星天の機神環(ノエル視点)
【ノエル視点】
成功した。
ノエルは自分の状態を確認しながら、内心で満足していた。
左腕に装着した腕輪が、緑色の光を放っている。
星天の機神環。
先日、クラウスと訪れた雑居街の廃墟で手に入れた魔道具だ。
意識外の攻撃も含め、自分に対する敵意を感知し、攻撃された瞬間に強力な結界を展開してくれる。
状態異常を常時無効にしてくれる機能もある。
そして、攻撃された瞬間に魔道精霊が展開して、襲撃者を魔力の矢で迎撃する。
(前世のプレイヤーたちの間で、ファンネルと呼ばれていたやつだ)
(動画配信サイトのゲームプレイ動画内でも大人気だった)
乙女ゲームという特性上、戦闘パートに興味がないプレイヤー向けの課金アイテムだ。
実際に手に入れてみれば、完全にチート状態だった。
(最終戦でも充分に機能する代物だ)
(ヴェイルごとき中ボスに、これを破る術はない)
(むしろ、これがなければこんな危険な場所に一人で来たりしない)
そう思っていると。
「貴様ーー」
ヴェイルが吠えた。
右手に強力な炎を生み出し、ノエルにぶつけてきた。
迫ってくる炎に、少し怯んだ。
しかし動かなかった。
炎は展開している結界が完全に阻み、霧散した。
熱さも感じなかった。
結界の緑色の光が、一瞬強くなった。
直後、魔道精霊が無数の魔力矢をヴェイルに放った。
今度は警戒していたのか、ヴェイルは左手に魔法で盾を作り、防いだ。
「さすがは、腐っても魔人ですね、ヴェイル・ナハト」
ノエルは言った。
ヴェイルが固まった。
「な、何故貴様が私の真名を知っている」
「それを貴方が知る必要はありません」
ノエルは短剣を構えた。
「貴方には練習台として、ここで滅びてもらいます」
ヴェイルが鼻で笑った。
「ふん、確かにその結界は厄介だが、魔力矢など私には効かん。貴様が何者かは知らんが、この教会の存在と私の真名を知っている時点で危険だ。ここで消すとしよう」
魔法を防がれたためか、ヴェイルが直接攻撃を仕掛けてきた。
右手の爪を伸ばし、ノエルに切りかかる。
しかしその攻撃も、結界が弾いた。
「直接攻撃も完璧に防ぐだと、厄介な」
ヴェイルが魔道矢の反撃を防ごうとした瞬間、ノエルは踏み込んだ。
短剣を持っているとは意識していても、直接攻撃をしてくるとは思っていなかったのだろう。
ヴェイルは完全に油断していた。
短剣が、脇腹を浅く斬った。
斬った瞬間、短剣の緑色の発光が強くなった。
「くぅ、この程度」
ヴェイルは距離を取った。
魔力矢の反撃を防ぎながら、ノエルを睨みつける。
その瞬間だった。
ヴェイルの顔が変わった。
「な、何だと」
声が、乱れた。
「自身の身体から、力が――」
言いようのない怠さが身体を覆うのを感じているのだろう。
自分の中から力がごっそり抜け落ちたような様子だった。
ヴェイルはノエルを睨みつけてきた。
油断なく短剣を構えているノエルを。
「ま、まさか、その短剣か」
ヴェイルが狼狽して叫んだ。
「貴方たち魔人は、人類を侮りすぎますからね」
ノエルは不敵に笑った。
いつもの笑顔とは違う、覚悟を決めた人間の笑いだった。
「私に対して深く警戒せず踏み込んでくると、思ってましたよ」




