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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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生みの親と育ての親 2

アルの衝撃発言のあと、何とか落ち着きを取り戻し、無事に食事を終えた。

「こんな美味そうなものを食っているのを見ると、人間に戻りたくなるな」

「では、アル。肉体を再生しますか?」

「いや、この機械狼のボディに慣れてしまったようだ。愛着もある」

「じゃあ、ノワールみたいに味覚と消化器官を付けたらいいさ。あんたも脳は人間だから栄養は必要だろう?」コハクさんが提案した。

また、アルと一緒に食事ができる!?


「過剰な糖分や塩分、それに刺激物質を変換する医療用分子デバイスを導入すれば可能ですね」

「ふむ。それが可能ならお願いしたいな」

「それと、そのボディの嗅覚は鋭敏過ぎますから、食事のときは人間に合わせた方がいいかと思います」

「そうだな。美味そうに見えるが匂いと一致しない。嗅覚の解像度が高過ぎるんだ」

「ええ、人間の味覚はかなり複雑微妙です。私の場合、ホルモンのフィードバックをエミュレートできるまでは散々でした」

「まあ、言っていることはだいたい理解した。気長に待つことにするよ」


「話は終わったかい。じゃあジーンの生みの両親の話を続けようかね」

コハクさんの言葉に皆うなずく。


「お前さんの遺伝上の両親のロキとマル、それにヒロの三人が、小惑星連合軍に入隊したところまでは話したね」

僕はうなずく。

「その三人は参謀本部直属の第三七技術試験小隊に配属された」

コハクさんの話は続く。

「そして、CE(共通歴)二一九二年、拙(せつ)とノワールは太陽系に流れ着いた。故郷を追われたのさ」


「え、どうして追われたの?」

「拙とノワールの故郷、『仮住まい』星系が滅ぼされたんだよ」

「……」

僕はどう答えたらいいか分からない。

「そのとき、拙たちを出迎えたのが三七小隊さ。そして、それが太陽系事変の始まりでもあったんだよ」


「それって『大脱出(エクソダス)』の原因になったやつ?」

「そうだね。その辺りに興味があるなら後で話すさ」

「今は話を続けるよ。ロキたちと出会って早々、謎の敵から攻撃を受けて、三七小隊の乗機『スティングレイ』ともどもプロキシマ・ケンタウリに跳躍したのさ」

コハクさんがそう言うと、壁に優美な宇宙機が映った。

あれ、これは?


「多目的宇宙艇(MPSS)?」

「おや、よく知ってるね。当時、小惑星連合軍が開発中だったデルタ級MPSSの実証試験艇だよ」

「これをどこかで見た気がする」

「ジーンは実際に見ていましたよ。正確にはスティングレイⅡですけれどね」

ノワールさんが答えをくれた。

「いつ……どこで……?」

「ポイント・ズールーにジーンを預けた二人が旅立っていくときです。停滞に入る直前に窓から見ていたのです。当時は一歳でした。よく覚えていないでしょう。隣には私もいたのですよ」


八歳くらいのころ、基礎学校の講義で「太陽系事変後の寒冷化・初期」というタイトルのアーカイブ(記録映像)を見た。

アクティブ可変翼で優雅に風を掴み、氷原の上空を美しく舞う純白の飛翔体(ひしょうたい)から映像は始まった。

それを見たときの、奇妙な懐かしさ、胸が締め付けられるような、切ない不思議な感覚……。

あの感覚は、僕の記憶の中にあるスティングレイⅡに対するものだったんだ。


「僕は捨てられたんだね……」

「そうじゃない、ジーン。お前は停滞カプセルの中にいた」

アルが否定した。

「停滞カプセル? すごく貴重なものだよね?」

「ああ。あれはお前専用だ。旅立つ前に急遽作ったらしい」

「そうそう、そのとおりです。おかげで三徹するはめになりました。あの二人は猫づかいが荒いです」

ノワールさんが憤慨したように言う。でもちょっと楽しそうだ。

「お前さんが生まれて一年が経つころ、ロキたち二人に『アライアンス』からの要請があったんだよ」

コハクさんが話を引き継ぐ。


「アライアンスって?」

「今は亡き我が主族、『尊き御方(とうときおんかた)』の啓示に感銘を受けた上位種族が組織したようだよ。拙(せつ)も聞かされるまで知らなかった」

尊き御方ってすごい人だったんだな。個人かな? 種族のことなのかな?

「アライアンスの要請は、一触即発状態の『文明指標』Ⅱ種族の保護だ。まあ、地球の産業革命後期くらいの文明レベルだね」

そんなところに行ったんだ。僕の生みの両親は。


「そこに幼いジーンを連れて行くのをためらったんだろうよ」

コハクさんが続ける。

「ええ、アライアンスの仕事は時間がかかりますから。ほとんどが世紀単位の事業になります」とノワールさん。

「そこだよ問題は。ロキとマルには実質寿命が無い。これは拙たちの治療のせいなんだが……。ところが、ジーンには地球人の平均的な寿命があるのさ」

「どういうこと? よく分かんないや」


「三七小隊の皆は、過度に遺伝子改変された超人として生まれついた。シミラ人科学者ラザードによってね」

「うん、さっき言ってたね」

「ロキとマル、お前さんの遺伝上の両親の間では、受精は不可能だと思われていた」

「うん」

少し顔が熱くなった。僕だって性には興味がある。

「たぶん、拙たちが投与した医療用分子デバイスの影響だろう。マルは妊娠したんだよ」

「私は今でも医療用分子デバイスの想定外の効果説には否定的です」

「まあ、それはいいさ。問題はこのままでは真面(まとも)に育たないのが明白だったことだよ」


「それでどうしたの?」

僕自身の話だ。しっかり聞かないと。

「地球人以外の遺伝情報を全て消去したのさ。ラザードが行った遺伝子改変の全てもね」

「つまりジーンは生粋の地球人なのです」


ノワールさんの言葉に安心したような。ちょっと残念なような。

だって、超人ってちょっとかっこいいと思ったから。

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