第16話「初ライブ!NOIZ JAC、ステージへ!」
「BURN BEAT」
第16話「初ライブ! NOIZ JACK、ステージへ!」
――夏。
ライブ当日。
ライブハウスの裏口に、一台のバイクが停まった。
降りてきたのは、朝倉烈。
「よっしゃあ! 今日は暴れるぜぇ!」
「お前、ライブで暴れるなよ。ドラム叩くんだからな」
藤堂隼人が呆れた顔でツッコむ。
「分かってるって!」
「本当かよ……」
隼人は苦笑しながら、裏口の扉を開けた。
そこは、二人にとって見慣れた場所だった。
「烈、そっちもってくれ」
「OKまかせろ。隼人手際良いな。」
隼人はこのライブハウスでアルバイトをしている。
「まぁな。伊達にバイトしてねーよ。機材の搬入も、ステージの準備も、何度もやってるし。兄貴たちのライブの時だって、何度か手伝ってるしな。」
だが、今日はいつもと違う。
観客としてではない。
自分たちがステージに立つのだ。
「……ついに来たな」
烈が拳を握る。
隼人は、その肩を軽く叩いた。
「ああ。俺たちの初ライブだ」
二人は顔を見合わせる。
「絶対、成功させようぜ!」
「おう!」
その時。
「ちょっと! あんたたち、入口で気合い入れてないで、さっさと準備しなさいよ!」
神崎美咲が現れた。
ベースケースを肩に掛け、いつもの小悪魔じみた笑顔を浮かべている。
「へいへい、分かってますよ、美咲ちゃん」
隼人が軽く手を振る。
「誰が美咲ちゃんよ!」
ゴツン!
「いってぇ!」
「ライブ前に余計なこと言ってんじゃないわよ!」
「……かっかっか! 今日も平和だな!」
烈が豪快に笑う。
「烈、あんたも!」
「なんで俺まで!?」
そんなやり取りをしながら、三人はライブハウスの中へ入っていった。
開演前
ステージ裏では、出演バンドの準備が進んでいた。
烈はドラムセットの前に座り、スティックを握る。
「……」
見覚えのあるドラム。
なのに、今日は妙に大きく見えた。
客席から聞こえてくる声。
スタッフが機材を確認する音。
他のバンドのメンバーが交わす会話。
すべてが、いつもとは違う。
「……緊張してんのか?」
隼人が声をかけた。
「してねぇ!」
「顔に書いてあるぞ」
「書いてねぇよ!」
「じゃあ、なんでスティック逆さまに持ってんだ?」
「……あっ」
烈は慌てて持ち直した。
「うるせぇ!」
隼人が吹き出す。
「はははっ! 大丈夫だって。いつも通りやればいい」
「……おう」
美咲もベースを構えながら、二人を見た。
「ま、最初から完璧にやろうなんて思わなくていいんじゃない?」
「美咲ちゃん、優しい!」
隼人が感激したように言う。
「ただし、隼人。あんたがミスったら、あとで覚えてなさいよ」
「前言撤回!」
「ふふっ」
美咲が笑う。
その時だった。
「おーい! NOIZ JACK!」
入口から、聞き慣れた声が響いた。
「おっ!」
烈が顔を上げる。
そこにいたのは――。
神崎拓真。
そして、Black Magicianの面々だった。
「たくにぃ!」
美咲が手を振る。
「おう、ミサミサ。今日は楽しみにしてるぞ」
拓真は普段、周囲を威圧するような男だ。
だが、従妹たちの前では別人だった。
「ちゃんとチケット持ってる?」
美咲が尋ねる。
「当たり前だろ」
拓真が胸を張る。
「仲間の分もな」
「さすが、たくにぃ!」
美咲が満面の笑みを浮かべる。
その後ろでは、相馬たちが苦笑していた。
「……総長、結局、俺たち全員分買わされたんすよね」
「うるせぇ」
拓真が睨む。
「美咲たちの初ライブだぞ。応援しねぇわけにいかねぇだろ」
「へいへい……」
「何か言ったか?」
「いえ、何も!」
烈と隼人は顔を見合わせる。
「……やっぱ、美咲って怖ぇな」
「……ああ」
「聞こえてるわよ!」
ゴツン!
「いってぇ!」
「なんで俺まで!?」
今日もまた、いつもの光景だった。
リハーサル
開演前。
ステージでは、出演バンドの音響チェックが行われていた。
スタッフがマイクやアンプを確認し、各バンドが順番に音を出していく。
「次、NOIZ JACK。簡単に音を合わせてくれ!」
スタッフに呼ばれ、烈たちはステージへ上がった。
「うわ……本番前なのに、もう緊張してきた」
隼人がギターを構える。
「何言ってんのよ。リハーサルなんだから、失敗してもいいでしょ」
美咲がベースのケーブルを確認する。
「烈、まずはドラムだけ叩いてみてくれ」
「おう!」
烈がスティックを構え、軽くカウントを取る。
ドン、ドン、ドン。
ライブハウスの中に、ドラムの音が響いた。
「キック、もう少し上げてください!」
隼人がスタッフに声をかける。
「ギター、音が少しこもってるわね」
美咲もアンプのつまみを調整する。
「よし、じゃあ一曲目の頭だけ合わせるぞ」
隼人が二人を見る。
「本番と同じように?」
「そう。烈、走るなよ」
「走らねぇって!」
「さっきからずっと言ってるけど、顔に出てるわよ」
「出てねぇ!」
三人は顔を見合わせた。
「いくぞ!」
隼人のカウントに合わせ、演奏が始まる。
烈のドラムが鳴り、隼人のギターと美咲のベースが重なった。
だが、数小節進んだところで、烈のリズムがわずかに速くなる。
「ストップ!」
隼人が手を上げた。
「烈、今ちょっと走ったぞ」
「マジか?」
「マジよ。もう一回、落ち着いて」
美咲が苦笑する。
「……くそっ。本番じゃ絶対に走らねぇからな!」
烈が悔しそうにスティックを握り直す。
「その意気だ。もう一回いくぞ」
今度は、三人の音がしっかりと噛み合った。
スタッフが頷く。
「いい感じです。本番もそのままでお願いします!」
「よっしゃあ!」
烈が拳を突き上げる。
ステージを降りると、拓真たちが拍手をしていた。
「いいじゃねぇか!」
「本番、楽しみにしてるぜ!」
烈は照れくさそうに頭をかく。
「へへっ……見てろよ!」
隼人はギターを背負い直した。
「これで準備は万端だな」
美咲も頷く。
「後は本番を楽しむだけね」
三人はステージを見上げた。
開演まで、もうすぐだった。
BLAC-KOUT
開演時間が近づく。
出演バンドが順番にステージへ上がっていく。
そして。
「次は、BLAC-KOUT!」
スタッフの声が響いた。
客席から歓声が上がる。
ステージに現れたのは、黒を基調とした衣装の四人組。
ベース兼ボーカルの黒崎。
ギターの瀬戸。
ドラムの滝沢。
そして、キーボードの九条怜司。
怜司は無表情のまま、鍵盤の前に座った。
「……始めるか」
短く呟く。
最初の音が鳴った瞬間。
空気が変わった。
重いベース。
鋭いギター。
力強いドラム。
そして、怜司のキーボードが楽曲全体を支える。
BLAC-KOUTの演奏は、荒々しいだけではなかった。
緻密に組み立てられた音。
計算された展開。
メンバーそれぞれの技術も高い。
「……すげぇな」
烈が思わず呟く。
隼人も真剣な表情でステージを見つめていた。
「……ああ。あいつら、やっぱり上手い」
美咲も頷く。
「悔しいけど、認めるしかないわね」
そして最後の曲
LUNA SEAのROSIERで場内のボルテージは最高潮になる。
やがて、BLAC-KOUTの演奏が終わった。
歓声と拍手。
メンバーたちは満足げにステージを降りていく。
怜司だけが、最後まで客席を見ていた。
視線の先には――。
烈たち、NOIZ JACK。
「……あれが、今日の新人か」
怜司は隼人のギターを見つめる。
「……面白い音を出しそうだな」
そう呟くと、静かにステージ裏へ消えていった。
NOIZ JACK、出撃!
「次は――NOIZ JACK!」
スタッフの声が響く。
烈の心臓が跳ねた。
「……来た」
隼人がギターを背負い直す。
美咲もベースのストラップを肩に掛ける。
三人はステージ袖で顔を見合わせた。
「……行くぞ」
隼人が言う。
「おう!」
烈が返す。
美咲が笑った。
「楽しもうね!」
三人はステージへ歩き出した。
眩しい照明。
目の前に広がる客席。
その中には、烈の中学時代の友人たち。
隼人の友人たち。
そして、Black Magicianの面々。
「おおおおっ!」
客席から歓声が上がる。
烈は思わず笑った。
「……すげぇ」
こんなにたくさんの人が、自分たちを見ている。
隼人がマイクを持つ。
「どうも! NOIZ JACKです!」
拍手が響く。
「今日は俺たちの初ライブだ! 最後まで楽しんでいってくれ!」
「よろしくお願いしまーす!」
美咲が明るく手を振る。
烈はドラムスティックを構えた。
「……よっしゃあ!」
隼人が振り返る。
「烈、頼むぞ!」
「任せろ!」
最初の曲。
相川七瀬の――。
「夢見る少女じゃいられない」
烈がスティックを振り上げる。
――カウント。
ワン、ツー、スリー、フォー!
ドラムが鳴り響いた。
しかし。
「……あっ!」
烈のリズムが、一瞬だけ走った。
隼人のギターがわずかにずれる。
美咲も気づいた。
だが。
「……っ!」
隼人がすぐにリズムを立て直す。
美咲がベースで音を支える。
烈も必死に合わせ直した。
そして。
曲が進むにつれて、三人の音が一つになっていく。
烈のドラムはまだ粗い。
それでも。
力強さだけは、誰にも負けていなかった。
「……いいじゃねぇか!」
客席から声が飛ぶ。
Black Magicianの面々も、拳を突き上げている。
「行けぇぇぇっ!」
「NOIZ JACK!」
「烈ぃぃぃっ!」
その声を聞いた瞬間。
烈の身体が熱くなった。
「……これだ!」
胸の奥から、何かが込み上げる。
喧嘩とは違う。
拳を振るうのとも違う。
音が客席へ届く。
客席の声が、自分たちへ返ってくる。
「サイコーじゃねぇか!」
烈は笑った。
スティックを振るう。
ドン!
ドン!
ドン!
ドン!
ドラムの音が、ライブハウスを揺らした。
初ライブの熱
二曲目は、Avril Lavigneの「Sk8er Boi」。
隼人のギターが軽快に走り、美咲のベースが曲を支える。
烈は必死に食らいついた。
最初の曲よりも、少しだけ余裕がある。
「……いける!」
三曲目は、BOØWYの「NO. NEW YORK」。
隼人がギターをかき鳴らす。
美咲が笑顔でベースを弾く。
烈は全身でリズムを刻む。
「もっと来いよぉぉぉ!」
烈の叫びに、客席が沸く。
演奏は決して完璧ではない。
だが、三人は止まらなかった。
そして。
最後の曲。
NOIZ JACKのオリジナル。
「君にだけ、素直になれない」
隼人が客席を見る。
「最後の曲だ! 聴いてくれ!」
美咲のベースが鳴る。
烈がリズムを刻む。
そして、隼人のギターが歌い始めた。
三人で何度も練習した曲。
何度も失敗した曲。
それでも、諦めずに作り上げた曲。
その音が、ライブハウスに広がっていく。
客席では、友人たちが手を振っていた。
拓真たちも拳を突き上げている。
「いいぞぉぉぉ!」
「最高だ!」
烈は笑った。
「……音楽って、こんなに楽しいのかよ!」
最後の一打。
――ドォン!
演奏が終わった。
一瞬の静寂。
そして。
大きな歓声と拍手が、三人を包み込んだ。
「NOIZ JACK!」
「NOIZ JACK!」
烈は息を切らしながら、客席を見つめた。
汗が頬を伝う。
心臓が激しく鳴っている。
それでも。
笑いが止まらなかった。
「……最高だ」
隼人が肩を叩く。
「だろ?」
美咲も笑う。
「やったね!」
三人は顔を見合わせた。
初ライブ。
完璧ではなかった。
それでも。
確かに、自分たちの音を届けた。
ステージの外で
ライブハウスのドリンクカウンター。
店長の佐伯剛は、忙しそうにグラスを並べていた。
「いやぁ、今日は客が多いな!」
Black Magicianの面々が大勢で来ているため、ドリンクの注文が途切れない。
「佐伯さん、こっち追加!」
「はいよ!」
佐伯は笑いながらドリンクを渡す。
そして、ステージを見る。
そこには、演奏を終えた烈たちがいた。
「……あのドラムの坊主」
佐伯が呟く。
「まだまだ荒いが……」
一瞬、目を細める。
「面白いもん持ってやがる」
烈のドラムには、まだ課題が多い。
リズムの安定。
手足の独立。
細かな音のコントロール。
だが。
あの全身で叩く姿。
客席の声を受けて、さらに熱を増していく勢い。
それは、技術だけでは身につかないものだった。
「……こりゃ、これからが楽しみだな」
佐伯は笑った。
少女の記憶
客席の後方。
白石柚葉は、ステージを見つめていた。
「……烈君」
小さく呟く。
彼女は、烈を知っていた。
中学一年の頃。
自分と弟が、年上の不良たちに絡まれた時。
助けてくれた少年。
「嬢ちゃん、こっちは任せとけ!」
そう言って、迷わず前に出た。
そして。
「ほら、行け!」
自分たちを逃がしてくれた。
最後にハンカチを渡してくれたことも、覚えている。
けれど。
烈は、きっと覚えていない。
柚葉は少しだけ笑った。
「……すごいね、烈君」
ステージの上で、烈は仲間たちと笑っていた。
あの時と同じ。
真っ直ぐで。
不器用で。
だけど。
誰かを守ろうとする人。
柚葉の胸が、少しだけ温かくなった。
次の夢
ステージ裏。
美琴は、姉の演奏を見つめていた。
美咲がベースを弾く姿。
隼人がギターをかき鳴らす姿。
烈が全身でドラムを叩く姿。
そのすべてが、眩しかった。
「……いいな」
美琴は自分の手を見つめる。
自分もベースを弾く。
家では、何度も練習してきた。
でも。
ステージに立つことは、考えたことがなかった。
「……私も」
小さく呟く。
「一緒に弾きたい」
その言葉は、まだ胸の中にしまわれていた。
知略鬼の怜司
NOIZ JACKの演奏が終わり、次のバンドへの転換が始まった。
その時。
客席の通路で、数人の男たちが美琴を囲んでいた。
「ねえ、君。一人?」
「ちょっと俺たちと飲みに行かない?」
「や、やめてください……」
美琴が後ずさる。
その様子に気づいた拓真たちが動こうとした。
「おい、あいつら……」
相馬が立ち上がる。
だが。
その前に、一人の男が割って入った。
「……みっともねーことしてんな!」
九条怜司だった。
男たちが振り返る。
「何だ、お前?」
「関係ねぇだろ」
怜司は冷たい目で見返した。
「嫌がってんのが分かんねぇのか?」
男の一人が怜司の胸ぐらを掴もうとする。
だが。
次の瞬間。
怜司は相手の腕を払い、足を掛けて床へ倒した。
「ぐっ……!」
別の男が殴りかかる。
怜司は身体をわずかにずらし、拳をかわす。
そして、腹部へ一撃。
男がうずくまった。
残りの男たちが怯む。
「……まだやるか?」
怜司が静かに尋ねる。
誰も答えなかった。
「なら、失せろ」
男たちは舌打ちしながら去っていった。
美琴は呆然としていた。
「……あ、ありがとうございます」
怜司は美琴を一瞥する。
「礼はいらねぇ」
そう言って立ち去ろうとした。
その時。
「……九条怜司」
拓真が名前を呼んだ。
怜司が振り返る。
「知ってんのか」
「知ってるさ」
拓真は口元を緩める。
「知略鬼の怜司。頭が切れる上に、喧嘩も強いって噂だ」
その言葉を聞き、少し離れた場所にいた烈と隼人も顔を見合わせた。
「……あいつが噂の知略鬼の怜司か?」
「……マジかよ」
怜司は面倒そうに肩をすくめる。
「好きに呼べばいい」
拓真が頭を下げた。
「妹を助けてくれて、ありがとな」
「……別に」
怜司は美琴を見ずに答えた。
「あんなみっともねぇ真似、目の前でされんのが気に入らなかっただけだ」
そして。
怜司は人混みの中へ消えていった。
美琴は、その背中を見つめていた。
「……九条、怜司さん」
胸の奥に、小さな興味が芽生えていた。
Luminous
そして。
この日のトリを務めるバンド。
Luminous。
ステージに現れた五人の女性に、客席から大きな歓声が上がった。
全員二十歳。
アマチュアながら、すでに高い人気を持つバンドだった。
ボーカル兼ギターの橘美月。
リードギターの桜井莉緒。
ベースの水野梨花。
ドラムの小川奈々。
キーボードの白井真帆。
美月がマイクを握る。
「みんなー! 最後まで楽しんでいこうね!」
歓声が響く。
一曲目から、圧倒的な演奏。
美月の伸びやかな歌声。
莉緒の鋭いギターソロ。
梨花の安定したベース。
奈々の力強いドラム。
真帆の繊細なキーボード。
五人の音が、完璧に噛み合っていた。
「……すげぇ」
烈はステージを見つめる。
自分たちとは、まだ大きな差がある。
でも。
「……いつか」
拳を握る。
「俺たちも、あんなふうに……」
隼人が笑う。
「なれるさ」
「……おう!」
美咲も頷いた。
「そのために、練習するんでしょ?」
「……そうだな!」
烈は再びステージを見た。
音楽の世界は、まだまだ広い。
そして。
自分たちは、その入口に立ったばかりなのだ。
新しい仲間
ライブが終わり、客席が少しずつ空いていく。
NOIZ JACKの三人は、ステージ裏で片付けをしていた。
「いやぁ……疲れた!」
烈が床に座り込む。
「でも、楽しかっただろ?」
隼人が笑う。
「おう! サイコーだったぜ!」
美咲も満足そうに笑った。
「初ライブ、大成功……かな?」
「だろ!」
烈が胸を張る。
「俺たち、最高だったもんな!」
「……まあ、最初のリズムはちょっと走ってたけどね」
美咲が笑う。
「うっ……そこは言うな!」
隼人が肩を揺らして笑う。
「次はもっと上手くやろうぜ」
「ああ!」
その時。
「……お姉ちゃん」
美琴が近づいてきた。
「ん? どうしたの、ミコ?」
美咲が振り返る。
美琴は少しだけ俯いた。
そして。
「……私も」
顔を上げる。
「私も一緒にベースを弾きたい」
一瞬。
美咲が目を見開いた。
「……ミコ」
美琴は真剣だった。
「家で練習してるだけじゃなくて……みんなと一緒に音を出したい」
「ステージにも立ってみたい」
美咲は妹を見つめた。
やがて。
満面の笑みを浮かべる。
「……そっか!」
美咲は美琴を抱きしめた。
「ようこそ、NOIZ JACKへ!」
「……お姉ちゃん」
「これから一緒に頑張ろうね!」
美琴の目に涙が浮かぶ。
「……うん!」
隼人が笑った。
「待ってたぜ、ミコ!」
「……よろしくお願いします」
烈も立ち上がる。
「おおっ! これで四人だな!」
「そうだね!」
美咲が笑う。
「ミコ、ベースは私が教えるからね!」
「うん、お姉ちゃん!」
隼人はギターを背負い直した。
「よし! 次は四人でライブだ!」
「おう!」
烈が拳を突き上げる。
その声が、ライブハウスに響いた。
第1章、完結
帰り道。
烈は夜空を見上げていた。
初めてのライブ。
大勢の観客。
歓声。
拍手。
そして。
自分たちの音楽を聴いてくれる人たち。
「……音楽って、すげぇな」
隼人が隣で笑う。
「今さら気づいたのかよ」
「うるせぇ!」
美咲と美琴も笑った。
四人になったNOIZ JACK。
まだまだ未熟だ。
演奏も、技術も、経験も足りない。
けれど。
これから、もっと強くなる。
もっと上手くなる。
そして。
いつか。
誰もが知るバンドになる。
烈は拳を握った。
いや。
今は拳じゃない。
手にあるのは、ドラムスティックだ。
「……よっしゃあ!」
烈が叫ぶ。
「明日から、もっと練習だ!」
隼人が笑う。
「おう!」
美咲も頷く。
「もちろん!」
美琴も小さく笑った。
「……頑張ろうね」
四人は歩き出した。
それぞれの夢を胸に。
NOIZ JACKとして。
――俺達のリングはステージだ。
第1章「NOIZ JACK誕生編」――完。
第2章「BLAC-KOUTライバル編」へ続く。




