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【連載版】推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています  作者: 江合 花果
第四章 ゲーム本編開始

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転生者同士の確認(ノエル視点)

同志、もといリーネとの運命的な邂逅を終えて、私は一つ咳払いをした。


手のひらには、まだリーネの体温が残っている。 同志の手は温かい。


振り返ると、アルベルトとライアスが、さっきの半歩の距離を保ったまま立っていた。 お互いに目を合わせようとしない。


「アルベルト殿下、ライアス様」


「……何だ」


「リーネ様と二人だけで、お話しさせていただけませんか」


返事はなかった。 代わりに、二人の顔がそろって渋くなった。 苦い薬を水なしで飲んだ人の顔だった。


「色々な意味で心配だし、嫌なんだが」


ライアスが、絞り出すように言った。


「同感だね。理由を挙げ始めたらきりがない」


アルベルトまで頷いている。


(失礼な)


「大丈夫です。女性同士でしか分かり合えない設定と、養分があるのです」


「……セッテイ」


「ヨウブン?」


「はい、養分です」


「何の養分だ」


「心の、です」


二人は顔を見合わせた。 それから、なぜか揃って少し青くなった。


(何を想像したのだろう)


(おそらく、大体当たっている)


長い沈黙の末に、ライアスが息を吐いた。


「……扉の外にいる。何かあれば、すぐに声を掛けろ」


「はい、ライアス様」


「すぐにだ」


「承知しております」


「本当に、すぐにだぞ」


「ライアス、そのへんにしておこう。過保護が過ぎる」


アルベルトに肩を叩かれ、ライアスは不承不承、部屋を出ていった。 扉が閉まる。


(尊い、過保護版)


日誌のタイトルが決まった。


足音は二人分あったはずなのに、遠ざかっていかない。 扉のすぐ向こうで止まったままだ。


(近い)


(気配が、全然動かない)


「窓際に行きましょう」


リーネが、無言で頷いた。 二人で部屋の隅まで下がり、声を落とす。


さて。 話したいことは、山ほどある。 けれど最初に確かめることは、決まっていた。


「ヴェルクラ」


リーネの肩が、びくっと跳ねた。 数秒の間があって、小さな声が返ってきた。


「……日本、東京」


息が漏れた。 私のものか、リーネのものか、分からなかった。 たぶん二人分だった。


(合言葉だ)


(スパイ映画みたいだ)


肩の力が抜けて、危うくその場に座り込みそうになった。 ここまで一人で隠してきたものが、ようやく半分になった。


「やはり、貴方も転生者、という認識で良いんですよね?」


「もちろんです。当然、貴方もですよね」


「はい」


二人で顔を見合わせて、気の抜けた笑いをこぼした。


「あの、ちなみに貴方は……」


「あ、紹介が遅れました。ノエル・ベルナード。ベルナード伯爵家の娘です」


「ベルナード……?」


「ゲームには、おそらく登場していません。完全なモブ貴族家の、モブ令嬢です。今はライアス様のお屋敷で、事務員として働いてるの」


自分でも気づかないうちに、敬語が崩れていた。 まあ、いいか。 同じ日本人だし。


「だよね、ヴェルクラでは見た覚えのない名前だもん。てか、事務員って」


「前世でも事務職でね」


「え、すご。私は居酒屋でバイトしてたぐらいだな」


「居酒屋」


「うん。酔っ払いのあしらいは、結構得意」


「それは頼もしい」


王宮の貴族たちを思い出して、本心からそう言った。


「あと、バイト先の先輩に、経理の人には逆らうなって言われてた」


「それは正しい」


即答してしまった。


「気がついたら、ライアス様のそばで働く幸運に恵まれたんだ」


「なるほど……あ、私は今更かもだけど、リーネ・アルトです。ヴェルクラの主人公?だと思います」


「うん、それは間違いなさそうだよね」


蜂蜜色の髪にエメラルドの瞳でモブだったら、制作会社が泣く。


「ところで、さっきの『ですわ』は」


「あ、あれ?テンションが上がると出るの。前世からの癖で」


「わかる」


わかってしまった。 私の場合は、語尾ではなく鼻血だけれど。


ひとしきり笑ってから、私は表情を戻した。 聞くなら、今だ。


「ヴェルクラには、逆ハールートはなかったよね」


「うん、なかった。乙女ゲーなのに珍しいって、よく言われてたよ」


「じゃあ、一つだけ確認させて」


リーネが、私の顔を見た。


「リーネは、逆ハールートを目指すつもり?」


部屋が、静かになった。 リーネの笑顔が、笑顔のまま、止まった。

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