第三話 「シフト表」
## 第三話 「シフト表」
月曜の昼過ぎ。
まだ客も少なく、店内にはコーヒー豆を挽く音だけが響いていた。
悠真はバックヤードの壁に、新しいシフト表を貼る。
「来週分、出しましたー」
その声に、休憩中だったバイトたちが集まってきた。
「あ、俺テストあるから少なめだ」
「うわ日曜入ってる最悪」
いつもの会話。
悠真はペンを片付けながら、なんとなくシフト表を見上げた。
——金曜。
春翔、出勤。
その瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。
……いや、別に。
金曜は忙しいから、人手があると助かるだけだ。
「うわ、悠真さんとまた金曜被ってる」
後ろから声がして、悠真は振り返る。
春翔だった。
「何、“また”って」
「いや最近多くないですか?」
「シフト組んでるの俺なんだけど」
「あ、じゃあわざとか」
「違う」
即答すると、春翔が笑った。
「でも助かります。金曜って毎回戦場なんで」
「大げさ」
「ほんとっすよ。悠真さんいると店回るし」
そう言いながら、春翔はシフト表を眺める。
「あ」
「何」
「再来週、俺ちょっと少ないかもです」
「テスト?」
「です。レポート地獄。」
「大学生って感じだな」
「悠真さん、それおっさんみたいですよ」
「二十七だからもう若くはない」
「いや普通に若いでしょ」
さらっと返されて、悠真は少し言葉に詰まった。
春翔はそういうところがある。
変に気を遣わない。
でも踏み込みすぎるわけでもない。
「……そういや」
春翔がふと思い出したように顔を上げる。
「今週金曜、閉店後ちょっと残れます?」
「なんで」
「新メニューの試作あるらしいです。店長が手伝ってほしいって」
「あー、聞いてる」
「じゃあ帰り遅くなるっすね」
どこか嬉しそうな声。
「嫌なの?」
「いや全然。むしろラッキー。」
「またそれ」
「だって閉店後の店、なんか好きなんですよ」
春翔はそう言って笑った。
客がいない静かな店内。
少し暗い照明。
片付け終わりの空気。
確かに、悠真も嫌いじゃない。
でも。
「……お前、ほんと距離近いよな」
「え?」
「いや別に」
なんとなく口にしてしまって、悠真は視線を逸らす。
春翔はきょとんとした顔のまま数秒止まり、それから少しだけ笑った。
「今さらじゃないですか?」
その返しに、悠真は何も言えなかった。




