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【連載版】推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています  作者: 江合 花果
第四章 ゲーム本編開始

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疑問(アルベルト視点)

【アルベルト視点】


 ライアスを置いて撤退する。


 その決断は、自分にとって耐えがたいものだった。


 王族として生まれた身を、これほど呪ったことはなかった。

 守られる立場でなければ、自分もあの場に残れた。

 しかしそれは許されない。


 多くの兵と共に撤退をしながら、ライアスのことだけを考えていた。


 ところが。


 ライアスは帰ってきた。

 無事に、敵の大群を殲滅して。


 その報告を受けた時、まず感じたのは安堵だった。

 次に感じたのは、深い脱力感だった。


 そして、その偉業を成し遂げた理由を聞いた時。


(ライアス人形が発光して、魔力が溢れ出た)


 自分は少し、固まった。


(ライアス人形)


(ライアス人形とはなんだ)


(友との今生の別れを覚悟した、あの自分の覚悟を返せ)


 しかも、またあの娘が絡んでいる。

 ノエル嬢が作った人形が、戦場で発光した。


(何なのだ)


(あの娘が絡んで起きる、不可思議な現象は何なのだ)


 自分は王族として、それなりに優秀であると自負していた。

 その自分が、ここまで精神的に掻き乱されたのは初めてだった。



 帰還後、ライアスと二人で話した。


 あの人形について、ノエル嬢の呪いか何かが宿っているのでは、などという、自分らしくもない益体ない話を真剣にしてしまった。

 ライアスも半信半疑の様子だったが、かといって完全には否定できない様子でもあった。


 あの男が人形を手に持ちながら、若干困った顔をしていたのが少し可笑しかった。


 念のため、宮廷魔術師長のエルヴィンまで引っ張り出して、件のライアス人形を調べてもらった。


 結果は、異常なし。

 ただの手縫いの人形だった。


 異常がないなら、それはただの人形だ。

 優秀とはいえ、ただの事務員。


 考えすぎか、と思って数ヶ月が経った。



 ライアスから報告が来たのは、その後のことだった。


 優秀な事務員であるノエル嬢が、謎の魔道具で、伝説と言っても過言ではない存在である魔人を倒した、と。


 もう、ここまで来たら笑うしかなかった。


 優秀な事務員の皮を被った、この不可思議な娘は何かを隠している。

 それだけは確かだった。


 聖女なのか、と問いかけてみた。

 しかし本当のところ、そうだとも思っていない。


 聖女であれば、教会の上層部に何かしらの動きがあってもおかしくない。

 それがない。

 ならば聖女ではないのか。


 問いかけは、ノエル嬢の反応を見るための手段でもあった。


 どんな言葉が返ってくるか。

 どんな表情をするか。

 策士として、そういう確認の仕方は癖のようなものだった。


 そして、夢のお告げという説明については。


 正直に言えば、嘘だと確信している。


 伊達に王族として過ごしてきたわけではない。

 人の言動に嘘が混じっている時の、微妙な気配というものがある。

 ノエル嬢の説明には、それがあった。


 しかし今、この場でノエル嬢を追い詰める利はない。

 それどころか、この娘を信頼できる存在として扱う方が、自分にとっても、ライアスにとっても、利がある。


 嘘があるとわかっていても、今は問い詰めない。

 それがアルベルトなりの判断だった。



 視線をライアスに向けた。


 ライアスも、同じようにノエル嬢を見ていた。


 長年の親友として、あの男が何を考えているかは大体わかる。

 しかし今この瞬間、ライアスの表情から読み取れるものが、いつもより少なかった。


(読めない)


 それ自体が、ライアスの変化を示していた。


 視線を戻した。


 目の前でノエル嬢が、気まずそうに目を白黒させながらアワアワしていた。


 その様子を見ながら、アルベルトは静かに思った。


 この娘に対して、言いようのない不気味さを覚える。

 しかし排除対象とも、不快な対象とも思えない。


 合理的で冷徹だと自認していた自分が、この娘を前に解釈不能な心情を持っている。

 その事実に、正直なところ自分でも戸惑っている。


 ライアスが変わった。

 エリナが変わった。

 そして恐らく、自分も。


 この娘に何か変えられているのかもしれない。


(ノエル嬢、一体何者なのだ)


 興味が尽きなかった。


 さて、と口を開いた。


 目の前でアワアワしているノエル嬢が、身を固くした。


「改めてもう一度聞こうか、ノエル嬢」


 笑顔で言った。


「君は聖女なのかな」

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