第四話 「閉店後」
## 第四話 「閉店後」
金曜の夜。
予想通り、店はかなり混んだ。
レジは途切れないし、テイクアウトも多い。
気づけば二十一時を回っていた。
「お疲れさまでしたー!」
最後の客を見送って、店のシャッターを半分下ろす。
店内に静けさが戻った瞬間、春翔がカウンターに突っ伏した。
「……死ぬ」
「まだ終わってないけど」
「一回休ませてください」
「五秒だけな」
「ブラックだ」
そう言いながらも、春翔は笑って起き上がる。
疲れているはずなのに、どこか楽しそうだった。
閉店後の店内は、昼間と別世界みたいに静かだ。
コーヒーマシンの音だけが響く。
「悠真さん、洗い物やります?」
「じゃあそっちお願い」
「了解でーす」
二人だけの店内。
他のバイトは先に上がり、店長は奥で事務作業をしている。
自然と会話もゆっくりになる。
「今日、途中やばかったですね」
「どこ」
「レジ七人並んだ時」
「あー……」
「絶対終わったと思った」
「でもお前ちゃんと回してたじゃん」
スポンジを洗う手が、一瞬止まる。
「……褒めても何も出ないですよ」
「事実言っただけ」
「だからそういうとこなんすよ」
「何が」
「いやもういいです」
春翔は苦笑しながら視線を逸らした。
悠真は相変わらず意味がわからない。
ただ、今日の春翔はかなり動けていた。
周りを見て、足りないところを埋めて。
新人っぽさが、だいぶ抜けてきている。
「春翔」
「はい?」
「今日ありがと。かなり助かった」
その瞬間。
春翔が目を丸くした。
「……え、珍しくないですか」
「何が」
「悠真さんからちゃんと褒められるの」
「いつも言ってるだろ」
「言ってないっす」
「言ってる」
「絶対言ってない」
くだらないやり取りなのに、
不思議と空気が心地いい。
洗い物を終えた春翔が、ふう、と息を吐く。
「なんか今日、あっという間だったな」
「忙しかったしね」
「いや、それもあるけど」
春翔は少しだけ迷うように視線を泳がせた。
「……悠真さんいると、時間早いんですよね」
一瞬。
悠真の手が止まった。
「……それ、誰にでも言ってんの」
「え、言わないですけど」
「じゃあ軽々しく言うな」
「なんで怒られてるんすか俺」
春翔が笑う。
その顔を見ていると、妙に調子が狂う。
疲れているはずなのに、
なぜか帰りたくないと思ってしまった。
閉店後の静かな店。
時計はもう二十二時を過ぎている。
なのに今日は、
いつもより少しだけ、夜が短かった。




