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BURN BEAT  作者: 度肝抜造
第1章「NOIZ JAC結成編」
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9/21

第9話「初めてのスタジオ」


BURN BEAT 第9話「初めてのスタジオ」

BURN BEAT

第9話「初めてのスタジオ」

――土曜日。

昼過ぎ。

駅前。

三人の少年少女が、楽器を抱えて歩いていた。

藤堂隼人。

神崎美咲。

そして――

朝倉烈。

烈は背中にリュックを背負い、少し緊張した表情で歩いている。

「……なあ」

「ん?」

隼人が振り返る。

「本当にここで合ってんだよな?」

烈がスマホの画面を見る。

「合ってるって」

美咲が笑う。

「駅前のリハーサルスタジオなんだから、そんなに迷う場所じゃないでしょ」

「いや……」

烈は建物を見上げる。

「なんか緊張するんだよ」

「は?」

隼人が笑う。

「喧嘩の時はあんなに威勢いいのに?」

「喧嘩と音楽は別だろ!」

「まあ、それはそうね」

美咲が頷く。

「今日は初めてのスタジオなんだから」

烈は小さく息を吐いた。

「……よし」

拳を握る。

「やるか」

「その意気よ!」

三人はスタジオの中へ入っていった。

受付を済ませる。

案内された部屋の扉を開ける。

「失礼しまーす」

美咲が入る。

その瞬間。

烈の目が大きくなる。

部屋の中央。

そこに――

本物のドラムセットが置かれていた。

バスドラム。

スネア。

タム。

フロアタム。

ハイハット。

クラッシュ。

ライド。

普段、倉庫で叩いている電子ドラムとは全く違う。

烈はしばらく黙っていた。

「……すげぇ」

隼人が笑う。

「初めて見るわけじゃないだろ?」

「見るのと叩くのは違うんだよ」

烈はドラムの前へ歩いていく。

そして。

しゃがみ込む。

まず椅子。

高さを確認する。

次にペダル。

バスドラムの位置。

ハイハットの位置。

スネアの高さ。

タムの角度。

一つずつ確認していく。

美咲が首を傾げる。

「……烈」

「ん?」

「なんでそんなに手際いいの?」

「予習した」

「え?」

烈はスマホを見せる。

そこには。

ドラムセットのセッティング動画。

「昨日、何回も見た」

隼人が呆れる。

「そこまでやったのかよ」

「だって初めてなんだぞ」

烈は真剣だった。

「何も知らないまま来たら、時間もったいねぇだろ」

美咲が少し驚いた顔をする。

「……意外と真面目」

「意外って何だよ!」

「いや、だって烈だし」

「どういう意味だ!」

隼人が笑う。

「いいじゃん。早く合わせようぜ」

烈は椅子に座る。

足をペダルへ。

手にスティック。

「……」

一度。

軽くハイハットを叩く。

――チッ。

電子ドラムとは違う。

音が生々しい。

スネアを叩く。

――パァン!

「……おお」

烈の顔が少し変わる。

「音、でけぇ……」

隼人が笑う。

「そりゃ生ドラムだからな」

美咲も笑う。

「近くで叩くと結構迫力あるでしょ?」

烈はドラムを見つめる。

「……これ、気持ちいいな」

その目は。

少しだけ輝いていた。

「じゃあ」

隼人がギターを構える。

美咲もベースを構える。

「一回、最初から最後まで通してみよう」

「いきなり?」

美咲が聞く。

「うん」

隼人が笑う。

「今の俺たちがどこまでできるか、確認しようぜ」

烈はスティックを構える。

「……分かった」

美咲がカウントを取る。

「いくよ」

「三」

「二」

「一」

――ドン!

曲が始まる。

烈のドラムが入る。

最初の数小節。

少し固い。

ハイハットが若干走る。

バスドラムも少し遅れる。

「……!」

烈は必死に合わせる。

隼人のギター。

美咲のベース。

三人の音が重なる。

決して綺麗ではない。

まだ粗い。

それでも。

――曲になっている。

烈は何度も間違えそうになる。

それでも止まらない。

一度崩れかけても。

必死に立て直す。

「……!」

最後まで。

叩き切った。

――ジャーン!

音が止まる。

三人の間に沈黙。

烈は肩で息をしている。

「……終わった」

美咲が顔を上げる。

「……」

隼人も黙っている。

そして。

「……やったじゃん」

隼人が笑った。

「え?」

烈が顔を上げる。

「最後まで通せたぞ」

美咲も笑う。

「うん」

「正直、途中で止まると思ってた」

「ひでぇ!」

烈が叫ぶ。

「でも」

美咲は笑顔のまま続ける。

「思ったより全然やれてる」

「……マジ?」

「マジ」

隼人も頷く。

「まだまだだけどな」

「分かってる」

烈はドラムを見る。

「でも……」

スティックを握り直す。

「もう一回やりたい」

隼人と美咲が顔を見合わせる。

そして。

二人とも笑った。

「よし」

「やろう!」

その後。

三人は何度も繰り返した。

イントロ。

Aメロ。

Bメロ。

サビ。

ミス。

やり直し。

またミス。

そして。

少しずつ。

三人の音が噛み合っていく。

「烈!」

「分かってる!」

「もうちょっと後ろ!」

「こうか!」

「そう!」

「いいじゃん!」

時間はあっという間に過ぎた。

やがて。

スタッフから終了時間の声がかかる。

「……もう終わり?」

烈が驚く。

美咲が時計を見る。

「二時間って早いね」

隼人がギターを片付ける。

「また来ればいいだろ」

烈はドラムを見つめる。

「……うん」

初めてのスタジオ。

初めての生ドラム。

そして。

初めて三人で、本格的に音を合わせた。

まだまだ未完成。

でも。

NOIZ JACKの音が――

ほんの少しだけ見えた気がした。

スタジオを出た三人。

駅前のファミレスへ向かう。

「腹減ったー!」

烈が叫ぶ。

「お前、さっきまであんなに緊張してたのに」

隼人が笑う。

「緊張してても腹は減る!」

「まあ、それは分かる」

美咲も笑う。

三人は席につく。

注文を済ませる。

やがて料理が運ばれてくる。

「いただきます!」

烈が勢いよく食べ始める。

「お前、本当に元気だな」

隼人が呆れる。

「で」

美咲が二人を見る。

「今日の反省会しよう」

「反省会?」

烈が顔を上げる。

「そう」

美咲は指を一本立てる。

「まず烈」

「俺?」

「うん」

「何?」

「最初、ちょっと走ってた」

「……やっぱり?」

「うん」

隼人も頷く。

「でも、途中から修正できてた」

「マジか」

「そこは良かった」

烈が少し嬉しそうにする。

「じゃあ俺は?」

隼人が美咲に聞く。

「隼人はギターの音がちょっとデカい」

「……」

「何?」

「いや」

隼人は苦笑する。

「そこ言われると思わなかった」

美咲が笑う。

「私もベースちょっと力入りすぎてたかも」

「三人ともまだまだってことだな」

隼人がまとめる。

烈は頷いた。

「でも」

烈が言う。

「楽しかった」

美咲も笑う。

「うん」

隼人も頷く。

「これからだな」

三人は顔を見合わせる。

「NOIZ JACK――」

烈が言う。

「これからだ!」

ファミレスを出る。

駅前で三人は別れる。

「じゃあな、烈」

「おう」

美咲も手を振る。

「またね、烈」

「おう! またな!」

烈は一人で帰っていく。

その背中を見送る二人。

「……じゃ、行こっか」

美咲が隼人を見る。

「おう」

二人は美咲の家へ向かった。

美咲の家。

「ただいまー」

「おかえりー!」

美咲の母親が玄関へ出てくる。

隼人を見ると。

「あら、隼人君!」

「こんばんは、おばさん」

「今日も来たのね!」

「はい」

美咲が呆れる。

「お母さん、隼人来るとテンション高くない?」

「だって隼人君いい子なんだもの」

「……私の彼氏なんだけど」

「知ってるわよ」

母親は笑う。

「むしろ大歓迎」

美咲がため息をつく。

「はいはい」

隼人が苦笑する。

「お邪魔します」

美咲の家では。

隼人が来ることは、もう特別なことではなかった。

両親公認。

特に母親は、隼人がお気に入りだった。

二人は美咲の部屋へ。

ドアを閉める。

美咲がベースをケースから取り出す。

「ねえ、隼人」

「ん?」

「今日のスタジオのおさらいしたい」

「今から?」

「うん」

「まあ、いいけど」

美咲はベースを構える。

「最初からやってみる」

隼人もギターを手に取る。

「じゃあ合わせるか」

二人が音を出す。

「ここ」

美咲が止める。

「烈、ここでちょっと遅れてた」

「そうだな」

「次は私が意識してみる」

「じゃあ、もう一回」

二人は練習を続ける。

そのとき。

コンコン。

ドアが開く。

「お姉ちゃん」

「あ、美琴」

美琴が顔を出す。

「どうしたの?」

「ちょっと音が聞こえたから」

美琴は部屋に入る。

そして。

美咲のベースを見る。

少しだけ首を傾げた。

「……お姉ちゃん」

「ん?」

「なんか音がズレてるかも」

美咲が目を丸くする。

「まじ?」

「うん」

美琴はベースを見る。

「ちょっとだけ」

美咲はベースを差し出した。

「美琴お願い」

「うん」

美琴が受け取る。

隼人が苦笑する。

「おいおい」

「チューニングくらい、自分でチューナー使って自分で――」

そこまで言いかけた。

美琴は。

チューナーを手に取らなかった。

弦を一本。

軽く鳴らす。

「……」

次の弦。

「……」

ペグをほんの少し回す。

もう一度。

「……」

さらに微調整。

そして。

「はい」

美咲へベースを返す。

「これで大丈夫だと思う」

美咲が弦を鳴らす。

「……あ」

もう一度。

「……ほんとだ」

隼人は黙っていた。

「……」

美琴は。

チューナーを使っていない。

それなのに。

ほんの小さな音のズレを聞き分けて。

調整した。

隼人の頭に。

ある考えが浮かぶ。

――マジかよ。

――ミコちゃん。

――チューナー無しで、あの小さなズレ直せるのか?

美琴は何事もなかったように言う。

「お姉ちゃん、もう大丈夫」

美咲は嬉しそうに笑う。

「ありがと、美琴!」

「ううん」

「ほんと可愛い妹持って、お姉ちゃんは嬉しいわー」

「もう、お姉ちゃん……」

美琴が少し照れる。

隼人は二人を見る。

――この子。

――もしかして。

まだ確信はない。

けれど。

隼人は初めて、美琴の中にある――

音楽の才能を意識した。

「じゃあ、もう少しだけやろうか」

美咲が言う。

「うん」

美琴は頷く。

隼人もギターを構える。

三人で少しだけ音を合わせる。

美琴は楽しそうに聴いていた。

時々。

小さくリズムを取っている。

隼人はその様子を見ながら。

何となく思う。

――やっぱり。

この子。

音楽が好きなんだな。

しばらくして。

時計を見る。

「そろそろ帰るわ」

隼人が立ち上がる。

美咲も立ち上がる。

「じゃあ、玄関まで送る」

「いいよ」

「いいから」

二人で部屋を出る。

美琴はその場に残る。

玄関。

「じゃあ、また明日」

「うん」

「おやすみ、美咲」

「おやすみ、隼人」

隼人が家を出る。

美咲が手を振る。

「またねー!」

扉が閉まる。

帰り道。

隼人は一人で歩いていた。

「……ミコちゃん」

ふと。

昼間のことを思い出す。

チューナーも使わず。

ベースの僅かなズレを聞き分けた。

「確か……」

隼人は思い出す。

美琴は以前。

「ベースなら弾ける」

そう言っていた。

「……どの程度なんだ?」

少し気になる。

一度。

ちゃんと聴いてみたい。

隼人は夜道を歩きながら。

小さく笑った。

「……今度、聞かせてもらうか」

その頃。

NOIZ JACKはまだ三人。

しかし。

四人目の音が。

少しずつ近づいていた。

番外編「BURN BEAT」第9話「初めてのスタジオ」――完。


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