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【連載版】推しの氷結公爵に事務能力で雇われたので、今日も平静を装って尊死しています  作者: 江合 花果
第三章 動き出す脅威

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決意(ノエル視点)

【ノエル視点】


 ライアスが、口を開いた。


「自分は領主として、まだまだ未熟者だ」


 静かな声だった。

 アルベルトが、黙って聞いていた。


「自信も持てず、領地のことも、領民のことも、しっかりと見てこれなかった」


 ライアスは少し間を置いた。


「前までの自分なら、領地のことなど放り出して、喜んで王都にいただろう」


 アルベルトの目が、わずかに細くなった。

 長年の親友として、その言葉の重さをわかっているのだろう。


 以前のライアスなら、こういう言葉は出なかった。

 その変化を、アルベルトは静かに受け取っていた。


「だが今は違う」


 ライアスが続けた。


「今はグラントとノエルがいる。領地の問題点も課題も、領民の悩みや苦しみも、解決するのに自分は一人ではない」


 ノエルは、その言葉を聞きながら、静かにしていた。


(閣下が、そう言っている)

(グラントさんと、私が、いる、と)


 感情が、胸の中で静かに動いた。


 ライアスがノエルを見た。


「ノエル、申し訳ないが、自分と共に王都へ来てもらえるか。領地のことはグラントに、王都での連携を君にお願いしたい」


 元々の業務範囲を超えた依頼だった。

 ライアスはそれをわかった上で、申し訳ないと言っていた。


 ノエルは微笑んだ。

 いつもの笑顔だった。

 しかしその笑顔が、推し活の笑顔とは少し違う形をしていることに、ノエルは気づいていなかった。


「お任せください」


 そう言った。


 ライアスが、少し頷いた。

 それからアルベルトに向き直り、姿勢を正した。


「殿下、此度のお話、謹んでお受けいたします」


 臣下の礼を取った。


 アルベルトが、笑顔で答えた。


「感謝する。卿がそう言ってくれて、どれほど心強いか」


 二人が目を合わせた。

 笑った。

 言葉はなかった。

 しかしその笑い合いの中に、何年もの時間を友として歩んだ思いが滲んでいた。


 アルベルトがノエルを見た。


「君のおかげだね」


「と、とんでもないことです」


 ノエルは手をブンブンと振った。

 アルベルトが、楽しそうに笑った。



 その後、ライアスとアルベルトは今後の予定について話し始めた。

 ノエルはその様子を、少し離れた場所から眺めていた。


(尊い)


 銀髪と金髪が並んでいる。

 二人が笑い合っている。

 この光景を見られる自分は、とんでもない役得だ。


 そう思いながら、ノエルは左腕にそっと触れた。

 腕輪の感触があった。


(出来ることをやろう)


 静かに、そう思った。



 タウンハウスに戻った夜、ノエルは机に向かった。

 

 羽ペンを取り、記録を取る為に書き始めた。


「ライアス様が王都に本拠地を移す。そのタイミングはゲーム本編が始まる直前だ」


 書きながら考えた。


(ゲームの舞台は王都だった)

(ヒロインもその頃に王都に来るはずだ)

(そして、恐らくヒロインがライアスルートに進むことはない)

(ゲームのライアスと、今のライアスは設定が根本から変わってしまっている)

(領地への後ろめたさなど、ライアスのそばで支えるべき存在として、今は自分がいる)


 続けて書いた。


「一つだけ気がかりなのは、自分のようにヒロインも異世界転生しているパターンだ」


 自分が何故転生したのかは、今もわからない。

 であれば、ヒロインも転生している可能性がある。

 一応、考えておくべき懸念だった。


(転生ヒロインがライアスルート希望だったり、最悪ハーレムルートに進もうとした場合が問題だ)

(ゲームならフラグの話だが、リアルとなればキャラの気持ちはプログラミングではない)

(大丈夫だとは思いたいが、用心しておこう)


 次に書いた。


「ルクスヴェイル教団。魔人であるヴェイルを含め、恐らくゲームで語られないだけで、既に魔王復活のために行動を開始している」


 ヴェイルが自分に接触したのは、ライアスの覚醒が原因だろう。

 覚醒の原因はまだわからない。

 しかしヴェイルはライアスを危険視して、接触してきた。

 魔王復活に際し、強い力を持つ人間は魔人にとって邪魔でしかない。


(だけどね、ヴェイル)


 ノエルは羽ペンを置いた。


(ライアスを害することはできない)

(いや、させない)

(私というイレギュラーが、ゲームの知識を持ち、魔道具を手にして、ここにいる)


 机の上に視線を向けた。

 美しい装飾を施された鞘に収まる短剣が、静かに置かれていた。

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