024・指名依頼
「――『地角竜』の捜索、ですか?」
マルティーナさんは、かすかな驚きと共に繰り返した。
ギルド3階の個室で、その内容を語った若いギルド職員の女性は「はい」と頷く。
「依頼主は『王国騎士団』です」
「王国騎士団?」
「はい。先日、アルカナ大霊峰の一部が崩壊し、その調査に『王国騎士団』が派遣されたのはご存じでしょうか?」
「ええ」
お母様は頷く。
(そう言えば、街道で見たね)
と、僕も思い出す。
赤い鎧の集団、そして、王国最強の騎士『黒の王剣』もいらっしゃった。
「その調査中、『地角竜』の痕跡が発見されたのです」
「まぁ……」
「本来はアルカナ大霊峰に生息していた個体と推測され、その崩落と共に住処を失い、山脈の麓の方まで下山して来てしまったようなのです。所在ははっきりしていませんが、『痕跡』の発見された近隣には村や街道もあります。またオルガランテまで来る可能性も考えられ、『王国騎士団』は早期の発見、討伐を決断しました」
「…………」
「ですが、肝心の『地角竜』の居場所がわかりません。王国騎士団も捜索をしていますが、現在も不明のままで……」
「探知魔法などは?」
「アルカナ大霊峰の魔力磁場で、上手く作用しないようです」
「まぁ……そうなのですか」
「はい。騎士団からは、捜索に関して『冒険者ギルド』にも協力の要請がされました。そこで、ギルドとしては、街で1番の『索敵能力』を有するマルティーナ・シュメ様に指名依頼をお願いしたく思っています」
「…………」
お母様は紫色の目を見開く。
(ええっ、マルティーナさんの『索敵』って街1番だったの?)
道理で毎回、凄いと思ったよ……。
驚く僕と、母娘の前でギルド職員のお姉さんは言う。
「先も述べた通り、依頼内容は『地角竜の捜索』です。王国騎士団と行動を共にして頂き、戦闘に関しては騎士団が行うため参加の必要はございません。ただし、相応の危険が伴いますのでお断り頂いても結構です」
チラッ
その視線が、お母様の隣の幼女に向く。
(あ、レイナちゃんの存在を、ギルド側も配慮してくれているのね)
そうした企業の良心が見え、少し安心。
と、職員の視線が、今度は僕へ向く。
(ん?)
「ただし、もし引き受けて頂けたならば、『貢献度』が大きく加算されます。索敵に『成功』された場合は、エト・アルモラン様、レイナ・シュメ様の『冒険者ランク』は1つずつ『昇印』されるでしょう」
「え……」
(え……)
僕とお母様は目を瞠る。
幼女はわかっていないのか、困惑した表情だ。
(え、餌だ~!)
ギルド側は、僕らの『魔窟迷宮』での活動実績を把握し、そろそろ『昇印』したがっているだろうと予測して、指名依頼を受けさせるための餌を用意してたんだ。
や、やりやがる……っ。
ギルド職員さんは、それ以上、何も言わない。
お母様は、嘆息1つ。
「指名依頼の対象は、私個人ですか? それとも、パーティーとしてですか?」
「どちらでも構いません。ただギルドとしても、エト・アルモラン様のパーティー加入後の皆様の目覚ましい活躍は把握しております。なので、ご判断はお任せいたします」
「…………」
「…………」
「1度、仲間と相談してもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。では、一旦、私は席を外しましょう。隣の部屋におりますので、結論が出ましたらお声がけください」
と、ギルド職員の若い女性は、整った笑顔で席を立つ。
丁寧にお辞儀し、個室を出ていった。
パタン
閉じられた扉を、しばし見つめる。
(ふむ……)
さて、お返事、どうしよう?
僕はパーティー代表である美しい未亡人さんの方へ、視線を向けた。
◇◇◇◇◇◇◇
「さて、どうしましょう?」
と、お母様が悩ましげに息を吐く。
僕は聞く。
「『地角竜』って強いんですか?」
「それはもう」
「…………」
「世界最強と評される生物、『竜種』の1種です。存在が確認された地域の住民は、基本、即日の避難が推奨されています。竜種は、個人ではなく軍隊が戦う相手ですから」
「わぁ~……」
そんなにか。
(でも、そんな最強生物なら、1度は生で目にしてみたいかも……)
なんて、正直思う。
きっと『前世の僕』も、そういうモノを見たくて転生を望んだと思うしね。
そんな僕の表情を、お母様は見つめる。
「まぁ、戦闘は『王国騎士団』が行うので、私たちの危険は少ないでしょうが」
「はい」
「……行きたいですか?」
「はい、行きたいです」
僕は笑顔で、素直に頷く。
レイナちゃんは目を丸くし、美しいお母様は苦笑してしまう。
嘆息し、
「確かに『昇印の確約』も破格の報酬ですし、条件も悪くないかもしれません」
「じゃあ……?」
「ええ。――レイナも良いですか?」
「う、うん、お兄様がお望みなら、レイナも構わないよ」
コクコク
おかっぱの髪とケモ耳を揺らし、幼女は何度も頷く。
(ええ子や~)
思わず、その頭を撫でてあげちゃう。
それに幼女は「あ……」と呟き、恥ずかしそうに頬を染めていた。
マルティーナさんは苦笑する。
(……ん?)
その時、ふと違和感を感じた。
相変わらず、お美しいお母様のご尊顔である。
だけど、何だろう? 何となくその表情に、いつもと違う『何か』があるように感じられた。
緊張や不安とは、ちょっと違う感じ。
(……気のせい?)
いや、よくわからない。
やがて、僕らは隣室のギルド員さんに声をかける。
そして『指名依頼』を受諾し、王国騎士団の『地角竜の捜索』に協力する旨を伝えたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「――ありがとうございます。では、明朝5時、『騎士団本部』をお訪ね頂くよう、よろしくお願いいたします」
と、指定され、個室を出る。
(朝5時か、早いな)
そして僕らは体力の温存と明日の準備のため、本日のクエスト予定は取り止め、『母娘の家』へと帰宅する。
談笑しながら荷造りし、時間を過ごす。
やがて、お風呂も入り、夕食を食べ、そして夜になった。
「あ、ああん」
「っ……」
若さに負け、明日も早いのに、今夜もマルティーナさんとの甘い時間を過ごしてしまう。
やがて、満足し休息。
僕の隣のベッドで、お母様は白い裸身でうつ伏せになっている。
少し乱れた息。
頬は赤く、魅惑のお尻から生えるフサフサの尻尾は、ゆっくりと左右に揺れ、僕の足を優しく撫でていく。
(なんか、くすぐったい)
と、僕は苦笑し、その顔を覗き込む。
……あれ?
その整った美貌は、けれど、どこか心ここにあらずって感じ。
僕は少し考える。
「マルティーナさん」
「あ、はい」
「あの、明日の事で何か気になる事でもありますか?」
「え?」
「いえ、その、今日のギルドで話を聞いてから、少しいつもと違う気がして……」
「…………」
彼女は目を丸くする。
やがて、「ふふっ」と嬉しそうに笑った。
長い金髪を揺らしながら身体を起こし、僕に重い乳房を押し付けてキスをしてくる。
(わっ?)
舌、気持ちいい。
やがて、顔が離れる。
「エト君は本当に、私の事を見てくれているのですね」
「あ、はい。それは、まぁ」
「ふふ、嬉しいです」
「…………」
お母様は甘えるように僕に寄りかかる。
僕もその重さを支えながら、その綺麗な金色の髪と獣耳を優しく撫でてやる。
しばらく、そうしていた。
やがて、お母様の紅い唇が開き、
「明日から数日間、私たちは『王国騎士団』と共同で活動する事になります」
「はい」
「その『王国騎士団』には、あの『黒の王剣』もいます」
「ですね」
王国最強の騎士様。
一目見ただけなのに、強烈な存在感を感じさせた『黒い鎧の騎士』様だ。
彼女は紫色の瞳を伏せる。
そして、数秒、間を置き、
「――その『黒の王剣』は、私と結婚する直前まで夫の恋人だった女性なんです」
…………。
…………。
…………え?




