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【連載版】推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています  作者: 江合 花果
第四章 ゲーム本編開始

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予想外の話(ノエル視点)

【ノエル視点】


「私は聖女ではありません」


 アルベルトに、はっきりと告げた。


「本当に?」


 口元は笑顔を浮かべているが、目は笑っていなかった。


(さすが最難関攻略キャラ)


 自分の完璧なロジックが通じていない。


 いっそ正直に話してしまうか、と一瞬考えた。


(私には前世の記憶があり、貴方達は前世で私がどハマりした乙女ゲームの推し萌えキャラなんです)


 うん、正直に言えば通報か入院案件だ。


 中途半端な嘘も意味はなさそうだが、正直に話すのも無理がある。


 アルベルトの視線を笑顔で受け止めながら、ノエルは手を上げた。


「あの」


「なんだい?」


「そもそも聖女というのは、一体何なのでしょうか。私も聖女なのかと聞かれても、以前ライアス様に問われて初めて聞いた言葉なので、いまいちよく分からなくて」


 無難に質問を返してみた。


 そもそも、ゲームの中に聖女などというジョブやキャラクターは存在しなかった。


 勇者も存在しておらず、英雄と魔王、そしてヒロインで物語は紡がれる。

 ヒロインにも不可思議な力はあったが、聖女というキャラクターとして扱われてはいなかった。


 ライアスもアルベルトも、突然聖女という役割を当てはめてこようとしている。

 その理由が、ゲームプレイヤーとしての知識からは見えてこなかった。


「ライアス、彼女にはまだ説明をしていないのかい」


 アルベルトがライアスに向かって言った。


「当然だ。自分もまだ信じきれていない話だし、これ以上荒唐無稽な話が進むのも避けたいところだからな」


「まあ、それもそうだが、ひとまず彼女にも話しておこうと思うが、いいか」


「状況が状況だし、話すなら今だろうな」


 二人の間で何かがまとまったのか、アルベルトがノエルに向き直った。


「実は一年ほど前から、教会の上層部から神託が下された、という報告が上がっていてね」


「し、神託ですか」


「そう。自分も俄かには信じられないと思っていたんだけどね」


 アルベルトは続けた。


 その内容を要約すると、三つのポイントがあった。


 一つ目。魔王と眷属である魔人が動き出す。

 二つ目。その脅威に立ち向かう聖女がこの世界にいる。

 三つ目。聖女の力で魔王を滅ぼす英雄が誕生する。


 教会にとっても、神託を授かった例が過去になかったとのことだ。

 女神からの神託として、教皇を始めとする教会上層部の全員が、同じタイミングで夢の中で同じ内容を受けたと報告されたという。


 ノエルはそれを聞きながら、頭の中でゲームのシナリオと照合していた。


(魔王と魔人が動き出す)


(聖女が立ち向かう)


(聖女の力で英雄が誕生する)


(これは、ゲームのクライマックスと重なっている)


 ゲームでも魔王討伐が最終目標だった。

 それが現実では、神託という形で既に動き出していた。


(知らなかった)


(ゲームの中に、こんなイベントは存在しなかった)


 しかし考えてみれば、ゲームはプレイヤーが体験するシナリオだけを描いていた。

 その裏側で何が起きていたかは、ゲームには描かれていなかった。


 アルベルトが続けた。


「王宮でも当初はあまり重要視していなかったんだ。しかし先日の戦争でのライアスの異様な活躍、そして謎の魔道具で魔人らしき存在を撃破したノエル嬢のことを考えると、状況だけで見れば、どうしても聖女なのでは、という話になってしまってね」


(そりゃそうだ)


 ノエルは変に納得した。


 それだけ不可思議なことが重なっているのだから、そう思われても仕方ない。


(しかし女神様とやら)


(転生させておいて、自分にも神託の一つくらい寄こしてくれても良いんじゃないだろうか)


(何を考えているのかさっぱり分からない)


 とは言え今それを言っても仕方ないので、ノエルは二人を正面から見た。


「改めてになりますが、自分には聖女というものがいまいち分かりません。聖女なのでは、という自覚もありません。夢のお告げで不思議な体験はしていますが、私自身が何か特別な魔力や魔術が使えるようになったわけでもありませんし」


 ライアスとアルベルトが、無言でノエルを見ていた。


 ノエルは目を逸らさなかった。


 しばらくして、アルベルトがライアスと目を合わせた。

 少し肩の力を抜いたように、ため息をついた。


「ごめんね、ノエル嬢」


 笑顔で謝った。


「実は僕もライアスも、本当に君が聖女だって確信していたわけではないんだ。ただ確証がなくて、教会側からも聖女と疑わしき女性は見つからないかと催促されていてね」


(なるほど)


 ノエルは内心でそっと息をついた。


 疑いが完全に晴れたわけではないだろうが、聖女として決めつけられるようなことはなさそうだ。


 ほっとして、少し冷めたお茶を口に含んだ。


 そこへアルベルトが続けた。


「ちなみに、もう一人の聖女候補の子も、頑なに聖女じゃないって否定しているんだよね」


 飲んでいたお茶を吹き出した。


(もう一人)


(聖女候補がもう一人いる)


(まさかとは思うが、それってヒロインなのでは)


 ノエルは口元を拭いながら、恐る恐る顔を上げた。


 目の前に、ノエルが吹き出したお茶をたっぷり被ったアルベルトがいた。


 非常に良い笑顔で、こちらを見ていた。

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