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少年エトと魔法の銃 ~未亡人のママさん冒険者と甘く楽しい冒険生活送ります!~  作者: 月ノ宮マクラ


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006・迷宮都市オルガランテ

「私たちは帰路(・・)です」


 と、マルティーナお母様は穏やかに返事をした。


「帰路?」


「はい。私とレイナはオルガランテで暮らしていまして、冒険者ギルドの依頼で魔物討伐の遠征をしていたんです。それが終わり、今は街へと帰る途中でした」


「へぇ……」


 僕は、お母様の奥の幼女を見る。


 目が合うと、彼女は恥ずかしそうにしながらコクンと頷いた。


 お母様曰く、今回は馬車で2日の位置にある農村で、周辺にグレートボアという猪の魔物が出没し、駆除の討伐依頼が冒険者ギルドに出されたのだとか。


 その依頼をシュメ母娘が受注し、一昨日、無事に討伐成功。


 現在は、その帰りの馬車ということらしい。


(なるほどね)


 と頷き、ふと気づく。


「え……母娘で?」


「はい。娘も『冒険者』ですので。ギルドに登録もしています」


 お母様は上品にはにかむ。


(ええ~?)


 思わず、獣人の幼女を見てしまう。


 幼女はアワアワしながら服の襟を引っ張り、首から細い鎖で下げた金属のプレートを取り出した。


「こ、これ登録カード」


 と、見せてくれる。


 薄い金属プレートだ。


 表面に異世界の文字で名前、人種、年齢、所属ギルド名などが書かれていて、魔法技術なのかその文字は淡く青色に発光していた。


 ちなみにレイナちゃん、『9歳』らしい。


「へぇ、凄いね」


「え、えへへ」


 僕の称賛に、幼女は照れる。


 尻尾もパタパタ揺れる。


(うん、可愛い)


 お母様も微笑む。


「幼い娘なので、家に何日も1人でいさせるのも心配で……なので登録して、遠征時も一緒にいる事にしたんです」


「なるほど、そうなんですね」


 ま、考え方は人それぞれだ。


 危険はあると思う。


(でも、レイナちゃん自身も納得してるみたいだし、他人が何か言う事でもないよね)


 そして、ふと思う。


 あれ、家に1人?


「旦那さんは?」


「7年前に亡くなりました」


「あ……」


 無遠慮に聞いてしまったことを恥じる。


「ご、ごめんなさい」


「いえ、昔の事ですから」


 謝る僕に、お母様は微笑み、そう言ってくれる。


 けれど、その美貌はやはり哀しそうで、フサフサした尻尾も垂れ下がり、まだ心の痛みがあるのだとわかってしまった。


(僕の馬鹿っ)


 心の中で、自分を殴る。


 レイナちゃんも「お母様……」と心配そうに、小さな手で母親の背中に触れる。


 気づいたマルティーナさんは娘を安心させようと笑顔を作り、その小さな身体をギュッと抱き締め、頬擦りした。


 そのまま僕を見て、


「夫はいませんが、この子がいます」


「…………」


「私の宝物です」


「うん」


「だから、あの時、エト君がいなければ、私はこの大切な宝物まで失っていました。娘を助けてくれて、本当にありがとう、エト君」


「え……あ」


 美しい未亡人さんの潤んだ視線が、僕の胸に突き刺さる。


 ドキッ


 不謹慎だけど、一瞬、鼓動が強くなった。


 娘ちゃんも顔を赤くしつつも、僕を自分を救ってくれた白馬の王子様みたいなキラキラした視線で見つめてくる。


(……参ったな)


 獣人母娘の眼差しに、僕も照れてしまう。


「その……僕も、助けられてよかったと、今、つくづく思いました」


 と、正直に言う。


 美しい未亡人のお母様は少し驚き、それから「まぁ、そうですか」と、何だかおかしそうに笑った。


 周囲の乗客の皆さんも、優しい顔をしている。


 そして口々に、


「君のおかげで、我々も助かったんだよ」


「本当にありがとねぇ」


「ああ、全員、命拾いしたよ」


「ありがとう、エト君」


 と、感謝を伝えられた。


(あ……)


 か、顔、熱いな。


 ちなみに乗客の皆さんは、行商人、巡礼者、観光の旅人、街の家族に会いに来た人など、職業も馬車利用の目的も様々だった。


 そして、少年の僕にも真摯に、好意的に接してくれて、


(……ま、命の恩人だしね)


 でも、異世界の人々の価値観が、前世とあまり変わらない感じでありがたかった。


 もちろん異世界にも善人、悪人いるだろう。


 ただ乗客の人たちの様子を見るに、平均的には『善良』に傾くのかなと思えた。


「ほれ、これ食いな」


 と、巡礼者のおばあさんから干し果物を渡される。


(あ、どうも)


 と、僕は受け取る。


 モグモグ


 うん、甘酸っぱくて美味しいね。


 そんな僕の様子を、


「ふふっ」


 と、未亡人のお母様は微笑ましそうに眺めていた。


 ゴトゴト


 そうして馬車は、街道を進む。


 やがて、時間はあっという間に流れ、日暮れ前の空が赤くなった頃、僕らは目的の街オルガランテに着いたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(あ……)


 それは、唐突だった。


 ふと道沿いの木々が途切れた途端、街道の遥か先に、円形の石壁に囲まれた巨大都市が現れたのだ。


 ――迷宮都市オルガランテ。


 その名称が、頭の中で弾けた。


(思ったより大きいぞ)


 都市に向かい複数の街道が伸び、その上を何十台もの車両や人々が行き来している。


 城壁の外周には田園風景が広がり、街の奥には美しい湖もあって、広大な水面は夕焼けの空を赤く反射していた。


(……凄いな)


 これが、本物の異世界の街。


 空想ではない実物を目にして、さすがに心が震える。


 しかも、目の前の街の規模は、多分、何千人どころか、何万人が暮らすような大都市だ。


 青い目を輝かせる僕に、お母様も笑う。


「ようやく着きましたね」


「うんっ」


 僕も強く頷く。


 馬車は進み、オルガランテの街が近づく。


 見れば、街道と通じる城壁の大門には検査や手続きがあるのか、渋滞の長い列ができていた。


 列の最後尾に並ぶ。


 やがて、30分ほど待ち、僕らの番が来た。


 だけど、


「え、お金がいるの?」


 と、僕は驚いた。


 役所や各ギルドが発行する『身分証』がないと、街に入るのに税金がかかるらしい。


 金額も300リド、つまり、3万円と高額だ。


(マジか……)


 基本、『身元不確かな人間は街に入るな』という保安目的の額なのだと思う。


 理解できるけど、痛い出費だ。


 チャリン


 と、門番の兵士さんに支払う。


 ちなみに僕以外、乗客の皆さんは全員、無料で通過している。


 皆さん、『あら~』といった表情で、マルティーナお母様も、自分は何の責任もないのになぜだか申し訳なさそうな顔をなさっていた。


 優しい幼女も「お兄様……」と尻尾を垂らし、心配そうな様子である。


 ……うん。


(早く冒険者登録しようっ)


 僕は、心に固く誓った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 城門近くに、乗合馬車の乗降場があった。


 馬車が停まり、乗客全員、そこで解散となる。皆、それぞれの目的地へ歩き出した。


 僕と母娘は、


「こちら、お礼です」


 と、馬車ギルドの御者さんにお金を渡された。


 森林狼の群れから、馬車を守ってくれたお礼らしい。


(ふむ、100リド)


 謝礼額は、1万円か。


 正直、命懸けの対価として安く思う。


 でも、ここは異世界。


 日本なら乗客を危険に晒し、安全面の配慮が足りないとクレームものだろう。でも、皆さん、特に文句もなく解散していった。


(つまり、『安全』の基準が違うんだ)


 多少の危険は当たり前、最悪、死ぬのも日常――それが異世界の常識なのだろう。


 母娘も「どうも」と平然と受け取っている。


 娘、死にかけたのに……。


 いや、結局、死ななかったから『よし』としたのかな?


(ま、いいや)


 正直、僕もお金、嬉しいしね。


 と、マルティーナお母様がそんな僕を見て、


「エト君、私と娘はこれから依頼報告のため、『冒険者ギルド』に向かいます。もしエト君も『冒険者登録』をするなら、一緒に行きますか?」


「あ、ぜひ、お願いします」


 場所わかんなかったし、ありがたいや。


 即答した僕に、お母様も柔らかに笑う。


「わかりました。では、一緒に参りましょう。――レイナ、荷物を持って」


「う、うん、お母様」


 幼女は頷く。


 そして、馬車の荷台に積まれていた大きなリュックを、小さな背中に背負う。


 ギシッ


(え……)


 僕、唖然。


 荷物は大きく、先端は彼女の頭より上に出ていて、横幅も肩より外側だ。


 相当、重量がありそうに思う。


(でも、普通に背負ってる……)


 思わず、


「お、重くない?」


「? う、ううん、平気だよ」


「……そう」


 むしろ、不思議そうに聞き返されてしまった。


 マルティーナお母様も「?」と長い金髪を揺らしながら小首をかしげ、すぐに何かに気づいた顔をする。


「ああ、私たちは『獣人』ですから」


「え?」


「人間族に比べて、身体能力が高いんです。レイナも子供ですが、人間族の成人男性よりも力はあると思いますよ」


「…………」


 そうなの?


(さすが、異世界だ)


 僕は、おかっぱの金髪幼女を見る。


「凄いんだね、レイナちゃん」


「え……あ、うん。あ、ありがとう……えへへ」


 と、真っ赤な顔で照れる。


(あら、可愛い)


 お母様も優しい表情で、娘の頭を撫でてやる。


 レイナちゃんも嬉しそうに紫色の瞳を細め、お尻の尻尾もブンブン左右に振れていた。


 やがて、お母様もそこそこ大きなリュックを背負う。


 僕も肩提げ鞄をかけ、


「では、エト君、レイナ、行きましょう」


「はい」


「う、うん」


 僕ら3人は、乗合馬車の乗降場をあとにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕とシュメ母娘は、大通りを歩いていく。


(ふ~ん?)


 思ったより、綺麗な街だ。


 西洋ファンタジー風の建物が並び、道も広く、街灯も設置され、噴水広場や時計塔などもある。けれど、中世ヨーロッパ風な感じでもない。


(むしろ、ゲーム的な?)


 そんな世界観に思う。


 何より、


(エルフ、獣人、ドワーフ、あれはトカゲ人間か?)


 道行く人は、前世では見られない外見、特徴を有している人も多かった。


 いや、本当、凄いね。


 自分が未知の世界、未知の体験をしているのだと強く感じる。


 全てが興味深く、左右に視線を彷徨わせる僕に、マルティーナさんはとても優しい表情をしていた。


 やがて、


「ここです」


 と、母娘の足が止まった。


 目の前には、3階建てぐらいの立派な西洋風建築物があった。


 ――冒険者ギルド。


(ここが……)


 見ていると、建物の出入り口から、剣と鎧を装備した戦士や杖を持つ魔法使い、弓や短剣、戦斧やハンマーなどで武装した人々が何人も行き来している。


 あれ全員、『冒険者』か。


 と、隣にいた本物の冒険者の美女が、


「さぁ、入りましょう」


 ポン


 と、僕の背中を叩く。


「あ、うん」


 僕は頷き、母娘と一緒に建物に入っていった。


 ザワザワ


 中に入ると、意外と騒がしい。


 冒険者ギルド1階フロアには、複数の受付や受注掲示板、素材の買取所があった。


 2階は食堂かな?


 吹き抜けの空間から、料理やお酒の匂い、賑やかな笑い声が降ってくる。


(うん、イメージ通りだ)


 多分、多くの人が思い描くようなギルドの景色がそのままに、今、僕の目の前に広がっていた。


 何より、その空間内に大勢の冒険者が実在している。


 そして、彼らが喋り、動き、その生きた空気を肌で直接感じてられている――それが、凄く嬉しかった。


(あはっ)


 思わず青い目を見開き、笑ってしまう。


 そんな僕に、金髪の幼女は「お兄様……?」と少し不思議そうで。


 お母様の方は優しく笑い、それから、


「エト君。私たちは先にクエスト完了報告をしてきますね」


「あ、はい」


「そのあと、私たちも付き添いますので、エト君の『冒険者登録』をいたしましょう」


「わかりました」


 僕は頷く。


 お母様も頷き、


「では、少し待っていてくださいね。――レイナ、行きますよ」


「あ、うん、お母様」


 と、娘ちゃんと一緒に受付の方に行ってしまった。


 2人の背中を見送る。


 見送りながら、ふと、


(あれ? 別に待たずに、僕1人で登録しても良かったのでは……?)


 と、今更気づく。


 ……ま、いいか。


 せっかくの善意の提案だ。今更、無下にするのも申し訳ない。


 今世は時間に押されず、人付き合いなんかも大切にのんびり生きていこうかね、うん。


 と、ぼんやり思った、その時、


「おい、そんな所に突っ立ってんじゃねえ! 邪魔だ、ガキ!」


 突然、怒鳴り声が響いた。


 お……?


(もしかして、僕のことか?)

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― 新着の感想 ―
これから冒険者登録しようって時にトラブル発生・・・どうなる? 単に怒られるだけだったら謝って済むが、イチャモンなら・・・
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