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【連載版】推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています  作者: 江合 花果
第四章 ゲーム本編開始

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運命の邂逅(ノエル視点)

画面越しに、何百時間も見つめてきた相手だ。 推しの隣に立つ人でもある。


(ヒロインは、世界の主役だ)


(モブが近づいて、無事で済むだろうか)


そんな覚悟を胸に、私は部屋へ足を踏み入れた。


……はずだった。


(うわぁー、やべー奴がいるー)


心の声が、危うく口から漏れかけた。 奥歯で噛み殺す。


リーネ・アルトは、アルベルトとライアスを見つめたまま、ふにゃふにゃに溶けていた。


口元は緩み、目は潤み、涎の一筋が顎に向かって旅を始めている。


(いやいやいや)


(初対面でしょう)


(初対面の相手を見て、ふにゃふにゃになりながら涎を垂らすって)


(この人、絶対にやばいでしょー)


私は全力で引いた。


気持ちとしては、三歩ほど後ずさっている。 体は動かさない。


表情筋だけが、必死に笑顔を保っていた。


「まずは座ろうか」


アルベルトの穏やかな声で、全員が席についた。


アルベルトが上座。 リーネと私が向かい合い、ライアスはアルベルトの後ろに立つ。


リーネは座っても、視線が定まらない。 アルベルトとライアスの間を、ずっと行き来している。


(視線が忙しい)


その時、アルベルトがそっと振り返り、ライアスに囁いた。


「いやー、不思議だなー」


「何がだ」


「こういう場面を、どこかで見た気がするんだよ」


「……」


「なあ、ライアス」


「やめろ、俺に振るな」


二人がコソコソと話している。


アルベルトの肩が、細かく震えていた。 笑っているのか、咳き込んでいるのか分からない。


(やはり、あのお二人ほどの化け物じみたイケメンだと)


(女性は、ああなってしまうのか)


(私は流石にならないけど)


心の中で、深く頷いた。


その時だった。


リーネの口から、小さな声が漏れた。


「ライ、アル、尊い……二人並ぶとか、もう存在がR指定……」


私の耳が、ぴくりと動いた。


聞き逃せない単語だけで構成されているような呟きだった。


(……ぴーん)


頭の中で、何かが鳴った。


気づいたら、口が開いていた。


「そうですね。今のお二人の距離感は、少々、供給過多ですよね」


リーネが、ハッとした顔で私を見た。


手が震えている。


長いあいだ探し続け、諦めかけたところへ、目の前にオアシスが現れた。


そんな目だった。


「ま、まさか……貴方は……」


私は答えなかった。


代わりに、静かに続ける。


「ところで、リーネ様」


「は、はい」


「お二人は、どちらが主導権を握っていると思いますか?」


リーネの目が、すっと細まった。


試されている。


そして、その挑戦を受けて立つと言うように、口元にかすかな笑みが浮かんだ。


「そうですね。殿下の方が積極的に見えますけど……」


「ええ」


「でも、公爵閣下が実際は、手綱を握っているような」


「ほう」


自分の声が、低くなったのが分かった。


「つまり、見た目と中身は異なる、と?」


「ええ。ですが、私は……」


リーネが、不敵な笑みを浮かべる。


「左右は固定したい派ですの」


「ッ!!」


衝撃が、背筋を駆け抜けた。


間違いない。


これは、確定だ。


(落ち着け、ノエル)


(まだだ。最後の確認が残っている)


深く息を吸って、吐く。


静かに、リーネを見つめた。


「ちなみに」


「はい」


「……リバは?」


一瞬の沈黙。


リーネの目から、光が消えた。


「……地雷ですわ」


「!!!!!」


私は、大きく息を吸い込んだ。


リーネが、ゆっくりと席を立つ。


私も立ち上がる。


テーブルを回り込み、一歩ずつ近づいていく。


互いの目の前で、足が止まった。


「同志……!」


「……解釈一致!」


ガシィッ!!


固く、固く、手を握り合った。


目に涙が滲む。


お互いに、何度も頷いた。


「ちなみに、この二人なら私はアルライ固定です」


「まあ! 私はライアル固定ですわ!」


「…………」


「…………」


握り合った手が、止まった。


ゆっくりと、互いの顔を見つめる。


「……逆?」


「……逆ですわね」


沈黙。


先ほどまでの感動が、音を立てて崩れ落ちた。


「解釈違い……!」


「解釈違いですわ……!」


それでも、手は離さない。


「しかし、固定派であることには変わりありません」


「ええ。そこだけは譲れませんわ」


「同志……!」


「同志ですわ……!」


再び、固く手を握り合った。


(なんということだ)


(この世界で、ようやく出会えた同志)


(なのに、よりによって逆カプとは)


(神よ、なぜこのような試練を)


「……ライアス」


「何だ」


「僕は今、何かとても不愉快な想像をされている気がする」


「奇遇だな。俺もだ」


「内容は分からないのに」


「分からないのが、一番気持ち悪い」


二人は、揃って私たちから目を逸らした。


道端で見てはいけないものを見てしまったような目だった。


(……ご本人様の前で語る話では、なかったかもしれない)


そう思った。


思ったけれど、握った手は離せなかった。


私は、リーネの手を握ったまま、見なかったことにした。

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― 新着の感想 ―
同士!! 敵じゃなくて良かった〜
Oh⋯出会っちゃいけないのがであっちゃったよ⋯
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