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視える転生令嬢は悲劇のヒロイン(!?)なお父様を救う為に魔女様に弟子入りします!!  作者: 彩紋銅
四部

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107 彼女の夢【アンディ】

 ◆


 夢を見ていた。


 でもそれは夢というにはあまりにもリアルで、まるで誰かの記憶を追体験しているようだった。


 その人物の記憶の中で、最も鮮明だったのは、優しい義父の姿と、ナイフ越しに伝わる肉を切り裂く感触だった──。


 ◆


 最初の記憶は母と二人の生活だった。

 実父は、『彼女』が生まれる直前に、仕事で亡くなったらしい。


 母はしばらく一人で『彼女』を育てていたが、やがて新しい父ができ、三人での生活が始まった。

 新しい父は『彼女』のことも大切にしてくれたので、とても幸せな時間だった。


 しかし、母が病で亡くなった。


 それからは、義父との二人暮らしとなったが、義父は『彼女』を遠ざけることなく、自分の娘として側に置いてくれた。


『彼女』の義父は、魔王国に出向していたとある貴族の執事をしていた。

 元々は、人間の国のある貴族の家で、若くして家令を務めていたらしいが、仕えるべき主人が亡くなったため、その仕事を辞め、魔王国に来たらしい。


 そこで、女手一つで『彼女』を育てていた母と出会い結婚したらしい。

 母が亡くなって悲しかったが、義父がいたおかげで、寂しくはなかった。

 しかし、幸せな時間は、長くは続かなかった。


『彼女』は、ある日突然、誘拐された。


 それは、義父が久しぶりに休みを取った日だった。

 義父と共に夕食を作り、いざ食べようとしたその時、強盗が押し入ってきて、『彼女』は誘拐された。


『彼女』が最後に見た義父の姿は、強盗に頭を殴られて倒れ、血を流している場面だった──。


 ◆


 それから始まったのは、厳しい訓練の日々だった。


『彼女』が連れて来られたのは、とある暗殺組織。

 組織は首領が変わると共に、子供を暗殺者として育成・利用する方針へと転換していたので、人員確保のために多くの子供たちを拐っていたらしい。


 そして知ったのは、『彼女』の実父は、この暗殺組織の元首領であり、腕利きの暗殺者だった。

 それを知った母は実父と別れ、一人で『彼女』を育てることにした。

 そんなことを、()()()は憎々しげに語っていた。


『彼女』を誘拐したのは新しい組織の首領となった、実父の愛人によるものだった。

 腕利きの暗殺者の娘なら、才能があると考えたのだ。

 愛する人と本妻の間にできた子供だから憎く思ってはいたが、能力が高ければ利用するつもりだったらしい。


 誘拐されてから約五年間、『彼女』は厳しい訓練に明け暮れた。


『彼女』の心の支えは、いつか組織から解放されて、また育ててくれた義父に会うことだけだった。


 幸か不幸か、『彼女』には暗殺者としての才能があった。


 そのため特別な武器を与えられ、多くの標的を屠っていった。

 だがそれは、二度と俗世には戻れないことを意味していた。

 そんなことも知らずに、『彼女』は訓練と任務に明け暮れた。


 誰も呼んでくれないので、次第に自分の名前すら忘れてしまった。

 それでも、ひと目でいいから育ての父に会いたかった。それだけが『彼女』の望みだった。


 しかし、その願いは叶わなかった。


『彼女』の育ての父は、『彼女』が連れ去られたその日に、すでに死んでいた。頭部を鈍器で殴られたことが原因だった。


 それを知った時『彼女』は、組織を滅ぼすことを決めた。


 だから『彼女』は、組織を疎ましく思っていた当時の魔王へ情報をリークした。


『彼女』は、決戦の場を魔王国王都の近くにあるダンジョン『スペイシャス』に決めた。

 大人数を収容できる上、何が起きても周りに被害を及ぼす可能性が低いから。

 階層も少ないので、事後の調査もしやすいだろう。


 彼女は、事務所に転移の魔法陣をあらゆる場所に仕込み、そして多くの構成員をまとめてスペイシャスの奥に転移させた。

 当時の魔王にも、この作戦は伝えられており、転移先には多くの騎士達が待機していた。


 だが、『彼女』は知らなかった。〝ネロ武器〟による自身の限界が近いことを。


 気づいた時には、『彼女』の魔力は暴走寸前だった。


 どうにもならないと悟った『彼女』は、集めた構成員を巻き込み、自爆した。


 そして──。


 ◆◆


「……っ!」


 そこで、僕は目を覚ました。


 ……不思議な、夢だった。


 とある少女が、誘拐されて暗殺者になり、組織を破壊するまでの過程。

 それを少女の一人称で、ずっと、見ていた。


 これは……まさか、プニャーレの記憶?


 プニャーレは、隣のベッドでスヤスヤと眠っている。


 僕の手には、ナイフで人を切り裂いた感覚が、まだ残っていた。


 魔力が暴走する感覚も……。


 彼女は本当に暗殺者だったのだろうか?


『陽炎の牙』


 この組織について少し調べてみる必要があるな……。


 ◆


 翌日、何とかドライエックさんに協力してもらって、『陽炎の牙』についての資料を貸してもらった。

 本来なら門外不出の資料らしいが、そこは特別に貸してもらった。


 資料によると、『陽炎の牙』は今から数十年前に魔王国を拠点に活躍していた暗殺組織らしい。

 元々は、ちゃんとした(というのも少し変だが)大人の暗殺者が所属している組織だったが、前首領の死後、新しく首領になったのは彼の愛人の女性で、彼女は子供の暗殺者を多く使うようになった。


 理由は、それまでの構成員の多くが、前首領の最後の仕事の任務で、ほとんど失われてしまったのと、その方が相手が油断するだろうからとのこと。そういった生き残った構成員の証言がある。


 ちなみに、前首領が死んだ理由は、とある大掛かりな依頼に失敗したかららしい。それによって組織は多くの構成員を失ったのだとか。


 夢の内容では、『彼女』は前首領の子供だったようだが、資料では本当に子供がいたかどうかは不明とされている。


 暗殺に子供を利用することにした新首領は、現在、行方不明。

 少なくとも、決戦の地『スペイシャス』には、該当の人物の死体はなかったそうだ。


 つまり、まだ生きている可能性があるのか?


 プニャの心残りが、それだという可能性もある?


 プニャーレ本人は、復讐とは無縁で、それを望んでいるようには見えないが……。


 とりあえず、ドライエックさんが帰って来たら改めて、相談してみよう。



 ◆???視点◆


「あら? 失敗してしまったのね、二人とも」


「申し訳ありません」


「ですがあの動きは確かに、プニャーレのものでした」


「それは、まあいいけど……。一体どういうカラクリかしらねぇ」


 ──憎くて邪魔な子だったから、わざわざ探し出して利用するだけ利用して、死ぬように仕向けたのに……。


「でもあのときも確かに、プニャーレは……」


「死んでいるはずなのよねぇ……。それはあたしも知っているわ」


 そもそも呪いの邪竜から作られた武器を使っていて、生きているはずがない。

 あれは私が、手に入れたもの。前所収者が暴走の果てに死んだ場面も()()()()


 だってそれで、ファルチェ(前首領)は任務に失敗したんだから。


 あたしは『陽炎の牙』の前首領ファルチェを愛していた。

 彼もあたしを愛してくれていた。


 彼には妻がいたけど、彼の仕事のことは知らなかったらしく、すべてを知ったあとはあっさりと別れていた。

 それは良かったけど、彼との間に子供がいたことは許せなかった。


 あたしと彼は種族が違う。

 そのため、子供を作ることは困難だった。

 絶対にできないわけではないけれど、それには長い時間をかけて魔力の質と量を合わせなければならない。

 あたしはいいけど、相手は獣人族。長命種ではないから、子供を作るにはタイムリミットがあった。

 そもそも、仕事が忙しくてそんな余裕はなかったのだけど。


 それにあたしに注がれるべき愛が、万が一その子供に注がれるかもしれないと思うと、気が気じゃなかった。


 男の子ならファルチェの代わりに可愛がってあげてもよかったけど、女の子だったからそれは無理。

 だから、いずれ探し出して始末してやろうと思っていたけれど、その前に彼が死んでしまった。


 あたしの想いは行き場をなくした。だから、彼の残した組織の存続だけを目標にした。


 それまでいた構成員は、依頼失敗時にほとんど死んでしまったため、あたしは新しく人数を集めるしかなかった。


 そこで目をつけたのは子供だ。


 どの国にも孤児院はあり、子供はいる。

 魔族の孤児は少ないが、この魔王国にも他種族のために孤児院はある。

 そこから子供を調達し、構成員に育て上げることを考えた。


 子供であるなら、暗殺技術の吸収も早いだろうし、標的になった人物も油断するだろう。


 あたしの目論見はうまくいき、『陽炎の牙』は再生した。

 しかし、今度は構成員の確保が難しくなった。


 だから、平民の子供を攫った。


 その最中に彼の子供の所在を知ったことは、僥倖だった。

 だから、強盗に見せかけてその子供を誘拐した。

 そのせいで、その子の育ての親は死んでしまったが、目的のためならどうでもよかった。


 そして、彼女には暗殺の才能があった。流石は彼の血を引く娘。


 けれど、あたしの子供ではないので、愛情は微塵もない。

 だから、呪われた武器を与えて使い潰すつもりだった。


 だけどその前に、拠点が前魔王にバレた。

 それだけじゃなく、構成員たちが拠点から突如姿を消し、ダンジョンの『スペイシャス』に現れたらしい。

 そして、ほとんどの構成員はそこで死亡。

 どうやら拠点の至る場所に、転移の魔法陣が書かれており、それで彼らはスペイシャスに転移してしまったようだ。


 たまたま、拠点を離れていた私と、護衛の二人は助かったけど、あたしはファルチェが残してくれた組織を失った。


 まあ、『彼女』もスペイシャスで死んでくれたのは良かったけど。


 今は、魔王国に出向している人間の貴族の第三夫人として暮らしているけど、平和に暮らすために邪魔者は排除しないとねぇ。


「いいわ。引き続き、排除してちょうだい」


「かしこまりました」


「それでは」


 二人の気配が、屋敷から消えた。


 とはいえ、あの二人も長年酷使しているせいで、すでにガタがきている。


「そろそろ、新しいのが欲しいわねぇ」


 若くて可愛い男の子なら、色々と楽しめていいんだけどねぇ。





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