008・母娘の家に招かれて
問・出会った美しい未亡人さんに、今夜は家に泊まるよう誘われたらどうしますか?
答・泊まる一択です!
という訳で、僕は母娘の家を訪問した。
オルガランテの郊外、住宅街の一角に、小さな平屋の家がある。どうやらここらしい。
(へ~?)
思ったより小さい家。
いや、母娘で暮らすなら充分だとは思う。
ただ、亡くなった旦那様が街1番の冒険者だったなら、もっと大きなお屋敷とかに住んでいるのかな、と勝手に想像していたんだ。
カチャッ
お母様が玄関の鍵を開け、扉を引く。
「さ、どうぞ」
「あ、お邪魔します」
と、中へ。
幼女が僕の横を抜け、家の照明スイッチを入れてくれる。お、明るい。
光の中に照らされるのは、整理された少ない家具の室内だ。でも、掃除は行き届いていて、とても綺麗で清潔感がある。
うん、落ち着いて、美しい室内――マルティーナお母様のイメージに近い。
眺めていると、
「今、お茶を淹れますね」
「あ、お構いなく」
と、お母様は玄関の近くの小部屋に槍と荷物を降ろし、奥の台所に向かう。
そして、幼女も荷物を置くと、僕の方へ来て、
「お兄様、こっち」
キュッ
と、小さな手で僕の手を握り、引っ張る。
先導されるまま、台所に面したリビングの椅子に着席した。
ピョン
幼女は、隣の椅子に座る。
目が合うと、「……えへへ」と照れたように笑った。
(うん、可愛い)
尻尾も左右にプンプン振れている。
と、お母様がお茶を用意しながら、
「昔は街の中央区にあるもっと大きな家に住んでいたのですが、夫を亡くした後、今のこの家に移り住んだんです」
「そうなんですか?」
「はい、維持費もかかりますし、娘と2人で暮らすには広すぎたので……」
と、少し哀しげに笑う。
(ああ、そうか)
税金とか補修代とか、家が大きければより金額が必要だもんね。
夫が亡くなり、収入も減る。
うん……世知辛い話だ。
あと、もしかしたら、亡き旦那様の事を思い出してしまうから、その家で暮らし続けるのも辛かったりしたのかな?
(ま、勝手な想像だけど)
やがて、お母様がお茶のカップをテーブルに置いてくれる。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
と、一口。
カップの中身は、紅茶ではなくハーブ茶っぽい。
(うん、美味しい)
砂糖が入っているのか、程良い甘さもある。
その甘味と香りに、僕はホッと息を吐く。
マルティーナお母様も安心したようにはにかみ、レイナちゃんも嬉しそうに笑う。
そのあと、少し談笑。
それから僕は、なんと沸かして頂いたお風呂をもらったり、お母様手作りの夕食をご馳走になったりしてしまった。
(至れり尽くせり、だね)
尚、お風呂上がりのお母様は、凄く美人だった。
武装を解除し、普段着らしい白いワンピースとなった姿は、何というか普通の綺麗な女の人で、濡れ髪や大人の落ち着いた雰囲気が素敵だった。
その髪をお団子にし、夕食を作ってくれたんだけど、
(まさに若奥様だ)
台所に立つ姿に、正直、少しときめく。
清楚で儚げな人妻だった未亡人さんの魅力を、まざまざと感じさせられたよ。
そして、
「レイナの勝ちっ」
「わ、負けた~」
お母様の料理中は、僕が幼女の相手だ。
指相撲したり、ボードゲームしたり、お絵かきしたり、絵本を読んであげたり、色々と遊んであげた。
ま、家に泊めてもらえるのだからこれぐらいは、ね?
実際、レイナちゃんも嬉しそうで、
(最初に比べたら、大分、打ち解けたかな?)
と思う。
そして、笑う幼女、普通に可愛い。
尻尾をブンブン振り、まさに懐いてくれる子犬みたいで僕もほっこりしてしまう。
(ん……?)
ふと気づくと、台所のお母様が僕らを見ていた。
凄く優しい顔。
それは、1人の女性としてではなく『母親』としての慈しみの表情だった。
ドキッ
その二面性に、少し驚く。
やがて、食事を頂く。
パンとサラダとビーフシチューっぽい料理で、異世界版の家庭料理かな、と思う。
手を合わせ、
「いただきます」
と言うと、彼女は少し目を見開いた。
優しく微笑み、「はい、召し上がれ」と応じる。
パクッ
(うん!)
「とっても美味しいです!」
「そうですか、エト君のお口に合ったようで何よりです」
「滅茶、合ってます!」
と、食べ続ける。
マルティーナお母様は「ふふっ」と笑う。
(ん……?)
ふと見れば、同じように食事をしているレイナちゃんの口元がシチューで汚れていた。
おやおや。
僕は布巾を手にし、
「ほら、頬に少しついてるぞ~」
「あ……ん」
「よし、これで綺麗になった」
「あ、ありがとう、お兄様」
「どういたしまして。お母様のシチュー、美味しいもんね。うん、お兄様も気をつけて食べるよ」
「う、うん」
僕は笑い、幼女もはにかむ。
そんな僕らを、マルティーナさんはその紫水晶のような瞳で見つめ、そして、何か眩しいものを見るように薄く細められる。
その表情は嬉しそうで、でも、どこか哀しげで。
(……?)
不思議に思いながら、食事を続ける。
そのあとも母娘と談笑しながら、やがて、僕らの楽しい食事の時間は終わった。
◇◇◇◇◇◇◇
「お、おやすみなさい、お兄様、お母様」
夜も更け、幼女は就寝のため、自室に戻っていった。
マルティーナさんと一緒に「おやすみ」「おやすみなさい、レイナ」と見送る。
パタン
扉が閉まる。
あとには、僕と美しいお母様の2人が残された。
(…………)
い、いや、何もあるまい。
そりゃ、僕も男の子だし、多少、ドキドキしちゃうけど……でも、冷静に考えたらね?
と、お母様が、
「エト君は、まだ起きていますか?」
「あ、はい」
「ふふ、では、もう少し茶飲み話でもしましょうか」
「あ、うん、そうしましょう!」
甘い笑顔のお誘いを、僕も喜んで了承した。
新しくハーブ茶を淹れられ、僕の前のテーブルに置かれる。やがて、自分の分も用意して、お母様も席に着く。
僕を見て、
「今日は、レイナも楽しそうでした」
「え?」
「普段、あの子は人見知りで、私以外の人とあまり喋る事はないのですが……エト君には心を開いたのか、本当に楽しそうにしていました」
「そうなんですか?」
「はい、あの子があんなに笑う姿を見たのは久しぶりです」
「…………」
「エト君は、不思議な子ですね」
「ど、どうも」
美人のお母様にジッと見つめられる。
少々、気恥ずかしい……。
照れる僕に、マルティーナお母様も「ふふっ」と優しく笑う。
それから姿勢を正し、
「エト君がいなければ、私は夫に続き、大切な娘まで失っていました。レイナを救ってくれた事、本当に感謝をしています」
と、深く頭を下げられた。
綺麗な金髪が肩からサラリと流れ、柔らかそうな垂れた獣耳も揺れる。
突然の行動に、僕は驚く。
すぐに笑い、
「レイナちゃんも、マルティーナさんも無事でよかったです」
「エト君……」
「それにこちらこそ、お礼に泊めてもらったり、ご飯やお風呂まで頂いて、ありがとうございます」
と、頭を下げ返した。
お母様は目を丸くし、パチパチと瞬く。
すぐに苦笑し、
「本当にエト君は……」
と、困ったように言う。
その表情がおかしくて、僕もまた笑う。
それからマルティーナお母様と一緒になって、しばらく笑い合った。
やがて、お母様が僕を見つめる。
「エト君は……明日、『魔窟迷宮』に行くのでしたね」
「あ、はい。そのつもりです」
「そうですか」
頷き、彼女は数秒、黙り込む。
(……?)
不思議に思う僕に、
「どうか、お気をつけくださいね。『魔窟迷宮』は魔物が多く、とても危険な場所です。多くの冒険者が挑み、そして亡くなりました」
「…………」
お母様は、僕を心配してくれているらしい。
でも、
(――僕には『マギ・ブラスター』がある)
巨大な角熊を倒し、森林狼の群れを一掃できる強力な武器だ。
例え『魔窟迷宮の魔物』でも、僕が油断しなければ、そうそう後れは取らないだろう。
その自信がある。
だけど、
「私の夫も、亡くなった1人です」
「!」
僕はハッとした。
未亡人さんの綺麗な瞳は、そんな僕を真っ直ぐ見つめる。
「夫のレオンダークは、アーヴィン王国でも指折りの『魔狩人』でした。ですが、その夫も『魔窟迷宮の魔物』に殺され、2度と帰らなかったのです」
「…………」
「そして、その魔物――『黄金霊虎』は今も『魔窟迷宮』のどこかに生息しています」
と、その瞳を伏せる。
(あ……)
カップを持つ彼女の白い指が少し震えている。
思い出すのも辛い過去。それでも僕を心配し、忠告してくれたのだろう。
(…………)
僕は頷き、
「わかりました、気をつけます」
「はい」
その言葉に、美しい未亡人さんもようやく微笑んでくれた。
◇◇◇◇◇◇◇
やがて、僕は客室に案内される。
小さな個室だ。
(ベッドと棚が1つずつ、か)
眺めていると、お母様がそのベッドに近づく。
「ごめんなさい。長く使っていなかったもので、今、新しいシーツや毛布に替えますね」
と、古い物を片付けていく。
でも、1人でやるのは大変そうで、
「あ、手伝います」
「いえ、そんな」
「2人でやった方が楽ですよ。ほら、そのシーツ、貸してください」
「ですが、お客様のエト君に……あっ?」
「え、わぁっ?」
引っ張る力加減を間違えたのか、お互いバランスを崩し、一緒にベッドに倒れ込む。
パフッ
白い埃が舞う。
マルティーナさんの長い金髪がこぼれ落ち、僕の頬や首を撫でていく。
甘やかな匂いがする。
僕が下で、マルティーナお母様が上から覆い被さる態勢だ。
(ん……?)
右手が柔らかい何かを掴んでいる。
指を動かすと、
「あん……っ」
と、お母様の口から悩ましい声が漏れた。え?
僕は驚き、お母様は真っ赤になりながら、慌てて口元を押さえる。
よく見れば、僕の右手は、僕の上に倒れ込むマルティーナお母様のたわわに実った重い乳房を、服の上から思いっきり握り締めていた。
(って、わぁああっ?)
「ご、ごめんなさい!」
慌てて、手を離す。
お母様も急いで身体を起こし、
「わ、私こそ、すみません。こんなおばさんの胸を押し付けてしまって……」
と、両手で隠すように胸を押さえてしまう。
その顔は完熟したトマトのように赤く、目元も潤んで、妙に艶めかしく扇情的だった。
ゴクッ
思わず、唾を飲む。
やばい。
(めっちゃ柔らかかった……)
熱く、重く、弾力はあるのにどこまでも指が沈んでいく――まさに魔性の感触だった。
つい思い出すように、右手の指を動かす。
その動きを見て、マルティーナさんも息を飲む。
(あ、しまった)
僕は焦る。
セ、セクハラだ~!
触ったのは事故だけど、今のは駄目だろう。
築いた信頼が一気に崩れていくのを感じ、僕は青褪めてしまう。
だけど、
「……触りたい、ですか?」
(え?)
彼女を見る。
お母様は赤い顔のまま僕を見つめ、
「こ、こんな年上のおばさんの胸でも……もっと触りたいと思えますか?」
「――――」
その質問に、僕は硬直。
やがて数秒後、無言のまま、
コクン
正直に頷いた。
自身の大きな乳房を隠していた腕を、彼女はゆっくりと下していく。
ユサッ
拍子に、重く胸が揺れる。
(え……本当にいいの?)
戸惑いながら、本能のまま手を伸ばす。
だけど、彼女は逃げず、かすかに美貌を斜め横に外しながら、ジッとしていた。
ムニッ
指が触れる。
「っ」
マルティーナさんは息を詰め、でも、動かない。
や、柔らかい……っ。
僕の指も勝手に動く。
美しい未亡人さんの豊満な乳房は、僕の指で何度も形を変え、その度に彼女の唇から熱い吐息がこぼれた。
……どれくらい、そうしていたのか?
やがて、
「ん……ふっ、き、今日は、ここまでです」
と、彼女が言った。
(え?)
興奮冷めやらぬ僕は、その顔を見る。
妙齢の美女は潤んだ瞳で僕を見つめ、その白い指が僕の両手を上から軽く触り、ゆっくりと自分の胸から引き剝がしていく。
ああ、指先が名残惜しい。
求める僕の視線に、彼女は嬉しそうに笑いながら、
「続きは、明日です」
「明日?」
「はい。明日、無事に『魔窟迷宮』から生きて戻ってくれたなら、また続きをしましょう」
「!」
「私とエト君の、秘密の約束です」
彼女は、そう甘く囁く。
(マルティーナさん……)
そうか。
それは魔窟迷宮で夫を亡くした未亡人の、精一杯の僕への優しさと気遣いだった。
本能を、理性と愛情が上回る。
「わかりました。絶対、帰ってきます」
「はい」
彼女は、優しく頷く。
そこに浮かぶのは『母』の優しさと『女』の情欲が宿った、美しくも甘やかな笑みだった。
◇◇◇◇◇◇◇
「い、いってらっしゃい、お兄様」
翌朝、僕は母娘の家を出た。
美しい獣人の母娘は、玄関の外まで出て、僕を見送ってくれている。
幼女の隣には、マルティーナさんが立っている。
(…………)
穏やかな微笑み。
昨日の夜のアレ、夢じゃないよね?
あのあと、慣れない環境だからか、お母様との蜜月の時間のせいか、なかなか寝付けなくてしばらく困ったよ。
両手の感触、今も覚えてるしさ。
自分の両手を見て、軽く握る。
その時、
(――あ)
その仕草を、マルティーナお母様に見られていた。
固まる僕の前で、彼女の白い頬が薄く桃色に染まっていき、その笑みが甘やかに深まっていく。
僕らは数秒、見つめ合う。
そして、未亡人さんの紅い唇が開き、
「――約束、です」
「!」
「どうか無事に帰って来てくださいね」
「……っ、はい!」
僕は大きく頷いた。
レイナちゃんは「?」と母親を見上げ、マルティーナさんは誤魔化すように微笑み、そんな娘の頭を撫でてやる。
幼女は気持ち良さそうに目を細め、尻尾をプンプン左右に揺らした。
そんな母娘の姿に、
(うん、絶対、生きて戻るぞ!)
と、強く思う。
そして、見送る母娘に背を向け、僕は街の通りを歩き出す。
――さぁ、異世界初の『魔窟迷宮』に挑戦だ!




