイクテクは常に磨くものだっぺ」

「なるほど、勉強になる」


 ショッピングモール内に数店舗あるコスメ系店の中で、東京に本店を持つ一番人気の店『エリュシオン』へ入る。

 商品の値段はお高いが、そこはATMエミリオがあるので問題ない。


「いらっしゃいませ。どうぞ、こちらへお座り下さい」


 店員に椅子を勧められ、まずはカウンセリングから。

 コスメは肌との相性もある。店員はその辺りプロフェッショナルなので、アレルギーテストなどもしてもらう。


「お客様の肌は本当にお綺麗ですね。こちらの洗顔料と化粧水など如何でしょうか? 天然素材で低刺激なので、思春期のスキンケアに最適ですよ」


 店員の女性はこの道10年の経験の中で、魔王ほど綺麗な肌は初めてだと言う。下手に化粧をするより、オーガニックなスキンケア品で環境ストレスから肌を守り、素の良さを引き立たせる方が良いと言う。


「あの、お姉様にご相談があるのですが」

「あら? 何かしら? だっぺ」


 店員の女性は美和に相談を持ち掛ける。

 お姉様と呼ばれた美和は上機嫌で耳を傾ける。


「妹様のお肌は本当に素晴らしいです。もしよろしけば、今後の商品開発の為にメディカルスキャンをさせて頂けないでしょうか?」


 手を揃えて頭を下げる店員。

 美和は一瞬、了承しそうになるが、すんでの所で抑えた。


 一流化粧品メーカーの商品開発モニターになる。それは女性にとって名誉な事である。だがメディカルスキャンは個人情報に関わるので美和の一存では決められない。


「すいません。今はお答えできないっペ」

「そうですか。残念ですが、お気が変わりましたら是非ご連絡ください」


 無難に断り、店員オススメのコスメを魔王と美和の分、購入する。その間、魔王は借りてきた猫状態。


「次は生活雑貨だっぺ。それと、ドラッグストアでナプキンも買わないと」

「ナプキン?」


 魔王にとってナプキンとは、食事の時に使うテーブルナプキンである。


「必要だべ。まさかリムちゃん、“まだ”なんて事はないべさ」


 何が“まだ”なのか。男で童貞の魔王にはピンと来ない。

 ただ、ここで“まだ”と答えるのは、不思議と負けた気がするので適当に合わせる事にした。


「うむ。確かにナプキンは必要だ。よく分からなので美和お姉ちゃんの見立てで良しなに頼む」

「うんうん。日本製は品質高いからね。昼用と夜用と多い日用と。お姉ちゃんに全部任せるっペ!」

「流石は美和お姉ちゃん。頼りになる」

「えへん!」


 ナプキンの話は取り敢えず置いて、ファンシーショップで女の子に相応しい小物を物色。魔王はサッパリ分からないので、ここでも美和が活躍する。本当に感謝しかない。


「リムちゃん、このマグカップどうだっぺ?」

「これの絵は、ゴブリンを可愛くディフォルメしたのか?」


 マグカップにプリントされたイラストは河童であった。


「ゴブリンって何? もしろそっちが気になる」

「いや、忘れてくれ。それよりも愛らしい絵だな。ちょっと欲しいかも」

「んだべ。リムちゃんも可愛いと思うっペ。買う?」

「このカップでコーヒーを飲むのも味わいがあろう。うん。買おう」

「なら私の分も。これでお揃いだっぺ」

「美和お姉ちゃんとお揃いが沢山増えてしまったな。ふふふ」

「本当の妹ができたみたいでうれしい。うふふ」


 ほんわかした雰囲気に包まれて会計を済ませ店の外へ出る。すると魔王は、3歳くらいの幼い少年が、人混みの中で孤立しているのに気が付いた。


「美和お姉ちゃん、あれは迷子だ」

「ん? どれ?」


 指をさして場所を教える。

 幼子は親を見失ったばかりなのだろう、キョロキョロと不安気に周囲を探っている。まだ泣いてはいないが、それも時間の問題だ。


 魔王の脚は自然と動いていた。

 子は守るべき宝。種族の未来を託す希望。

 事故に巻き込まれる前に保護する。それが当たり前。


 しかし。


「どうしたの僕? お母さんとはぐれちゃったのかな?」


 魔王よりも早く、1人の少女が幼子に声を掛けた。

 膝を折り、目線を合わせ、優しく体に触れて問い掛ける。

 

 日本人的な黒髪のショートカットでありながら、顔立ちは日本人と白人のハーフ的な特徴が出ている活発そうな美少女。


 年齢は魔王と同じ13〜14歳だろう。つまり女子中学生。平日の昼間にショッピングモールにいてよい人物ではない。


 ハーフ美少女が幼子をあやす一方で、連れと思われる大学生っぽい男は苛立ちを顕にしていた。


「ガキなんて面倒クセェ、無視しろよカンナ。行くぞ」

「待ってよユウスケ、放っておけないよ」

「ホテルで楽しむ時間が減るだろうが、せっかく学校サボってんだから無駄にすんなよ」

「だから、ホテルなんて行かないって。私とユウスケは友達、それ以上になる気はないから」

「おい、ふざけんな。こっちはカンナと恋人のつもりでいるんだぞ。恋人ならやる事やって当然だろうが」


 幼子そっちのけで口論を始める2人。

 しかも内容的に男がクズでDQNのようだ。

 幼子の不安も増大して、数秒後には大泣きするだろう。


 魔王はこれ以上の様子見をやめて介入する事に決めた。

 幼子を保護し、美少女を助け、性欲大学生を懲らしめるのだ。


 堅く拳を握りしめた。その時。


「カンナちゃん! あんた何してんのよ!」


 美和が怒鳴り声を上げて突撃を始めたのである。




 美和の訛りに関して。茨城県民からの苦情のみ受け付けます。

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