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【連載版】推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています  作者: 江合 花果
第四章 ゲーム本編開始

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答えのすり合わせ(ノエル視点)

「ノエル……」


リーネの声は、静かだった。

さっきまでのテンションが、嘘のように引いている。


「はい……」


なぜか背筋が伸びた。


「それってさ、つまり」

「うん」

「ゲームには無かった逆ハールートを、現実になったこの世界なら実現できるんじゃないか。それを知りたいんだよね?」


図星だった。

大きな声では言いにくいが、図星だった。


「う……はい、そうです」


リーネは一つ息を吐いてから、にこっと笑った。

さっきの止まった笑顔とは違う、ちゃんと動く笑顔だった。


「なら安心して。私、逆ハーなんて望んでないし、そもそも逆ハーなんて、滅びの道だと思うから」


私は大きく息を吐いた。

吐ききったら、少し背が縮んだ気がする。


「良かったー。前世でよくあったでしょ。転生ヒロインがゲームの知識で、逆ハー美味しいです、って始める話。あれだったらどうしようって、ずっと心配で」

「ないない。逆ハーなんて、小説なら明らかな死亡フラグだよ」

「だよね」

「大体、逆ハー目指す転生ヒロインって、もう完全に悪役側じゃん」


ぐうの音も出ない正論だった。


「それにさ」リーネが腕を組む。「ヴェルクラって、逆ハーが無いのがいいんじゃん。一人を選んで、その人と最後まで走る。あの硬派さが好きなの」

「分かる」

「でしょ」


私たちは、固く頷き合った。


「じゃあ、先に確認させて。リーネは、ゲームのエンディングまでのストーリーは知ってる?」

「もちのろんよ」

「もちのろん」

「無課金でできる範囲は全部やったし、課金ストーリーも、一通りオーチューブで見たもん」

「課金勢の動画ね」

「学生の財布じゃ限界があって」

「それは仕方ない」


私は課金した側だ。

給料三ヶ月分の、課金した側だ。


「じゃあ、聖女ってゲームの中には出てこなかったよね?」

「うん、それは間違いなく出てない。魔人の誰かが、愛乙女がなんちゃらかんちゃらって言ってた気はするけど」

「ああ、卑猥だって話題になった呼び方ね」

「それそれ。でも、聖女って単語は、ゲームでは一回も出てこなかった」

「そうだよね……」


話しながら、単純かもしれないな、と思った。

でも、リーネのことは信じてもいい気がしていた。


前世の知識も、ゲームの話も、この世界では誰にも言えないまま過ごしてきた。

その世界を、同じように愛している人が、目の前にいる。

信じたい、という気持ちのほうが、たぶん強かった。


「あのね、それで」


私は、ここ最近のことを順に話した。


ゲーム開始前に起きるはずの戦場の血鬼イベントが、ゲームと違う形で起きたこと。

その影響なのか、ライアスが戦場で、覚醒イベントをすでに一度済ませていること。

私がゲームのチートアイテムを手に入れたこと。

そのアイテムで、魔人を一人倒したこと。


(言葉にすると、字面が物騒だ)


倒したところを、ライアスに見られたこと。

そのせいで、私にも聖女の疑いがかかっていること。


話し終えると、リーネは口を開けたまま、呆気に取られていた。


「ノ、ノエルってば、まさかのファンネル使いなのね」

「ええ、まあ」

「いいなー!ファンネル!あれ、動画で見て超憧れた!!」

「でもあれ、勝手に動くから、私よりよっぽど働いてるんだよね」

「事務員の発想だ」

「事務員なので」


リーネは笑いながら、窓枠にもたれた。


「じゃあ今度は、私の番ね。聖女容疑のほう」


「生まれたのは、ゲームの設定どおり、地方の街の平民。で、2歳の頃かな。急に全部思い出した」

「2歳」

「うん。名前がリーネ・アルトなんだもん。そりゃ気づくよ、ここヴェルクラじゃんって」

「それは気づくね」

「庭を走り回ってる最中に思い出してさ。その場で固まって、そのまま動かなくなったの」

「2歳が、急に」

「親は熱だと思って、慌てて医者を呼んだ」


想像すると、少し見てみたい。


「ゲームの設定どおりなら、魔力はある。じゃあ鍛えるしかないでしょってなって、そこからずっと魔力の鍛錬」

「幼児が」

「幼児が。しかも前世が大学生でしょ。6歳の頃には、大人顔負けの計算ができちゃって」

「神童だ」

「そう、神童扱い。それで領主様にも名前を覚えてもらって」


前世の学力を持ち越した幼児は、確かに目立つ。

目立たないよう生きてきた私とは、真逆だ。


「回復魔法が得意なのは、ゲームの設定と同じ。魔力を人に分けられるのも同じ。それで10歳の頃には、領主様のお膝元の騎士団で、重宝されてた」

「重宝」

「怪我人の治療と、魔力の補給係。ほぼ、動く回復所」

「ブラックだ」

「待遇は悪くなかったよ。だって私、居酒屋で鍛えた接客力があるから」


「で、その話が領主様からアルベルト殿下に伝わって。表向きは宮廷魔術師として上京したんだけど、実際は」

「実際は?」

「幼い頃からの能力と、魔力を分けられる特殊能力で、聖女の容疑者として呼ばれたっぽい」

「容疑者」

「取り調べのつもりは、多分ないと思うけどね」


互いに情報を出し切って、顔を見合わせた。

似すぎていて、少し笑えてきた。


その時、扉が軽く叩かれた。


「そろそろ良いかな?」


アルベルトの声だった。

続いて、ライアスの低い声がする。


「ノエル、無事か」

「無事です」


私は即答した。


リーネと目が合う。

どちらからともなく頷いて、私たちは同時に、表情筋を仕事に戻した。


ドアノブが回る音がした。

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