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少年エトと魔法の銃 ~未亡人のママさん冒険者と甘く楽しい冒険生活送ります!~  作者: 月ノ宮マクラ


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030・地角竜の討伐成功

「お疲れ様でした、エト君」


 僕の前で、マルティーナお母様が甘く微笑んだ。


 見れば、その美貌には汗が光り、美しい金色の長い髪も少し乱れてしっとり濡れている。


 短時間なのに、凄い消耗度。


(いや、当たり前かな)


 だって、相手は『竜種』だったのだ。


 その攻撃は凄まじい威力で、もし1度でも当たっていれば、彼女は今ここにいないのだから。


 僕も万感の思いで、


「マルティーナさんもお疲れ様でした」


「はい」


 彼女は嬉しそうに笑う。


 レイナちゃんも僕から離れ、「お母様!」と大好きな母に抱き着く。マルティーナさんも優しく紫色の瞳を細め、その場にしゃがんで抱き返した。2つの尻尾がフサフサ左右に揺れている。


(ふふ)


 僕、ほっこり。


 と、後ろにいた『黒の王剣』様が、


「――まさか、本当に1撃とはな」


 ガシャン


 と、黒い兜を後ろに外しながら言う。


 汗に濡れた銀髪の美貌が現れ、美しい褐色の手が前髪を後ろにかき上げていく。


(うん、本当、美人さん……)


 彼女の金色の瞳は、竜の死体を見る。


 息を吐き、


「正直、恐れ入る」


「……え~と、どうも」


 と、僕は会釈。


 すると、お母様が立ち上がり、僕の代わりに口を開く。


「エト君の凄さ、理解しましたか?」


「む……」


(え?)


 驚く僕の前で、2人は見つめ合う。


 緊張した空気を感じ、困惑した幼女は再び僕の方へとやって来て、僕の横にくっつく。


 よしよし、と軽く撫でてやる。


 やがて、褐色肌の美女が、


「ああ、『グレイシスの遺産』の凄さがな」


「……まぁ」


「あの威力、更に上があるとすれば『国宝級』に匹敵するかもしれん。こんな若い少年がどうやって手に入れたのだ?」


「エト君は祖父に譲り受けた、と」


「祖父?」


「ええ。先日、亡くなったそうで『フィーゴ・アルモラン』という冒険者だそうです」


「フィーゴ・アルモランだと……?」


「知っているのですか?」


「その名前は、東方の国々で伝わる『大天使』の御名だ。親か自分でつけたか知らぬが、酔狂な名付けをするものだな」


 と、呆れ交じりに言う。


(へぇ~、大天使?)


 じゃあ、手紙にあった『異世界管理神霊』が人の世で言う『大天使』って事なのかな?


 ムニムニ


 僕は幼女のケモ耳やおかっぱの金色の髪を触りながら、その事実を知る。尚、幼女は「えへへ」と頬を赤らめ、気持ち良さそうな顔である。


 と、『黒の王剣』様の美貌が僕を向く。


「エト」


「あ、はい。何か?」


「お前、騎士団に入る気はないか?」


「え……?」


 唐突な勧誘に、僕の青い目は点だ。


 幼女を愛でる手も止まり、母娘も共に驚いた顔である。


「貴方は急に……何を……っ?」


 と、焦ったようにお母様。


 でも、ダークエルフの美女は無視し、僕へと言う。


「剣の腕がないなら、『魔法師団』でも構わん。その『魔銃』の力、市井に置くには惜しい。どうだ、アーヴィン王国に直に仕える気はないか?」


「あ、いえ――」


「金も、地位も、名誉も手に入るぞ」


「…………」


「どうだ、エト・アルモラン?」


 ズイッ


 美貌が近づき、黄金の眼力が僕を見据える。


 あ、案外、押しが強い。


(でも……うん)


「いえ、遠慮します」


 と、はっきりお断りした。


 ジューレンヌさんは意外そうに僕を見つめる。


「なぜだ?」


「だって、マルティーナさんと一緒にいられないじゃないですか」


 視界の隅で、マルティーナさんが「っ……」と息を飲んだのがわかる。


 目の前の銀髪の美女も、金色の目を瞠る。


 僕は言う。



「――そりゃ、お金も地位も名誉も欲しいですけど……でもマルティーナさんと比べたなら、全部、何の価値もないですから」



 と、素直に伝えて笑った。


 途端、2人の美女は対照的な顔になる。


 マルティーナお母様は感極まった表情で頬を赤らめ、その紫色の綺麗な瞳を潤ませている。


 一方、ジューレンヌさんの褐色の美貌は、何とも渋い表情である。


「本気か?」


「はい」


「…………。そうか。まぁ、好きにしろ」


 低い声で言い、彼女は俯く。


 と、お母様が僕のそばに寄り、


「エト君……」


「あ……」


「こんな年増の女に、何の価値があるというのですか。……でも……ふふ、今の言葉、嘘でも嬉しいです」


 と、僕の頭を、その豊満な胸に抱く。


 素晴らしい感触に包まれながら、


「いえ、本心ですから。僕にとって、この世にマルティーナさん以上の宝物はありません」


 と、正直に言う。


 ムギュッ


(う……っ?)


 抱く力が更に強くなり、彼女の体温が上がった気がする。


「もう……もうっ、エト君は……っ」


「~~~~」


「こんなおばさんを喜ばせて、本当に……本当に悪い子ですね」


 言葉と裏腹に、声は嬉しそう。


 でも、


(い、息が……苦しい~)


 天国の窒息に、僕はお母様が気づくまでしばらく溺れる事になったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 一息入れた僕らは、その後、『竜の巣』の洞窟に入る。洞窟の奥では、まだ騎士団が雄の『地角竜』と戦っているかもしれないからだ。


「エトのおかげで、こちらは早く倒せたからな」


 と、『黒の王剣』様。


(おや、褒められた?)


 彼女にしては珍しく、でも王国最強の騎士に言われて、正直、結構嬉しい。


 ランタンを灯し、僕ら4人は洞窟内を進む。


 内部は意外と明るい。


 鍾乳石の生えた空間には、時折、青白く光る岩石が混じっていて、その光源で意外と視界が保たれていたからだ。



 ――夜光石。魔素に反応し、暗闇で光る鉱石。



 と、『異世界知識』が教えてくれる。


 また洞窟内は心配した狭さはなく、むしろ入り口より中の方が広くなっている。ただ下方向に傾斜し、足元は濡れている岩場のため、滑り易いので注意が必要だ。


 ズン ズズ……ン


 戦闘音が時折、重く響く。


 やがて、40~50メードも進んだ頃、空間が一気に開いた。


(――いた)


 学校の体育館ぐらいの空洞内で、騎士団に囲まれる赤褐色の怪物――『地角竜』を発見した。


 天井付近には、光球が3つ浮かんでいる。



 ――光魔法。光源用の魔法で、15分程、光が持続する。



 と、頭に『異世界知識』が閃く。


 恐らく、騎士団が使用したのだろう。


 そして、その騎士団と地角竜は、お互いにボロボロの状態だった。


 地角竜は両目が潰れ、全身の鱗も何箇所か砕けて、長剣が刺さった状態のままで大量の血液が流れている。もはや、虫の息だ。


 一方で、騎士団も何人もの負傷者が出ており、竜を囲む包囲網の外で『回復薬』の丸薬を飲んだり、特に深手の者には他の騎士が『回復魔法』をかけたりしていた。


 と、その時、竜の喉が膨らみ、口内が赤く光る。


(!)


 火炎の吐息だ。


「全員、防御魔法!」


 マリウス団長の指示に、騎士たちは自分たちの正面に『光の盾』を展開する。


 見て、気づく。


(さっきのジューレンヌさんの防御魔法より全然、範囲が狭い)


『黒の王剣』様の展開した『光の盾』は僕ら全員を守るサイズだったのに対し、騎士たちは自分1人分の範囲にしか展開されていない。


 ああ……なるほど。


 多分、これが『普通』なんだ。


 つまり、銀髪の美女の魔法が『規格外』だったのだろう。


(王国最強の騎士、『黒の王剣』、か)


 その意味を今、理解する。


 ボパァアン


 実際、火炎が吐き出され、何人かの騎士の『光の盾』は砕け、火傷を負っている。


 ふむ、盾の『強度』も差があるらしいね。


 騎士団は満身創痍、大きな疲労が見えている。


 一方の『地角竜』も限界が近いのか、火炎のあとに追撃ができず、むしろ足元さえ覚束ない様子だった。


 でも、


(――戦う意思は死んでない)


 潰された眼球で、敵たちを強く見据えている。


 ああ、そうか。


 この竜は『番の竜』の片割れだ。


 そして、この雄の『地角竜』は、愛する妻を逃がすために命を捨てる覚悟をしている。そして妻のため、少しでも敵を減らしておくつもりなのだ。


(……敵ながら天晴れだよ)


 魔物だけど、敬意を払いたい。


 でも、この『番の竜』が人類を捕食する生物である以上、ここで見逃す訳にもいかなかった。


 だから、


「貴殿らはここにいろ」


 と、『黒の王剣』は大剣を手に前に出る。


 竜を見据えたまま、


「エト、『例の射撃』は洞窟崩落の危険があるため、絶対に使うな。だが、可能なら『通常射撃』で援護を頼む」


「あ、はい」


「マルティーナ殿はその間、この少年を守れ」


 と、指示を出す。


 お母様は淡々と「言われるまでもありません」と返答し、槍を手に僕の前に立つ。


 尚、幼女は僕の更に後ろである。


 僕は息を吐き、


(来い、マギ・ブラスター)


 ヒィン


 右手に『魔法の銃』を出現させ、竜へと構えておく。


「ふっ……」


 そんな僕に、兜から覗く唇を笑みの形に歪め、そして『黒の王剣』は目の前の怪物へと走り出す。


 何人かの騎士たちが気づき、


「おおっ、『黒の王剣』様!」


「来ましたか!」


「全員、『黒の王剣』様に続け! 一気に奴を仕留めるぞ!」


「おおおおっ!」


 雄叫びが伝播し、騎士全員が奮起する。


(空気が変わった)


 たった1人の人間の登場で、一瞬にして集団の戦意が高揚したのである。


 ああ、凄いな。


(これが『英雄』って奴か……)


 感動する僕の前で、彼女は黒い鎧の紋様を赤く光らせ、魔力発光した大剣を巨大な竜に揮っていく。


 1人だけ、速さ、威力が違う。


 竜の鱗が吹き飛び、紫の鮮血が舞う。


 もちろん『地角竜』も必死に抗い、暴れる。


 薙ぎ払われた太い尾で洞窟の壁がバチュンと弾かれ、砕けた石の破片が散弾のように僕らへと飛来する。


(!)


「しっ!」


 お母様の槍が破片を全て、叩き落す。


 その間に、僕は赤い照準を表示し、竜の足の傷口を狙って『通常射撃』を行っていく。


 ドドドッ パパァン


 鮮血が散り、竜の動きが鈍る。


 その一瞬の隙を、彼女は見逃さない。



「――『黒帝の剣』よ、我が敵を屠れ!」



 大剣に魔法文字が浮かび、『黒の王剣』は黒い魔力で倍の大きさに拡大した『黒い光の大剣』を振り下ろす。


 ドパァアン


 動きの鈍った竜の頸部に命中、その首が切断される。


 大量の血液が噴き、雨のように王国最強の騎士『黒の王剣』の全身を濡らしていく。


 騎士団の歓声が上がる。


 彼女は最後まで油断なく、竜の様子を見極め、


 ガシャン


 やがて大剣を引き、兜を外す。


「ぷぅ……っ」


 汗に濡れた銀髪が輝き、そして、少しだけ笑みが咲く。


 僕とお母様は目を合わせ、


(――うん)


 と、お互いに微笑み合った。


 幼女は『わぁ!』と無邪気に目を輝かせている。



 ――こうして僕らのギルドからの依頼、そして王国騎士団の『地角竜の討伐』任務は無事に完遂されたのである。

ご覧頂き、ありがとうございました。


次回更新は明後日、28日(水)になります。

時間は19時台の予定です。

どうぞ、よろしくお願いします。


※現在、月水金の週3回更新です。

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― 新着の感想 ―
無事に完遂・・・かな。このまま何事もなく帰還できるの・・・かな?
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