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BURN BEAT  作者: 度肝抜造
第1章「NOIZ JAC結成編」
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4/21

第4話「妹と不良とブラックマジシャン」


BURN BEAT

第4話「妹と不良とブラック・マジシャン」

――神崎家。

夕方。

二階の部屋から。

低く、心地よいベースの音が聞こえていた。

「♪――♪」

神崎美咲は、ベースを抱えていた。

弦を押さえる左手。

弦を弾く右手。

その動きには、迷いがない。

「……ここ、もうちょっと強く」

もう一度。

同じフレーズを弾く。

低音が部屋いっぱいに響く。

そのとき。

コンコン。

「お姉ちゃん」

「ん?」

ドアが開く。

そこに立っていたのは――

妹の神崎美琴。

中学三年生。

姉とは対照的に、おとなしく。

人見知りで。

人前に出ることが苦手な少女だった。

美琴は部屋に入ると。

美咲のベースを見る。

「……お姉ちゃん」

「なに?」

「バンド始めるの?」

「うん」

美咲は笑った。

「始めることになった」

「……本当に?」

「うん」

美琴の目が少し輝く。

「誰と?」

「隼人と」

「……うん」

「それと、もう一人」

美咲はベースを膝に置いた。

「隼人が面白い奴を見つけたんだって」

「面白い人?」

「そう」

美咲は笑いながら話し始める。

「朝倉烈っていうんだけどね」

「すっごい体が大きくて」

「めちゃくちゃ力が強くて」

「でも――」

美咲が少し考える。

「ものすごく単純」

「……単純?」

「うん」

美咲が吹き出す。

「バンド始める理由がね」

一拍。

「モテたいから」

「……」

美琴が目を丸くする。

「……え?」

「でしょ?」

美咲は笑う。

「隼人が『バンドマンはモテる』って言ったら」

「烈くん、ものすごい勢いで食いついて」

「ドラムやるって決まった瞬間なんて」

「『プロになれば女をはべらせられるんだ!』って」

「……」

美琴はしばらく黙る。

そして。

小さく笑った。

「……面白い人」

「でしょ?」

美咲も笑う。

「ほんと、馬鹿なんだけどね」

美琴は姉のベースを見る。

そして。

「……いいな」

「ん?」

「お姉ちゃん」

「隼人さんと」

「その人と」

「一緒にバンドするんだ」

美咲は妹を見る。

「……美琴もやればいいじゃん」

「え……?」

美琴が顔を上げる。

美咲はベースを見る。

「もう弾けるんだし」

「……」

美琴は少し困ったように笑った。

「でも……」

「ん?」

「私は……」

視線を落とす。

「人前で弾くの、苦手だから」

「……」

美咲は黙る。

その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥が少し痛くなった。

実は。

美咲には分かっていた。

妹には――

才能がある。

初めて美琴にベースを教えた時。

美咲が驚いたことを覚えている。

弦を押さえる指。

リズムの取り方。

音の違いを聴き分ける耳。

美咲が何度練習しても、

中々上手くできなかったことを。

美琴は。

一度聴いただけで。

ほとんど正確に再現してしまった。

「……美琴」

「なに?」

「この前のフレーズ」

「うん」

「あれ、一回しか聴いてないよね?」

「……うん」

「なのに弾けたよね」

美琴は少し恥ずかしそうにする。

「……たまたまだよ」

「たまたまじゃないよ」

美咲は笑う。

「美琴は、本当に上手い」

美琴は黙ってベースを見る。

「……でも」

「うん」

「みんなの前で弾くのは……」

「怖い?」

美琴は小さく頷いた。

「……うん」

美咲はそれ以上、何も言えなかった。

本当なら。

言いたい。

――美琴、一緒にやろう。

――私がギターとボーカルをやるから。

――美琴はベースを弾けばいい。

それが。

美咲の本当の気持ちだった。

今の自分はベース。

ボーカルも担当する。

でも。

ずっと思っていた。

自分は本当は――

ギターを弾きたい。

隼人の隣で。

ギターを弾いて。

歌いたい。

そして。

その隣で。

美琴にベースを弾いてほしい。

姉妹で。

同じステージに立ちたい。

それが。

美咲の小さな夢だった。

だけど。

目の前の妹を見る。

人見知り。

引っ込み思案。

人前に出るだけでも緊張する。

そんな美琴に。

「バンドに入って」

なんて。

簡単には言えなかった。

美咲は笑う。

「……そっか」

「うん」

「無理にやらなくてもいいよ」

美琴が少し安心したように笑う。

「……ごめんね」

「何で謝るの?」

美咲は妹の頭を撫でる。

「美琴は美琴でいいの」

「……うん」

けれど。

美咲は胸の奥で思っていた。

――本当は。

――一緒にやりたい。

その気持ちは。

口には出せなかった。

少しして。

美琴が聞く。

「お姉ちゃん」

「ん?」

「ゆずちゃんも……見に行っていい?」

美咲が笑う。

「もちろん」

「そのうち、お姉ちゃん達のLIVE見にきなよ?」

「……LIVE」

「うん」

「ゆずと二人で」

美琴の顔が少し明るくなる。

「……うん」

「見に行くね」

「約束ね」

「うん」

美咲は笑った。

そして。

妹が部屋を出ていく。

ドアが閉まる。

「……」

一人になった美咲は。

ベースを見る。

「……本当は」

小さく呟く。

「美琴と一緒にやりたいんだけどな」

そして。

ベースを抱え直す。

「……いつか」

その言葉だけを。

胸の中にしまった。

――場面は変わって。

私立桜ヶ丘高校。

放課後。

校門を出た烈は。

一人。

ものすごく上機嫌だった。

「……NOIZ JACK」

ニヤニヤ。

「NOIZ JACK……」

さらにニヤニヤ。

「俺、ドラム……」

歩きながら。

勝手に妄想する。

巨大なステージ。

無数の観客。

そして。

ステージ中央でドラムを叩く自分。

――烈くーん!!

――キャー!!

――こっち見てー!!

烈はニヤける。

「……へへへ」

「モテモテじゃねぇか」

完全に浮かれていた。

そのとき。

「おい」

後ろから声がした。

烈が振り返る。

「……あ?」

そこに。

数人の男たちが立っていた。

制服は――

桜ヶ丘高校。

だが。

烈には見覚えがある。

先頭の男が一歩前へ出る。

「朝倉烈だな?」

「……そうだけど?」

男は淡々と言った。

「相馬さんが呼んでる」

「……相馬?」

「そう」

「付いてきな」

烈の顔から。

笑みが消えた。

「…………」

さっきまでの浮かれた表情は。

完全に消えていた。

拳を握る。

「相馬……」

その名前を聞いた瞬間。

烈の目が変わる。

鬼のような形相。

「……上等だよ」

男たちが少しだけ身構える。

烈は一歩前へ出た。

「案内しろ」

夕暮れの校門前。

朝倉烈。

再び。

喧嘩の世界へ引き戻される。

その先で待っているのは――

この地域を仕切る不良グループ。

ブラック・マジシャン。

そのリーダー。

三年生――

相馬。

烈の新しい戦いが。

始まろうとしていた。

BURN BEAT 第4話「妹と不良とブラック・マジシャン」――完。


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