不思議な娘(アルベルト視点)
【アルベルト視点】
目の前で、やや引きつった笑顔を保つノエルを見ながら、アルベルトは少し前のことを思い返していた。
◇
最初にノエルの話を聞いたのは、ライアスからだった。
優秀な事務員が来た、という話だった。
ライアスが、部下を褒めるということ自体が珍しかった。
どんな人物かと思っていた。
実際に会ってみると、第一印象は不思議な娘だった。
貴族令嬢特有の傲慢さや計算高さがない。
どこか平民のような、飾らない雰囲気を持っていた。
貴族令嬢の多くは、自分やライアスを前にすると、目をギラギラさせながら自分を売り込んでくる。
しかしノエルは違った。
自分やライアスを見る時に、何かしらの不穏な気配は感じさせてくる。
目もギラギラというのか、キラキラしたものを感じさせてくる。
しかしそれは、色恋や欲望などではなかった。
禍々しくも純粋な想いとでも言うような、言葉にしづらい気配だった。
最初はその気配に戸惑ったものだ。
しかも王太子である自分を、値踏みするような、確認するような視線をチラチラと向けてきた。
改めて思い返してみても、あれは一体何だったのか。
(不思議な娘だ)
それが第一印象だった。
しかしそれだけでもあった。
話す限り、害意はなかった。
ライアスへ言い寄る雰囲気も、欲得で近づく様子も、一切なかった。
自分に対しても同様だった。
王太子という立場を利用しようとする気配が、どこにもなかった。
ライアスは、自分にとって得難い友であり、忠臣だ。
邪な気持ちを持って近づく不心得者なら、排除も考えていた。
しかし問題はなさそうだと判断して、一安心した。
元々ライアスは不器用な男だ。
領地管理や民衆の生活、心情を理解して運営することは苦手だろうと、以前から心配していた。
真面目な性格ゆえに民衆を虐げることはないだろうが、何をどうすれば良いかも分からずにいただろう。
長年仕える家令は信頼できる人物だが、実務改革という面では限界もある。
そこに、優秀で邪心のない貴族籍を持つ事務の娘がライアスをサポートしてくれるのは、友人として素直に嬉しかった。
女性が苦手なのも、少しは緩和すれば、とも思っていた。
◇
その後、短い期間での公爵領の改革内容を聞いて、随分と驚かされた。
どれもが理想的な形で改革がされていた。
税収面でも領民の生活面でも、自分が思い描くような改革の姿だった。
隣国が不穏な動きを見せていることもあり、直接ライアスに会いに公都へ向かった。
公都の様子が変わっていた。
以前の張り詰めたような空気が和らいでいた。
公爵家も同様だった。
かつての重苦しい雰囲気はなく、使用人たちの空気も良い意味で和やかになっていた。
家令の案内で、公爵家内の託児所も見た。
戦争で夫を失った未亡人たちが、子供を預けながら働いている。
王宮では警備の問題で同様のことは難しいが、王都行政を担う役所や王宮管理の空き施設を活用すれば、似たような仕組みを作れるかもしれない。
優秀な女性たちが社会に出て活躍できる機会を生む、良い改革だと思った。
ライアスに話を聞くと、優秀な事務員がした、と言った。
頑なに彼女の名前は出さなかった。
(引き抜きを恐れているのだろう)
そう思った。
しかし同時に、もう少し別の何かも感じた。
ライアスが、部下である一人の女性をこれほど手放したくないと感じているということ。
それ自体が、あの女性嫌いの男にとって異例のことだった。
話をしていてもわかった。
ライアスは彼女をかなり大切に思っている。
仕事上のドライな関係と思っていたので、意外と言えば意外だった。
しかし悪くない兆候だと思った。
◇
領内の話をしながら、隣国との緊張について告げた。
その際のライアスの様子が、以前と変わっていた。
以前のあの男なら、戦争と聞けば領地を放り出してすぐに出兵しようとした。
しかし今回は、冷静に了解の旨を告げた。
それだけだった。
領主として、落ち着きが出てきた。
友であり忠臣である男の成長した姿に、静かに感心した。
そしてそれと同時に、ますますノエルという人物への興味が深まった。
あの気難しい男を、この短期間でここまで変えたノエルとは、何者なのか。
その問いが、まだ頭の中に残っていた。




