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BURN BEAT  作者: 度肝抜造
第2章「ライバル編」
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17/21

第17話「夏のツーリングと花火大会」


BURN BEAT

第2章「BLAC-KOUTライバル編」

第17話「夏のツーリングと花火大会」

――夏。

午後。

藤堂隼人は、自宅のベッドに寝転がりながらスマートフォンを眺めていた。

「……暑ぃ」

エアコンの効いた部屋で、だらしなく足を伸ばす。

夏休み。

NOIZ JACKの練習はあるものの、今日は珍しく予定が空いていた。

「なんか面白ぇことねぇかな……」

その時、スマートフォンが震えた。

画面に表示された名前は、神崎美咲。

『ねえ、みんなで花火大会行かない?』

「……花火大会?」

隼人の顔がぱっと明るくなる。

『行く! 烈も誘おうぜ!』

送信。

その直後、玄関のチャイムが鳴った。

「ん?」

隼人は玄関へ向かい、ドアを開けた。

「よっ、隼人!」

そこに立っていたのは、美咲だった。

「……お前か」

「何よ、その反応!」

「いや、さっきメール来たばっかだろ」

「だから、直接話しに来たの!」

美咲は当然のように笑った。

「花火大会、行くでしょ?」

「もちろん!」

隼人は即答した。

「烈も誘う。あいつ、絶対行くだろ」

「だよね。烈と隼人がそろったら、花火より屋台に夢中になりそうだけど」

「おい、俺まで入ってんのかよ!」

隼人が思わず突っ込む。

美咲は、いたずらっぽく笑った。

「だって、あんたたち二人なら絶対そうなるでしょ?」

「いや、俺はちゃんと花火も見るぞ!」

「焼きそば食いながら?」

「……悪いかよ!」

「ふふっ。やっぱりね」

美咲は楽しそうに笑った。

「ところで、浴衣は着るのか?」

隼人が尋ねる。

「……あんた、ほんっとにブレないわね」

美咲がじとっとした目を向ける。

「いや、だって夏祭りだぞ?」

「はいはい。どうせ可愛い浴衣姿が見たいんでしょ?」

「そりゃ見たいだろ!」

「即答すんな!」

美咲が隼人の頭を軽く叩いた。

「いてっ!」

「せっかくみんなで遊びに行くんだから、変なこと考えない!」

「俺は健全な男子高校生だぞ!」

「どの口が言ってんのよ!」

二人の声がリビングに響いた。

しばらくして、美咲はスマートフォンを取り出した。

「じゃあ、集合時間と場所を決めようよ」

「だな。烈にも連絡しとく」

「美琴と柚葉にもね」

「おう!」

隼人は笑った。

「……楽しみだな」

「うん?」

「みんなで出かけるの、久しぶりだろ?」

美咲は少しだけ表情を和らげた。

「……そうね」

そして、にっこり笑った。

「思いっきり楽しもうね、隼人」

「おう!」

■花火大会、決定!

花火大会当日。

午後。

会場から少し離れた場所にある、臨時駐車スペース。

そこに三台のバイクが停まっていた。

朝倉烈。

藤堂隼人。

神崎美咲。

三人とも、それぞれ自分のバイクで会場までやって来たのだ。

烈がヘルメットを外し、大きく伸びをする。

「っしゃあ! 着いたぞ!」

「声でけぇよ」

隼人が笑う。

「だって祭りだぞ! 屋台だぞ!」

「花火は?」

「もちろん見る!」

「絶対、屋台の方が楽しみだろ」

「うるせぇ!」

美咲が二人の間に割って入った。

「はいはい。口げんかはそこまで! せっかく来たんだから、楽しまなきゃ損でしょ!」

「……へいへい」

「返事は一回!」

「はい!」

二人が同時に答える。

美咲は満足そうに頷いた。

「よろしい」

烈が隼人の肩を叩く。

「……なあ、隼人」

「ん?」

「俺たち、完全に尻に敷かれてねぇか?」

「……今さらだろ」

「聞こえてるわよ!」

美咲の声が飛ぶ。

「「すみませんでした!」」

二人は即座に頭を下げた。

少し離れた場所で、駐車場の係員が苦笑していた。

三人は徒歩で会場へ向かった。

まだ花火の開始までは時間がある。

それでも、屋台通りにはすでに多くの人が集まっていた。

焼きそばの香ばしい匂い。

たこ焼きを焼く音。

色とりどりの提灯。

烈の目が輝く。

「おお……!」

「おい、烈。まだ食うなよ」

隼人が釘を刺す。

「何でだよ!」

「まだ美琴たちと合流してねぇだろ」

「……あ」

烈が固まる。

美咲は呆れた。

「本当に、食べ物のことしか頭にないんだから……」

「いや、ちゃんと覚えてたぞ!」

「今、完全に忘れてた顔だったけど?」

「……気のせいだ!」

隼人が笑った。

「はいはい。まずはたくにぃのところに行くんだろ?」

「そうそう!」

美咲が頷く。

「たくにぃ、今日は屋台を何軒も出してるらしいからね」

「何軒も?」

烈が目を丸くする。

「じゃあ、食い放題じゃねぇか!」

「自分で払うのよ」

「……はい」

三人は拓真の屋台が並ぶ通りへ向かった。

■たくにぃ、逃げ場なし

――拓真の屋台通り。

神崎拓真は、腕を組んで部下たちを見渡していた。

「いいか。今日は人が多い。客を待たせるな。揉め事も起こすな。分かったな?」

「「はいっ!」」

相馬と塚井をはじめ、集まった男たちが一斉に返事をする。

「相馬」

「はい、総長!」

「美琴と柚葉が電車で来る。駅で合流して、会場まで付き添え」

「了解です!」

「塚井、お前も一緒だ」

「は、はい!」

拓真は続けた。

「二人が会場に着いたら、俺のところに顔を出させろ。その後、お前らは屋台を手伝え」

「……総長、付き添いと屋台の両方ですか?」

相馬が思わず尋ねる。

「当たり前だろ。人手が足りねぇんだよ」

「……了解です」

「それから」

拓真の声が低くなる。

「美琴と柚葉に何かあったら、お前らの責任だ。分かってるな?」

「「命に代えてもお守りします!」」

「そこまで大げさにしなくていい。普通に安全に連れてこい」

拓真はため息をついた。

その時だった。

「たくにぃー!」

聞き慣れた声が響いた。

拓真が振り返る。

そこに立っていたのは、美咲だった。

「……何だ、美咲」

「お願いがあるんだけど!」

「嫌な予感しかしねぇな」

「ひどーい! まだ何も言ってないじゃん!」

美咲は拓真の前に立つと、両手を合わせた。

「実はね、三人で浴衣を着たいんだけど!」

「……浴衣?」

拓真が眉をひそめる。

「今からか?」

「そう!」

美咲は満面の笑みで頷いた。

「バイクで来たから、家から浴衣を着てくるのは大変でしょ? だから、会場の近くのお店で買って着替えるの!」

「いや、だったら最初から服を――」

「たくにぃ、お願い♡」

美咲が拓真の袖をつまんだ。

拓真の動きが止まる。

「……美咲」

「なーに?」

「お前、俺が断れねぇの分かってて言ってるだろ」

「えー? 何のこと?」

「その顔やめろ!」

「どの顔?」

「それだよ!」

相馬と塚井が、そっと視線を交わす。

「……始まったな」

「……ああ」

美咲は気にせず続けた。

「浴衣三着と、帯三本、下駄三足! あと髪飾りと着付けの小物も!」

「三人分!?」

「だって三人で着るんだもん!」

「いや、そういう問題じゃ――」

美咲は首を傾げた。

「たくにぃ?」

「……何だ」

「美琴と柚葉の浴衣姿、見たくないの?」

拓真が固まった。

「……っ!」

美咲は勝利を確信したように笑う。

「じゃ、決まりね!」

「まだ決まってねぇ!」

「お願い、たくにぃ♡」

「……分かった! 買えばいいんだろ!」

「やったー!」

美咲が飛び跳ねる。

「さっすが、たくにぃ! 大好きー!」

「お前の『大好き』は高くつくんだよ!」

「えー? そんなことないよー?」

「もういい! 店に行くぞ!」

拓真は大股で歩き出した。

その背中を見送る相馬と塚井。

「……総長、完全に押し切られたな」

「俺たち、あの人には逆らわねぇ方がいいぞ」

「……今さらだろ」

二人は深いため息をついた。

■三人分の浴衣

会場近くの衣料品店。

浴衣売り場。

美咲は目を輝かせながら、次々と浴衣を選んでいた。

「美琴にはこれが似合いそう!」

「柚葉はこっち! 柔らかい色が可愛い!」

まだ美琴と柚葉は到着していない。

美咲はスマートフォンで二人に写真を送り、選んだ浴衣を見せた。

『美琴、これどう?』

『えっ、可愛い!』

『柚葉はこっち!』

『わぁ……綺麗』

二人から返事が届く。

美咲は満足げに笑った。

「よし、二人ともこれで決まり!」

その後ろで、拓真はレジに積み上がる商品を見ていた。

浴衣三着。

帯三本。

下駄三足。

髪飾り三つ。

着付け用の小物。

そして、なぜか美咲が追加した巾着まで。

「……おい、美咲」

「なーに?」

「これ、本当に全部必要か?」

「必要!」

即答だった。

「だって、浴衣だけじゃ足りないじゃん!」

「……」

拓真は黙って財布を取り出した。

会計が終わる。

拓真は大きな袋を両手に抱えて店を出た。

その姿を見て、相馬と塚井が呟く。

「……総長の財布が」

「……死んでいく」

■駅で合流

同じ頃。

会場近くの駅。

美琴と柚葉は、動きやすい夏服姿で電車を降りた。

浴衣は会場近くで買うことになっている。

改札を出ると、相馬と塚井が待っていた。

「美琴さん、柚葉さん! こちらです!」

「相馬さん、塚井さん。こんにちは」

美琴が頭を下げる。

「今日はよろしくお願いします」

柚葉も続いた。

「こちらこそ! 何かあったら、すぐ俺たちに言ってください!」

相馬が勢いよく答える。

塚井も頷いた。

「会場まで、しっかりお守りします!」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」

美琴が困ったように笑う。

二人は顔を見合わせた。

「……緊張してるか?」

「してねぇよ!」

「してるじゃん!」

柚葉がくすっと笑った。

「ふふっ。お二人って、仲がいいんですね」

「いや、別に!」

「そんなことないです!」

二人の返事が重なった。

美琴と柚葉は、また笑った。

会場へ向かう道。

美琴は、隣を歩く柚葉をちらりと見た。

「……ねえ、柚葉」

「ん?」

「烈君に会えるの、楽しみ?」

「えっ!?」

柚葉の頬が一気に赤くなった。

「な、何でそうなるの!?」

「だって、さっきからずっと楽しそうだから」

「そ、それは……花火大会だからだよ!」

「ふーん?」

美琴がにっこり笑う。

「そっかぁ」

「美琴……!」

柚葉は恥ずかしそうに顔を伏せた。

相馬と塚井は、聞こえないふりをして前を歩いている。

だが。

相馬が小声で呟いた。

「……青春だな」

塚井が頷く。

「……青春だな」

「聞こえてるよ!」

美琴が振り返る。

「す、すみません!」

二人が同時に頭を下げた。

柚葉は思わず吹き出した。

その笑い声につられて、美琴も笑う。

■五人、合流!

拓真の屋台通り。

美咲は、店の前で美琴と柚葉を待っていた。

「おーい! こっちこっち!」

「お姉ちゃん!」

美琴が駆け寄る。

「柚葉も! 待ってたよ!」

「美咲ちゃん、こんにちは!」

柚葉が笑顔で頭を下げた。

「浴衣、用意してあるからね!」

美咲が胸を張る。

美琴は驚いた。

「えっ、もう買ったの?」

「うん! たくにぃに買ってもらった!」

その後ろで、拓真が大きな袋を抱えていた。

「……買わされた、の間違いだろ」

「細かいことは気にしない!」

「お前が言うな!」

美咲は笑いながら、二人を店の奥へ案内した。

「さ、着替えよう!」

しばらくして。

店の奥から、三人が出てきた。

美咲は明るい色の浴衣。

美琴は落ち着いた可愛らしい柄。

柚葉は柔らかな色合いの浴衣に、可愛い髪飾り。

三人とも、いつもの服装とは違っていた。

「どう? たくにぃ!」

美咲がくるりと回る。

拓真は一瞬、言葉を失った。

「……おう」

そして、少しだけ笑った。

「似合ってるじゃねぇか」

「でしょー?」

美咲は満足げに胸を張った。

美琴も嬉しそうに笑う。

「お兄ちゃん、ありがとう」

その一言で、拓真の表情がさらに緩む。

「……おう。楽しんでこい」

柚葉も頭を下げた。

「ありがとうございます。大切に着ますね」

「気にすんな」

拓真は照れ隠しのように顔をそらした。

「……美咲には、後で請求書を出す」

「えーっ!?」

「冗談だ」

「もう、たくにぃったら!」

美咲は笑いながら拓真の腕を叩いた。

その光景を、少し離れた場所から見ていた男たち。

隼人。

烈。

相馬。

塚井。

四人は、そろって無言だった。

やがて隼人が口を開く。

「……なあ」

烈が頷く。

「ああ……」

相馬も頷く。

「間違いねぇ……」

塚井が最後に呟いた。

「……悪魔だ」

四人の視線の先では、美咲が拓真に向かって手を振っていた。

「たくにぃー! あとで屋台にも行くからねー!」

「おう! 好きなもん食ってけ!」

「やったー!」

拓真は笑顔で手を振り返す。

その姿を見た四人は、さらに顔を青くした。

「……総長まで手玉に取ってやがる」

「美咲、恐ろしい女だな……」

「おい、隼人。お前、あいつの彼氏だろ?」

烈が肩を叩く。

「今のうちに逃げた方がいいんじゃねぇか?」

「うるせぇ! 俺は美咲が好きなんだよ!」

隼人は即答した。

その言葉に、美咲が振り返る。

「……隼人?」

「……あ」

一瞬の沈黙。

美咲がにっこり笑った。

「今、何か言った?」

「いや、何も?」

「ふーん?」

美咲が一歩近づく。

隼人は一歩下がる。

烈が腹を抱えて笑った。

「かっかっか! お前、彼女にも勝てねぇのかよ!」

「うるせぇ、馬鹿壁!」

「誰が馬鹿壁だ!」

「お前だよ!」

「二人とも、いい加減にしなさい!」

美咲の声が飛ぶ。

烈と隼人は、ぴたりと動きを止めた。

その後ろで、美琴と柚葉が顔を見合わせて笑っている。

相馬と塚井は、そっと拓真の方を振り返った。

拓真は満足げに笑っていた。

「……あいつら、楽しそうだな」

相馬が小さく呟く。

「……総長」

「ん?」

「美咲さん、やっぱり悪魔です」

拓真は即答した。

「知ってる」

そして。

「……だが、可愛い妹分なんだよ」

相馬と塚井は、もう何も言えなかった。

■屋台巡り

五人が合流し、浴衣への着替えも済ませた頃。

会場は、すっかり祭りの熱気に包まれていた。

「よし! 食うぞ!」

烈が叫ぶ。

「まずは焼きそばだ!」

「待ちなさい! 全員で回るんだから、一人で突っ走らない!」

美咲の声が響く。

烈と隼人は顔を見合わせた。

「……始まったな」

「……ああ」

美琴と柚葉が、後ろでくすくす笑う。

屋台通り。

烈は焼きそばを片手に、次の屋台を探していた。

「次はたこ焼きだな!」

「まだ食うの!?」

美咲が目を丸くする。

「当たり前だろ!」

「花火が始まる前にお腹壊さないでよね……」

隼人が笑う。

「まあ、烈なら大丈夫だろ」

「お前も食え!」

「俺は食ってるよ!」

「もっと食え!」

「何でだよ!」

二人が騒いでいる間に、美咲は烈の口元を見た。

「烈、ちょっと止まって」

「ん?」

美咲がティッシュを取り出し、烈の口の端を拭く。

「ソースついてる」

「お、サンキュー!」

烈は何の気なしに笑った。

「美咲、気が利くな!」

「はいはい」

美咲は呆れたように笑う。

その様子を見て、柚葉は胸の奥がきゅっとなった。

烈君って、こういうところが自然なんだ。

本人は何も考えていないのに、周りがつい世話を焼いてしまう。

そんなところも、好きだった。

「柚葉、これ食べるか?」

烈が、りんご飴を差し出した。

「えっ?」

「俺、こっちの焼きそば食うから。甘いの好きだろ?」

「……う、うん!」

柚葉は嬉しそうに受け取った。

「ありがとう、烈君」

「おう!」

烈は焼きそばを頬張る。

「うめぇ!」

柚葉はりんご飴を見つめた。

――烈君から、もらっちゃった。

たったそれだけのことなのに。

胸が、いっぱいになる。

美琴はそんな柚葉を見て、そっと微笑んだ。

そして。

「……柚葉、よかったね」

「……美琴!」

柚葉は真っ赤になった。

「何でもないよ?」

美琴は楽しそうに笑った。

■花火が上がる

やがて。

会場のアナウンスが響いた。

『まもなく、花火大会を開始いたします』

人々が空を見上げる。

屋台の明かり。

夏の夜風。

遠くから聞こえる歓声。

五人も、花火が見やすい場所へ移動した。

「おお……!」

烈が空を見上げる。

「すげぇな……!」

一発目。

夜空に大きな花が咲いた。

――ドォォォン!

赤。

青。

金色。

次々と広がる光に、柚葉は息を呑んだ。

「……綺麗」

その隣で、烈が子供のように目を輝かせていた。

「見ろよ、柚葉! あれ、すっげぇぞ!」

「うん!」

「次、でっかいの来るんじゃねぇか!?」

「ふふっ、そうかな?」

「絶対そうだ!」

烈は真剣だった。

柚葉は、そんな横顔を見つめる。

花火よりも。

今は、烈君の方が気になる。

けれど。

その気持ちを口にすることはできなかった。

ただ、隣に立って。

同じ空を見上げている。

それだけで、幸せだった。

少し離れた場所では、美琴が姉と隼人を見ていた。

隼人は花火に夢中になっている。

「おおっ、今のすげぇ!」

「……隼人」

美咲が呆れたように呼ぶ。

「何だよ?」

美咲は少しだけ頬を膨らませた。

「……あんた、今日くらい私のことも見なさいよ」

「え?」

隼人が振り向く。

「せっかく二人で来てんだからさ」

隼人は一瞬、黙った。

そして、少し照れくさそうに笑う。

「……悪い」

隼人はそっと美咲の手を取った。

「……来年も来ようぜ」

美咲の頬が赤くなる。

「……来年も?」

「ああ」

隼人は笑う。

「来年も、その次も。こうやって一緒に来ようぜ」

美咲はしばらく黙っていた。

そして。

握られた手を、そっと握り返す。

「……うん」

小さく笑う。

「約束だからね」

「おう!」

二人の頭上で、大きな花火が夜空いっぱいに広がった。

美琴は、そんな二人を見て微笑んだ。

そして。

「お姉ちゃん、私、たくにぃのところに行ってるね」

「え? いいの?」

「うん。屋台も見たいし」

美琴は、姉の手をそっと離した。

「二人でゆっくり見てて」

美咲は少しだけ驚いたあと、優しく笑った。

「……ありがと、美琴」

「うん!」

美琴は人混みを避けながら、拓真の屋台へ向かっていった。

その背中を見送って、隼人が呟く。

「……妹、気が利くな」

「……ほんとね」

二人の間に、静かな時間が流れた。

今度は、誰にも邪魔されずに。

二人は手をつないだまま、夜空を見上げていた。

■花火のあと

花火大会が終わる頃。

拓真の屋台通りも、ようやく落ち着き始めていた。

相馬と塚井は、汗だくになりながら片付けをしていた。

「……疲れた」

「……ああ」

その時。

拓真が二人の前に現れた。

「お疲れ」

「総長!」

二人が姿勢を正す。

拓真は屋台を見渡した。

「片付けは残りを他の連中に任せる」

「……はい?」

「美琴と柚葉を送ってこい」

相馬と塚井は顔を見合わせた。

拓真は念を押す。

「駅までじゃねぇぞ。家まで、しっかり送り届けろ」

「了解です!」

「何かあったら、すぐ連絡しろ」

「はい!」

拓真は二人の肩を叩いた。

「頼んだぞ」

「お任せください!」

二人は力強く返事をした。

その後。

美琴と柚葉が戻ってくる。

「お兄ちゃん、今日はありがとう!」

美琴が笑顔で言う。

「浴衣もすごく嬉しかった!」

拓真は少しだけ照れた。

「……おう。楽しめたならよかった」

柚葉も頭を下げる。

「拓真さん、本当にありがとうございました」

「気にすんな。また遊びに来い」

そして拓真は、相馬と塚井を見た。

「……頼んだぞ」

「「はい!」」

二人はすぐに美琴と柚葉の側についた。

「では、帰りましょうか」

「うん。お願いします」

美琴が頷く。

柚葉も笑った。

「今日は楽しかったね、美琴」

「うん! またみんなで行こうね」

二人は並んで歩き出す。

相馬と塚井は、その少し後ろをついていった。

一方。

駐車スペース。

烈、隼人、美咲の三人も帰り支度をしていた。

「……いやー、楽しかったな!」

烈が満足げに伸びをする。

「食ったし、花火も見たし、最高だったぜ!」

「お前、食った話ばっかじゃねぇか」

隼人が笑う。

「うるせぇ!」

美咲は二人を見て、呆れたように笑った。

「ほんっと、あんたたちは……」

そして。

「でも、楽しかったね」

その言葉に、隼人が頷く。

「ああ」

烈も笑った。

「また行こうぜ!」

「うん!」

美咲が答える。

三人は、それぞれのバイクへ向かった。

ヘルメットを被る前に、隼人が美咲を見る。

「……美咲」

「ん?」

「浴衣、似合ってたぞ」

美咲の頬が赤くなる。

「……今さら?」

「いや、ちゃんと言っとこうと思って」

隼人は少し照れくさそうに笑った。

「……可愛かった」

「……ばか」

美咲は隼人の腕を軽く叩いた。

「そういうの、もっと早く言いなさいよ」

「はいはい」

「はいは一回!」

「はい!」

烈が二人を見て、腹を抱えて笑った。

「かっかっか! お前ら、ほんっと仲いいな!」

「うるせぇ!」

「烈、あんたも早く帰る準備!」

「はい!」

最後まで、いつもの調子だった。

三台のバイクが、夜の道へ走り出す。

もちろん、速度は控えめに。

信号を守り、互いの位置を確認しながら。

夏の夜風が、三人の身体を通り抜けていった。

帰り道。

美琴と柚葉は、相馬と塚井に付き添われながら、それぞれの家へ向かっていた。

「今日は本当に楽しかったね」

柚葉が言う。

「うん!」

美琴が笑った。

「お姉ちゃんも、隼人君も、烈君も……みんな楽しそうだった」

柚葉は少しだけ顔を赤くする。

「……うん」

美琴は、その表情を見て微笑んだ。

「柚葉」

「な、何?」

「……また、一緒に行こうね」

柚葉は顔を上げた。

そして、嬉しそうに頷いた。

「……うん!」

その笑顔は、花火の光にも負けないくらい明るかった。

夏の夜。

花火は終わった。

けれど。

五人の思い出は、まだ終わらない。

烈と隼人の悪ふざけ。

美咲の突っ込み。

美琴の優しさ。

柚葉の恋心。

そして。

いつか、またみんなで行こうという約束。

この日の花火は、五人の胸に確かに残っていた。

第2章「BLAC-KOUTライバル編」第17話「夏のツーリングと花火大会」――完。

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