第7話「ドラムがない!」
BURN BEAT
第7話「ドラムがない!」
――ブラック・マジシャンとの一件から、数日後。
放課後。
桜ヶ丘高校から少し離れた場所。
藤堂隼人の家。
その部屋に――
三人の高校生が集まっていた。
朝倉烈。
藤堂隼人。
神崎美咲。
三人は机を囲んでいる。
机の上には――
ノート。
筆記用具。
そして。
コンビニで買ってきたお菓子。
「よし!」
隼人が手を叩く。
「これからのNOIZ JACKについて話し合おうぜ!」
「おー!」
烈が拳を突き上げる。
美咲は呆れた顔で二人を見る。
「……なんでそんなに元気なのよ」
「だってよ!」
烈が笑う。
「ブラック・マジシャンも俺たちの味方になったんだぜ!」
「それはそうだけど……」
美咲はノートを開く。
「だからこそ、ちゃんとバンド活動しないとね」
「おう!」
隼人も頷く。
「まずは――」
ノートの一番上に書く。
NOIZ JACK 今後の予定
「課題曲を決める」
「スタジオ練習の日程を決める」
「それから――」
隼人が烈を見る。
「練習する!」
「よし!」
烈が拳を握る。
「やるぞ!」
「その前に」
美咲が手を上げた。
「課題曲、一曲決めない?」
「そうだな」
隼人が頷く。
「まずは一曲をちゃんと仕上げよう」
烈も頷く。
「俺は二人に任せるぜ」
「本当に?」
「おう!」
烈は自信満々に答える。
「俺、曲とか全然知らねぇから!」
「威張って言うことじゃないでしょ……」
美咲がため息をつく。
「じゃあ、曲ね」
美咲が少し考える。
「私、前からやってみたかった曲があるんだけど」
「何?」
隼人が聞く。
美咲は答えた。
「相川七瀬の――」
少し間を置いて。
「『夢見る少女じゃいられない』」
烈が首を傾げる。
「……知ってる?」
「俺は知ってる」
隼人が即答する。
「ギターもカッコいいし、三人編成でもいけると思う」
美咲が頷く。
「そう」
「ギター、ベース、ドラム」
「三人でもちゃんと形になる」
隼人が烈を見る。
「どうする?」
烈は腕を組んで考える。
数秒。
「……二人がそれでいいなら、それでいいぞ」
「決まりね」
美咲がノートに書く。
課題曲 『夢見る少女じゃいられない』
「よし!」
隼人が笑う。
「これを練習しよう!」
「おう!」
烈も拳を握る。
「俺、ドラム頑張るぜ!」
その言葉を聞いた美咲は――
ふと。
何かに気づいた。
「……あれ?」
「ん?」
「ちょっと待って」
美咲が烈を見る。
「烈」
「おう」
「ドラムの自主練は?」
「……」
烈が固まる。
隼人も固まる。
「…………」
「…………」
美咲の目が細くなる。
「まさか」
烈と隼人が顔を見合わせる。
そして。
二人同時に――
「「はっ!?」」
美咲は額に手を当てた。
「……やっぱり」
「え?」
烈が聞く。
「何が?」
「何がじゃない!」
美咲が机を叩く。
「烈、ドラムセットとか持ってるの?」
「持ってねぇ」
「練習用パッドは?」
「持ってねぇ」
「電子ドラムは?」
「持ってねぇ」
「じゃあ、どうやって練習するのよ!」
「……」
烈が黙る。
隼人も黙る。
美咲が二人を見る。
「まさか……」
「スタジオで練習すればいいんじゃね?」
隼人が言う。
美咲は即答。
「毎日?」
「……」
「一人でスタジオ借りて?」
「……」
「高校生が?」
「……」
「毎日お金払って?」
「…………」
烈と隼人が――
「「無理だな」」
美咲の額に青筋が浮かぶ。
「最初から気づきなさいよ!」
「いやぁ……」
烈が頭を掻く。
「ドラムって、家で練習するもんだと思ってなかった」
「だから!」
美咲が深呼吸する。
「まず、烈の家ってどんな環境なの?」
「俺ん家?」
「そう」
烈は少し考える。
「普通だけど」
「本当に?」
「……あ」
烈が思い出す。
「そういや、うちに使ってない倉庫あるぞ」
「倉庫?」
「ああ」
「どんなところ?」
「結構広い」
隼人が身を乗り出す。
「マジで?」
「うち、兼業農家だからな」
烈が説明する。
「敷地も結構広いし」
「隣の家とも離れてる」
「倉庫も、今ほとんど使ってねぇ」
美咲の表情が変わった。
「……それなら」
「それなら?」
「ドラムの練習場所は何とかなりそうね」
烈の顔が明るくなる。
「マジか!」
「でも」
美咲が指を立てる。
「次は自主練用のドラム」
「……」
烈と隼人が黙る。
「それがないと始まらないでしょ」
「そりゃそうだ」
烈が頷く。
「で、ドラムっていくらすんだ?」
「……知らない」
隼人も首を傾げる。
「俺も知らない」
美咲も。
「私も……」
三人が顔を見合わせる。
「……見に行く?」
美咲が言った。
「おう!」
「行こうぜ!」
「決まりね」
数日後。
楽器店。
三人は店内に並んだドラムセットを見ていた。
「…………」
烈が値札を見る。
「…………」
隼人も見る。
「…………」
美咲も見る。
そして。
烈が一言。
「高っけぇぇぇぇ!!」
店内に響く。
「ちょっと、烈!」
美咲が慌てる。
「声!」
「いやいやいや!」
烈は値札を指差す。
「これ、十万円超えてんぞ!?」
「こっちも!」
「十五万!?」
「こっちは二十万……」
「嘘だろ!?」
隼人も頭を抱える。
「俺たち高校生だぞ……」
美咲が腕を組む。
「楽器って、そんなに安くないのよ」
「じゃあ一万円くらいのは?」
烈が聞く。
店員が苦笑する。
「初心者用の練習パッドなどでしたらございますが……」
「ドラムセットで!」
「一万円は……」
「……無理?」
「かなり厳しいですね」
烈は天井を見上げた。
「……バイトするしかねぇな」
美咲が頷く。
「そうね」
隼人も腕を組む。
「俺たちも何かできるかな」
「でも」
美咲が言う。
「まず、烈がドラムを練習できる環境を作らないと」
三人は真剣な顔でドラムを見る。
その日は。
具体的な購入には至らなかった。
その日の夜。
烈の家。
自室。
ベッドに寝転びながら。
烈はスマホを見ていた。
検索画面には――
「電子ドラム 安い」
「……五万」
次。
「……七万」
さらに。
「……十万」
烈はスマホを顔の上に落とした。
「高すぎるだろ……」
もう一度検索する。
「中古……」
「型落ち……」
「初心者……」
そして。
「……一万円」
烈は画面を睨む。
「一万円くらいで何とかならねぇかな……」
当然。
そんな都合のいいものは。
なかなか見つからない。
「……どうすっかな」
そのとき。
部屋の外から声がした。
「烈!」
「ん?」
「今週から田植えだから手伝え」
父親だった。
「小遣いやるからな」
烈の目が見開かれる。
「……田植え?」
「そうだ」
「手伝ったら小遣いくれる?」
「ああ」
烈は起き上がった。
「親父!」
「なんだ?」
「俺――」
烈は勢いよく立ち上がる。
「今年、田植え全部手伝う!」
「お、おう……」
父親が少し引く。
「どうしたんだ、お前」
「いや!」
烈は拳を握る。
「俺、ドラムが欲しいんだ!」
「……ドラム?」
「そう!」
父親は少し考える。
「まあ……手伝ってくれるなら助かるけどな」
烈の目が輝く。
「マジか!」
「その代わり」
父親が指を立てる。
「田植えだけじゃないぞ」
「……?」
「田んぼの水管理もやってくれ」
「おう!」
「それから秋になったら稲刈りもな」
「任せろ!」
烈は即答した。
「全部やる!」
父親は笑った。
「じゃあ、約束だ」
「親父!」
烈がさらに身を乗り出す。
「その小遣い……前借りできる?」
「前借り?」
「ああ!」
父親は苦笑する。
「ドラムが欲しいんだろ?」
「おう!」
「……分かった」
「マジで!?」
「どうせお前が手伝ってくれたら、俺が楽になるからな」
「よっしゃあああ!!」
烈は拳を突き上げた。
「ドラム買えるぞぉぉぉ!!」
母親が廊下から顔を出す。
「何騒いでるの?」
「ドラム!」
「……?」
母親には何のことか分からない。
父親が笑う。
「こいつ、バンド始めたんだよ」
「まあ」
母親が驚く。
「頑張ってるの?」
「おう!」
烈が胸を張る。
「俺、ドラムで一人前になる!」
母親は笑った。
「じゃあ、頑張らないとね」
「任せろ!」
翌日。
学校。
昼休み。
隼人と美咲に話す烈。
「というわけで!」
烈が胸を張る。
「俺、田植えする!」
「……」
美咲が瞬きをする。
「田植え?」
「おう!」
隼人が笑う。
「なんでバンド始めて田植えするんだよ!」
「ドラム買うためだ!」
「なるほど!」
隼人が納得する。
「……納得するな!」
美咲が二人を叩く。
「でも、それだけじゃ足りないんでしょ?」
烈は頷く。
「親父から前借りしても、ちょっと足りねぇ」
「じゃあどうするの?」
「親父が知り合いのゴルフ練習場で、球拾いのバイトを紹介してくれるって」
美咲が驚く。
「ゴルフ練習場?」
「おう」
「高校生でもできるの?」
「親父の知り合いだから話を通してくれるらしい」
隼人が笑う。
「烈、お前すげぇな」
「何が?」
「ドラム買うために田植えして、球拾いまでやるのかよ」
烈は真顔で答えた。
「だってよ」
「ドラムがなきゃ練習できねぇだろ」
その言葉に。
美咲が少しだけ笑った。
「……そうね」
「じゃあ、私たちもできることは手伝う」
「おう!」
その日の放課後。
烈の家。
父親と烈は、具体的な金額を計算していた。
「電子ドラムは、型落ちのやつでいいんだな?」
「おう!」
「スピーカーも必要か?」
「Bluetoothのやつがいい!」
父親が苦笑する。
「お前、妙なところだけ詳しいな」
「スマホで調べた!」
「なるほどな」
二人で計算する。
電子ドラム。
Bluetoothスピーカー。
必要なケーブル。
その他の細かい備品。
「……十五万くらいか」
「十五万!」
烈が目を輝かせる。
「それなら買える!」
父親が言う。
「田んぼの手伝い分」
「それと」
「ゴルフ練習場のバイト」
「それでも足りなかったら――」
父親は少し考える。
「残りは貸してやる」
「……親父」
烈が父親を見る。
「返すからな」
「おう」
父親は笑った。
「ちゃんと働いて返せよ」
「任せろ!」
烈は拳を握った。
「絶対返す!」
そして。
翌週。
烈は朝から田んぼに立っていた。
泥だらけになりながら。
田植えをする。
昼には汗だく。
それでも。
「ドラム……」
田んぼを見ながら呟く。
「待ってろよ……!」
数日後。
放課後。
今度はゴルフ練習場。
「よし!」
烈は長靴を履き。
球拾い用の道具を持つ。
広い練習場。
打ち込まれた無数のゴルフボール。
「これ、全部拾うのか……」
「そうだ」
親父の知り合いの店長が笑う。
「体力には自信あるんだろ?」
烈は笑った。
「あります!」
「じゃあ頼むぞ」
「任せてください!」
烈は走り出す。
「うおおおおお!!」
ボールを拾う。
また拾う。
さらに拾う。
「ドラム!」
拾う。
「ドラム!」
拾う。
「ドラム買うぞぉぉぉ!!」
店長が呆れる。
「……元気な高校生だな」
夜。
烈は家へ帰る。
泥だらけ。
汗だく。
身体中が疲れている。
それでも。
机の上に置いたスマホを見る。
そこには。
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烈は笑った。
「……もう少しだ」
そして。
「待ってろよ」
画面を見ながら。
「俺のドラム!」
その頃。
NOIZ JACKでは。
隼人と美咲も。
次のスタジオ練習の日程を考え始めていた。
課題曲は決まった。
練習場所も。
少しずつ整っていく。
あとは。
烈がドラムを手に入れるだけ。
そして――
NOIZ JACKの本当の音が。
初めて鳴り始めようとしていた。
第7話「ドラムがない!」――完。




