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【連載版】推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています  作者: 江合 花果
第三章 動き出す脅威

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ライアスと一緒に(ノエル視点)

【ノエル視点】


 タウンハウスの自室で、ノエルは机に向かっていた。

 今日も今日とて、記録を残す。


 あれから数日が経った。


 明日にはグラントさん達が待つ公爵家に戻る予定だ。

 そして、数ヶ月後には王都に本格的に移住して、新しい生活が始まることも決まっている。


 先日の魔人との戦い、そして魔道具のことについて、ライアスからはその後、特に触れられることはなかった。

 アルベルトに報告されて取り調べなどされるのではと、内心では戦々恐々としていたのだが、良い意味で肩透かしを食らった気分だ。


 クラウスにそれとなく聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。


「人外な魔人というだけでパニックなのに、それをあっさりノエルさんが倒したとなれば、閣下じゃなくても聖女とか、そういう人外な存在に結びつけるかもしれません。そうなれば、ノエルさんは否応なしに、公爵家の事務員なんて立場にいられませんし、閣下はそれを危惧して一旦黙っているのかもしれません」


 なるほど、と思った。

 確かにライアスなら、そう考えるかもしれない。


(まあ、特に大きな騒ぎにならないなら、それで充分だ)


 このまま公爵家の事務をしながら、ライアスを眺めていられるなら。

 それ以上のことは望まない。



 そして二日前のことだ。


 ライアスが突然、王都に居を移すにあたって王都を簡単に案内すると言ってきた。

 王宮に毎日行き来して忙しいライアスにそんな手間をかけるのは申し訳ないと断ろうとしたのだが、王都で仕事をするのに必要だという。

 それであればと、ありがたく誘いを受けることにした。


(王都をライアスと歩く)


 その光景を想像して、少しワクワクした。

 クラウスと護衛の人間はついてくるから二人きりという訳ではないけれども。


 まず最初に連れて行かれたのは、綺麗で華やかなドレスが並ぶ服飾店だった。

 次に、舞踏会専用の靴を扱う靴屋。

 眩しさで目が眩むようなアクセサリーが並ぶ宝飾店。

 そして書店。

 聞いたこともない希少な魔法書や資料が並んでいた。


 ノエルは思わず目を輝かせて棚を眺めた。

 気づいたらライアスが、静かにその様子を見ていた。


(見ないでほしい)


 慌てて平静を装ったのは言うまでもない。


 書店の後は、聞いたこともない完全会員制の超高級レストランでの昼食だった。


 ここまで、どの店舗でも、公爵の来店ということでほとんどの店は貸切状態だった。

 常にVIPルームで、常にVIP対応だった。

 欲しいものがあれば遠慮なく買いなさいとライアスは言ってくれた。


 しかし貧乏伯爵家育ちで、ドレスを身につける機会もほとんどなかった自分には、前世での経験も含めて異次元の世界すぎた。

 泡を吹いて失神するかと思った。

 もちろん恐れ多くて何も買ってもらってはいない。


 レストランに至っては場違い感が強すぎて、何を食べたのかも分からなかった。

 当然、味を楽しむ余裕などなかった。

 後半は空気に耐えられずに胃が痛くなっていた。


 最後は色とりどりの綺麗なお菓子が並ぶカフェでのティータイムだった。

 高級ではあったが、レストランよりはまだ人心地がついた。

 ようやく一息ついて、紅茶だけいただいた。


 ライアスはお菓子も勧めてくれたが、高級ランチでお腹が一杯な上に胃も痛かったので、とてもお菓子までは手が出なかった。


 こうして改めて考えると、やはりライアスと自分の格差を感じずにはいられない。


 ライアスは由緒正しき公爵家当主様。

 自分は家格こそ伯爵家だが、大きな産業も功績もない、しがない貧乏伯爵家の出だ。


 せっかくのお出掛けなのに、何だかしょんぼりしてしまった一日だった。

 ライアスに楽しくなかったかと聞かれた時は、申し訳なかった。


 もちろん楽しかったとは答えたし、礼も伝えた。

 それは本当だった。

 格差を感じてしょんぼりしながらも、ライアスと一緒に王都を歩けたことは、それはそれで嬉しかった。

 複雑だが、それが正直な気持ちだった。


(というか、事務の仕事に必要な店はどこにあったんや)


 改めてツッコんだ。


 服飾店、靴屋、宝飾店、超高級レストラン、カフェ。

 書店だけはわかる。

 しかし他は。


(高位貴族の王都での業務となると、高級なお店とのお付き合いも大事、ということなんだろうか)


 うーん。

 今から胃が痛い。



 何にせよ。


 一度公都に戻った後は、本格的に王都に拠点を移すことになる。

 それはつまり、ゲーム本編が始まる、ということだ。


 ヒロインが王都に来ても、ライアスルートに進まない可能性が高いだろうとは予想している。

 しかも、ルクスヴェイル教団は既に動いていて、中ボスである魔人の一人もこの手で倒した。

 ゲームの設定とは何もかもが変わりつつある。


 怖くないと言えば、嘘になる。


 しかし自分には腕輪と短剣がある。

 そして、ライアスの事務を支えてきた半年以上の経験がある。


(やれることをやるだけだ)


 ノエルは羽ペンを置いた。

 窓の外を見た。

 夜の王都が、静かに広がっていた。


 数ヶ月後には、ここが新しい生活の場になる。

 ライアスのそばで、自分にできることをやる。

 それだけだ。


 ノエルは記録帳を閉じた。

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