第八話 「既読」
## 第八話 「既読」
水曜の夜。
春翔は大学の図書館でレポートを書いていた。
パソコン画面には難しそうな文章が並んでいる。
でも集中できない。
スマホを見る。
まだ二十一時。
「……送るほどでもないんだよな」
LINE画面には、“悠真”の名前。
最後のやり取りは二日前。
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春翔
『来週地獄です。レポート四つ。』
悠真
『生きろ』
春翔
『他人事』
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そこで終わっている。
いつもなら、
バイト終わりに少しやり取りしていた。
でも今週はシフトが被らない。
だから話題もない。
春翔は小さくため息をついた。
その頃。
店では悠真が閉店作業をしていた。
「お疲れー」
「お疲れさまです」
今日一緒だったバイトが先に帰っていく。
静かな店内。
いつもなら、この時間は春翔が洗い物をしていた。
気づけば、
「それ、置いといていいですかー?」
とか、
「悠真さん、疲れてる顔してる」
とか。
そんな声が聞こえていた気がする。
「……慣れって怖」
悠真は小さく呟きながらレジを締める。
スマホが震えた。
無意識に取り出す。
春翔だった。
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春翔
『まだ店ですか?』
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その短いメッセージに、
なぜか少し気が緩む。
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悠真
『今閉店作業』
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既読はすぐついた。
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春翔
『お疲れさまです』
春翔
『今日やばかったです』
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続けて送られてきたのは、レポート画面の写真。
意味不明な文字列が並んでいる。
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悠真
『何これ』
春翔
『俺にもわからんです』
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思わず笑ってしまった。
静かな店内で、一人で。
その瞬間。
またメッセージが来る。
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春翔
『なんか今週変な感じですね』
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悠真の指が止まる。
数秒迷ってから、返信した。
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悠真
『会ってないから?』
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送った瞬間。
少しだけ後悔した。
何聞いてるんだ。
でも既読はすぐにつく。
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春翔
『たぶん』
春翔
『店行っても悠真さんいないし』
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その文字を見た瞬間、
胸の奥が少しざわついた。
悠真はスマホを持ったまま、閉店後の静かな店を見回す。
確かに今週は妙に静かだ。
それが春翔のせいだなんて、
考えたくなかった。
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悠真
『来週また被るだろ』
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すぐに返信。
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春翔
『ですね』
春翔
『じゃあ頑張れそう』
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その一言に、
悠真はまた小さく笑ってしまった。
店内には、もう誰もいない。
なのに今日は、
少しだけ空気が柔らかかった。




