033・新しい竜装備
街へ帰還した翌日は『休養日』となった。
い、いや、昨夜、マルティーナさんとがんばり過ぎたからじゃないよっ?
単純に、転生してから1日も休みなく戦っていたからだ。
お母様曰く、
「疲労の蓄積は怖いですよ? 前触れもなく、突然、身体が壊れますから」
との事。
(そうなんです?)
と、不思議な顔で聞いていたら、
「エト君はお若いですからね……」
お母様が何だか遠い眼差しをされるので、僕も了承するしかなかったんだ。
あと『竜素材』での『新装備』が明日、完成するらしいからね。
今日1日は、のんびり過ごすのだ。
という事で、午前中は家事を手伝い、午後は母娘と買い物に出る。
お店で食材を選ぶマルティーナさんを眺めていると、
(……うん、主婦だ)
何だか家庭的な大人の女性っぽくて、『魔狩人』の時とはまた違う魅力を感じてしまう。
ドキドキ
本当、素敵な女性だよ。
僕の視線に気づき、ニコッと笑ってくれる様子はまさに新妻のそれです。うへへ……。
尚、買い込んだ食材は、
「んしょ」
と、幼女が持つ。
う~ん、力持ち。
(……だけどなぁ~)
「半分、持つよ」
「え? レ、レイナ、これぐらい平気だよ?」
「うん、知ってる。でも、僕も持ちたい。一緒に暮らしている家族として、さ」
「家族……」
「駄目?」
「う、ううん。じゃあ、半分こ」
「うん、ありがとう、レイナちゃん」
と、荷物の半分を引き受けた。
ズシ……ッ
おお、重い。
でも、だからこそ、幼女1人に任せるのは違うよね。危険な『魔窟迷宮』ならいざ知らず、今は平和な『日常』なのだから。
笑う僕に、幼女も何だか笑ってくれる。
一緒に笑い合う僕らを、ふと気づけば、お母様がとても優しい表情で見守っていた。
やがて、家に着き、お風呂に入って、夕食を取る。
幼女、就寝。
そして、お母様との2人きりのお時間です。
献身的なお母様に色々教わり、また彼女の肉体の事も色々わかってきて、僕も何度も満足させてあげられるようになりました。
やがて、休憩中、
「エト君は、本当に覚えが早いですね……。これでは、いつか私の身体の方が持たなくなってしまいそうです」
と、甘く睨まれました。
(えへへ……)
でも、ま、求められる事は嬉しいらしく、実際の所、お母様は満たされた『女』の顔である。
うん、もっと勉強し、お母様に悦んでもらえるようがんばるぞ!
と思いつつ、ベッドの上で色々話す。
その話題の中で、
「そう言えば今日、『王都騎士団』が街を発ったらしいですね。買い物の時、店主が話していました」
「へ~、昨日の今日で」
忙しいな~、騎士様は。
(僕らは休養日で、申し訳ないね)
でも、そんな自由が利くのが『冒険者』稼業の良い所の1つなのだ。
「出発時には見物人も多かったらしいです。やはり、『黒の王剣』を一目見たいと思う人は多かったみたいで」
「へ~?」
「やはり、彼女は人気者ですね」
「ですかぁ」
「…………」
「……?」
「エト君も、彼女が気になりますか?」
「え? そりゃ、まぁ……」
普通にお知り合いだし、安否は気になってしまうよね。
と、お母様は少し寂しそうに、
「まぁ、美人ですものね」
「…………」
「長命種族ですから、ずっと若い外見のままですし……やはりエト君も魅力的に思いますよね」
「ええと」
あ、これ、嫉妬ですか?
(……えへっ)
やばい、お母様、可愛い。
そして、嬉しいっ。
そんな年上の可愛い女の人に、僕は堪らず、その白いおでこにキスしてしまう。
彼女は目を丸くし、
「僕の中で1番魅力的で人気なのは、『マルティーナ・シュメ』という女の人です」
「っ……!」
「です」
「エ、エト君……っ」
マルティーナさんは感極まった表情で僕を見つめる。
次の瞬間、僕の上に覆い被さってベッドに押さえ込まれた。長い金色の髪がこぼれ、僕の肌を流れていく。
「エト君っ!」
(ん……っ)
美貌が近づき、熱烈な口付けをされる。
し、舌も絡み、情熱的だ~。
「ぷはっ……ああ、もうエト君はっ」
「マ、マルティーナさん……」
「このまま私を壊しても構いません。ああ、どうかまた私の中にいらしてください……っ」
「はい、マルティーナさんっ」
僕も強く頷く。
燃え上がった彼女の想いに、今夜も僕は全力で応えたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
日付が変わり、朝が来る。
本日は魔窟迷宮の『3階層』に初めて挑む日だ。
(どんな場所かな?)
と、少しワクワクする。
だけど、『魔窟迷宮』に行く前に、今日、竜素材の『新装備』が完成してるはずなので、先に『武具・防具店』に寄る事になった。
(新装備っ、こっちも楽しみだ)
と、僕は母娘とオルガランテの通りを歩く。
街の景色を眺めながら、ふと、
「そう言えば……」
「?」
「あの、『特殊個体』って『階層移動』ができたんですよね。それって、『黄金霊虎』が『3階層』にも現れたりできるって事ですか?」
と、聞く。
一応、今日行くのだし、確認しておきたかったのだ。
「え? ……ああ、はい、理論上は」
と、お母様は頷かれる。
(理論上?)
僕は首をかしげ、幼女も美しい母親を見る。
「ええ、理論上はあり得ます。ただ『魔窟迷宮』発見から150年の間、浅層での『特殊個体』の目撃記録は全くありません」
「全く?」
「はい、ゼロです」
「…………」
「夫が亡くなってからの7年間、『黄金霊虎』は2度、目撃されています。ただ、どちらも『5階層』、『7階層』です」
「7年で2度だけ、ですか」
「ええ、最後の目撃記録は3年前です」
「3年前……」
「『特殊個体』は滅多に目撃されません。遭遇したら、ほぼ全滅が確定している相手ですので、報告される事自体が少ないのでしょう。……ただ『魔窟迷宮』で消息不明になった者の中には『特殊個体』に遭遇した者も一定数、含まれているとは思います」
「…………」
語られる内容に、僕は息を飲んでしまう。
その表情に気づき、
「ですが記録上、次の『3階層』で『黄金霊虎』と遭遇する可能性は皆無です。なので心配しなくても大丈夫ですよ」
と、お母様は優しく言ってくれる。
少し迷い、僕は「そうですね」と頷いておく。
僕とお母様の言葉に、幼女も安心した様子である。
だけど、思う。
確かに、目撃記録はないのかもしれない。
(でも、それって浅層にはランクの低い冒険者が多いから、普通に全滅してるだけじゃないのかな……?)
だから、今まで目撃記録がない。
それは言い換えたら、この150年もの間、浅層で『黄金霊虎』に遭遇した冒険者はたったの1人も生還できなかった……という意味になる。
無論、確証はない。ただの推測だ。
でも……。
僕は、青い空を見る。
(……黄金霊虎、か)
その名を心で呟き、空と同じ青い目を細める。
そうして母娘と街を歩き、やがて30分後、僕らは目的の『武具・防具店』に無事、辿り着いたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「――こちらが『ご注文の御品』となります」
店主らしいドワーフのお姉さんが、複数の『装備品』をカウンター台の上に置く。
(おお、これが新装備っ)
置かれたのは5品ある。
3品は『解体用ナイフ』で、刃の部分が透明な紅色になっている。
これは今回の竜討伐の記念で、全員のお揃いとして作った物だ。
紅い刃の部分が『竜素材』で、レイナちゃんの『解体』作業もより容易になるだろう。
また僕とお母様にとっては『予備武器』にもなる。
「えへへ、お揃い♪」
「うん、だね」
「ふふ、そうですね」
と、僕らは笑い合う。
そして解体ナイフ以外、残る2品はどちらも『防具』で、『紅い小盾』と『紅い手甲』だった。
小盾はレイナちゃん用で、手甲は僕用である。
注文時のお母様曰く、
「今後、『階層』が進めば、生息する『魔物』も強くなります。そして、私1人で『前衛』を務め切れない場面もあるかもしれません。その時に、2人も身を守る術が必要ですから」
との事だった。
(そっか)
と、その時も納得し、了承した。
そして今、僕は完成した『紅い手甲』を実際に付けてみる。
カチャ……ギュッ
腕を通し、内側のベルトを締め、固定する。
見た目より軽い。
でも、『竜素材』なので鉄の刃ぐらい簡単に弾ける硬度なんだって……凄いね。
フィッティングも良く、上下に動かしても支障はない。
最後に、
(来い、マギ・ブラスター)
ヒィン
右手に銃を出現させ、左腕の『紅い手甲』で防御しながら構えてみる。
うん、問題なし。
イメージ的に、剣と盾の剣士が、剣の代わりに『銃』を持つ感じかな。
僕の姿に、お母様も微笑み、頷く。
尚、店主のドワーフのお姉さんは、突然出現した『マギ・ブラスター』に目を丸くしていた……あっと、失礼。
構えを解き、銀色の『魔法の銃』は亜空間に収納しておく。
一方、幼女も鏡の前で、
「んっ」
と、『紅い小盾』を両手で構えていた。
お? 似合うじゃん。
身を縮め、軽い前傾で構える姿は、何か『亀』っぽくて良い感じだぞ。
「うん、いいね、レイナちゃん」
「え、えへへ……」
幼女も嬉しそうに笑う。
でも、マルティーナお母様だけ『新装備』がない。
実は『竜素材』の量的に、これだけしか作れなかったんだって。もちろん注文時にわかってて、お母様も了承してたんだけど……なんか申し訳ない気がする。
と、僕の視線に、お母様も気づく。
彼女は微笑み、
「ご心配なく。私の装備も、それなりに『良い品』なんです。『7階層』に生息する『白銀の麒麟』の素材でできていますから」
カシャン
と、白い槍と白い鎧を揺らす。
――白銀の麒麟。天を駆ける4つ足の魔物で、『地角竜』より上位の存在である。
頭の中で『異世界知識』が教えてくれる。
(うわ、じゃあ、この『竜装備』より上……っ?)
僕は、マジマジ見てしまう。
装備ごと全身をじっくり見られ、視線に気づいたお母様は少し恥ずかしそうである。
やがて、お会計だ。
全部で1万8000リド、日本円で約180万円である。
(……高っ)
と思ったけど、素材持ち込みなので安い方らしい。マジか……。
その時、お母様が、
「あと、既製品の『防水』のブーツと外套を3人分、お願いできますか?」
と、追加注文する。
(え?)
「はい、もちろんです。すぐにお持ちしますね」
「ありがとう。お願いします」
と、店主は店の奥に行く。
(……えっと?)
僕の問いかける視線に、彼女は上品に微笑む。
「次の『3階層』で必要になるんです。その理由は、どうか現地までお楽しみに……」




