第十一話 「コンビニ」
## 第十一話 「コンビニ」
駅前で車を停める。
「ありがとうございました」
シートベルトを外しながら、春翔が頭を下げた。
「別に大した距離じゃないし」
「いや普通に助かりました。絶対びしょ濡れだった」
フロントガラスには、まだ雨粒が落ち続けている。
春翔はドアを開けかけて、ふと動きを止めた。
「あ」
「何」
「悠真さん、なんか食べました?」
「まだ」
「やっぱり」
春翔が少し笑う。
「今日休憩まともに取ってなかったじゃないですか」
見られていたことに、悠真は少しだけ驚いた。
「……別に平気」
「そう言うと思った」
そう言って春翔は窓の外を指差す。
二十四時間営業のコンビニ。
「ちょっと寄りません?」
「今から?」
「俺お腹空きました」
「自分が食べたいだけじゃん」
「まあ半分は」
半分。
つまりもう半分は。
その先を考えそうになって、悠真は小さくため息をついた。
「五分だけな」
「やった」
春翔は本当に嬉しそうに笑った。
コンビニの店内は、夜の雨の匂いが少し混ざっていた。
「うわ、肉まんある」
「子どもか」
「雨の日って食べたくならないです?」
春翔は楽しそうに棚を見て回る。
その後ろを歩きながら、悠真は少し不思議な気分になっていた。
バイト終わり。
コンビニ。
ただそれだけ。
なのに妙に特別に感じる。
「悠真さん、コーヒー?」
「ん」
「ブラックかぁ……大人」
「意味わからん」
春翔はカフェオレと肉まんを持ってレジへ向かう。
「これ俺出します」
「いやいい」
「送ってもらったんで」
「数百円で気遣うな」
「こういうの大事なんですー」
結局、春翔は無理やり会計を済ませてしまった。
店を出ると、雨は少し弱くなっていた。
「なんか今日、変な感じですね」
コンビニ袋を揺らしながら、春翔が言う。
「またそれ」
「いやだって、バイト終わりにコンビニ寄るとか初じゃないですか」
「……そうかも」
車へ戻る途中。
春翔がふと足を止めた。
「悠真さん」
「何」
「今日、送ってくれてありがとうございました」
街灯の下。
春翔は少しだけ照れたように笑っていた。
「俺、結構嬉しかったです」
その顔を見た瞬間。
悠真の胸が、小さく痛くなる。
なんでそんな顔するんだ。
なんでそんな真っ直ぐ言うんだ。
「……風邪引くなよ」
それしか言えなかった。
春翔は少し目を丸くして、それから優しく笑う。
「はい。また来週。」
ドアが閉まる。
雨上がりの夜道へ走っていく背中を見ながら、
悠真はしばらく車を出せなかった。




