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BURN BEAT  作者: 度肝抜造
第2章「ライバル編」
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第20話「壁の向こう側」


第2章 第20話 壁の向こう側

「……くそっ、またかよ!」

烈の家にある練習小屋に、苛立った声が響いた。

電子ドラムの前に座り、烈はスティックを握り直す。

課題曲は、中島美嘉の『GLAMOROUS SKY』。

文化祭で演奏するために選んだ曲だ。

ギターを弾きながら歌う美咲。ベースで支える美琴。そして、隼人のギター。

それぞれの音が頭の中で鳴る。

その演奏を支えるのが、自分のドラムだ。

ところが――。

「なんで、ここでつながんねえんだよ!」

烈はペダルから足を離した。

問題はバスドラムだった。

曲の勢いを生み出す、四拍子のバスドラムダブル。ここを滑らかにつなげられなければ、ドラムの流れに妙な間ができてしまう。

片足だけで踏もうとすると、二打目が遅れる。

力任せに踏めば、今度はリズムが乱れる。

ツインペダルを買ってから何度も練習している。それでも、思い描いた音には届かなかった。

「……全然ダメじゃねえか」

烈は額の汗を拭った。

喧嘩なら、相手が強ければ強いほど燃える。

だが、ドラムは違った。

何度挑んでも、思いどおりに体が動かない。

悔しい。

自分だけが、みんなの足を引っ張っている気がした。

「おい、烈。そろそろ飯にしねえ?」

練習小屋の入口から隼人が顔を出した。

「……ああ」

「なんだよ、その顔。ドラムに食われそうな顔してんぞ」

「うるせえ。食われてんのは事実だ」

隼人は苦笑し、壁に立てかけてあるギターケースを避けながら中へ入ってきた。

「何がそんなに引っかかってんだ?」

「バスドラだよ。ここがうまくつながらねえ。片足でやろうとすると、どうしても変な間ができる」

烈は問題の箇所を説明した。

隼人はドラムセットを眺め、それから烈に視線を戻す。

「じゃあ、飯食ってから、もう一回やればいいだろ」

「はあ?」

「腹減ってイライラしてると、余計にうまくいかねえんじゃねえの?」

「……そんな単純な話かよ」

「知らねえよ。俺はドラマーじゃねえし」

隼人はあっさり言い切った。

「でもさ、今できねえからって、ずっとできねえわけじゃねえだろ。お前、最初から今みたいに叩けたわけじゃねえんだし」

「……」

「焦っても、手足が急に増えるわけじゃねえ。食って、頭冷やして、またやれよ」

大した助言ではなかった。

具体的な練習方法を教えてくれたわけでもない。

それでも、烈は少しだけ肩の力が抜けた。

「……わかったよ。食うぞ」

「おう。腹いっぱいな」

「お前が食いたいだけだろ!」

「バレたか」

隼人は笑いながら小屋を出ていった。

烈もその後に続く。

まだ、答えは見つかっていない。

けれど、ここで投げ出すつもりもなかった。

     *

食事を終えた烈は、再び練習小屋へ戻った。

電子ドラムの前に座る。

スティックを手に取り、問題のフレーズをゆっくり確認した。

片足でダブルを踏もうとする。

失敗。

もう一度。

また失敗。

「……だから、そこじゃねえんだって」

思わず自分に悪態をつく。

そのとき、烈の視線がツインペダルへ落ちた。

左右のペダル。

右足だけでできないのなら、左足も使ってみたらどうだろう。

もちろん、それは片足のダブルを習得したことにはならない。

本来の課題を解決したわけでもない。

だが、今は文化祭で曲を成立させる方法も必要だった。

「……試してみるか」

烈は足の位置を調整した。

右足で一打。

続けて左足。

タイミングを合わせ、ゆっくり繰り返す。

最初は音がばらついた。

右足が強すぎたり、左足が遅れたりする。

それでも、片足だけで無理に二打を出そうとするより、リズムをつなげられる可能性があった。

「もう一回……!」

烈は繰り返した。

少しずつ、二つの足を動かすタイミングがそろってくる。

まだ不安定だ。

曲のテンポに合わせれば、簡単に崩れるだろう。

それでも、先ほどまで途切れていた部分に、わずかな手応えが生まれた。

「……そうか。こういうやり方もあるのか」

烈は今度、ライドシンバルに目を向けた。

同じシンバルでも、叩く場所によって音の響き方が変わる。

手の動かし方を試しながら、リズムの中で使える音を探していく。

ハイハットのパターンをそのまま再現できるわけではない。

だが、ライドの音色を使い分ければ、曲の流れを保つ助けになるかもしれない。

一つずつ試す。

失敗したら戻す。

うまくいった部分を、もう一度繰り返す。

気づけば、烈は夢中になっていた。

「よし……今のだ!」

完璧ではない。

片足のダブルができるようになったわけでもない。

それでも、曲を止めずに演奏するための道筋が、少しだけ見えてきた。

烈は汗を拭い、もう一度曲の頭から叩き始めた。

今度は、さっきよりも流れが途切れない。

まだ危なっかしい。

少しでも気を抜けば、すぐに崩れそうだった。

それでも――。

「……いけるかもしれねえ」

烈は小さくつぶやいた。

文化祭までに、みんなと演奏できるところまで持っていく。

今の自分にできることを、やるしかない。

     *

数日後。

NOIZ JACKのスタジオ練習。

「じゃあ、次は『GLAMOROUS SKY』な」

隼人の声に、烈はスティックを構えた。

美咲がギターを抱え、美琴がベースのストラップを肩に掛ける。

四人の視線が交わった。

「烈、準備いい?」

美咲の問いに、烈はうなずく。

「おう。やってみる」

カウントが始まった。

隼人のギターが鳴る。

美咲の歌声が重なり、美琴のベースが曲の土台を作る。

そして烈のドラムが入った。

問題のフレーズ。

右足、左足。

ライドシンバルの音色を使い分けながら、烈は必死にリズムをつないでいく。

危ういところはある。

音の粒も、まだそろいきっていない。

それでも、演奏は止まらなかった。

曲が終わる。

一瞬、スタジオが静かになった。

「……烈」

隼人が口を開いた。

「お前、何やった?」

「何って……練習してたら、こうなった」

「いや、そうじゃなくて。前に引っかかってたところ、どうやってつないだんだよ?」

美咲も目を丸くしていた。

「びっくりした。まだ危ないところはあるけど、前よりずっと曲になってる!」

「うん……リズムが止まらなくなった」

美琴も、控えめながらはっきりと感想を口にした。

烈は照れくさそうに頭をかいた。

「右足だけじゃ無理だったから、左足も使ってみたんだよ。あと、ライドの叩く場所を変えたりして……」

「自分で考えたの?」

「ああ。まあ、無理やりだけどな」

隼人は笑った。

「無理やりでも、今の俺たちには助かるぜ」

その言葉に、烈の胸が少し熱くなった。

自分の工夫が、みんなの役に立った。

それが、何よりもうれしかった。

ただし、課題がなくなったわけではない。

片足のダブルは、まだできない。

テンポが上がれば崩れるかもしれないし、別の曲で同じ方法が通用するとも限らない。

今のやり方は、あくまで文化祭を乗り切るための工夫だ。

それでも、何もできなかった昨日とは違う。

「よし。もう一回やろうぜ!」

烈はスティックを握り直した。

「今度は、もっと安定させる!」

「おう!」

隼人がギターを構え、美咲と美琴も準備を整える。

再びカウントが始まった。

四人の音が重なっていく。

まだ、烈のドラムがNOIZ JACKを引っ張っているわけではない。

今は、みんなについていくのが精いっぱいだ。

けれど、烈は初めて、自分の頭で考え、自分の足で壁を越えるための一歩を踏み出した。

文化祭まで、あと少し。

この演奏を、みんなで成功させる。

その先に何が待っているのか、今の烈はまだ知らなかった。

烈の成長をもっと段階的に描く

専門用語と演奏描写を整理する

文化祭への切迫感を強める


第2章第20話「壁の向こう側」完

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