第3話「NOIZ JAC始動」
BURN BEAT
第3話「NOIZ JACK始動」
――放課後。
私立桜ヶ丘高校。
音楽室。
誰もいない教室の一角に――
三人の一年生が集まっていた。
朝倉烈。
藤堂隼人。
神崎美咲。
机を三つ並べ。
その上には――
ノート。
ペン。
そして。
楽器の資料。
烈は椅子に座りながら、腕を組んでいた。
「……で?」
「今日から俺たち、バンドなんだな?」
「ああ」
隼人が頷く。
「正式に始める」
美咲も笑う。
「まずは三人でね」
烈が拳を握る。
「よぉーし!」
「やってやろうじゃねぇか!」
「おう!」
隼人も拳を合わせる。
「じゃあ、まず――」
隼人が黒板へ向かう。
そして。
大きく書いた。
藤堂隼人――リードギター
神崎美咲――ベース・ボーカル
朝倉烈――ドラム
烈がそれを見る。
「……」
「何だ?」
隼人が振り返る。
「これで決まりなのか?」
「ああ」
「俺、ドラムなんだな」
「昨日からそう言ってるだろ」
「そうだったな」
烈は納得する。
そして。
「じゃあ――」
突然、立ち上がる。
「俺がリーダーだ!」
「…………」
隼人と美咲が固まる。
「何で?」
隼人が聞く。
烈は胸を張った。
「そりゃあ――」
「リーダーが一番モテるだろ!」
「…………」
美咲が隼人を見る。
隼人も美咲を見る。
二人とも。
同じことを思っていた。
――こいつ、まだそれ言ってんのか。
烈はさらに続ける。
「バンドの中心人物だぞ?」
「絶対モテる!」
「女の子たちが俺を見て――」
「烈くん」
「ん?」
美咲がニッコリ笑う。
「リーダーって大変だよ?」
「……そうなのか?」
「うん」
美咲は指を一本立てる。
「メンバーの予定を決めたり」
「練習場所を探したり」
「ライブの予定を確認したり」
「曲をまとめたり」
烈の顔が少しずつ曇っていく。
「……」
美咲はさらに続ける。
「みんながケンカしたら仲裁しなきゃいけないし」
「何か問題が起きたら、全部リーダーの責任」
「……」
「あと」
美咲が少しだけ首を傾げる。
「リーダーだからって、一番モテるとは限らないよ?」
「…………!」
烈が固まった。
「そうなのか?」
「うん」
「じゃあ……」
美咲は笑顔のまま言う。
「隼人のほうが向いてるんじゃない?」
「俺?」
隼人が指差す。
「そう」
美咲はニコニコしている。
「隼人はギターもできるし」
「バンドのことも私より詳しいし」
「昔から私と一緒に音楽やってるし」
「人と話すのも得意だし」
「……」
烈は真剣に考える。
「なるほど……」
そして。
ポンッと手を叩く。
「じゃあ隼人!」
「おう」
「リーダー頼んだ!」
「……え?」
烈は満足そうに頷く。
「俺はドラムをやる!」
「それでモテる!」
隼人は一瞬、呆然とした。
そして。
「……お、おう」
「任せろ」
心の中で。
――こいつが馬鹿で助かった……。
そう思った。
その隣。
美咲はニコニコしていた。
そして。
烈に聞こえないように、小さく呟く。
「……単純で良いわぁ」
小悪魔のような笑み。
隼人も小さく笑った。
「じゃあ!」
隼人が黒板の前に立つ。
「改めて――」
三人を見る。
「このバンドをどういうバンドにするか決めよう」
烈が腕を組む。
「どういうバンド?」
「ああ」
隼人が頷く。
「まず、俺たちはロックをやる」
「ロック!」
烈の目が輝く。
「いいじゃねぇか!」
「ギターを中心に」
「美咲のベースで土台を作る」
「俺がドラムで――」
烈が割り込む。
「そして女の子がキャーキャー言う!」
「……」
隼人が止まる。
美咲も止まる。
「……烈」
「ん?」
「今、俺が何話してたか聞いてた?」
「聞いてたぞ」
「何て言った?」
「ギター!」
「その後」
「ベース!」
「その後」
「俺!」
「その後!」
「女の子がキャーキャー!」
「聞いてねぇじゃねぇか!」
美咲が笑いをこらえる。
「ふふっ……」
隼人は頭を抱える。
「駄目だ……」
「こいつ、完全に頭の中が女でいっぱいだ……」
烈は気にせず続ける。
「俺がドラム叩いたら――」
「女の子が」
「キャーッ!」
「ってなるんだろ?」
「……まあ、なるかもしれないけど」
隼人がため息をつく。
「でもな」
改めて黒板を見る。
「俺たちは――」
「ライブで盛り上がるロックバンドを目指す」
烈が聞く。
「ライブ?」
「ああ」
隼人は真剣な顔になる。
「CDを聴くだけじゃなくて」
「実際にライブを見た奴らが」
「すげぇ!」
「また見たい!」
そう思ってくれるバンド。
美咲も頷く。
「うん」
「私も、それがいい」
「隼人と私が昔からやってきた音楽も」
「そういう感じだから」
烈は二人を見る。
「……」
だが。
烈の頭の中では。
巨大なステージ。
無数の観客。
そして。
自分を見て叫ぶ大量のギャル。
――烈くーん!!
――カッコいいー!!
――こっち見てー!!
「……」
烈の口元が緩む。
「へへへ……」
「何笑ってんだ?」
隼人が聞く。
「いや」
烈はニヤニヤする。
「何でもねぇ」
美咲と隼人が顔を見合わせる。
――こいつ、大丈夫か?
二人とも。
同じことを思った。
しばらくして。
美咲がノートを開く。
「じゃあ、次」
「バンド名」
烈が反応する。
「バンド名?」
「ああ」
隼人が頷く。
「実はな」
美咲が少し得意げに笑う。
「私と隼人で、前から考えてた名前があるの」
「何だ?」
隼人が美咲を見る。
「言っていい?」
「おう」
美咲はノートを開く。
そこには。
大きく書かれた名前。
NOIZ JACK
烈が目を見開く。
「……NOIZ JACK」
「そう」
隼人が頷く。
「NOISEじゃなくて、NOIZ」
「俺たちらしい音を作るって意味も込めてる」
美咲が続ける。
「ちょっと不良っぽくて」
「でも、音楽の名前としてもカッコいいでしょ?」
烈はしばらく名前を見つめる。
そして。
「……カッコいいじゃねぇか」
拳を握る。
「いい!」
「俺はこれがいい!」
隼人が笑う。
「だろ?」
「おう!」
烈のテンションが一気に上がる。
「NOIZ JACK!」
「俺たちのバンド!」
「いいじゃねぇか!」
「よぉーし!」
烈が立ち上がる。
「ますますやる気が出てきたぜ!」
隼人と美咲が顔を見合わせる。
烈に聞こえないように。
美咲が小さく呟いた。
「……単純で良いわぁー」
隼人も小声で答える。
「ああ」
「ホントにな」
二人で笑う。
烈は黒板を見る。
そこには。
NOIZ JACK
その下に。
藤堂隼人 リードギター/リーダー
神崎美咲 ベース/ボーカル
朝倉烈 ドラム
三人の名前。
烈は腕を組む。
「……いいな」
「何が?」
隼人が聞く。
「この感じ」
烈は笑った。
「俺たちのバンドって感じがする」
隼人と美咲が顔を見合わせる。
一瞬。
二人とも少しだけ嬉しそうな顔をした。
「そうだな」
隼人が答える。
「これからだ」
美咲も頷く。
「うん」
「これから始まるんだよ」
烈は拳を突き上げる。
「NOIZ JACK!」
「行くぜぇぇぇ!!」
「おー!」
隼人も拳を上げる。
美咲も笑いながら拳を合わせる。
三人の声が。
静かな音楽室に響いた。
――まだ。
三人だけ。
まだ。
演奏もまともにできない。
まだ。
何者でもない。
それでも。
この日。
NOIZ JACKは始まった。
そして。
この小さな三人組が。
やがて六人になり。
多くの人を熱狂させるバンドへ成長していくことを。
この時の三人は――
まだ知らなかった。
BURN BEAT 第3話「NOIZ JACK始動」――完。




