105 精霊来襲!?
◇
「精霊たちが押しかけてきた!?」
精霊とは、この世界の魔力の流れを管理している存在だ。
オレオールのように人と契約している者もいるが、それが彼らの本来の役割らしい。
そんな彼らに見限られると、国が滅ぶこともあるとか。
そんなわけで、かなり取り扱いがデリケートな存在なのだ。
そしてこの国の北の山々には精霊が多く住んでいるらしく、基本的には手をつけていなかった。
彼らによって、国境もある意味守られていたからね。
まあ、そのままでは良くないということで、国は昔からその周辺を調査してはいたんだけど。
そんな精霊たちが押しかけてきたって……それって、完全にピンチじゃない!?
『ぼくがなんとかする! あんたらは念のため、自分の身を守ってくれ!』
『分かった!』
オレオールの言葉に、お父様が防護壁を展開する。
そして──格納庫に、彼らが現れた。
「──!」
格納庫に現れたそれらは、一見子供のように見えた。
しかし、その姿は少し透けており、それぞれの属性の特徴を纏っている。
例えば、水の精霊なら髪や服が水を纏っているように見える。火の精霊なら炎を纏っているみたいな感じだ。
水晶を纏っているみたいに見えるのは……土の精霊だろうか?
見たところ、水、土、風の精霊が多いように感じるが、おそらく全属性ほぼいる気がする。性別はちょっと分からない。
『彼らはそこそこ高位の精霊のようですね』
「そうなの?」
『存在していた時間が長いほど、人の姿に近くなり、その分妖精としてのランクも上がる。
さて、主殿、どうする?』
そういえば、そんな話を聞いたことがある。
そのうち大人サイズに成長すると、性別も確立してヒトと結婚する精霊もいるとか。そんな昔話があったな〜。
「うーん、少し様子を見よう。下手に手を出しても、事態を悪化させてしまう気がする。
ひとまずオレオールに任せるけど、何かあればすぐに対処したい」
『了解した』
◇
『おい、おい、お前たち、一体どうしたんだ?』
格納庫では、黒ハチワレ猫の姿のオレオールがなんとか精霊たちを説得している。
『6前達f私qak住処=荒odwe.』
『それはもう、話はついているだろう?』
『c;i3ez=連;w行zq!』
『あいつ?』
『3ezf封d@weu:;f@uoue存在q@! 即刻、返rkq@!』
『おい!!』
精霊たちが、攻撃を仕掛けてくる。
その場にいる人たちは、お父様の展開した防護壁に守られてはいるが……。
「ちょ、大丈夫なの!?」
『この格納庫は広く、頑丈に作られている。問題ない』
「それも心配だったけど、そうじゃないよ!」
どう見ても多勢に無勢。こちらが不利だ。
無闇に精霊を攻撃できないし、オレオールは二年前の出来事のせいで大幅に魔力を失っているから!
「パーガトリー君、なんとか精霊たちを傷付けずに止める方法はない!?」
『そうだな……。あの猫は闇の精霊だな?』
「う、うん! そう!」
『であれば、彼の力を借りよう』
「え?」
『彼を操縦席に転送する』
「ええ!? ちょ──っ」
モニターを見ると、オレオールが転送陣の光に包まれるところだった。
そして──。
『わわっ!? なに!? どこここ!?』
「オレオール!」
『その精霊をそこにセットしてください』
「分かった!」
『ちょ、え? ああ〜』
私はオレオールの前足と後ろ足を、それぞれコンソールに形成された四つの穴に、接続した。
『にゃあああ〜!? 肉球! 肉球に生暖かい感覚……ぎにゃ〜〜!?』
「だ、大丈夫? オレオール」
肉球って敏感そうだもんな……。
『オレオール殿、肉球に触れているのは自分の血液──液状になった魔力です。貴殿の属性魔法を使わせてもらう』
『はあ!?』
「どうするの?」
『自分の本体──ヴァルガルドの魔法属性をオレオール殿の属性である闇に変更します。主殿は、普段魔法を使うように闇属性魔法を使ってください』
「ええ!? 私、闇属性魔法なんて分からないよ!?」
『そ、それならぼく、うひっ! ぼくが魔法を展開するから、シンシアは普通に魔法を使ってくれ……』
「ありがとう、オレオール! でも、ちょっと良くわかんないかも!」
『ええ、っと、つまり……』
『主殿が使う魔法を、ヴァルガルドを通してオレオール殿の闇魔法に変換するのです。
主殿はただ魔法を使うだけでいいのです』
『そんな感じで』
「分かった! でも闇魔法はまったくわからないけど……」
使えないから、光属性以外の魔法はまったく勉強していないんだよね〜。
『そこは僕が調節するよ。──それじゃあ、精霊たちを傷つけるのは良くないから……』
精霊たちは、お父様たちにそれぞれの属性の魔法攻撃をしているが、お父様が貼った防護壁によって今のところ無事だ。
『心を沈める魔法を──〝夜の静寂〟!』
私はオレオールに合わせて魔法を使う。
すると、ヴァルガルドの体から紫の光が迸り、静かな闇の粒子となって降り注いだ。
光を浴びると、お父様たちを攻撃していた精霊たちも大人しくなり、その場に座り込む。
『〝夜の静寂〟は、心を落ち着かせる闇属性の癒し魔法だ。闘争心や怒りなどの感情を落ち着かせるが、威力を強めると無気力になる』
光属性には治癒魔法を含め、肉体に作用する魔法が多いが、闇魔法は精神に作用する魔法が多いらしい。
光属性が『動』なら闇属性は『静』といったイメージだ。
「……なんとか、なった?」
『おそらく。おい、パーガトリー、ぼくを元の場所に戻せ』
「あ、私も! お父様たちが心配だから──」
『……分かりました』
私とオレオールの体が、転移の光に包まれる。
◇
「お父様!」
「シンシア! 一体何が……」
「オレオールとパーガトリー君の協力で、精霊たちを鎮めました」
「な、なるほど。オレオールは闇の精霊だったね。それでヴァルガルドの色が変わったのか……」
「え?」
よく見れば、ヴァルガルドは赤にクリーム色のラインが入った色合いから、黒色に紫のラインが入ったカラーリングに変わっている。
魔法の属性によって配色が変わるのか?
いや、それより……。
「オレオール、精霊たちを」
『ああ。──おまえたち、一体何があったんだ? 人間との交渉は済んだはずだろ?』
『c;f──ンン。オマエ達ガ奴ヲ連レ去ッタノダロウ? セッカク、閉ジ込メテオイタノニ……』
精霊の言葉が聞き取れるようになる。
なるほど、確かに彼らはレベルが高い精霊のようだ。
『やつ? なんのことだ?』
『食堂ノ奥ノ空間ニ……』
『食堂の奥?』
「そういえば、食堂の壁が崩れており、その奥に空間がありましたが……」
と、キャロルさん。
「そうなんですか?」
「はい。劣化によるものか、潜んでいた魔獣によるものかと思い、調査は後回しになっていました。
奥の空間もただのパントリーらしく、特に気になるものはありませんでしたので……」
「そういえば、壁が崩れたのに音がしませんでしたな。そのせいで、気づくのが遅れてしまったかもしれない」
と、精霊学者のエドガーさん。
まあ、それよりも現在でも起動する巨大ゴーレム発見の方が、重要だからね……。
「つまり、その空間に何かがいて、誰かが壁を壊して中にいたモノを解き放った? それが良くないモノだということ?」
私の問いに、精霊たちは頷いた。
「一体何が中にいたのです?」
『……〝世界神ネム〟の眷属。オマエ達ガ〝妖精〟ト呼ブモノダ』
「妖精?」
この世界の妖精は、創世神話の時代にこの世界を整えるために世界神ネムによって造られた存在で、元々名前はなかったが、後世の人々が妖精と名をつけたらしい。
世界が出来上がったあとは、必要なくなり神々の世界に渡ったらしいけど、残ったあるいは残されたモノもいて、時に人々を困らせるので、討伐されたという昔話もある。
『封ジラレテイタノハ、ナンデモ取リ込ミ、分解デキルモノ。大喰ライ。
役割ハ〝廃棄〟。
オマエ達ガ築キ上ゲテキタモノスベテ、食イ尽クサレルゾ……』
「それは……」
精霊学者のエドガーさんが青くなる。
「最悪、国が滅ぶ可能性も、あります」
「魔女様にも協力してもらって、探しましょう」
『あと、こいつら、遺跡の使っていない部屋を使わせて欲しいそうだ』
「それも、カプセラ女伯爵と共に決めよう……」
「妖精って、対処法はあるのですか?」
「分かりません。話が通じれば交渉ができますが、そうでないのなら……倒すか神々の世界に帰ってもらうしかないでしょう。
今でも、神々が引き取ってくれるかは不明ですけどね。
場合によっては、魔王国に協力を要請する必要もあるでしょう」
「そう、ですか……」
ふと、自分の手がヌルつくことに気づく。
私の両手が、ライトブルーの液体で濡れている。
パーガトリー君、いや、ヴァルガルドの全身をめぐる液体魔力だ。
「……」
……これが、大事にならなければいいけど。




