ライアス人形(ノエル視点)
【ノエル視点】
ライアスが、静かに答えた。
「あの戦場で発揮した能力は、あれ以降は出せていない」
アルベルトが、じっと聞いていた。
「魔力が少し高まったのは感じている。しかし戦場で感じた万能感のようなものはない。報告もした発光現象も起こっていない」
言いながら、ライアスが胸ポケットに手を入れた。
小さな人形を、取り出した。
アルベルトが、それを見て少し笑った。
「ベルナード嬢が贈ったという人形だね。これが発光して、その後ライアスの魔力が爆発的に上がったという」
確認しながら、アルベルトがノエルを見た。
ライアスも、ノエルを見た。
二人の視線が、同時に向いてきた。
ノエルはニッコリと笑って受け止めた。
(ここで目を逸らしたら負けだ)
(また呪いの人形疑惑が持ち上がる)
(あれはただの人形だ)
(ただの、心を込めて作った、普通の手縫いの人形だ)
(それ以上でも、それ以下でもない)
(そのはずだ)
ライアスが咳払いをした。
「その人形自体には魔力がなく、魔道具の類でもないことは確認している。戦後に魔道研究所に預け、宮廷魔術師長に鑑定してもらった。異常なし、という報告を受けた」
宮廷魔術師長、という言葉が耳に入った瞬間、ノエルの内心が動いた。
(宮廷魔術師長)
(エルヴィン・ガルシア)
(ゲームの攻略対象の一人だ)
ガルシア伯爵家は代々宮廷魔術師を輩出してきた家系で、エルヴィンはその当代当主だ。
魔力も高いが、魔術に関する知識が非常に豊富で、特に過去の魔人戦争については王国随一の研究者として知られている。
ゲームのスチルが頭の中に浮かんだ。
(まさか間接的とはいえ、名前を聞くことになるとは)
内心の動揺を押さえながら、ノエルは話を聞き続けた。
アルベルトがノエルを見ながら言った。
「もしこの人形に特別な力があるなら、とも思ったけど、流石にそれはなさそうだね」
笑顔だった。
しかしその目が、笑いと別のものを同時に持っていた。
(この人は私に対して、何かを感じ取っている)
(直接言及しないが、感じ取っている)
(策士だ、やはり)
ライアスがノエルを見た。
まだ少し疑っている目だった。
ノエルはニッコリと笑い返した。
ライアスが、目を逸らした。
アルベルトが、口元を動かした。
「再現が難しいなら仕方ない。元々ライアスの能力は全員が知るところだし、王国最強戦力の一角であることは間違いない」
少し間があった。
「ただ今回は活躍の内容が異常だったから、今後も社交界の中で噂をされるかもしれない。あまり隙は見せないようにしてくれ」
「わかった」
ライアスが答えた。
人形を、胸ポケットにしまった。
アルベルトがそれを見て、言った。
「よく出来た人形だね」
「人形とか手作りは好きですし、得意なんです」
(前世では推しキャラの人形を作り、それに囲まれることに至福を感じていた)
(その延長線上だ)
(そのはずだ)
(そのはず、なのだが)
胸ポケットにしまわれた人形のことを、なぜか少し考えてしまった。
ノエルは意識して前を向いた。
アルベルトが、少し表情を変えた。
笑顔は残っていたが、その奥の真剣さが少し前に出た。
「さて、実はもう一つ」
ライアスが、姿勢を正した。
「これは相談ではなく、お願いがある」
部屋が、静かになった。
「ライアス、すぐにとは言わないが」アルベルトが続けた。「可能であれば、今後の活動の拠点を王都に移してもらえないだろうか」
ノエルは、その言葉を聞きながら、静かに思った。
(来た)
(ゲームの舞台は王都だった)
(ゲーム本編が始まるまで、もうそれほど時間はない)
(状況的にも、妥当な流れだ)
(ただ)
それがゲームの強制力のようなものに感じられて、ノエルは少しだけ、落ち着かなかった。
ライアスが、アルベルトを見ていた。
その表情は、静かだった。
しかしすぐには答えなかった。




