97 王宮生活開始!?
◇◆◇
翌日。
隣を見ると、パーガトリー君が寝ていた。
「……」
えーと、昨夜はアンディ君との通話のあと、疲れてすぐに寝てしまって……
その時にパーガトリー君には、自室に戻るように言ったはずだけど、どうやら戻らなかったらしい。
いや、目覚めてすぐのイケメンフェイスは心臓に良くない。
美少年はアンディ君で少し慣れたけどさ〜。
いや、パーガトリー君は見た目年齢十代後半くらいだし、やっぱ、良くないわ〜。
「ん……主殿、起きたか……」
「おはよう、パーガトリー君。生体ゴーレムも眠るんだね」
「おはよう。休止モードにしていた……」
そう言って、欠伸をする様は、どう見てもただの美青年だ。
というか、まだうつらうつらしてる。朝は弱いようだ。
その後、パーガトリー君は朝の準備をしにきた侍女に追い出されていた。
流石に着替えは別々だ。
身支度が済むと、私の部屋でパーガトリー君と一緒に朝食を取る。
パーガトリー君はやっぱり朝食も食べず、紅茶だけを飲んでニコニコと、私を見ているのだった。
「食べないの?」
「今は主殿の魔力があるので、大丈夫です。よければ自分の分もどうぞ」
「いや、朝からそんなには食べられないけど……」
「自分は、主殿が幸せであればそれでお腹いっぱいなのです」
朝食を食べ終わると、侍女さんにこの後の予定を説明される。
パーガトリー君はジャイルズ様と護衛騎士の方々が迎えに来たので、魔法・魔術研究所へ。
私も一緒に送り届ける。
魔法・魔術研究所は、その名の通り魔法や魔法技術の研究を行っている施設。
ここは、王宮からは屋根付き通路がつながっていて、徒歩でも行ける距離にある。
ジャイルズ様は元々ここの職員だったらしい。ここで経験を積んでから、ソリダゴ商会に入ったのだとか。
そういえば、アンディ君の亡きお父上は、ここの所長だったような……
何か縁深い場所のようだ。
この後私は、自分の護衛の魔法師のキーリーさんと合流して、暇を潰す予定。
そういえば、私が王宮に来るのは二年前のあの事件以来、久々だった。
あの時は、ドタバタしてて王宮の探索なんて、できなかったもんね。
まあ、王族と親しかったり、身内が王宮で働いていないと一般貴族の子供が、王宮に出入りする機会なんてそうそうないか。
「それでは、パーガトリー君をお借りしますね!」
と、ジャイルズ様。
「主殿……」
手続きに少し時間がかかるので、ロビーで待っていると、ここにきて初めてパーガトリー君が少し不安そうな表情をした。
「えーと、その……恐らく酷いことはされないと思うので、頑張って! 無理なら無理って言っていいからね!!」
「分かった。頑張ります……」
「大丈夫ですよ! 貴重な存在のあなたを、傷つけるわけがありませんから! 多少、注射はするかもですが、痛くはないはずなので!」
「怪我しても、私が直すしね!」
そういえば、この国では予防注射もあったけど、その時の注射は痛くなかったな……
こう言った習慣も、昔の転生者が習慣付けたらしい。師匠が言っていた。
二人を見送ったところで、キーリーさんと合流。
「これからどうします?」
「そうですね〜」
ぶっちゃけ、何も考えていなかった。
王宮の中で時間を潰すにも、お客の私が出入りできる範囲は多くはない。
騎士や魔法師の訓練見学は、事前予約が必要だしね……
結構人気らしいし。
近くにある図書館や、博物館に行ってもいいけど初日に行ってしまうのも、もったいない気がする。
窓から外を見ると、晴天が広がっていた。
いい天気だ。
それなら、庭園にでも行こうか。
「天気がいいから、庭園の散歩でもします」
「分かりました。中央庭園でよろしいですか?」
「はい」
王宮には複数の庭園がある。
その中で一番広いのが中央庭園だ。
王宮の正面にあり、貴族なら誰でも見学することができる。
そこそこ広い上、様々な花々があり、見ていて飽きない。
まあ、流石にお昼まで時間を潰すほどではないけど。
今の時期は秋。
秋薔薇特有の強い香りが庭園に満ちていた。
「キーリーさんは魔法師なんですよね? 普段は何をやっているんですか?」
「普段ですか? そうですね……」
散歩をしながら、キーリーさんと会話。
騎士は何となく訓練とかしてるんだろうな〜と想像できるけど、国に仕えている魔法使いって普段何してるのかよく分からないよね。魔法の研究とかしていそう。
「騎士とそう変わりませんよ? 毎日訓練をして、新しい魔法術式が発表されたら、自分で使えるかどうか確認して、使えるならどう活かすか考える。そんな感じですね」
「魔法の研究とかはしないんですか?」
「そういう人もいますけど、私みたいな下っ端は先輩方のお手伝いをするのが精一杯ですね。まだまだ覚えることも多いので」
「え? キーリーさん、下っ端なの?」
キーリーさんは黒髪のスーパーストレートな髪を肩のあたりで切り揃えている。瞳は菫色。
服装は、青紫の動きやすそうなワンピースの上に、似た色合いのマントを羽織っている。
その落ち着いた雰囲気からは、どう見てもベテランにしか見えない。
「そうですよ。今年、貴族学園の魔法科卒業して魔法師団に入ったんですから!」
「へぇ〜」
そんな会話をしていると、魔動通信機の着信音が鳴った。
相手はお父様だ。
「ちょっと、失礼」
キーリーさんに断って、近くのガゼボで通話する。
ちなみに、音声通信のみでの通話だ。
「お父様? どうしました?」
『やあ、シンシア。王宮はどうだい?』
「快適ですよ。パーガトリー君は今、ジャイルズ様と一緒に研究所で身体検査を受けています。
私は、暇なので中央庭園の散歩中です」
『あ、王宮の敷地内にいるんだね。良かった。実は今から僕も宮廷に用があってね。良かったら、お昼でも一緒にどうかなって思って』
「いいですね!」
『じゃあ、中央庭園の噴水のあたりで待ってて』
「分かりました」
通話を切ると、キーリーさんに説明。
噴水まで行くことにした。
◇
その後、お父様と合流。
キーリーさんは隠密魔法で気配を消して、密かについてきてくれるそうで、彼女を気にせず親子の時間を楽しんで欲しいとのこと。
というわけで、お言葉に甘えることにした。
「さて、どこに行く?」
「お城の中って、食事できる所ってないんですか?」
前世でいう誰でも利用できる市役所の食堂的なね。
「そうだな〜。王宮に勤める使用人たちが使ってる食堂があるね。王宮に勤めていなくても、お金を払えば一応誰でも利用できるよ。王宮に来る人って貴族がほとんどだから、あまり使う人はいないけどね」
「そこでいいのでは? お城の裏側、見てみたいです!」
「そうか。じゃあ行ってみよう」
王宮の使用人用の食堂は、かなり広く、多くの人々で賑わっていた。
ちなみに、ここは王宮で働く人々用で、騎士や魔法師の兵舎にはそれぞれ専用の食堂や宿舎もあるらしい。
食事スタイルは、自分でお盆を持って料理が入った皿をとっていく形式だ。
こういった形式だと、貴族はあまり利用しないだろう。
ちなみに、今日のお昼のメインはクリームパスタかチキンステーキの二種類。チキンステーキの方にはパンが付く。
私はがっつり食べたかったのでチキンステーキ、お父様はクリームパスタにしたようだ。
結構おいしかった。
その後、お父様は午後には戻るそうでそれまで別の庭園散歩。
ここは、観賞用の花よりも薬草や食べられる草花が多く植えられていた。
面積は他の庭園より狭く、小さな温室がある。でも現在は立ち入りは禁止みたいだ。
華やかなものが少ないためか、人もほとんどいない。
「薬草園ですか?」
「先々代の王妃様の趣味で作った庭園らしい。珍しい薬草もあるそうだよ」
「へぇ〜」
華やかな庭園もいいけど、私はこういった実用的な植物を見る方が好きかもしれない。
花壇には、説明が書かれた植物ラベルが、それぞれの薬草の近くに設置されている。
ガゼボにまで来ると、声をかけられた。
「おお、こちらにいたかシンシア嬢。それに、ショーン殿も!」
やってきたのは、この国の第一王子クライド・アンモビウム・クレメシヌス殿下だった。護衛の騎士たちも一緒だ。
「あ、あなたは、クライド殿下! あ、その、王国の太陽たる──」
「格式ばった挨拶はいい。それより、遺跡はどうだった? 巨大ゴーレムなるものが出土したのだろう?」
殿下は目をキラキラさせている。
やはり、異世界でも男の子は、巨大ロボ系のものが好きなのだろうか?
「ええと、そうですね。見た目は赤にクリーム色のラインが入った甲冑を着た騎士のような出で立ちでして、大きさは──」
「うんうん! それでそれで?」
殿下の質問に、私とお父様は答えていった。
といっても、私たちもまだ詳しいことは分かってはいないのだけど。
「それと、今。その巨大ゴーレムの頭脳体がジャイルズ様の元で検査を受けていますよ」
と、お父様。
「本当か!? 一体どんなやつなんだ?」
「えーと、金髪金の瞳の格好良い青年ですね」
「へぇ〜。いつ会えるだろうか?」
「少なくても、今日一日は魔法・魔術研究所にいるそうですけど……」
「そうか! では、ぜひ今夜の晩餐は一緒に取ろう!」
「ええ!? し、しかし……」
「よし決まりだな!」
「殿下、そろそろ」
「おおそうだな。後ほど改めて話を通しておく。ではまた晩餐のときに!」
「あ、ああ〜、殿下〜」
断る暇もなかったし、余裕もなかった!
「ま、まあ、シンシアもマナーは問題ないし、大丈夫じゃないかな? 楽しんでおいで。僕はその前にまた領地に戻らないといけないけど……」
「楽しめればいいのですが……」
絶対、味なんて分からないよね!?
どんよりしていると、足音が近づいてきたのでそちらを見る。
やってきたのは、ネイビーの髪と瞳を持つ美しい男性だった。
貴族の礼服を着ている。
見たことがある気がする。でも、誰だったか……
「おっと、失礼。先客がいましたか」
「あ、すみません、すぐに行きますので……」
「ああ、大丈夫ですよ。せっかくだし少しお話をしませんか?」
「え? えーと、貴方は?」
「申し遅れました。私はアーロン・ルビアと申します」
美しい男性──アーロン・ルビアは妖艶に笑った。




