022・悪人共、駆除すべし
振り返った視線の先で、茂みの中から冒険者の一団が姿を現した。
人数は、1、2、3……うん、6人かな。
装備から判断して、戦士系が3人、斥候系が1人、弓使いが1人、魔法使いが1人といったメンバー構成に思える。
(でも、全員、嫌な顔してるな)
要は『悪人面』だ……って、おや?
その一団の半数の顔に見覚えがあった。アイツら確か、登録前のギルドで僕に絡んできた酔っ払いたちじゃないか。
表情を見るに、あちら側も気づいている。
マルティーナさんがさりげなく槍を握り直し、僕と娘の前に立つ。
その表情は凛と厳しく、
「……なぜ、貴方たちの臭いがしないのです?」
「ああ、『気配殺しの護符』のせいだな。魔物用だったが、お前さんご自慢の鼻も誤魔化せちまったか。こりゃ、傑作だ」
ガハハッと、奴らは笑う。
(何がおかしい?)
僕とお母様は奴らを睨み、幼女は怯えた顔で僕の背に隠れる。
と、その幼女を――いや、幼女の背を見て、
「――お前ら、その集めた荷物、全部置いてけ」
(!)
言葉と同時に、全員、僕らに武器を構えた。
同時に、マルティーナさんも奴らに向け、鋭く槍の先を構えている。
「……本気ですか?」
「当たり前だ。前はギルドで恥をかかせてくれたな? だが、今はこっちもフルメンバーなんだぜ」
「しかも、お荷物のガキ共もいるしな」
「かつて『銀印級』だった『風槍の狼』も、今じゃ降印して『白印級』なんだろ? もう落ち目のロートルじゃねえか」
「おら、さっさと荷物を地面に置きな!」
と、連中は口々に言う。
(うわ、マジか?)
本当にこんな奴らがいるのか。
しかも警告された即日に出会うなんて、運がいいのか、悪いのか……この運命に呆れるわ。
でも、お母様は要求に応じない。
返答代わりに槍の先をリーダー格の戦士に向け、腰を低く落としていく。
――臨戦態勢だ。
(同感だ)
昨日今日の成果を、奴らに渡すもんか。
僕も『マギ・ブラスター』を召喚し……と思った瞬間、
「――きゃっ?」
背後の幼女の悲鳴が聞こえた。
(え?)
振り返れば、斥候系の装備をした男が、背後から幼女を羽交い絞めにしていた。手には片刃の短剣があり、細い首に当てられている。
(レイナちゃんっ!?)
「レイナっ!」
僕らは驚き、リーダー格の戦士が嫌な笑みを浮かべる。
「言ったろ? フルメンバーだって」
「!」
(まさか、7人目がいたのかっ)
僕もお母様も全然気づけなかった。
娘を人質に取られ、マルティーナさんは動けない。
獣人の幼女も真っ青な顔で、尻尾を足の間で丸め、ガタガタと小さな身体が震えている。
7人は、下卑た笑みだ。
「おらっ、武器を捨てろ!」
リーダー格の男が叫ぶ。
同時に、刃の当たる幼女の白い首に赤い血がツーと少量流れた。
「っ……」
ガシャン
お母様は、武器の槍を地面に捨てる。
その美貌は、苦渋の表情だ。
(マルティーナさん……)
僕も悔しげな表情を作り、持っていた『解体ナイフ』を捨て、両手を無手に見せる。
連中は、ギャハハッと笑った。
「ざまあねえな、おい!」
「あの『雷剣の狼王』の奥方様が、何とも情けない事でっ」
「はっ、所詮、女なんてこんなもんよ」
取り巻きが口々に言い、
「おい、やれ」
と、リーダー格の男が短く告げた。
ドシュッ
瞬間、お母様の右太腿に、深々と弓使いの放った矢が突き刺さった。
「ぐ……っ」
(えっ!?)
僕は青い目を見開く。
けれど、その前で、
ドシュッ
「う、ぐ……っ」
2本目の矢が、今度は左太腿を貫く。
堪らず、マルティーナさんは長い金髪を散らしながら地面に上に転倒した。流れる血がズボンの生地を濡らし、やがて、草土の地面にも垂れていく。
「マルティーナさん!」
思わず叫ぶ。
すぐ駆け寄りたかったけれど、幼女の人質がいるので迂闊に動く訳にいかなかった。
苦痛を噛み殺し、お母様は奴らを睨む。
鋭い眼光。
けれど、6人の男たちは嘲笑い、リーダー格の男だけは冷静に言う。
「お前ら獣人の速さは厄介だからな。万が一がないよう先に潰させてもらった」
「っ……」
「睨むなよ、いい女が台無しだぜ?」
グイッ
倒れたお母様の獣耳と綺麗な金色の髪を鷲掴み、乱暴に顔を持ち上げていく。
痛みに耐え、悔しげな美貌を確認し、
「くく、いい顔だ」
「っ……」
「安心しろ、すぐには殺さねえ。2~3日は生きたまま、その熟れた肉体で俺らをじっくり楽しませてもらおうか」
「な……っ?」
「あんなガキを囲う程、男に飢えてんだろ?」
「……貴、様っ」
「任せろって。俺らの方がよっぽどいい思いさせてやれるからよ。ま、死ぬ前に天国と地獄を存分に味わいな?」
ベロリ
奴は、お母様の頬を舌で舐める。
(! あの野郎……っ)
僕は怒り心頭だ。
そして、あまりに怒り過ぎて、逆に頭の奥は冷静になっていく。
周りの連中も、
「ひひっ、楽しみだぜ」
「俺ら全員の相手してたら、すぐアソコが壊れちまうんじゃねえかぁ?」
「だなぁ」
「もしもの時は、娘とガキも使うか」
「お前、鬼畜だなぁ、ぎゃはははっ」
と、下衆の顔で笑っている。
幼女は「お、お母様ぁ……」と震えた声で、涙をこぼしている。
その幼女の首に当てられた短剣が、斥候の男が油断したのか、ほんの少し離れていた。
(――今だ)
目立たぬよう手首を曲げ、何も持たない右手を幼女の後ろの男に向け、
ヒィン
その右手に銀色の魔法の銃――『マギ・ブラスター』を出現させ、僕は引き金を引いた。
◇◇◇◇◇◇◇
ドッドッ パパァン
軽い銃声は2度、森に響いた。
同時に、幼女の後ろの男の短剣を握る手が斜めに弾け、同じく眉間にも黒い穴が開く。
赤い血が宙に舞う。
撃たれた男は、
ドサッ
幼女を離し、仰向けに地面に倒れた。
レイナちゃんは紫の目を丸くし、硬直したまま立ち尽くしている。
「え……?」
「何だっ、おい、どうしたっ!?」
お母様とリーダー格の男も驚きに目を瞠る。
突然の『仲間の死』に他の男たちも何が起きたのか理解できず、その場で茫然と動きを止めてしまっていた。
だから、
(多重ロックオン)
僕は振り返り、男たちへ銃口を向ける。
何人かが反応し、弓や剣、魔法の杖を構え、
(――遅いな)
「――射撃開始」
ドッドッドッドッドッドッ
何かされる前に、僕はその6匹の外道に向けて、『マギ・ブラスター』の弾丸を6発分、発射していく。
パパパァン
「がっ?」
「ぐあっ」
「ぷぎ……っ」
「っ……」
「あばっ」
外道な男共は血飛沫を上げて、次々と地面に倒れていく。
眉間に当たった3人は即死、2人は生きているけれど肺や腹部に命中したため、やはり致命傷だ。
でも、ただ1人、
「く、そ……っ、何、しやがった!?」
リーダー格の男だけ、存命中である。
おや……外したか。
眉間を狙ったんだけど、反射的に男が避けたため、金属製の兜に当たってしまったらしい。
兜は表面が凹み、遠くに弾け飛んでいる。
その分、奴の寿命は延びた訳で、
(――でも、短い延命だ)
右手の銃口で奴を狙いながら、僕は左手で鞄から金属容器を取り出す。
「レイナちゃん」
「!」
「お母様の足から矢を抜いて、この『万能薬』を飲ませてあげて。お兄様がちゃんと、この悪い奴を抑えておくから。――お願い」
「っ……う、うん!」
幼女は頷く。
幼い手で涙を払い、容器を受け取るとお母様の元へ駆けていく。
(良い子だ)
僕は小さく笑う。
その間も、目の前の男から視線と銃口は外さない。また戦士らしい彼の剣の間合いも考え、その内側には入らない。
傷ついたお母様は必死に男から離れ、幼女が治療に入る。
「……ちっ!」
奴は、焦りの表情だ。
必死に打開の一手を探しているのが、その目の色から感じられる。
(……いいよ)
僕は、優しく頷く。
「どうしたの? 斬りかかって来ないの?」
「…………」
「もしかして、怖いのかな?」
軽い挑発。
でも、男もわかっているのか、乗って来ない。……だよね?
僕もわかってる。
だから、
「じゃ、こうしよう」
ポイッ カシャン
僕は、銀色の『魔法の銃』を奴の足元に投げた。
突然の行動に、男はギョッとし、無防備となった僕を驚いたように見る。
ニコッ
僕は笑う。
「どうする?」
彼に問う。
明らかに異常な僕の行動に、奴の表情には疑念と不審が宿っていた。けれど、他に手がないのも確かで――その目に覚悟の光が宿る。
ガッ
足元の銃を、より遠くに蹴り飛ばす。
「うおおおっ!」
そして、僕へと長剣を振り上げ、鋭い踏み込みと共に上段から斬りかかってきた。
――あはっ。
手のひらで転がす快感。
正直に言えば、僕は怒っていた。
目の前のこの男は、僕の大好きな女の人を傷つけ、あまつさえその心と身体を汚していく行為の宣言までしたのである。
許せるか?
(――無理だ)
1人の男として、断固できない。
だから、与える。
希望を……そして、その先の深い絶望を。
(さぁ、味わって?)
僕は笑いながら、
ヒィン
右手に『マギ・ブラスター』を出現させ、その引き金を引く。
光弾が発射され、
ドッ パァン
男の腹部に当たって、踏み込む動きが止まってしまう。
その血走った目を見開き、驚愕したように僕の手にある銀色の『魔法の銃』を見ている。
(そう、罠だよ?)
離れた場所の『マギ・ブラスター』を亜空間収納し、再び右手に出現させたんだ。
男は、苦笑する。
やはりか……そんな表情だ。
(…………)
僕は感情を消し、連続して射撃する。
パパン パパァン
この男がマルティーナさんにしたように両足を撃ち抜き、更に、剣を握る両手にも風穴を開けてやる。
鮮血が散り、千切れた指が弾け飛んでいく。
ドスッ
男は崩れ落ち、両膝を地面に落とす。
抵抗の意思はなく、
「……何なんだよ、お前……?」
恐怖の宿った瞳で、僕を見つめていた。
その眉間に、赤い照準を合わせる。
そして、
ドッ パァン
額から鮮血が散り、男は土下座をするように地面に頭を落として、その生命活動を終えた。
数秒、銃を構えたまま、
(……ふぅ)
やがて、銃口を外して息を吐く。
――これで僕も、人殺し、か。
でも、不思議と後悔はなく、忌避感もない。
転生して、僕は多くの『魔物』を殺している。
そして、あの外道共の醜い顔は、まるで『魔物』と同じで、だから、その駆除をしたのと同じ感覚だった。
(おかしいのかな、僕……?)
わからない。
でも、
「エト君……」
(あ……)
幼女の横で、治った足で立つマルティーナさんの姿がある。
その姿に、
ジワ……ッ
目元が潤み、何だか泣きたくなる。
途端、お母様も泣きそうな顔になり、こちらへと駆け出した。
「エト君……っ!」
ギュッ
強く抱き締められる。
大きな胸の弾力と柔らかさ、肌を撫でる金色の髪の優しさと甘い匂い、その温もりと抱く腕の力の強さに、僕の心と身体が満たされていく。
(ああ……)
「うん……無事でよかった、マルティーナさん……」
何とか笑い、
ギュ……ッ
僕も大好きなマルティーナお母様の身体を強く、強く抱き締め返したんだ。
ご覧頂き、ありがとうございました。
昨日今日と臨時の更新時間変更となりましたが、こうして読んで頂き誠に感謝です。
明日からは今まで通り、19時台の更新となりますので、どうかまた読みに来てやって下さいね。
いつも読んで下さる皆さん、本当にありがとうございます!
どうかこれからもエトの冒険生活を楽しんで頂けたら幸いです。
月ノ宮マクラ




