11話
ユーリはチバラキ県北部のハンターを取り纏める、筑波ハンター協会支部長だ。生まれ持った天然の青髪と、人類女子の規格を大きく超えた高身長を持った、今年で29歳になる巨乳美女である。
その日ユーリは、いつも通りに仕事をこなしていた。
部下に呼ばれて艦内を飛び回り、部下に決済して欲しい書類があると言われ、デスクに座ってパソコンと睨めっこ。ランチにしようと思ったら、倉庫にメガナウマン象が転送されて、てんやわんや。気が付けば時計の針は22時になっている。
「月の残業時間が100時間超え。これじゃ彼氏も作れやしない。美貌の持ち腐れだよ、まったく」
一人愚痴る。毎日の事ながら、そろそろ労基に通報するか、その前に労働組合に相談するか。そんな事を考えていると、耳に着けたインカムに緊急連絡が入った。これは一般連絡とは違い、マナーモードにならない最優先回線。
『お休みの所、失礼致しますユーリ様』
「休んでない。仕事を増やすな」
Aランクハンターのエミリオが所有するサポートAI亀吉からの通信である。
『武蔵大森林で美少女の様な美少年を保護致しました。魔力黄砂による電波妨害により、ご報告が遅れました事、深くお詫び申し上げます。たった今市内に入りましたので、後20分ほどでハンター事務所『筑波』に到着致します。報告書を送りますので、目を通した後、受け入れをよろしくお願い致します』
「はぁっ!」
淡々と告げる亀吉に対して怒りが込み上げた。
そろそろ帰って、唐揚げをビールで流し込もうと考えていたユーリは、突如舞い込んだ面倒な案件に渋面を作る。
「武蔵大森林で子供を保護だと。しかも美少女みたいな美少年って、情報が錯綜してんじゃん! とんでもない厄介事だよ畜生!」
悪態をつきながら、亀吉から送信された報告書に目を通すユーリであった。
◇◇◇◇◇
なんやかんやで魔王との面会を終えたユーリは、自室にて熱いシャワーを浴びている。
ここは巡洋艦『筑波』内の艦長室。
艦内で最上級の部屋であり、ちょっとしたスイートルーム。独身のユーリが使うには広くて豪華過ぎるが、支部長特権である。
「日付が変わったじゃないか畜生! エミリオの野郎、次のハンター更新試験は特に厳しくしてやる!」
怒りが言葉になって飛び出す。
「しかしあの子、リムリアス。どうにも怪しい」
出会ってすぐに抱きつかれた。
涙を流しながらユートと呼ばれ、誰かと間違われた。
その瞬間、ユーリの子宮がキュンと疼いてしまった。
(100%初対面なのに、ずっと昔から知っていた。ずっと待ち望んでいた。そんな懐かしい感じがする)
ユーリが知り合いに似ていると言った。
青い髪と高身長と雰囲気とが。
青い髪は人類には珍しい。ユーリが知る限り、日本人の一部にしかいないはずだ。そもそも青髪とか紫髪とかは、異世界融合前は自然には存在しなかったと言われている。
高身長はユーリの一族では当たり前。でも日本人的にはとても珍しい。特に2メートルを超える人類は滅多にいない。そのせいで昔から、ユーリの一族は巨人族などと呼ばれている。
ユーリも少女時代は男子達から「デカ女」と揶揄われ、その都度ぶん殴って黙らせてきた。
(もしかしてユートという人物は、私の遠い親戚かも。名前も似ているし、雰囲気が似ているのも関係あるかもしれない)
そう思わせる要素がてんこ盛り。
謎が多く、何かを隠している美少年。デファ星人のスパイの可能性も含めて、無視出来ない存在。仕事が更に増える予感がする。厄ネタの香りがぷんぷんする。なのに。
(なのにどうして胸が高鳴るんだ)
面会中は平静を装っていたが、ユーリは未だかつてない、激しい感情の高まりを経験していた。
(リムリアスを守りたい。そばにいたい。そばに置いていたい。独占して、可愛がって、2人一緒にめちゃくちゃになりたい……)
29年の人生。初恋に焦がれた時もある。惚れた男と大人の恋愛を楽しんだ時もある。ベッドで組み伏せた男は一人や二人では済まない。恋愛経験はそれなりにあると自負していたはずなのに。
(ずっと、ずっと、ずっ〜と。リムリアスを待っていた。私はリムリアスを待っていたんだ!)
心の中で叫ぶ。
今この瞬間、艦長室のバスルームが世界の中心であった。
「えぇ〜い畜生! AI、メディカルスキャンだ! 洗脳されていないか脳波を念入りに調べろ!」
お風呂の中心で健康診断を叫ぶ巨乳デカ美女。全裸版。
『マスターユーリの肉体は一応健康体です。過労と睡眠不足とストレスが原因でお肌が荒れています。生活習慣を見直して下さい』
「うるさい! 全部仕事のせいだよ!」
怒りで両手を振り回すので、巨乳がブルンブルン。
『洗脳の可能性はありません。強いて言えば、恋です』
「こ、恋?」
『感情に身を任せて素直になる事をオススメ致します。いい加減、結婚してはどうですか?』
「AIのクセに生意気言うな! 機械の反乱だ!」
新日本国で標準のAIは人間に対して生意気らしい。
◇◇◇◇◇
シャワーを終え、全裸の上にバスローブを羽織っただけのユーリ。
500ミリリットル缶のビールをプシュ、ゴクゴクゴク、ぶっはぁ〜! 美味い!
「今夜は眠れそうにない、畜生。明日も仕事だ畜生〜!」
ビールをもう一本。唐揚げをバクバク。
お肌の老化が速まる。内臓にもダメージが蓄積する。成人病まっしぐら。
「一番の問題はリムの可愛さだ。女の子なら1000万年に1人の美少女で済むけど、美少年だと1億年に1人の逸材。男だと知られるのはマズイね、変な方向の血の雨が降りかねないよ」
ユーリは3本目のビールを開けて、ある決意を固めた。




