第2話「バンドと女と美咲」
第2話「バンドと女と美咲」
――放課後。
私立桜ヶ丘高校。
屋上。
フェンス際に、朝倉烈と藤堂隼人が並んで座っていた。
二人の手には――
IQOS。
「……で?」
烈が煙を吐きながら隼人を見る。
「バンドって何だ?」
「何って……」
隼人は少し呆れた顔をする。
「バンドはバンドだよ」
「分かんねぇよ」
「楽器やって、歌って、女にキャーキャー言われるんだよ」
「……!」
烈の目が変わった。
「女に……?」
「ああ」
隼人はニヤリと笑う。
「バンドマンはモテるぞ」
「本当か?」
「本当だ」
烈は腕を組んだ。
「……それなら」
「ん?」
「やってもいい」
隼人が笑う。
「だろ?」
「で、俺は何やるんだ?」
「それはこれから決める」
「そうか」
烈は立ち上がった。
「じゃあ行こうぜ」
「どこへ?」
「バンドやるんだろ?」
「気が早ぇな……」
---
翌日。
昼休み。
校舎裏。
烈が一人、壁にもたれていた。
そこへ。
隼人がやってくる。
「おーい、烈!」
「遅ぇぞ」
「悪い悪い」
隼人が近づく。
そして。
「おい烈」
「ん?」
「お前どうせモテないだろうし毎日暇だろ?」
「……」
烈の眉が動く。
「なんだと!?」
「いや、だから――」
「おーまーえー!」
烈が隼人の首に腕を回す。
「ちょっとばかしジャニ顔で可愛い彼女がいるからってぇー!」
「いてててて!」
「シバいちゃる!」
「烈! 話を聞け!」
「知らん!」
「なんつー馬鹿力だ!」
隼人は必死に烈の腕を叩く。
「いてて、やめろ烈!」
「だったら謝れ!」
「だから話を聞けって!」
「……」
烈が腕を緩める。
「よし」
腕を組む。
「聞いてやろう」
隼人は首をさする。
「……ったく」
そして。
ニヤッと笑った。
「烈、実はな――」
「バンドマンは」
一拍。
「もてるのだ!」
「なっ……」
烈の目が見開かれる。
「なんだって〜!!」
「フッ」
隼人が腕を組む。
「どうだ?」
烈が詰め寄る。
「本当か?」
「ああ」
「看護師のお姉さんにも?」
「もちろんさ!」
「港区女子にも?」
「もちろんさ!」
隼人が親指を立てる。
烈の顔が輝いた。
「良いじゃないか隼人君!」
「おう」
「バンドやろうではないか!」
「そうこなくっちゃ!」
「ハッハッハー!」
「ちきしょー!」
隼人が拳を握る。
「羨ましいぜ烈君!」
二人は肩を組んで歩き始めた。
---
「で?」
烈が歩きながら聞く。
「どんなバンドにする?」
「ロックだな」
「ほう」
「ギターは俺」
「なるほど」
「ボーカルも俺」
「……」
「そして――」
烈は自信満々に胸を張る。
「俺!」
「お前しかいねぇじゃねぇか」
「?」
「いや、まだ他のメンバー決まってねぇから」
「そうか」
烈は納得した。
しばらく歩く。
「でもよ」
烈が突然立ち止まる。
「俺、ギターなんて弾けるのか?」
「知らん」
「歌は?」
「知らん」
「……」
烈は少し考える。
「まあ、何とかなるだろ」
「お前、本当に適当だな……」
---
二人が向かった先。
公園。
そこに、一人の少女がいた。
ベンチに座り、スマホを見ている。
茶色がかった髪。
明るい雰囲気。
少しギャルっぽい制服姿。
少女の名前は――
神崎美咲。
隼人の幼なじみ。
そして。
隼人の彼女だった。
「おーい、美咲!」
美咲が顔を上げる。
「あ、隼人」
「待った?」
「別に」
美咲は立ち上がる。
そして。
烈を見る。
「……この人?」
「ああ」
隼人が烈の肩を叩く。
「昨日話してた朝倉烈」
烈が胸を張る。
「朝倉烈だ」
「神崎美咲」
「よろしくな」
「うん、よろしく」
美咲は笑う。
そして。
「それで?」
「バンドの話でしょ?」
「そう!」
隼人が答える。
「俺と烈でバンドを組む」
「ふーん」
美咲が烈を見る。
「烈くん、楽器できるの?」
「できない」
即答。
「歌は?」
「分からん」
「……」
美咲は隼人を見る。
「本当にこの人で大丈夫?」
「大丈夫だって」
隼人は笑う。
「ガタイいいし」
「それだけ?」
「それだけ」
「……」
美咲は少し黙る。
「駄目だ……」
「ん?」
「こいつら……」
小さく呟く。
「最初から駄目だ」
「何でだよ!」
烈が突っ込む。
美咲は笑った。
「ごめん、ごめん」
---
「じゃあ、俺はギターとボーカルな!」
烈が言う。
「……」
隼人が黙る。
美咲も黙る。
「どうした?」
烈が二人を見る。
隼人が言った。
「いや、お前ドラム」
「…………へ?」
烈の顔が固まった。
「俺が?」
「ああ」
「ドラム?」
「そう」
「……」
烈の目が細くなる。
「お前」
「ん?」
「俺にギターやらせるんじゃなかったのか?」
「そんなこと一言も言ってねぇぞ」
「……」
烈が隼人を見る。
そして。
「だましたなぁぁぁ!」
「うわっ!」
烈が隼人をヘッドロックする。
「いてててて!」
「俺はギターとボーカルだろ!」
「誰もギターやボーカルやってくれなんて言ってねーだろ!」
「じゃあ何でバンドに誘った!」
「ドラムやってくれそうだからだよ!」
「ガタイだけで決めんなぁぁ!」
「なんつー馬鹿力だ!」
美咲は二人を見る。
「…………」
そして。
額を押さえる。
「駄目だ、コイツら……」
---
ようやく隼人が解放される。
「はぁ……はぁ……」
首をさすりながら。
「烈」
「何だ」
「ドラムってのはな」
隼人が真顔になる。
「人口が少ないからプロになりやすいんだ」
「……なに?」
烈の目が光る。
「本当か?」
「ああ」
もちろん――
嘘である。
「ドラム人口は少ない」
「だからプロになれる確率も高い」
「……」
烈が腕を組む。
「プロになれると言う事は?」
隼人は待ってましたとばかりに答える。
「金持ちになって――」
一拍。
「女をはべらせられるんだ!」
「なっ……」
烈の目が見開かれる。
「なんだと……?」
隼人が親指を立てる。
「ドラムは狙い目だぜ」
烈は震えた。
そして。
拳を握る。
「よぉーし!」
「やってやろうじゃねーかー!」
「隼人君!」
「ちきしょー!」
隼人が頭を抱える。
「羨ましいぜ烈君!」
その横で。
美咲は。
完全に呆れていた。
「……」
「……」
美咲の目が。
ゆっくりと血走っていく。
「……隼人」
「ん?」
「ちょっと聞いていい?」
「何?」
「烈くん」
「うん」
「そんなにモテたいの?」
「……」
隼人が美咲を見る。
そして。
美咲の目を見る。
「…………」
隼人の顔が引きつった。
「へっ?」
一歩下がる。
「美咲ちゃん?」
「何?」
「いや……」
「何よ?」
「……何でもないです」
烈はそんな二人を見て笑う。
「かっかっか!」
「どうした?」
「面白ぇな、お前ら!」
「烈……」
隼人が小声で言う。
「今は笑わない方がいい」
「何でだ?」
「俺にも分からん」
美咲が笑顔で拳を握る。
「隼人」
「はい」
「後でちょっと話そうか」
「…………はい」
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三人はそのまま歩き出した。
烈は上機嫌だった。
「なあ隼人」
「ん?」
「プロになったら本当に女をはべらせられるんだよな?」
「……たぶんな」
「よし!」
烈は拳を握る。
「俺、ドラム頑張るわ!」
「その調子だ!」
美咲は二人の後ろを歩く。
「……本当に大丈夫かな」
そして。
小さく笑った。
「まあ……楽しそうだけど」
夕暮れの空。
三人の影が長く伸びていく。
この日。
朝倉烈。
藤堂隼人。
神崎美咲。
三人の物語が始まった。
まだ。
誰も知らない。
この三人から始まった小さなバンドが。
やがて――
六人の音を響かせることになるなんて。
BURN BEAT 第2話「バンドと女と美咲」――完。




