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男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


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13話



「おはよう美和殿。今日も美しいな」

「あんれぇ〜! リムちゃんも朝からおめかしして、めんこいっぺ!」


 ハンター協会職員の伊藤美和。

 ほんわかした雰囲気と、ぽっちゃり巨乳のちょいブス。


 男子的には美和の様なタイプの方が情欲をそそられる。

 毎日ベッドで戦うなら隙のない美女よりも、美和タイプの方が戦いは捗るだろう。(異論は認める)


 それはさておき。


「私も着替えを持って来たんだけど、その制服はどうしたの?」


 美和は服の詰まった紙袋を持っていた。


「うむ。まずは入ってくれ。レディーを玄関前に立たせたままでは我が笑い者にされしまう」

「変な言い方だっぺ。そしたら、お邪魔しま〜す」


 艦内一般乗組員用個室は全て造りが同じ。なので職員の美和は間取りを完璧に把握している。

 勝手知ったる何とやら、ベッドルームに迷わず進む。


「おはよう美和。リムの世話を任せてすまない」

「あれ〜、支部長。おはようございます?」


 ソファーを軋ませてデカ巨乳がふんぞり返っているではないか。美和は状況から即座に事態を把握した。


「支部長がリムちゃんの着替えを用意してくれたんですね。まぁ〜た、いつもの悪い癖だっぺか」


 デカ巨乳はいつも忙しい。

 なぜ忙しいかと言えば、部下に仕事を振るのが下手だからだ。なまじ自分が優秀であるが故に、自らが率先して動いてしまう。加えて動いていないと落ち着かない性分でもある。なので勝手に仕事を抱え込み、いつも忙しくして、部下から呆れられているのがユーリなのだ。


「悪い癖とは何だ。私はリムが心配で早く来ただけだ。この先の世話は美和に任せるぞ。私は忙しんだからな」

「了解だっぺ。リムちゃんのお世話はお任せ下さい」


 美和は持ってきた服が無駄になったと思いながら、紙袋から下着だけを取り出す。もちろん購買で購入した女性用だ。職員用制服は本当にあり合わせなので2着も必要ない。


「お洋服は今日、ショッピングモールで買ってきます。お金はエミリオさん持ちって事なんで、可愛いのをたらふく買ってきますべ」


 筑波ハンター都市唯一のショッピングモール。

 そこへ行けば大体何でも買える。 

 そこへ行けば大体時間を潰せる。

 そこへ行けば大体オシャレになった気分に浸れる。


「リムの可愛さを引き立たせる服を頼む。他県の者共、特に東京の奴らにチバラキの田舎者などと言わせてはならない」


 チバラキ県民は東京への対抗心が強い。

 余談であるが、今の日本国に埼玉県は存在しない。

 全て武蔵大森林に呑み込まれてその一部と化している。

 かつては東京から見下され、差別されて血の涙を流し、耐え難きを耐え忍んでいた埼玉県民。いつかは東京のベッドタウンなどではなく、独立したイケてる県を目指していた埼玉県民。

 その熱い想い。かつて埼玉県民が抱えていた東京に対する羨望と対抗心はチバラキ県民が引き継いでいるのだ。


「了解であります。東京に鉄槌を、霞ヶ浦の畔にネズミっぽい巨大遊園地の建設を。だっぺ」


 閑話休題それはそれとして


「リムちゃん、せっかくだべ、朝ごはんの前に髪を結って、お化粧もしてみんべ」

「それは良い考えだ。そうしろリム。職員やハンター達にも紹介しよう」


 美和は魔王を男だと知らないので善意で言った。

 ユーリは欲望で言った。

 目指す所は同じでも、両者の思いには天地ほどの隔たりがある。


(化粧もするのか。この魔王、異世界に来てこれ程の辱めを受けようとは、無念!)


 魔族に古くから伝わる諺がある。

『猫の金玉を奪う者は猫に呪われる』

 郷に入りては郷に従えに近い意味だ。


「座ってリムちゃん。まずはブラッシングしてと」


 ユーリがソファーを空け、代わりに魔王が座り、美和が隣に座って髪を結う。


「こんなに綺麗な髪質初めてだっぺ。リムちゃんは普段、シャンプーとトリートメントは何を使ってるべさ」


 色はからす、質は絹。

 魔王の長い髪に感嘆の溜め息を漏らす美和。


「専属メイドにピーターという性格の悪い娘がいてな。そいつが用意する怪しいシャンプーを使っていた。成分は知らん」

「へぇ〜。リムちゃんはメイドさんが付く家の子だか」


 魔王は失言した。情報を秘匿しようと決めたのに、つい悪辣なメイド、ピーターの事を思い出して口を滑らせてしまった。


「メイドのピーターか」


 ユーリの目がギラリと光る。


「い、いや、違う。忘れた。うん、ピーターはいなかった。忘れてくれ」


 後の祭りであるが、今は触れずにおく。


「できた。三つ編みのハーフアップ。お姫様みたいにめんこいな!」


 髪を編んだら次はお化粧。


「肌もツルツルで白い。羨ましいっぺ」


 若さもあるが、それ以上にきめ細かい肌。

 薄くファンデーションを乗せて、口紅も薄めのピンク。それで十分。


「いいじゃないか! 写真を撮ろう!」

「そうですね! リムちゃん良いっぺ!」


 ユーリと美和はお姫様と化した魔王を万能端末スマホで撮りまくった。


 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ。


 ◇◇◇◇◇


 おめかしが終わると時計の針は8時。魔王のお腹は空腹で背中とくっつきそうである。


「では職員食堂へ行こう」


 カートに乗り、食堂へ向かう3人。運転手は美和だ。

 道すがらユーリが魔王に説明する。


「食堂は職員とハンターが利用できる。今なら狩りに行く前のハンターが大勢いるはずだから、リムを紹介しよう」

「そうか。今日からハンター協会に世話になるのだから、挨拶は大事だな。良しなに頼む」

「うん。それとだ。これは重要だから美和も肝に銘じてくれ」

「なんです支部長?」

「言ってくれユーリ殿」


 ユーリは「おほん」と咳払いをする。


「リムの身元に関して、私の遠縁の娘をしばらく預かったという事にする。これはリムを守る為に必要な処置であり、いわゆる悪意ある嘘ではない。二人とも良いな」


 ユーリの本心が何処にあるのか。

 それはそれとして、超絶お姫様な魔王を守る為には適切な判断だと言えた。ユーリはチバラキ県内のハンター協会各支部の中で一番力のある支部長である。彼女の身内としておけば、まともな判断力のある者なら悪さをしようとはしない。


「私の存在は害虫避けになる。遠慮なく使えリム」


 ユーリの優しい気遣いに、魔王は心から感謝するのである。


(うひょ~! リムが私の身内! 嘘でも身内! 嘘だって突き通せば本当になるわ!)


 ユーリの本心はここにあった。


「それから呼び方はユーリおば様だ。間違って殿なんて呼んだら怪しまれるからな。気をつけろ」

「理解した。ユーリおば様」

「うん、よろしい」(うひょ~! おば様だって〜!)


 ◇◇◇◇◇


 職員食堂はとても広い。元々艦内食堂だったものをそのまま使っている。


 テーブル数は50。一度の収容人数は200人。詰めれば300人。


 厨房は高度に機械化され、そこで働く人間は調理師が数人のみ。少数精鋭のグルメプロフェッショナル達だ。


「どらぁ〜! Aモーニングお待ち! Bモーニングも出来てるぞ!」


 野太い声が厨房から轟く。

 料理長、俵巻芋左衛門たわらまきいもざえもん(48)のものだ。


 彼の手によって次々と提供される料理。配膳はセルフサービス。


 食堂には50人少々のハンターや協会職員が一日のスタートを切る活力源に舌鼓を打っていた。


 ハンターは生命を賭けて魔獣を狩る肉体労働。

 朝からガッツリと食べなければ体が持たない。

 なのでモーニングメニューもAモーニング魚系(和食)、Bモーニング肉系(洋食)とタンパク質を重視している。


 料理の大半は機械とAIが栄養学に基づいて素早く作る。

 しかし最後の味付けは必ず人間がする。

 これは全てをAIに任せないため。

 そして魂を持たないAIには料理にラブを注入できないためである。




 ユーリに連れられ食堂へ入る魔王。

 活気に満ちた食事風景を見回し、感心しながらも一つの疑問を抱いた。


「ユーリ殿。ここには大人しかいないのだな」

「なんだって?」


 異世界物で定番の冒険者。

 人族の国にも存在した彼らは、実は権力者にとって都合の良い、使い捨ての戦力だ。


 魔族より圧倒的に数の多い人族である。

 魔族と異なり、思いやりや助け合いの精神が乏しい人族である。


 貧困や飢饉などで養えなくなった子供達、或いは社会の爪弾き者達が多数いるのは至極当然。そういった者達が冒険者になるのだが、これは一種の口減らしであり、種族として無意識化で行うアポトーシス。


 冒険者になるのに特に年齢制限はなく、能力と運がなければ死に、極一握りの者が生き残って僅かな名声と富を手に入れる。それは権力者から見れば本当に些細なもの。取るに足りないお零れ。


 だが上級冒険者達は胸を張って声高々に自慢する。


「俺達は最底辺から自らの力でのし上がった。美味い酒と美女を望むまま手に入れた。お前達もここまで来い、冒険者だけが成り上がる唯一の手段だ」


 これは魔族からすると異常な事であった。

 大人が子供への責任を放棄する。

 大人が子供達を扇動して死地へ送る。

 行き場のない幼子は、枝切れ片手に魔獣に挑み、肉片となって胃袋へ消える。


 同族を大切にしない者達が、他種族と平和的に共存など出来ようか。無理だ。不可能だ。魔王は人族との戦争の中で、冒険者という存在を憐れみながら嫌悪していた。


 そして日本国においても、ハンターは冒険者に類する物だと勝手に想像していたのである。きっと食堂には可哀想な幼子が沢山いるはずだと。


「良くお聞きリム。ハンターは国家資格、厳しい身辺調査と適性検査と本試験をクリアーした者だけがなれる選ばれた職業だ。とうぜん未成年者はハンターになれない。分かったかい」

「そうであったか。ご教授感謝する」


(どうやら日本人とは、本当に魔族に近い性質を持った民族のようだ)


 魔王は可哀想な子供達がいなかった事と、日本人への親近感から胸を撫で下ろす。


 入口でそんな会話をしていると、食堂全体がざわめき立つ。人々の視線は入口に集まっている。正確には魔王にだ。


「さっそく注目されたね。リム、私の隣から離れないように」

「うむ。心得た」

「リムちゃん。私がついているから安心しろっぺ」

「ありがとう美和殿」


 ユーリはわざわざ、魔王が皆から良く見える立ち位置を取った。いきなり声を上げるのではなく、まずは視覚で魔王を認識させる。次いで上位ハンターが魔王に対してどの様な反応を示すか観察する。


 品行方正なハンター達である。信用はしているが、万が一もある。上位ハンターがリムを好意的に受け入れれば、ハンター事務所での生活も容易くなるというものだ。だから待つのだ。


 数秒後。


 中年の男女が席を立って魔王に近付く。

 男は胴長短足でドワーフに似ている。

 女性は凛とした美魔女でエルフのようだ。

 どちらも間違いなく人類で日本人。

 そして美女と野獣。


「おう支部長。どえらくめんこいお姫様だな。何処の娘だい?」


 ドワーフ風のおっさんは腕を組んで、魔王を下から上まで観察する。身長は魔王より少し高い程度だが、骨太で筋肉質で毛深くて男臭い。


「筑波ハンター都市で見たことない娘だよね。こんなに可愛いお姫様がいれば話題になるはずだもの」


 エルフ風の美魔女はおっさんに寄り添って魔王を値踏みしているようだ。女同士、初対面の格付けチェックは必須らしい。


「紹介するよ、この子はリムリアス。私の遠縁で、しばらくここで預かる事になった。昨夜到着したばかりで右も左も分からないから、お手柔らかに頼むよ」


 ドワーフは「ほう」エルフは「ふぅん」と返す。

 ユーリは続けて2人を魔王に紹介。


「こっちのおっさんが鈴木宗矩、隣が奥さんのキャサリン。2人は筑波ハンター協会支部で最上位のSランクハンター夫婦だ」

「俺は鈴木宗矩。ここじゃ『大鷹の宗』って呼ばれてる戦闘機乗りだ。よろしくな、お姫様」

「私はキャサリン。旦那と一緒に戦闘機に乗ってるのよ。仲良くしましょね、お姫様」


 鈴木夫婦の挨拶に、新参者の魔王も最大限の礼で応じねばならない。


 一歩前に出て、スカートの端を摘み、優雅な所作でカーテシーをする。これは魔王国において、相手へ最大の敬意を表す時に使われる仕草であり、男女共に使用する礼法。しかし地球では女性専用の挨拶。


「リムリアスという。ユーリおば様を頼って筑波ハンター都市に身を寄せる事になった。若輩者であるが、親しみを込めて是非リムと呼んで欲しい。これから良しなに頼む」


 食堂全体から「ほぅ」と溜め息が漏れた。

 まるで映画のワンシーン。もしくは新日本国の象徴、ミカド家が催す祝賀会の一コマを観ている気分になる。


「お、おう。ちょっとからかうつもりだったのに、なんか本物のお姫様みたいだな」

「困ったねダーリン。ユーリ支部長の家系って、上級国民だっけ?」

「参ったな、がはは!」

「やだよダーリン。リムちゃん、こっちへ来て一緒に食べない? これから朝ごはんよね」


 Sランクハンターの鈴木宗矩、キャサリン夫婦が魔王を受け入れれば、場の雰囲気は一気に和やかなものへと変わる。


 料理長の俵巻芋左衛門や他のハンター達や職員達が代わる代わるやって来ては魔王と言葉を交わす。食事を取る暇などない程に、一瞬で人気者となったのだ。


「さぁさぁ皆んな、そろそろ仕事の時間だよ。私達も食事を取れないから散った散った!」


 ユーリがお開きを宣言する。人々は名残惜しそうに食堂を後にする。

 鈴木夫婦も去り際。


「じゃあな、お姫様。また後で」

「リムちゃん。私達は今日、事務所待機だから、後でお茶でも飲みましょう」


 極近い再開を約束して去って行った。


「さぁ〜て。私達も腹拵えしよう。リムは何を食べる」

「うむ。問われても分からぬ。だが魚が食べたい」

「ならAモーニングだね。私はBモーニングにしよう。美和は?」

「私はAモーニングにします。チバラキ県民なら、朝はアレを食べないと力が出ないっしょ」

「美和は本当にアレが好きだな」

「私、生粋のラキ人なんで、本当はチバ人と一緒にされるの嫌ですし」


 注文してしばし待つ。

 本来、配膳はセルフサービスだが、今回だけ特別に料理長の俵巻芋左衛門が運んでくれた。


「ほれ、お姫様。Aモーニング。今朝はメバルの煮付けだぜ」

「かたじけない、芋左衛門殿。いただき……」


 トレーの上にはメバルの煮付け、白米、味噌汁、香の物、味のり、そして納豆の小鉢。


「ひっ、ひっ、ひっ、きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」


 魔王は納豆の小鉢を見た途端叫んだ。それはもう、少女の如く叫んだのだ。


「腐ってる! 豆が腐ってるのよ! 駄目なのよ、腐った物は食べられないの! 毒なのよ! ネバネバするの! ネチョネチョなのよ! やめて、やめて、やめて〜! 腐った豆を近付けないで〜!」


 魔王は腐った豆が怖かった。腐った食べ物を見ると、性悪で悪辣なメイドのピーターを思い出してしまう。


 聖属性魔法が得意で『聖女』と呼ばれたピーター。

 25歳なのに、子供にしか見えなかったロリ美少女のピーター。

 性格がめちゃくちゃ悪く、常に悪事を企んでいたピーター。

 『発酵』とか言って、腐った食べ物を無理矢理、魔王に食べさせようとするピーター。

 セレンティアスやユート達と一緒に北の大地へ逃れたはずのピーター。

 たぶん北の大地でも『発酵食品』とやらの研究を続けているであろうピーター。


 魔王はこの日、発酵食文化という日本食の洗礼を受けたのであった。




 埼玉県、茨城県、千葉県の方からの苦情のみ受け付けます。

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