生みの親と育ての親 3
うん、僕は遺伝上の両親から捨てられていなかった。
そして、百年も生きたら死ぬ、ごく普通の地球人だということも分かった。
でも、なぜ二人は僕を生もうと思ったのだろう。
今の地球では、人口のコントロールは重要だ。
人口が増えれば必要な資源もエネルギーも増える。
基本的に僕たち住民は不妊状態で生まれ、子供を希望する成人男女は、抽選で不妊状態を解除される。
抽選にはシェルターへの貢献度も加味されるとか何とか。
僕の両親である、ナルヴィ・タキザワとアリス・タキザワは問題なく当選したが、配偶子融合が上手くいかない稀なケースで不妊に悩んでいたそうだ。
そんなときに、ポイント・ズールーで僕が発見されて養子となった。
機械知性たちが、人口動向、資源、エネルギー、食糧供給、酸素濃度、熱交換率などを集計して、現在の地球のキャパシティをホメオスタシス・スフィアにリアルタイムで表示する。
ホメオスタシス・スフィアは、世界中のシェルターや大規模セツルメントに設置されている大型の表示装置だ。
ノーザンエンドの中央広場にも直径十メートルの巨大な球体が置かれているよ。
僕たち地球に住む者たちは、スフィアを見上げるだけで今の地球の状況が一目で分かる。
植林が進むと、酸素と植物資源の比率を示す青と緑のエリアが増える。
逆にリンや窒素の化学資源、余剰エネルギーの比率を示す茶と白が減るんだ。
僕たちはそれを見て、現在の状況確認だけではなく、この閉じた世界を維持することの大切さを知るんだ。
あ、変な方向に考えがそれちゃった。
「なぜ、二人は僕を生もうと思ったのかな?」
アルに問いかける。
「さあな。本人たち以外に本当のところは分からんだろう」
「それでしたら、以前、マルに聞いたことがありますよ」とノワールさん。
「僕も聞きたい」
「いいでしょう。ロキもマルも造られた存在です。工場でオーブンを製造するように」と部屋の隅のキッチンを示す。
すごく立派なキッチンだ。
僕とアルが住んでいるコンドミニアムの設備とは比較にならない。
料理店で使うような本格的なものだ。
「ロキは、自分が本当に知的生命といえるのか疑問をいだいていました。所詮は便利に使うために造られた道具ではないかと」
自分がパン屋さんのオーブンになった姿を想像して嫌な気持ちになった。
毎日パンを焼くだけの生活に、オーブンは何を思うのだろう。
「そんなロキを見て、マルは思ったそうです。生の実感を与えたいと」
「それが僕を生んだ理由?」
「そうですね。私のような、ただ可愛いだけの猫には分かりませんが」
ノワールさん、頑なに自分のことを猫だと言うけれど猫じゃないよね?
「そんなの自分勝手だと思う……」
「ジーンという未来を見たかったのかもな」
アルが言った。
「どのみち『エッジ』が閉じている今、その遺伝上の両親に会うことはないんでしょ? 僕は数百年も生きられないし」
「はい。エッジが再び開くのは、正確には四百三十二年後です」
ノワールさんが教えてくれた。
「ずいぶん正確に分かるんだな。巷では、二百年から六百年の間だと言われている」
アルが突っ込む。
「ぼかして伝えているんですよ。ある日突然開く方が驚くでしょう?」
ノワールさんの言うことは本気なのか冗談なのか全然分からないや。
「もし会えたとしても、僕の気持ちは決まっている。僕は、お父さんとお母さんの息子、ジーン・タキザワだよ」
「そうかい。生みの親より育ての親って言葉もあるしねえ」とコハク。
「そうだな。うちの子猫も親猫より俺に懐いていた」とアルまでも。
僕を猫の赤ちゃんと一緒にしないでよ!
でも、僕を生んだ両親のことが聞けて、少し気分がすっきりした。




