103 液体魔力
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休日が終わって、アンディ君とプニャちゃんは、魔王国に戻って行った。
必ずではないけど、ほぼ毎週(最近は月二回くらい)帰ってくるし、高頻度で魔動画通信で顔を見ながら通話しているけど、それでもこの瞬間はいつも少し寂しいのだった。
その後も私は、パーガトリー君の面倒を見つつ、王宮で過ごしている。
今日からは、普段からお世話になっている家庭教師のエラ夫人も来ていただき、勉強もすることになった。
一応、私も貴族の令嬢だからね……
この国の貴族は、十五歳から三年間貴族学園に通う。
だけど、それまで何もしなくてもいいはずもなく、各家で家庭教師などを雇って自宅で様々なことを学ばなければならない。
というか学園は、それまでに学んできたことを発表する場であり、家での勉強の方が重要だったりする。
実は私も師匠の工房で修行しつつ、家庭教師をつけてもらい、そういった勉強もしているし、アンディ君も魔王国でちゃんと勉強もしているそうだ。
貴族の子供が学ぶものは、基礎学問、領地経営・政治、礼儀作法・作法、芸術教養。
普通の貴族なら、ここの四つだけど家が騎士系、魔法師系ならそれプラス武芸や魔法も学ぶ。
私の場合は、アゲートの魔女に弟子入りしており、そこで魔法の修行をしている。
修理師になるための技能を中心に、光属性魔法も順次覚えている。
まあ、相変わらず生き物を治す治癒系魔法は、適性がないみたいだけど。
基礎学問は、算術、歴史、地理、文学、外国語など。
領地経営・政治は、この国の税や法律、農業、商業、政治などについて。
礼儀作法は挨拶、敬語、手紙の書き方、食事マナー、会話術、ダンスなど。
芸術教養は音楽、絵画、詩、刺繍など。
私は前世の記憶があるので、その頃に培った効率の良い勉強方法のおかげで、勉強自体は困らない。むしろ、知らないことを知れるのは楽しい。
マナーもその理由を理解しながら学ぶと、意外と面白かったりする。……実践するのは難しいけど。
だけど、私でも苦手なものが二つある。
それがダンスと刺繍だ。
ダンスは相手がいないと練習が難しいし、刺繍はそもそも裁縫が苦手。
ちなみに芸術は、絵が描けたり楽器が弾けなくてもいいけど、知識は必要。
芸術は、社交界において、無難な会話の一つだ。少なくとも、有名な画家や音楽、作曲家などは知らないと常識を疑われる。
そして、大抵の淑女は『何か』を嗜んだ方が良いとのことで、刺繍を習得するそうだ。女性らしい趣味の一つだからね。
楽器や絵画と違って、初期投資も裁縫セットだけで済むし。
でも私は、刺繍のあのチマチマした作業が、どうにも苦手なのだ。
修理でチマチマ作業するのは好きなんだが……
そうして今日も、王宮の一室を借りて、エラ夫人の授業を受けていると──
「あるじどのーー!!」
「ぐはっ!?」
パーガトリー君がまたしても突撃してきた。
避ける間もなく、抱きつかれる私。
「うわああああん、あるじどのーー!」
しかも、泣いているパーガトリー君。
「な、何があったの?」
「うう〜」
「あらあら、大丈夫かしら」
エラ夫人も心配そうだ。
ちなみに、エラ夫人は五十代くらいの上品で優しそうなご婦人だ。
法律に詳しく、教え方もうまい。
時代が時代なら、弁護人をしていたとか。
「落ち着いてパーガトリー君。何があったの?」
「ちゅ……」
「ちゅ?」
まさか、誰かにキスでも迫られた?
パーガトリー君の見た目は、金髪碧眼色白の美青年だ。
見た目の年齢は、十代後半から二十代前半くらい。
セクハラに遭っても不思議ではない。
「注射をされた〜。痛かった〜」
子供か! っていうか、ゴーレムでも痛覚あるんだ!?
生体ゴーレムだからかな?
「ええ? 大丈夫?」
シャツの袖をまくって確認するが、傷口は見えなかった。
「傷はもう塞がった」
「もう治ってるんかい!」
その時、部屋がノックされた。
「どうぞ」
「失礼しま〜す。パーガトリー君、来てますか〜?」
やってきたのは、案の定ジャイルズ様。
「いますよ〜」
「ガルルルル……」
「ああ、完全に警戒されている……」
「パーガトリー君は注射をされたと言っていましたが、何があったんですか?」
ジャイルズ様は、無体をするような方ではないと思うけど……
「パーガトリー君に、採血をお願いしたのです。それ自体はご本人にも了承を得て行いました。
しかし、研究員の一人が勝手に、余分に採血をしたのです。しかもその者は、針を刺すのが下手でして……それなのに、通常の針を使用してしまいまして……」
「な、なるほど……その方は?」
あの痛くない注射針は、特別なやつだったのか。
「国宝級の存在のパーガトリー君を勝手に傷つけたので、しかるべき処罰を下す予定ですが、現在行方が分かっておりません」
「そうですか……」
その人、なんでそんなことを……?
すでに勉強どころではないので、授業は一旦終了。
エラ夫人には申し訳ないが、予定よりも早くお帰りいただき、私とパーガトリー君、そしてジャイルズ様とでお茶会となった。
パーガトリー君も、なんとか落ち着き、黙って紅茶を飲んでいる。
そこで、これまでのパーガトリー君の身体検査の結果を聞くことになった。
パーガトリー君について分かったことは、肉体は確かに人間に近い生体で作られていて、骨格の作りも内臓も人間とほぼ同じ構造。
しかし、骨の素材は人間のものとは異なり、心臓に当たる部分には、ゴーレムの特徴の魔力炉らしい器官もある。
つまり、彼は本当に生体でできたゴーレムなのだ。
体内には、血液に似た体液が循環しているが、その色は青く輝き、魔力が液体化したようなものらしい。
それも取り込んだ魔力などから生成されるので、基本的に食事の必要はない。
生体ゴーレムは、ホムンクルスでほぼ代用できるため、あまり需要はないが、液体魔力は色々と使えるので大発見となった。
「これが、パーガトリー君の血液です」
ジャイルズ様はテーブルの上に、厳重に密閉された自立する試験管を置いた。
その中には、ライトブルーに輝く液体が入っている。
それが、パーガトリー君の血液らしい。
「へえ、分析で視てもいいですか?」
「ぜひとも」
分析の特異魔法で確認すると『生体ゴーレム、パーガトリーシリーズの血液に当たるもの。液体化した魔力』と出る。
液体魔力、ねぇ……
「魔力が液体化すると、何か利点があるのですか?」
すでに魔力結晶があるから、わざわざ液体にしなくてもいいのでは?
「簡単にいうと、加工や利用がしやすくなります。
例えば、魔動具の燃料にしやすいですし、魔法薬として加工もしやすいですね。効果も出やすいかと。
組み込む術式も短くできるので、商品の小型化もできるでしょう。
液体から固体にできれば、好きな形に加工もしやすいですし」
「なるほど〜」
「まあ、この国ではすでに、魔力石を利用した技術の方が発展していますから、一般的な需要はそこまで高くはないでしょうけどね」
「では、気体化した魔力というのはあるのですか?」
「それなら、世界を循環する魔素が近いですね」
「ああそうか! そうなりますね!」
魔素は、世界を循環する魔力の元。
精霊たちが管理しており、魔素が溜まれば魔の森やダンジョンができる。そして、魔力結晶も。
そういえば昔、師匠が言っていた。
この世界には至る所に、魔素があり、循環している。
だから、人々は魔法が使えるのだと。
しかし、私の前世の世界には、魔素がほとんどないため、魔法は使えない。世界に魔法が伝播しない、あるいはしづらいらしい。
酸素がないと燃えない炎みたいだね。
ということは、前世の世界の人々も、魔力自体は持っているのかもしれない。
もしかしたら、超能力などは魔法の一種なのかも?
「主、魔力をください」
と、パーガトリー君。
「ええ? どれだけ、血液とられたの?」
「そこそこの量を。本体に接触すれば、もっと回復しますけど」
本体って、巨大ゴーレム?
「では、一度、カプセラ伯爵領に戻りますか」
と、ジャイルズ様。
「良いのですか?」
「パーガトリー君のことは、調べられることは調べました。あとは解剖などしないと分かりませんが、まあ、必要ないでしょう」
そういうわけで、私たちは明日、カプセラ領に戻ることになった。
エリカさん達にも連絡した。
馬車などは、ジャイルズ様が手配してくれるらしい。
私とパーガトリー君は、軽く荷造りをする。
亜空間収納鞄に入れるだけだけど。
カプセラ伯爵領の遺跡は、あれからどうなっているのだろうか。
楽しみだね。
……翌日、パーガトリー君の血液を勝手に採取して盗んだ研究者は、遺体となって発見された。
そのことを知ったのは、カプセラ伯爵領に戻ってからのことだった。
その研究者が盗んだ血液の行方は、分かっていない──




