第8話「NOIZ JAC秘密基地」
BURN BEAT
第8話「NOIZ JACK秘密基地」
――数日後。
休日。
朝倉烈。
藤堂隼人。
神崎美咲。
三人は、再び楽器店を訪れていた。
目的は――
「……これだな」
烈が目の前の電子ドラムを見つめる。
型落ちモデル。
最新機種ではない。
それでも。
高校生が練習するには十分な性能を持っている。
その隣には。
Bluetooth対応のスピーカー。
「これと、スピーカーで……」
美咲が計算する。
「予算内ね」
「よっしゃあ!」
烈が拳を握る。
「ついに俺のドラムだ!」
隼人が笑う。
「良かったな、烈!」
「おう!」
烈は電子ドラムを眺めながら笑う。
「これで毎日練習できる!」
美咲が釘を刺す。
「買っただけで上手くなるわけじゃないからね」
「分かってるって!」
「本当に?」
「任せろ!」
烈は胸を張った。
「俺はやるぞ!」
三人は必要なものを購入し――
その日のうちに、烈の家へ運び込むことになった。
午後。
烈の家。
広い敷地の奥。
一台の車が止まる。
「ここ?」
美咲が周囲を見渡す。
「おう」
烈が指を差す。
「こっち」
三人が向かった先。
そこには――
少し古びた大きな倉庫があった。
「……結構デカいな」
隼人が見上げる。
「だろ?」
烈が笑う。
「親父が農作業の道具とか置いてたんだけど、今はほとんど使ってねぇんだ」
扉を開ける。
ガラガラガラ――
中へ入る。
「……おお」
隼人が声を漏らした。
広い。
そして。
意外と快適だった。
天井には照明。
壁にはコンセント。
電気も普通に使える。
さらに。
「Wi-Fiも届くぞ」
烈がスマホを見せる。
「マジかよ!」
隼人が驚く。
美咲も周囲を見渡す。
「……これなら、本当に練習場所にできそうね」
「だろ?」
もともとここは。
農作業の合間に休憩する場所としても使われていた。
壁際には。
簡単な机。
椅子。
そして――
少し古いソファー。
「このソファー、使っていいの?」
美咲が聞く。
「おう」
烈が答える。
「親父、もう使ってねぇから」
隣には。
小型の冷蔵庫。
「冷蔵庫まである……」
隼人が笑う。
「農作業の休憩室だからな」
さらに。
夏場には使えるダクトタイプのスポットクーラー。
冬には灯油式のファンヒーター。
「……」
美咲が腕を組む。
「烈」
「ん?」
「ここ、思ってたより快適じゃない?」
「だろ?」
烈が得意げに笑う。
「俺も前から昼寝してた」
「昼寝する場所じゃないでしょ」
そこへ。
隼人と美咲が購入してきた中古のアンプとスピーカーが運び込まれる。
「よし!」
隼人が箱を開ける。
「これでギター鳴らせるぞ」
美咲も自分の機材を確認する。
「私のベースもここに置けるわね」
烈は電子ドラムの箱を見る。
「俺はこれだ!」
三人で組み立てを始める。
「ここ、どこ?」
「そこじゃない!」
「じゃあ、こっち?」
「それ逆!」
「なんでだよ!」
「説明書読んで!」
「読んでる!」
「上下逆!」
「……」
隼人がため息をつく。
「烈、お前ドラム叩く前に組み立てで挫折してるぞ」
「うるせぇ!」
美咲が笑う。
「もう、二人とも!」
そんなやり取りをしながら。
少しずつ。
電子ドラムが形になっていく。
そして。
「……完成!」
烈が両手を広げる。
目の前には――
電子ドラムセット。
「おお……」
烈の表情が変わる。
「すげぇ……」
初めて。
自分のためのドラムが。
ここにある。
烈は恐る恐る椅子に座る。
スティックを握る。
「……」
一度。
軽く叩く。
――タン。
「……!」
もう一度。
――タン。
烈が笑う。
「これ……」
「家でドラム叩けるんだな」
美咲が微笑む。
「そうよ」
烈は嬉しそうに頷いた。
「……やっと始められる」
しかし。
美咲が壁を見る。
「……ねぇ」
「ん?」
「音漏れ、大丈夫?」
「……」
三人が黙る。
隼人が壁を叩く。
コンコン。
「結構響くな」
「そうね」
美咲が考える。
「気休めでも、何か貼った方がいいかも」
「何を?」
烈が聞く。
「段ボールとか」
「段ボール?」
「ええ」
美咲はスマホを見せる。
「壁に貼るだけでも、何もしないよりはマシでしょ」
「よし!」
烈が立ち上がる。
「じゃあやろうぜ!」
その頃。
烈の家の別の場所。
「お姉ちゃん」
美琴が美咲を見る。
「これ、どうするの?」
「そこに貼って」
「うん」
美琴も手伝っていた。
今日は美咲が呼んでいたのだ。
まだ。
NOIZ JACKのメンバーではない。
それでも。
姉がバンドを始めたことが嬉しいのか。
美琴は楽しそうに作業している。
「こっち押さえて!」
「うん」
美咲が段ボールを壁に当てる。
美琴が端を押さえる。
隼人がテープを貼る。
烈は――
「よし!」
一枚。
「次!」
また一枚。
「俺、こういう作業得意だぞ!」
「農家だから?」
「そう!」
「関係あるの?」
「知らん!」
「知らないんかい!」
四人の笑い声が倉庫に響く。
それから。
数時間。
段ボールを貼り。
機材を整理し。
机を移動し。
椅子を並べ。
アンプを設置。
電子ドラムの位置を調整。
ソファーを壁際へ移動。
冷蔵庫の中も整理。
「……」
美咲が倉庫を見渡す。
「結構それっぽくなったわね」
隼人も頷く。
「もう部室じゃん」
烈が胸を張る。
「NOIZ JACKの秘密基地だ!」
「秘密って……」
美琴が小さく笑う。
「学校の先生には言わない方がいいかもね」
「なんで?」
「授業よりここに来そうだから」
「……」
烈が黙る。
隼人も黙る。
美咲が二人を見る。
「図星?」
「……」
「図星ね」
四人で笑った。
気がつけば。
もう昼を大きく過ぎていた。
「腹減った……」
烈がソファーに倒れ込む。
「もうお昼過ぎてるよ」
美琴が時計を見る。
「じゃあ」
隼人が立ち上がる。
「コンビニ行こうぜ」
「賛成!」
烈が起き上がる。
「俺、腹減りすぎて死にそうだ!」
「作業しただけでしょ」
美咲が呆れる。
「その割には元気ね」
四人はコンビニへ向かった。
そして。
戻ってきた倉庫。
机の上には。
おにぎり。
弁当。
パン。
飲み物。
「いただきます!」
四人が一斉に食べ始める。
「……うめぇ!」
烈が弁当を頬張る。
「お前、毎回それだな」
隼人が笑う。
「腹減ってたんだから仕方ねぇだろ!」
美咲は飲み物を飲みながら。
「さて」
ノートを開く。
「次は、スタジオね」
烈の手が止まる。
「おう」
隼人も頷く。
「課題曲は決まった」
「練習場所もできた」
美咲が指を折る。
「だから――」
「三人でちゃんと音を合わせる」
烈が頷く。
「いよいよだな」
隼人が笑う。
「初スタジオ」
美琴は少し離れたところで三人を見る。
「楽しそう」
美咲が振り返る。
「美琴も今度来る?」
美琴は少し驚く。
「え?」
「見学くらいならね」
「……うん」
美琴は嬉しそうに笑った。
まだ。
彼女はNOIZ JACKのメンバーではない。
けれど。
この場所が。
少しずつ。
彼女にとっても大切な場所になっていく。
「で、いつスタジオ入る?」
隼人が聞く。
美咲がスマホを見る。
「三人の予定を合わせると……」
「今週末ならいけそう」
烈が答える。
「俺も大丈夫」
隼人が頷く。
「じゃあ決まりだな」
美咲が予定を入力する。
「土曜日」
「午後から」
「二時間」
烈が拳を握る。
「よっしゃ!」
隼人が笑う。
「ついにNOIZ JACK初スタジオだ!」
美咲も笑う。
「まずは一曲、最後まで通すわよ」
「おう!」
烈が立ち上がる。
「絶対やってやる!」
その声が。
倉庫いっぱいに響く。
美琴はそんな三人を見て。
小さく笑った。
夕方。
三人と美琴は倉庫を出る。
振り返る。
そこには。
電子ドラム。
アンプ。
スピーカー。
机。
椅子。
ソファー。
小さな冷蔵庫。
そして。
壁一面の段ボール。
まだまだ粗末な場所だった。
それでも。
ここには。
NOIZ JACKの音楽が始まる場所がある。
「じゃあ、またな!」
「うん」
「またね」
四人がそれぞれ帰っていく。
烈は最後に倉庫を振り返る。
「……土曜日か」
拳を握る。
「待ってろよ」
そして。
笑う。
「NOIZ JACK――初スタジオだ!」
――次回。
三人は初めて。
本物のスタジオで音を合わせる。
果たして。
烈のドラムは。
NOIZ JACKの音を作れるのか。
第8話「NOIZ JACK秘密基地」――完。




