表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男の娘魔王様の如何ともし難い日常 〜異世界化した未来の地球に転移した魔王は姫になる〜  作者: 和三盆光吉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/24

9話



 狩りは終わった。

 MBT2199の主砲。20ミリ魔力レールガンの一撃は、いとも容易く凶獣の頭蓋骨を通り抜け、脳を完全に破壊して生命を刈り取ったのである。


「ほぉれぇ〜! でっかいぞぉ〜!」

「……リムちゃん、口調が変だよ」


 大地に横たわるメガナウマン象。

 魔王は象と呼ぶにはあまりに巨大過ぎる小山を前に、少年の様な歓声をあげた。


「リムちゃんは魔獣が怖くないのかい?」


 戦車から下車した3人。

 魔王は靴がないのでエミリオにお姫様抱っこされている。その腕の中で、かつての強敵ベヒーモスに似ていて何処か違う未知の魔獣に目を輝かせ、無邪気に喜ぶのだ。


「恐怖はない。それよりもだ」

「うん?」

「かなりの肉の量だ。これだけで何千人の民の腹を満たせるのだろう。称賛されるべき大戦果だ」


 良き為政者とは、民の腹具合を心配する者だ。

 民の心を掴む為政者とは、かてと娯楽を与える者だ。

 何故なら飢えは、人の心のタガを容易に外してしまう。

 10%の増税には我慢できても、100日の飢えには生存本能が悲鳴をあげる。

 だからこそ、田畑を守り肉を得る狩りは疎かにしてはならない。そうエミリオに熱く語る魔王。


「いや、日本人はかなりアホだからね。大半の人は飢え死にするその瞬間までお行儀が良いよ。食料品の値段がある日突然倍になっても愚痴しか言わないし」

「そんな馬鹿な!」


 一国を統治していた魔王である。過去の教訓と、自らの経験を元にした国家運営の心得を若いエミリオに教育してあげたのに、意味不明な反論をされてしまった。

 はっきり言って、そんな異常民族などいるはずない。


「馬鹿エミリオ。嘘をつくなら本当っぽい話を作れ。良いか馬鹿、人は生きる為に生きるのだ。生きるとは食べる事、食べるとは戦いだ。人は食べる為なら武器を手に取るのだ。それが真理なのだ馬鹿」


 お姫様抱っこされながら熱量を増す魔王。

 説教ぽくて、ちょっとだけウザい。


「はいはい。どこの帝王学か知らないけど、メガナウマン象を早く転送してしまおう」

「おん? 転送?」

「亀吉。頼む」

『了解』


 エミリオは亀吉に指示を出す。すると戦車からテニスボール大の金属球が飛び出し、メガナウマン象の上空に滞空した。金属球からレーザー光がメガナウマン象に照射され、全体をくまなく舐め回してゆく。


『測定中。測定中。転送質量許容範囲内。転送可能です』


 亀吉が調べて転送の段取りを組む。できるメイドだ。


「お、イケたか。大物だから心配だった」

『転送先へ連絡。転送許可申請。申請中。申請中……』


 転送許可が下りるまでの間、エミリオはメガナウマン象をしげしげと眺めた。


「しかし、こんなに損傷の少ないメガナウマン象は久し振りじゃないか? もしかしたら初めてかも。これは高値が付くぞ」


 エミリオは魔王に説明する。

 メガナウマン象は巨大で力が強く、耐久力も高い。加えて魔獣という存在は人間を認識すると積極的に襲って来る。


「もっと言うとね。武蔵大森林は魔力による妨害でステルス装備が十全に力を発揮しないんだ。だから至近距離から確実な一撃で仕留めるなんて稀で、大体は激戦になるから肉も皮も損傷が最小限なのは珍しいんだ」

「ステルスは知らんが、本来ならば困難な狩りになるのだな」

「そう。ここまで気付かれずに近付けたのが不思議だね。幸運だと言って良い。リムちゃんが居たお陰かな? 可愛い上に幸運を運ぶ女神だ」

「うむ。女神ではないが我に感謝すると良い。我を讃えよ」

「はいはい。姫様は凄い。姫様は可愛い。結婚して姫様」

「ふふふ。善きに計らえ」


 2人の馬鹿な会話の間に亀吉はやるべき仕事を終えた。

 できるメイドだ。


『マスター。転送許可が降りました。転送を開始致します』

「了解。始めてくれ」

『了解。転送開始』


 上空に滞空していた金属球から測量用レーザーとは別の光がメガナウマン象に照射される。すると体の端から消しゴムで消したかの様に消えて行くではないか。


「エ、エミリオ! 亀吉! 獲物が消える!」


 魔王は手足をバタつかせて驚きを顕にした。

 あまりに興奮するので、手がエミリオの顎を殴る。


「いてっ!」

「せっかくの獲物が消える! 止めろエミリオ!」

「お、落ち着いてリムちゃん。これがワープ技術を転用した物質転送装置だよ」

「にゃんだと!」


 唇から血を流すエミリオに代わり、亀吉が説明を引き継ぐ。


『事前に設定された地点へ、物質を瞬間的に転送する装置でございます。制約は色々ございますが、時間と空間を超越して、大質量を遠くへ素早く運べるとても便利な技術です。リム様も転送装置の事故に巻き込まれて武蔵大森林に放り出されたのでは?』


 転送装置云々を亀吉に指摘されても、魔王は転移魔法具の仕組みを知らないし、転送装置と転移魔法具は物質が移動する瞬間のエフェクトが異なる。だからメガナウマン象の体が削り取られる様に消える様子に驚いた。


 それに適当に転移魔法具の暴走に巻き込まれたと口にしたが、真実そうかと言われると自身がない。魔王に考えられる中で一番有り得る可能性を上げ、その場を誤魔化す説明をでっち上げたに過ぎない。


 そもそも転移の仕組みを完全に理解など、開発者すらしていなかったと思われる。作れるから作る。使えるから使う。それだけであった。


「まあ、アレだ。転送装置は便利だな。うむ」


 エミリオの顎を擦りながら誤魔化す。異世界から日本に転移した事実は、もう少し伏せておきたいのだ。


(無駄に危険視されたり、珍しがられても迷惑だ。それに勇者やデファ星人の関係者だと勘違いされるのは避けたい)


 そうこうする内にメガナウマン象の巨体は綺麗さっぱり消えた。亀吉の説明では、筑波ハンター都市にあるハンター協会の倉庫に転送されたと言う。


『転送情報を送った際に、リム様の事をハンター協会に伝えようと通常通信を試みたのですが駄目でした。大陸から魔力を含んだ黄砂が飛来しているので、通信障害が起きています』


 転送装置はワープ技術の応用なので、原理は不明ながら魔力の妨害を受けない。

 通常通信は電波なので、魔力干渉で長距離電波が役に立たない時がある。


「毎年の季節風だから仕方ない。メガナウマン象は無事に狩れたし、筑波ハンター都市に帰還しよう」


 保護した要救助美少年を連れ回すのはここまで。

 エミリオは帰還を決めて亀吉も同意。魔王は意見できる立場ではないので黙って従うのみ。


「じゃあリムちゃん、戦車に乗って」

「あい分かった。筑波ハンター都市か。楽しみだ」

「ハンター協会のデータベースは警察ともリンクしているから、リムちゃんの身元に繋がる手掛かりがあると良いね」

「駄目でも働けば生きていける。我は案外、働き者なのだぞ」

「リムちゃんは逞しいね。でも心配しなくて良いんだよ。僕が早めになんとかするから」

「エミリオになんとかされる義理はないが、良しなに頼む」


 ◇◇◇◇◇


 筑波ハンター都市への帰還は順調に進む。

 何故なら魔王の風魔法による防音と匂い対策がなされているからだ。加えて風探索による索敵情報を亀吉に伝え、面倒な魔獣のテリトリーを避けて通れるのも大きい。

 結果として、帰路では魔獣との戦闘は無し。極めて素早く、夕暮れ前には利根川の側まで出ることができた。


「道だ! 舗装された道がある!」


 魔王は操縦席の映像パネルを見ながらエミリオの股間に自らのお尻をグリグリしていた。


「あっ! うっ! リムちゃん! ちょっと!」


 魔王は興奮して幼子の様にお尻をドスドスと跳ねさせる。

 大森林が一部切れ、舗装道路が現れたからだ。


「幅の広い道だ! こんな立派な道は見た事がない! それに道路に敷き詰められた黒い色の、アレはなんだ?」


 道路の両脇は木が伐採されて見通しが良い。

 道は東の先へずっと続いている。


「うっ、あう! 気持ち、良い。イッちゃいそうだ。リムちゃん、落ち着いてくれ。あ、あっ〜!」

「亀吉、教えてくれ!」


 魔王のお尻という、魔王級の誘惑に抗うので精一杯のエミリオは役に立たない。代わりに亀吉が魔王の相手をする。


『アスファルトでございますリム様』

「なんそれ?」

「油田から取れる石油副産物です」

「なんそれ?」

『かつては日本中、至る所に道路網が張り巡らされ、すべからくアスファルトで舗装されておりました』

「そうなの?」

「ですが今は、石油もアスファルトも貴重品です」

「なんで?」

「日本には石油がほとんどないからです。異世界融合前は外国から輸入しておりましたが、現在は外国との交流はほとんどございません。なので、アスファルトは国内生産分だけとなり、舗装道路も重要な一部のみとなっております」

「ふ〜ん。分からないけど、分かった事にしておこう」

『ありがとう存じます』


 アスファルトの道を更に進む。

 途中で数台の軽装甲車や戦闘用バイクとすれ違う。彼らはハンターであり、武蔵大森林へ狩りに向かうのだと言う。


「橋だ! でっかい橋が見えて来た!」


 今度は利根川に数える程しか架かっていない橋の登場だ。魔王の興奮はまだまだ終わらない。


『大昔は橋など無数に架かっておりました。今では利根川に架かる橋は維持管理の困難さから数橋のみです』

「そうなの? でもこんなに大きくて立派な橋なら、一つでも十分であろう?」

『とんでもございません。地球は倍以上に膨れたのに、道路や橋は減ったのです。想像して下さいませ。河を渡って向こう側へ行きたいのに、橋は数百キロメートル毎にしかない。不便ではございませんか?』


 亀吉の説明は、平和な世界では当然の考え方だ。

 魔王は長く人族と戦争をしていたので、敵の侵攻を妨害して侵攻ルートを限定する考え方が染み付いている。

 橋の数が少ないと言われてもピンと来ないどころか、現在進行系でデファ星人と戦争しているなら舗装道路や立派な橋の数は少ない方が良いと反論した。


『リム様。敵は航空機で空から侵攻して来ます。地上の道路や橋はあまり関係ありませんよ』

「馬鹿な! 航空機とはアレであろう? 熱気球?」


 魔王の世界では空を飛ぶ道具は熱気球が一般的。

 魔法具の力でもっとアクティブに飛ぶ研究もされていたが、飛行機には程遠かった。


「ぶはっ! 熱気球とか、リムちゃんは冗談のセンスがあるね。あはは!」

「む。我は真面目に話しているぞ。失礼であろうエミリオ」

「ごめんごめん。熱気球とか久し振りに聞いたから面白かった。許して頂けますか姫様」


 エミリオは魔王のつむじにキスをする。その仕草をされると、青髪の巨人族美少年ユートを思い出すので弱い。


「姫と呼ぶな。我は男子だぞ」

「冗談だから怒らないで。リムちゃんの熱気球と同じだよ」

「むぅ。馬鹿にしおって」


 ◇◇◇◇◇


 橋は重要な施設である。

 魔獣が闊歩する世界では、24時間365日体制で防衛する必要がある。


「橋の手前に鎧を着たゴーレムが立っているぞ」


 魔王が言うゴーレムとは、AIの搭載された防衛ロボットだ。

 全体的な形はモンスターのアラクネに近い。

 体高は3メートル。体長も3メートル。

 下半身の多脚による地形走破性の高さ。

 人型の上半身は人と同じ、多種多様な兵器を使いこなす器用さがある。


「アレは橋を守ってるんだ。頼れる奴だよ」

「驚く物ばかりだな。日本国の技術力は侮りがたい」


 大きく長い橋を渡り終えると陽が沈んでいた。


「今夜はここで野営しよう。橋の側は安全だから」


 エミリオは魔王を気遣って提案した。

 もしエミリオだけであったなら、運転を亀吉に任せて夜通し走っても問題ないし、今のペースで走れば日付が変わる前に街に到着できるのだ。


「エミリオ。我に気遣いは不要だ。精霊の亀吉とこの戦車なら、夜間でも問題なく走れるのであろう?」


 魔王はなんとなく、そうではないかと察していた。


「でも、座りっぱなしで戦車に揺られるのは疲れるよ?」


 小さな女の子。ではなく美少年にはキツイと諭す。


(馬車より遥かに乗り心地が良い。これで疲れるなど、魔王を見くびるでないわ)


 心の中で反論。


「エミリオの膝の上は最高のクッションだから大丈夫。エミリオはどうなのだ?」

「僕かい? もちろんリムちゃんのお尻を生涯独占したいよ?」


 言葉の意味はムカつくが、方針は決まった。


「亀吉。このまま街へ行こう」

『了解致しました。交通渋滞はありませんので、比較的早く筑波ハンター都市に到着するでしょう』

「良しなに頼む。亀吉」

『とんでもございません。マスターというケダモノと夜を過ごすくらいなら、一刻も早く街へ入って安全な部屋でお眠り頂いた方が1000倍マシです』

「おい! 言い方!」


 ◇◇◇◇◇


 数時間後。

 魔王は魔王国の王都とは比較にならない街の光を目の当たりにしていた。


「昼間の様に明るい。まさかここは、首都なのか?」


 そう誤解するのを笑う事など出来ようか。


 鬼怒川の橋を渡ると原生林が無くなり、広大な畑が目立つようになった。農家だろう、民家も幾つか見える。全ての家に明かりが煌々と灯っている。点在する森も人の手が入っており、魔獣が住み着いた様子はない。


 道路はアスファルトで舗装されるか、砂利を敷き詰めたマダカム舗装。道の脇には街灯が立ち、夜の道路を照らして安全な通行を助けてくれる。


「堀も壁もないぞ? 本格的な街はもっと先か?」


 魔王国では村も街も王都も。人の暮らす場所は何かしらの物理的な防御手段で守られていた。それが常識であった。なので魔王は目の前の田園風景は街を守る緩衝地帯だと誤解した。


「筑波ハンター都市の周辺はね、長い間の努力によって魔獣を駆逐したから安全だよ。そもそも本当に強い魔獣は大森林や山脈で暮らして人里には滅多に寄らないからね」

「そ、そうは言っても、剥き出しの街で怖くはないのか?」

「もちろん。見えていないだけで、街はレーダーや各種センサー、防犯カメラとそれらを休まず統括するAIに守られている。害意のある存在が街に近付いてもすぐに分かる」

「はぇ〜。分からないけど分かった事にする」


 MBT2199のカメラは、夜間であっても映像補正で周囲を観やすく映してくれる。魔王は武蔵大森林でゴーレム腕を使って見た、遠くの場所を間近で観察する感動に心を躍らせていた。


「北東に山があるのう。平野に佇む1000メートル級の山。神々しいぞ」

「アレはチバラキ県北部の名所、筑波山。異世界融合前は半分の高さだったらしい」

「さようか」

「昔は中腹まで車で簡単に行けたらしい。由緒ある神社や観光施設やラブホテルがあって、とても賑わっていたと歴史の授業で習ったよ」

「ラブホテルとは、なんぞ?」

「うん。近い内に2人きりで行こう。とても楽しい所だよ」

「さようか。楽しみだ」

「梅子さんに男同士のやり方を習って勉強しておくから、絶対にリムちゃんを喜ばせるから」

「我のために新たな学びを得るのか。エミリオは勤勉だな。意味は分からぬが良しなに頼む」

「リムちゃんから言質取りました。ありがとうございます」


 エミリオの邪悪は置いておくとして。

 街の中に入ると、夜間でもそれなりに車とすれ違う。中心部へ近付くほど建物が増えて歩行者も見かける。

 やがて建物は大きさを増して密度も増していく。ビルやマンションや大型商業施設や物流倉庫等だ。

 繁華街へ至れば夜の明かりと人の往来は昼間と変わらないものへとなる。それは魔王の常識では測れない、魔王国の王都を遥かに凌駕する先進的な街の姿であった。


「なんだこれは! こんな大都市見たことない! 絶対にここが日本国の首都だ!」

「ははは。首都は東京だよ。筑波ハンター都市は人口30万人程の中規模な街さ」

「30万人だと?」

「似たような街が日本中にいくつもあって、日本の総人口は4000万人くらいかな。亀吉、そうだよな」

『はい。デファ星人との戦争前は一億人を超えていた日本の総人口は、今では最盛期の3割程度です』

「ほぇ〜。これでも衰えた方なのか〜」


 戦車は夜の街を進む。

 道路には車、戦闘車両、バイク。歩道には多くの人。

 信号機によって車両の動きが統制され、赤信号で車両が停まると歩行者が道を渡る。それに文句を言う者など1人もいない。全ての道が秩序に支配されている。魔王的には驚きはお腹一杯状態だが、その日の極めつけはまだこれからだった。


「リムちゃん、あそこ。アレが筑波ハンター協会だよ」

「な、なんじゃありゃ〜!」


 交差点を曲がり、障害物が消えて魔王が見たもの。

 その第一印象は超巨大な船。都市の中に船が鎮座している。


「旧自衛軍所属、宇宙巡洋艦『筑波』それを再利用してるんだ。凄いだろう」

「しゅ、しゅごい……」


 全長250メートル。幅40メートル。全高30メートル。

 それはかつて、宇宙という大海原を飛び回り、地球を守った宇宙艦艇の一つ。デファ星人との戦いの傷で主動力が完全停止した後、復興の拠点として再利用され続けた歴史の証人。


「陸に上がった船か。確かに船なら建物として使えるが、宇宙とか分からん。形も普通の船ではない……」

「驚いてばかりだねリムちゃん。記憶がないと言うより、初めて見る感じかな」

「え! いや、あはは。そんな事はない。うむ。何やら思い出せそうだ」


 魔王は案外、嘘が下手なのだ。




 MBT2199は巨大巡洋艦の隣に整備された駐機場に停まる。そこには夜だというのに戦闘車両が多数停まっていた。全てハンターの物だと言う。魔獣を狩る為に個人の戦力保有を許された存在。それがハンター。


 ここからはエミリオが魔王をお姫様抱っこして、巡洋艦内には徒歩で入るのだ。


『マスター。市内に入った際、支部長のユーリ様に連絡を入れておきました。入り口まで迎えに出て下さるそうです』

「相変わらず手回しが良いな亀吉。ユーリさんへの説明が省けて助かるよ」

『恐縮です』

「エミリオ、ユーリとは誰かな?」

「ああ、ユーリさんはチバラキ県ハンター協会で一番偉い支部長で……」


 ハンター協会事務所の入り口。

 そこへ近づいた時、魔王の心臓は胸から飛び出しそうなほど高鳴った。


「え? そんなまさか……」

「リムちゃん、どうしたの?」


 エミリオの腕の中。魔王の視線は一点に固定される。


「エミリオこの野郎! 保護した要救助者を連れ回すなんて犯罪だぞ! 減点だからな!」

「すいませんユーリさん! これには事情があるんです!」

「黙れロリコン! その子が要救助者だね。大変な想いをしたね。もう大丈夫だよ」


 魔王の耳に2人の会話は入ってこない。

 何故なら感情と意識の全てが入り口の前に立つ美女、ハンター協会筑波支部長のユーリに注がれているからだ。


 ユーリの年齢は推定で30歳前後。若過ぎず、熟女とも言えず、人生経験を重ねて丁度良い大人の色気を醸し出している。


 髪の色は青い。染めているのではなく、産まれた時から自然と青いのだ。肩の下まで伸ばした青髪は良く手入れをされて、まるで絹の様に靡いている。


 顔の造形は美女。この一言に尽きる。モデルとか元アイドルとか言われたら誰もが信じる美貌だ。


 脚が長く、細く締まった腰のくびれとお尻の大きさのバランスが絶妙。しかも胸部に御わす豊穣の証、ふたつのたわわが大き過ぎて特に素晴らしい。


 大き過ぎるのに垂れていないたわわ。美女は背筋をピンと伸ばしているので、豊穣のたわわも重力に逆らってポヨンポヨンしている。ぽっちゃり系の巨乳美女はそれなりにいるが、スリムでスタイルバツグンの巨乳美女は貴重だ。


 ただ一点。美貌とは別に特異な部分があった。

 身長である。

 支部長ユーリの身長は2メートル超え、エミリオよりも頭一つ分より高い。流石にここまで身長が高い女性は全人類的に珍しい。美貌と高身長と、人の目を引かずにはおけない存在だろう。


「あ、あ、あ、あ〜!」

「リムちゃん、危ないから!」


 魔王はユーリを見て取り乱し、エミリオの腕の中でジタバタと暴れて降りようと藻掻く。


「降ろしてくれエミリオ! 降ろせ!」

『リム様、落ち着いて下さい!』

「あっ! リムちゃん!」


 魔王は魔王を守ろうとするエミリオの拘束を振り切って、靴下のまま大地に立った。


「リムちゃん駄目だ!」

『リム様お待ちを!』


 魔王は走り出す。

 地面はアスファルトではなく砂利舗装だ。靴下では怪我をしてしまう。

 エミリオと亀吉は魔王を止めようと後を追う。けれど魔王は足の裏の痛みなど感じないほどユーリに集中して全力で走る。


 そして。


「ユート! ユート! ユート!」


 走る勢いそのままに、支部長ユーリに抱き着いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ