015・パーティー結成
「では、エト君、レイナ、行きましょうか」
「はい、マルティーナさん」
「う、うん、お母様」
家主の未亡人さんの言葉に頷き、僕らは家を出て、『冒険者ギルド』に向かった。
パーティー登録のためである。
美人な母娘と一緒に、僕は早朝の道を歩く。
(…………)
先頭を行く、流れる金髪も美しいマルティーナさんの背中をつい眺めてしまう。
昨夜の事……夢じゃない。
でも、夢みたいな時間だった。
経験豊富なお母様に翻弄されて、僕も必死にがんばって、2人で甘く幸せな時を過ごしたのである。
(あんな美人と……)
へへ……思わず、頬が緩む。
今朝もお母様のキスで起こされて、その時の笑顔はまるで女神様みたいだったよ。
と、後ろを確認しようと、前の彼女が振り返る。
目が合う。
「…………」
(…………)
少しだけ頬を赤く染めながら、マルティーナお母様は上品に微笑まれた。
ぐふっ……素敵。
その笑顔に胸を貫かれ、僕は一気に赤面してしまう。
それに彼女は驚き、それからクスクスとおかしそうに笑って、また前を向く。でも、そのお尻から伸びる尻尾は上機嫌そうに左右にヒュンヒュンと揺れていた。
僕も照れ笑い。
(今夜もあるの……かな?)
わからないけど、僕も若いし期待してしまう。
そんな何だか嬉しそうなお母様とワクワクして落ち着かない僕の様子に、ただ1人、幼女は「?」という顔である。
やがて、30分ほど歩き、僕らは冒険者ギルドへと辿り着いた。
受付で手続き。
申請書類を記入し、代表者欄は1番ランクの高い『マルティーナ・シュメ』の名前が書き込まれる。
3人分の登録カードも渡し情報を更新、そして、返却される。
手続きが完了し、
「はい、これで私たちはパーティーとなりました」
と、お母様が笑う。
(おお~)
異世界で初めて『仲間』ができたぞ。
金髪の美人母娘に、僕は、
「マルティーナさん、レイナちゃん、これからよろしくお願いします」
と、頭を下げる。
母娘は驚き、
「はい、こちらこそ」
「お、お願いします、エトお兄様」
お母様は上品な微笑みと共に頷き、娘ちゃんは慌てたように頭を下げ返してくれる。
そして、僕らは3人で一緒に笑ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「今日も『魔窟迷宮』に行きますか?」
「はい、そのつもりです」
マルティーナさんの確認に、僕は頷いた。
彼女も「そうですか」と頷き、
「わかりました。ですが、エト君は『ランク制限』をご存じでしょうか?」
「え、ランク制限?」
「はい。実は『魔窟迷宮』はランクにより行ける階層に制限がかかっています。『無印級』は1階層まで、『赤印級』『青印級』は3階層まで、『緑印級』『白印級』は5階層まで、『銀印級』は7階層まで、『金印級』は無制限となっております」
「ええ~」
(じゃ、僕、1階層までなの?)
マジで~?
呆然となる僕に、『白印級』のお母様は苦笑なさる。
「やはり知りませんでしたか」
「は、はい……」
「もし『魔窟迷宮』で稼ぐつもりなら、先に『赤印級』を目指した方が良いかもしれませんね」
「ですか……」
まず、赤印級か。
(でも、ランクってどうやって上げるんだろう?)
わからない。
わからない事は素直に聞く。
美人の先輩からのお答えは、
「ギルドへの『貢献度』ですね」
「貢献度」
「はい。『魔窟迷宮』の素材をギルドに卸す事でも増えます。ですが基本は、地上で『依頼』を受け、達成する方が多く『貢献度』がもらえます」
「へ~?」
でも、それはそうか。
依頼は『困った人』が出す。困った人を助ければ、ギルドの評判も上がる。その方が確かに『貢献度』も高いだろう。
僕は頷き、
「つまり、『地上』と『魔窟迷宮』の両方で上手く活動しないといけないんですね」
「はい、その通りです」
マルティーナさんは美しく微笑んだ。
まるで、出来の良い生徒を褒める『美人先生』である……マルティーナ先生、素敵♪
ともあれ、今日の所は『魔窟迷宮』に行く事にしよう。
「レイナちゃんもいい?」
「う、うん。お兄様の望んだようにしてくれたら、レイナも嬉しいよ」
と、はにかむ。
(天使みたいな子や~)
僕、思わず、幼女の頭を『よしよし』と撫でてしまう。
彼女は目を丸くし、すぐに「えへへ」と幸せそうな顔でパタパタ尻尾を揺らした。
(ん……?)
その時、お母様の表情に気づく。
何だか羨ましそうに娘を見ている。
もしかして、お母様も『よしよし』して欲しいのかな?
(でも、人前でするのは、大人のマルティーナさんには無理だよね?)
だから、
「あの、マルティーナさん」
「あ、はい」
「僕、夜にマルティーナさんの事、いっぱい『よしよし』しますから」
「え?」
「それで我慢してください」
「…………」
数秒の沈黙。
やがて、意味が浸透したのか、
「っ……」
ボッ
お母様の白い美貌が真っ赤になった。
一瞬、僕のことを恨めしそうに見て、けれど、コクン……と小さく頷く。
(か、可愛い~っ)
僕も少し赤面する。
でも、『夜の約束』もできたし万々歳だ……へへっ。
幼女はキョトンとしていたけれど、ま、今は知らなくていいんだよ。
とにかく、
(――今日は『魔窟迷宮』に行こう)
と、僕らは歩き出す。
そして、ギルドの出入り口を目指して進んでいく。
その時、
「――なぁ、『アルカナ大霊峰』に大穴が開いたって話、知ってるか?」
ふと、そんな声が聞こえた。
(え……?)
思わず足が止まる。
視線を向けた先では、情報通らしい冒険者が仲間と会話をしている。
「は……? 大穴?」
「ああ、山の一部が、丸く抉れてるらしいぜ」
「……何でよ?」
「さぁ~な? けど、『古龍』が目覚めて、ブレスでも噴いたんじゃないかって噂だぜ。王国騎士団が調査に乗り出したらしいしな」
「騎士団が? マジかよ」
「マジマジ。『黒の王剣』様も参加してるってよ」
「うへ~。……けど、マジで『古龍』ならこの街もやばいよな。一時、別の街に行くか?」
「だなぁ……」
そんな会話をしながら、2人は僕らの横は通り過ぎていく。
ダラダラ
でも、僕は冷や汗だ。
(その山を抉った犯人、僕じゃん……)
やばい、やば~い。
それ、絶対、マギ・ブラスターの『魔力充填射撃』の最大威力を試射した穴だよね。
まさか、騎士団が動くような大事になるとは……。
(知らん知らん、忘れよう)
きっとバレないし、大丈夫!
現実逃避し、僕はしらばっくれる事に決める。
「? エト君?」
「お兄様、どうかしたの?」
でも、そんな僕に何かを感じたのか、母娘が不思議そうにこちらを見る。
僕は誤魔化し笑いで、
「え? 何でもないですよ?」
「…………」
「…………」
「さぁさぁ、今は『魔窟迷宮』に集中です。うん、楽しみですね」
と、そそくさ歩き出す。
美しい母娘は顔を見合わせて、でも、すぐに僕のあとを追ってくれたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
『魔窟迷宮』の入り口に到着した。
建物前の列に並び、やがて、門番の兵士を相手にパーティー代表のお母様が手続きを行ってくれる。
そのお母様の格好は、初めて会った時の白い鎧と槍の『魔狩人』スタイルだ。
美しく、凛々しい。
まるで日本刀のようなイメージである。
(…………)
つい見惚れてしまう。
ちなみに幼女は、生地の丈夫そうな長袖長ズボンの服装。腰ベルトに『解体用ナイフ』を提げている。
そして、その幼い背中には、自分の身長より大きいリュックを負っていた。
でも重そうな様子もなく、
(さすが、獣人。本当に力持ちなんだね)
と、幼女と目が合う。
ニコッと笑いかけると、「あ、えへへ」と照れたようにはにかんだ。
(うむ、可愛い)
やがて、手続きも終わる。
「2人ともお待たせしました。では、参りましょうか」
「はい」
「う、うん、お母様」
僕と幼女は頷き、3人で半球状の建物に入っていく。
コツコツ
長い階段を降り、やがて、赤い荒野に出た。
地平まで続く赤土の大地が、見える範囲のどこまでも広がっている。
(……うん)
僕は、青い瞳を細める。
乾いた風が吹き、マルティーナさんの真っ直ぐな金色の髪を長くたなびかせている。
その姿は、絵になった。
堂に入っているというべきか、確かな落ち着きが感じられる。
――熟練の魔狩人。
槍を手に立つ美女の姿から、その風格が伝わってくる。
(なんて頼もしいんだろう)
単独だった昨日とは違う。
自分より経験豊富で信頼できる仲間がいる。
それは大きな安心感があり、また1人の時よりも多くの事が成せそうな期待感があった。
振り向いたマルティーナさんと目が合う。
紫水晶のような、綺麗な瞳。
彼女は美しく微笑み、
「では、エト君、行きましょうか」
「はい!」
僕も力強く答えた。
そして僕らは、赤土の大地に3人分の足跡を残しながら、赤い荒野を歩き出したんだ――。




