第6話「ミサミサとミコミコ」
第6話「ミサミサとミコミコ」
――数日後。
夕方。
私立桜ヶ丘高校から少し離れた、人気のない工場跡。
古びた建物の前に。
黒いバイクが何台も並んでいた。
その中央。
一台の大型バイクから、一人の男が降りる。
黒いジャケット。
鋭い目。
長身の身体。
そして。
周囲にいる男たちは、全員がその男に道を空けた。
「……ここか」
男が廃工場を見上げる。
隣にいた幹部が頭を下げる。
「はい、総長」
男は周囲を見回した。
「……そういえば」
ふと。
何かを思い出したように呟く。
「この辺りって……」
「?」
「ミサミサとミコミコの家、近かったよな?」
幹部が一瞬、固まる。
「……は?」
「神崎のところだよ」
「ああ……」
「久しぶりに顔出してみるか」
総長の顔が。
ほんの少しだけ緩んだ。
「二人とも、もう高校生くらいだろ?」
「美琴なんか、まだ俺のこと覚えてるかな」
部下たちは。
誰も答えられない。
普段。
県内最大級の不良組織を束ねる男。
その総長が。
「ミコミコに会いたいなぁ……」
などと。
完全にデレている。
部下の一人が小声で呟く。
「……総長」
「ん?」
「俺たち、今から朝倉烈と藤堂隼人を……」
「おう」
総長は真顔に戻った。
「それも忘れてねぇ」
「ですよね……」
廃工場内部。
そこには。
すでに大勢の男たちが集まっていた。
中央にいるのは――
朝倉烈。
藤堂隼人。
二人は周囲を睨んでいた。
「……多すぎねぇか?」
隼人が呟く。
「聞いてた話と違うぞ」
烈が首を鳴らす。
「何人いるんだ?」
「数える気にもならねぇよ」
周囲には。
ブラック・マジシャンのメンバーが数十人。
その奥。
一段高くなった場所に。
総長が現れた。
「……来たか」
烈が顔を上げる。
「お前が総長か」
「ああ」
総長は二人を見る。
「朝倉烈」
「藤堂隼人」
隼人が眉をひそめる。
「俺たちを呼び出して、何の用だ?」
総長はゆっくり歩いてくる。
「簡単な話だ」
「ブラック・マジシャンに入れ」
「断る」
烈は即答した。
隼人も続く。
「俺もだ」
総長は笑った。
「そう言うと思ったよ」
そして。
周囲の男たちを見る。
「なら――」
拳を握る。
「力で分からせるしかねぇな」
烈がニヤリと笑った。
「……そうこなくっちゃな」
隼人がため息をつく。
「おい烈」
「なんだ?」
「俺たち、また喧嘩か?」
「そうみたいだな」
「……高校生活って、こんなもんか?」
「知らねぇよ」
二人は構えた。
「行け!」
一斉に男たちが襲いかかる。
「来やがれぇぇぇ!!」
烈が真正面から突っ込む。
拳が一人。
二人。
三人。
吹き飛ばす。
「おらぁぁっ!!」
その横を。
隼人が駆け抜ける。
「邪魔だ!」
――ドンッ!
蹴りが一人の腹に入る。
さらに回転。
二人目の顎を蹴り上げる。
「エロ脚を舐めんなよ!」
「なんだその名前!」
烈が叫ぶ。
「知らねぇよ!」
「自分で言っただろ!」
「うるせぇ!」
二人は背中合わせになる。
「烈!」
「おう!」
「このままだと数が多すぎるぞ!」
「だったら全部倒せばいい!」
「お前、相変わらず馬鹿だな!」
「お前もな!」
だが。
敵は多かった。
一人。
また一人。
倒しても。
次が来る。
烈の拳が重くなる。
隼人の息も荒くなる。
「くそ……!」
隼人が歯を食いしばる。
「まだ来るのかよ……!」
烈が腕で攻撃を受ける。
「……上等だ!」
そのとき。
総長が静かに口を開いた。
「朝倉」
烈が顔を上げる。
「お前、本当に頑丈だな」
「褒めてんのか?」
「ああ」
総長が笑う。
「だからこそ欲しい」
「俺はいらねぇって言ってんだろ!」
烈が叫ぶ。
総長は構える。
「なら、俺が直接やる」
空気が変わった。
隼人が小さく呟く。
「……来るぞ」
総長が踏み込む。
――ドンッ!!
烈と拳がぶつかる。
「ぐっ……!」
烈が後ろへ下がる。
「……重い!」
総長が笑う。
「お前もな!」
再び激突。
そのときだった。
廃工場の外から。
女性の声が聞こえた。
「……あれ?」
総長の動きが止まる。
「……?」
もう一度。
今度ははっきり聞こえた。
「お兄ちゃん?」
総長の顔が。
一瞬で変わった。
「……え?」
全員が振り返る。
入口に。
二人の少女が立っていた。
神崎美咲。
そして。
その後ろに。
神崎美琴。
美咲が目を丸くする。
「……お兄ちゃん?」
総長は。
さっきまでの険しい顔が嘘のように緩んだ。
「……ミサミサ?」
美咲が笑顔になる。
「やっぱりお兄ちゃんだ!」
そして。
美琴が。
美咲の後ろから顔を出す。
「……お兄ちゃん」
その瞬間。
総長の表情が完全に崩れた。
「ミコミコぉぉぉ!!」
「うわっ!」
総長が美琴へ駆け寄ろうとする。
部下たちは唖然。
「……総長?」
「……誰だ、あれ?」
「俺たちが知ってる総長じゃない……」
美琴が小さく笑う。
「久しぶり」
「久しぶりだなぁ!」
総長は嬉しそうに美琴を見る。
「大きくなったな!」
「もう小学生じゃないよ」
「そうだよなぁ!」
「……中校生」
「そうかそうか!」
「お兄ちゃん、元気だった?」
「元気だ!」
総長。
完全にデレデレだった。
美咲が呆れたように笑う。
「相変わらず美琴には甘いね」
「当たり前だろ!」
「私には?」
「お前にも甘いぞ」
「ほんと?」
「ああ」
美咲がニヤッと笑う。
「じゃあ――」
そのとき。
美咲の視線が。
廃工場の奥へ向く。
「……何してるの?」
烈。
隼人。
そして。
大量のブラック・マジシャン。
美咲の顔が引きつる。
「……え?」
隼人が手を上げる。
「よ、よう」
「隼人?」
「……なんでここに?」
美咲が聞く。
隼人は答えに困る。
「いや……」
烈が堂々と言う。
「喧嘩」
「…………」
美咲の眉がピクッと動く。
「喧嘩?」
「おう」
「お兄ちゃんと?」
烈が総長を見る。
「そうなるな」
美咲は総長を見る。
そして。
「……お兄ちゃん」
総長。
「はい」
即答。
烈と隼人。
「…………」
美咲が続ける。
「二人をいじめたの?」
「いや、これはだな……」
「いじめたの?」
「……まあ、ちょっと」
「駄目じゃん」
総長が黙る。
「……はい」
隼人が小声で烈に言う。
「おい……」
「なんだ?」
「総長、なんで美咲に敬語なんだ?」
「知らねぇよ」
美琴が総長を見る。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「もう、やめよう?」
「……」
総長の顔が苦しそうに歪む。
「……ミコミコがそう言うなら」
総長が振り返る。
「全員、やめろ」
「え?」
部下たちが固まる。
「聞こえなかったか?」
総長の声が響く。
「今日は終わりだ」
「は、はい!」
一斉に返事。
美咲が笑う。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「……おう」
総長は照れくさそうに頭を掻いた。
烈と隼人は。
完全に置いていかれていた。
隼人が美咲を見る。
「……お前」
「なに?」
「この人……お前の従兄?」
「うん」
「マジで?」
「うん」
烈が総長を見る。
「じゃあ……」
「お前ら、ミサミサの友達か?」
総長の目が変わる。
美咲が慌てる。
「友達っていうか……」
「バンド仲間」
「バンド?」
総長が首を傾げる。
美咲が笑顔になる。
「そう」
「NOIZ JACKっていうバンドやってるの」
「へぇ」
総長が烈を見る。
「じゃあ、お前がドラム?」
「そうだけど」
「隼人はギター?」
「そう」
総長は二人を見る。
「……そうか」
そして。
ニヤッと笑った。
「ミサミサとミコミコの仲間なら――」
周囲を見る。
「ブラック・マジシャンとしても応援してやるか」
部下たちが一斉に顔を見合わせる。
「……え?」
総長。
「ライブとかあるんだろ?」
美咲が笑う。
「あるよ」
「じゃあ行く」
「ほんと?」
美琴も嬉しそうに笑う。
「お兄ちゃん、来てくれるの?」
「もちろんだ!」
その瞬間。
部下たちの目が輝く。
「総長が行くなら俺たちも!」
「当然だろ!」
「NOIZ JACK応援します!」
「美咲さんたちのバンドなら全力で!」
美咲が目を丸くする。
「……え?」
その光景を。
烈と隼人は無言で見ていた。
ブラック・マジシャン数十人。
さっきまで自分たちを潰そうとしていた連中が。
今は。
「NOIZ JACK!」
「応援するぞ!」
「ライブいつだ!?」
などと騒いでいる。
隼人が烈を見る。
烈も隼人を見る。
二人とも。
同じことを考えていた。
「……なあ、烈」
「なんだ?」
「俺たち……」
「……ああ」
二人は。
美咲を見る。
そして。
総長を見る。
そして。
美琴を見る。
「……何かがおかしくないか?」
美咲は首を傾げる。
「そう?」
美琴は嬉しそうに笑っている。
「みんな、優しいね」
烈と隼人。
「…………」
この時。
二人はまだ知らなかった。
この日を境に。
ブラック・マジシャンという巨大な不良組織が。
NOIZ JACKにとって――
妙に頼りになる応援団になっていくことを。
そして。
その中心にいるのが。
可愛い従姉妹二人にデレデレな――
ブラック・マジシャン総長だということを。
BURN BEAT 第6話「ミサミサとミコミコ」――完。




