029・第2段階の魔力充填射撃
序盤の書き直しをしました。
一番最初に第000話が追加され、第001話が一部改稿されています。
内容的に変更はありませんので読み直す必要はありませんが、もしかしたら『しおり』の位置がズレているかもしれません。
もしそうでしたらお手数かけて申し訳ありませんが、どうかご修正下さいね。よろしくお願いします。
それでは本日の更新、第29話です。
どうかお楽しみ下さい!
ペタッ
紙の札『気配殺しの護符』を鞄の表面に貼る。
これで魔法の効果が発揮され、周囲の生き物から認識され辛くなるらしい。
(う~ん、異世界独自の技術だね)
前世にも存在しない不思議道具に、少しだけテンションが上がる。
ただし、『され辛くなる』だけで『されない』訳ではないのが注意点である。
なので、
「ジッとしていましょう」
「はい」
「う、うん」
と、僕と母娘は『竜の巣』の入り口近くの茂みに身を潜めておく。
地面に座り、無言の待機である。
…………。
青い空に白い雲が流れていく。
木々の枝をリスみたいな小動物が駆け抜け、遠い森の奥から鳥の鳴き声が聞こえてくる。
実に平和で、退屈だ。
(少しなら声出してもいいか)
と、僕はお母様に話しかける。
「あの、騎士の皆さん、大丈夫ですかね?」
「え? ああ、そうですね。……それは洞窟内の構造次第でしょうか」
「構造?」
「はい。騎士30名、そして『黒の王剣』もいる事を考えれば、2頭の『地角竜』が相手でも充分、勝機はあると思います。だた、それは『通常の戦場』ならでしょう」
「通常……」
「要は広い空間で、騎士全員が戦える状況です」
「あっ」
「はい、洞窟内がもし狭く、竜に対し、常に少数しか戦えない場合は……」
「騎士団が負ける?」
「まぁ、相当、厳しいかと」
「…………」
マジか……。
ほんの半日の付き合いだ。だけど、もしもを想像したら、正直、心がざわつく。
(今からでも、行くか?)
加勢に。
と心を揺らしていると、
「……お兄様?」
「!」
幼女の円らな瞳に見られ、我に返る。
(落ち着け)
何も最悪の想定が正しい訳じゃない。
洞窟内が広く、全員、無事生還する可能性だってあるのだから。
焦るな焦るな。
自分に言い聞かせる僕を、お母様の美貌は少し困った様子で見ていた。
と、その時、
ズン ズズ……ン
低い振動が地面の下から響く。
「戦闘が始まったようですね」
(あ……)
「今は彼らを信じて、ここで待ちましょう。もしもの時の役目も与えられています。託された信頼を裏切る訳にはいきません」
「…………。はい」
僕も頷く。
しばらく、戦闘の振動は続く。
時に大きく、時に連続して。
やがて、5分、10分……それぐらいしただろうか?
ドドン
(!)
一際、大きな振動が響いた。
そして、それ以降、戦闘音が途絶えてしまう。
(……まさか)
「決着したのでしょうか?」
マルティーナさんも獣耳を動かし、洞窟の方を見ながら呟く。
(じゃあ、どっちが?)
そう僕が思った、その時、
「――――」
バッ
お母様は驚いた表情で、突然、槍を手に立ち上がった。え?
表情は青褪め、
「マルティーナさん?」
「お、お母様?」
と、僕らは問う。
けど、彼女は答えず、洞窟の闇を睨みながら、形の良い鼻を動かす。
そして、
「――『地角竜』が来ます」
と、告げた。
◇◇◇◇◇◇◇
(えっ?)
思った瞬間、地響きが足元に伝わり、それは急速に激しくなっていく。
な、何々?
困惑した直後、
ゴガァン
入り口の一部を吹き飛ばし、赤褐色の巨大な『何か』が洞窟から地上へと飛び出した。
(おわぁっ!?)
土砂と草木が宙を舞い、落ちてくる。
お母様も幼女も、尻尾がブワワッと広がって太くなっている。
僕も、青い目を見開く。
――怪物だ。
一目見て、そう思った。
4本足の恐竜みたいな巨大生物だ。
鎧みたいな赤褐色の外皮に、頭から電柱みたいな太さの角が生え、口には鋭い牙と足の4本指には曲がった鋭い爪が生えている。
黄色い眼球は、縦長の瞳孔をしている。
その右の眼には、大剣が刺さっていて、
(――って、ジューレンヌさん!?)
怪物の頭部には、あの『黒の王剣』と呼ばれた黒騎士がいて、手にした大剣を必死に突き立てていた。
怪物は頭部を振り回し、彼女を払い落とそうとしている。
その前に『黒の王剣』は、自ら怪物の外皮を蹴り、空中を飛んで地面に着地してみせる。
ヒィィン
魔法の効果なのか、黒い鎧の表面にある赤い紋様が光輝く。
と、黒騎士は竜へと大剣を構えたまま、
「――貴殿らに協力を要請する!」
「!」
「急に何を……っ!?」
「え? え? え? え?」
「騎士団は現在、洞窟内にて『地角竜』の1頭と交戦中である。そして、地上へと逃走したもう1頭の『討伐』を、貴殿らはこの『黒の王剣』と共に果たされよ!」
と、よく通る声が告げる。
(お、おおお……っ!)
よくわからんが、緊急事態らしい。
そして、王家直属の騎士からの協力要請――つまり『交戦』許可が出たんだよな。
僕は歓喜し、
「――承知しました!」
笑顔で即答する。
一方、マルティーナさんは不服そうに、レイナちゃんは目を丸くしている。
でも、迷う時間は状況が許さない。
グォオオン
目の前の怪物――『地角竜』が咆哮する。
強い怒気と殺気。
その迫力に、
(戦わなきゃ、全員、死ぬ!)
と、理解させられる。
だから、僕は右手を前に構え、我が愛用の武器を呼ぶ。
「――来い、『マギ・ブラスター』!」
◇◇◇◇◇◇◇
ヒィン
手の中に銀色の『魔法の銃』が出現する。
(まずはお試し)
即、引き金を引き、赤褐色の怪物に対して『魔力の弾丸』を射出していく。
ドッドッ パキキィン
おお、外皮で弾けた。
想像通り、強固な鱗に防がれ、『光弾』は光の粒子に砕け散ってしまう。
(ふふ、通常射撃は無理、と)
さすが『竜』だ。
うん、こうでなくっちゃ!
竜は片目の眼球をギロッと僕へ向け、強い殺意を叩きつけてくる。
(ぐ、お……っ?)
まるで、物理的な風が当たった感じ。
か、身体が震えるぜ。
と、そんな僕の前に、槍を手にした金髪の獣人美女が飛び出してくる。
背後の僕と幼女を守るように槍を構え、
「『黒の王剣』! 何があったのか、せめて最低限の説明をなさい!」
と、黒騎士に叫ぶ。
黒騎士は、兜から見える口元の唇を動かし、
「洞窟内に『番の竜』がいた。そして、『雄竜』が騎士団の包囲を死を覚悟して崩壊させ、産卵前の『雌竜』を逃し、私が単騎で追ってきた――以上だ」
「……っ」
「騎士として失態は詫びよう。だが、この『雌竜』を取り逃がす訳にはいかん」
「…………」
「頼む、力を貸せ」
と、『命令』だか『懇願』だかわからぬ言い方で言う。
チラッ
お母様は、僕を見る。
(お?)
彼女は嘆息し、
「もうエト君は止まらないでしょう」
「む……」
「私と貴方で彼の『盾』となります。絶対にエト君に近づけてはなりません!」
「いいだろう」
(いいの?)
僕は青い目を瞠る。
美しいお母様と並んで立ち、大剣を構える『黒の王剣』様は言う。
「エトっ!」
「っ、はい!」
「竜の気を私とマルティーナ殿で引く。お前は『例の射撃』を行ってみせろ!」
「! わかりました!」
僕は頷き、
「7秒ください!」
「はい、エト君!」
「承知した!」
美女2人は迷いなく答えてくれる。
そして、『黒の王剣』と『風槍の狼』はタイミングを合わせ、目の前の竜へと駆け出す。
(魔力充填射撃……)
僕は充填に入る。
幼女は怯えた表情で、後方の木陰に隠れている。
そして、2人の美女は、
「しっ!」
「ぬん!」
槍と大剣を『地角竜』へと叩きつけた。
ガギィン
激しい火花と共に、魔力発光した刃が弾かれる。マジ硬い!
逆に『地角竜』は巨体を回転させ、目の前の敵を薙ぎ払うように太い角を振り回してくる。
ブオッ バキキィン
範囲内の邪魔になった木々の太い幹が簡単にへし折れる。
その威力を、お母様は獣人特有の『素早さ』で跳躍して回避し、黒騎士は大剣を盾にして『剣技』で斜めに受け流していく。
そして、反撃。
2人の斬撃は弾かれ、再び地角竜は鋭い牙と爪で応戦する。
ガキッ ギギィン
火花が散り、槍と大剣で上手く受け流す。
(おお、いい攻防だ)
その光景を楽しみ、同時に銃の先に『魔法陣』が展開する。
(よし)
「撃ちます、離れて!」
「!」「!」
美女たちは左右に跳び、竜への射線を真っ直ぐ開けてくれる。
(――喰らえ)
赤い照準を頭部に表示し、引き金を引く。
カォン
たくさんの魔物の命を奪った『魔力の光線』が射出され――赤褐色の巨大な頭部に命中した。
(!?)
吹き飛ばない?
数秒、光線は頭部に当たり続け、そして、残光を散らして消える。
でも、奴は無事だ。
命中した部位の鱗が灼熱し、真っ赤に光っている。
でも、それだけ。
蒸気が昇っているだけで、恐らくノーダメージである。
(うははっ)
僕の顔に、思わず歓喜の笑みが浮かぶ。
逆に、マルティーナさんは驚愕の表情を見せ、ジューレンヌさんは「ちっ」と舌打ちする。
そして、『地角竜』は、
グォォオオッ
と、激しく咆哮を響かせた。
ビリビリと肌が泡立ち、鼓膜と心臓が痺れる。
(ヤベ……っ)
さすがに今の威力は看過できなかったのか、『地角竜』の視線が目の前の美女たちを無視し、僕1人に向けられている。
完全な『脅威』認定だ。
それが恐ろしく、同時に嬉しい。
(リロード)
残弾表示を回復させながら、
「威力上げます、19秒ください!」
と、『前衛』2人に叫ぶ。
5秒がリロード、第2段階の魔力充填射撃まで14秒の計『19』秒だ。
日常なら短く、けれど、切迫した戦場では長い時間。
だけど、お母様は、
「承知しました!」
と、即答。
逆に黒騎士様は、僕に問う。
「それでいけるのか!?」
「わかりませんっ。でも、駄目なら『最終段階』まで威力を上げます。ただその場合、むしろ竜以上に周辺の被害が甚大になると思うので、極力使いたくないですっ」
「っ……わかった、いいだろう!」
「はい!」
「竜は必ず食い止める。私たちを信じて、撃て!」
「はいっ!」
僕も強く頷く。
その目の前で、2人は竜へと走る。
と、その時、竜の喉がボコッと膨らんだ。
(!?)
驚く僕の前で、地角竜は口を開き、真っ赤な『火炎の吐息』を放射した。
赤い輝きが森を染め、2人に迫る。
でも、彼女たちは逃げない。
ダークエルフの美女が走りながら、
「――『守護の光の盾』よ、我らを守れ!」
と、言葉を紡ぎ、大剣を突き出す。
大剣の表面に、複数の魔法文字が生まれ、その前方に大きな『半球状の光の盾』が発生した。
(! 魔法っ!?)
僕は目を剥き、
ボパァァン
『火炎の吐息』は『守護の光の盾』の表面を流れ、その後ろの僕らから逸れていく。
そして、お母様は低い姿勢で炎を潜り抜け、
「しっ」
下段から、無防備な竜の喉に槍を突き刺した。
ドシュッ
引き伸ばされ、生じた鱗の隙間に槍の穂先が刺さる。
傷口からも『炎』が噴き出し、彼女は即、槍を引き抜く。そして素晴らしい機動性を発揮し、竜の間合いの外へと離れていく。
ガシュッ
一拍遅れ、お母様のいた位置を竜の爪が通り抜け、地面を抉る。
間一髪だ。
見れば、撒き散らされた火炎は森の草木に引火し、周囲を赤く染めている。
ヒィン
その時、銃口の先に『魔法陣』が生まれた。
第1段階、充填完了だ。
(――よし、あと7秒)
更に、魔力充填を続行する。
と、『地角竜』が後方に下がっていく。
牙の生えた口が何度か開閉し、同時に、その巨体の足元に『魔法陣』が輝いた。
(! あの竜も『魔法』を使うのか!)
さすが竜、知能が高い!
そして、『魔法陣』から魔力の流れが立ち昇り、巨体の周囲の空中に、複数の『赤褐色の岩石』が生み出された。
グォオオンッ
巨大な竜が吠え、無数の『岩石』が僕と美女2人に飛来し始める。
だけど、
「――『黒帝の剣』よ。千の刃となり、敵を滅せ!」
と、こちらも『黒の王剣』様が再度、魔法を発動する。
大剣の表面に魔法文字が輝き、黒騎士の周囲に『黒い光の剣』が何十本と発生していく。
そして、
キュドドン
一斉に発射され、『岩石』と衝突。
ゴキィッ バカァン
魔力で創られた『黒い光の剣』と『赤褐色の岩石』はぶつかり合い、空中に何度も『魔力爆発』を起こしながら、互いの『魔法』を相殺していく。
(凄ぉ……)
爆風に髪を乱しながら、僕、感動。
あの巨大な竜の攻撃に対し、『黒の王剣』様の『魔法』は完全に対抗し切っている。
つまり、世界最強の竜種に、人種が互角に渡り合っているのだ。
これが、
(王国最強、『黒の王剣』……か)
僕は青い目を輝かす。
例え相手が竜種でも、お母様と彼女、2人が『前衛』なら抜かれる気がしない。
やばい安心感だね。
ヒィン
その時、銃口の先の『魔法陣』が更に60センチ程に拡大する。
(――来た)
次は僕の番だ。
まだ1度も試した事のない『第2段階』だけど、さぁ、どうなるかな?
僕は無意識に笑いながら、
「――撃ちます!」
赤い照準を巨体に表示し、美女たちに合図する。
マルティーナさん、ジューレンヌさんは息を合わせて左右に跳躍し、僕は正面に『地角竜』の姿を捉えながら引き金を引く。
カォオオン
先程の倍近い太さの『光線』が射出される。
その光が竜の角に届き、
ジュ……ッ
瞬間、太い角が一瞬で溶け、雌竜の黄色い眼球が大きく見開かれる。
その眼球ごと『光線』は頭部を貫通し、巨体の胴体を真っ直ぐに貫き、丸く抉り抜けていく。
後方の木々も貫かれ、次々と倒壊し、無数の葉が空中に舞う。
そのまま光線は空へ抜け、雲を貫く。
雲は消し飛び、やがて、光線も消えてしまう。
(おお~……)
僕、唖然。
最大充填ほどではないけれど、『第2段階』でも充分とんでもない威力である。
これも使い所、気をつけないとな。
と、そんな事を僕が考える一方で、美女たちも光線の抜けた青い空を見つめ、しばし茫然とした表情である。
「何だ、これは……?」
「……まさか、これ程とは……」
と、放心気味に呟く。
そして美女たちは揃って、僕を振り返る。
(え、え~と……)
視線の圧が強い。なんか、返答に困る。
と、その時、
「お兄様っ!」
草の茂みから飛び出した幼女が、僕の胸に飛び込んできた。
(わっ!?)
慌てて受け止める。
彼女は嬉しそうに、尻尾をパタパタ揺らして、
「凄い凄い、お兄様っ!」
「え、あ」
「本当に『竜』、倒しちゃった! やった、やったね、お兄様っ!」
「っ、うん!」
天使みたいな笑顔に、僕もつい笑う。
「うん、お兄様、やったよ!」
と、翼のない天使ちゃんを抱え上げ、高い高いしてクルクルその場で回る。
おかっぱの綺麗な金色の髪と獣耳、長い尻尾がなびく。
それに幼女も嬉しそうで、
「あは、あはははっ」
(あはは~♪)
僕らは一緒になって笑った。
その様子に、お母様と黒騎士の美女はお互いの顔を見合わる。
「……くっ」
「ふふっ」
やがて、どちらからともなく苦笑を浮かべ、そして、僕らの方へと歩き出したんだ。
ご覧頂き、ありがとうございました。
ここでお知らせです。
ここまで毎日更新でしたが、さすがに執筆が間に合わず、ストックが厳しくなってきました……。
そのため、次回より月水金の週3回更新となります。
更新頻度は落ちてしまいますが、どうかお許し下さい。
次回は明日26日(月)です。
次々回は明々後日の28日(水)となります。
時間は今までと同じ19時台の予定です。
よかったら、皆さん、どうかエトの物語をまた読みに来てやって下さいね。よろしくお願いします。
月ノ宮マクラ




