お告げ(ノエル視点)
【ノエル視点】
怒られていた。
それはもう、かつて見たことがないほどに。
大人になってこんなに怒られることがあるのか、と思うほどに。
勝手にタウンハウスを抜け出したこと。
夜中に出歩いたこと。
立ち入り禁止区画に入ったこと。
危険な相手と大立ち回りをしたこと。
(そんなに怒らなくても良いんじゃないだろうか)
ちょっと勝手に護衛もつけずに外出して、王都の禁止区画にヒョロッと入って、朽ち果てかけた教会の中で、魔人と死闘を繰り広げただけじゃないですか。
(うん、そりゃ怒られるか)
ライアスは声を荒げるタイプではなかった。
しかし今夜は、いつもより口数が多かった。
いつもより言葉が早かった。
それがライアスなりの怒り方なのだと、ノエルはなんとなく理解した。
(プンスカ怒っているライアス様、ちょっと可愛い)
神妙な顔でお説教を聞きながら、ノエルは脳内でそっとそう思った。
ライアスが荒い息を吐いた。
まだ言い足りないのを堪えて、ため息をついた。
「改めて聞くが、君が戦っていたあれは、過去の魔人戦争に出現した魔人なのだな」
「はい」
「で、君は雑居街で見つけた、その魔道具で魔人を撃退した、と」
「はい」
「魔道具のこと、魔人のことは、夢の中で見た光景が鮮明で、調べてみたら魔道具も見つかり、魔人も本当にいた、と」
「はい」
「で、魔人と遭遇したものは仕方ないと、魔道具で撃退した、と」
「はい」
ライアスが少し黙った。
「クラウス、どう思う」
「え、そこで俺に振りますか」
クラウスが困惑した声で言った。
「私にも正直、何が何だか分からん」
「いや、分かる人いないでしょ……」
クラウスがぼそりと呟いた。
◇
(よし、夢のお告げパターン、何とかなりそうだ)
ノエルは内心でそっと安堵した。
だって、この世界がゲームの世界で、自分は廃課金者の廃プレイヤーでした、などと言う方が理解されない。
夢のお告げの方が、まだましだ。
(何とかこれで誤魔化されてくれ、ライアス様)
祈りながら二人の様子を見ていると、ライアスがノエルを見た。
「ノエル、一つだけ確認をさせてくれ」
「はい」
ライアスが静かに、しかし真剣な声で続けた。
「過去の魔人戦争は、伝記の中にしか存在しない出来事だ。しかし今夜、自分はその魔人と思しき存在と、君の戦闘を実際に目にした」
「はい」
「仮にあれが本当に魔人だとして、君は伝説として語られてきた存在を倒したことになる」
「それは、まあ……はい」
ライアスが続けた。
「さらに問題なのは、君の魔道具だ」
ライアスは整理するように、一言一言を選びながら話した。
「あの結界の強度、魔道精霊の迎撃能力、短剣の概念破壊。どれも常軌を逸している。古代の失われた魔法の水準でなければ、到底作れるものではない」
「ええ、まあ……」
「それを君は、夢のお告げを信じて手に入れ、魔人を撃退した」
「はい」
ライアスが、しばらく黙った。
整理すればするほど、状況の異常さに直面している顔だった。
釈然としないのは明らかだった。
しかし他に説明がつかないので、保留にしているようにも見えた。
クラウスがため息をついた。
(夢のお告げ、ギリギリ通っているか……?)
ノエルが内心で祈っていると。
「ノエル、一つだけ確認をさせてくれ」
ライアスが、真剣な声で言った。
「はい」
「君は、その、まさかとは思うが」
少し間があった。
「聖女、なのか?」
ノエルは、固まった。
(……はい?)
夢のお告げによる安堵が、音を立てて崩れた瞬間だった。




